転生した僕は世界に適応して生きていく   作:netai98

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テンセイシャの僕は、生きる

僕が転生してから一週間くらい経っただろうか。

この集落で仕事をしながら、この世界について教えてもらっていた。

 

まず、僕が居着いている『竜族の森』だがボルトスさん曰く――

 

「例えるならラストダンジョンの雑魚敵が跋扈しているような場所かな。戦闘力の高い竜族にしか住めないから、竜族の森なのさ」

 

……とのことらしい。

 

ここの他にも有翼族の荒野、四足族の谷、魚属の海、そして人間などが住む街などがあるとのこと。

驚くことにこの世界では犬や羊、猿といった動物たちが、元の世界と同じ姿のまま言葉を話し、文明を築いているのだという。

 

「ユキノフ!野菜と果物の仕分け終わったら飯にすんぞ!」

「わかりました!イドルムさんは先に食べててください!」

この世界の主食は魔物の肉で、種類は問わないとのことで、当然、味にはばらつきがある。

野菜や小麦などはないのかと聞いてみたところ、魔物には全体的に知能があり、畑を作れば定期的に襲撃してくるので、戦力が乏しい地域では農業そのものが成り立たず、魔物を狩った方が早いのだとか。

 

そんな世界で、僕は唯一と言ってもいい大規模な畑の手伝いをしている。

不思議なことに、僕の身体能力は明らかに上がっていて、日の出から日没まで働いても全く疲労を感じない。

その理由は思い出せないけれど――

自分の記憶に違和感を覚えるのにも慣れてきているのが、少しだけ悲しかった。

 

 

 

作業もひと段落し、集落の広場に戻ると竜族の皆は既に食事を始めていて、僕も食事を受け取り、ボルトスとイドルムの近くに座る、僕が食事をする際の定位置だ。

 

肉をどう調理するかは集落によって変わるとのことで、ここ竜族の森ではドラゴンらしく焼いて食べるのが特徴なんだとか。

ただ焼いただけのはずなのに、これが中々美味しい。

火の通りも絶妙で、調味料がないのが非常に惜しいくらいだ。

「うげぇ……ハズレかよ、運がないなあ」

……最も魔物の肉といっても特に仕分けもされずにごちゃまぜで食卓に出てくるため、味の当たり外れが大きいのが難点だ。

 

「イドルム、よかったら僕の肉と交換する?今回は普通くらいだからそっちよりかはマシだと思うけど」

僕が肉を差し出すと、イドルムは嬉しそうに自分の肉を差し出そうとするが、ボルトスに止められる。

「あまり孫を甘やかさないでくれ、美味しくないものでも食べなきゃいけないんだから」

言葉と共にボルトスはイドルムを摘みあげ、そのまま自身の背中に乗せた。

「早く食べなさい」と急かされ、イドルムは不満そうに頬を膨らませる。

それを見て周りの小竜達は笑っている。

 

その光景に少しだけ笑ったその時だった。

ふと、遠くから、何かがこっちに来る気配がした。

 

「大丈夫。遠征に出ていた同族が戻ってきただけだから、そこまで警戒しなくていいよ」

何も言っていないのに、ボルトスはそう言って不安を和らげてくれる。

ガサガサッバキバキッという音と共に複数の巨体が姿を表した。

「ただいまー今回も疲れたぜー……ガキ共は無事みたいだな、お疲れボルトス」

「悪いな、大人の奴らも連れて行っちまって。世話、疲れたろ?」

「いや、そうでもないさ。そちらこそお疲れ様。今、食事を用意しよう」

 

竜族の大人はボルトスしかいないのかと思っていたけれど、どうやら遠出をしていたみたいで、ゾロゾロと現れた巨体が、集落の広場をあっという間に埋め尽くしてしまった。

 

ボルトスが食事を用意し、戻ってきた大人達に配っていく。

肉にかぶりつく者、小竜と戯れる者――それぞれが好き勝手に過ごしている。

だが、戻ってきた竜達が僕を見つける瞬間、空気が変わった。

視線が僕に集まる。

 

「ジジイ、そこにいる人間はなんだ?」

一匹の竜が、警戒を隠さずにボルトスへ問う。

「ああ、私の客だよ。詮索はあまりしないでくれ。何かあったら、私の責任にしていいから」

どこか曖昧な返答だった。

「……わかった。えーと……肉食うか?」

「あ、ありがとうございます。僕はユキノフと言います」

 

突き刺さるような、露骨な警戒の視線。

それでも、一応受け入れてもらえたらしい。

……どうやらこの集落ではボルトスの発言力は相当なもののようだ。

 

「あー……そうだ、ジジイに報告しなきゃいけないことがあるんだよ、それも緊急だ」

重い空気を切り替えるように、一回り大きい体躯のドラゴンが前に出る。

 

そして――

 

「『テンセイシャ』がまた集団で現れた、今回は最悪だ。統率がとれてる上に強いやつが複数いる。被害も相当だ。俺らも撤退しなきゃ何匹か死んでただろうよ」

 

息が、止まる。

 

竜の吐いた言葉を理解するのに数秒かかった。

 

テンセイシャ――それは僕のような転生者で間違い無いだろう。

だが、まるでそれが害をなす存在ーー魔物みたいに扱われているのはどういうことなんだ。

聞こうと思ったがボルトスさんの言葉を思い出し、踏みとどまる。

 

「リーダー格も2匹ほどいてな、片方は周りの奴らの指揮をとってて、もう片方は変な腕輪をしててな……言いづらいが、殴り合いで負けた、ありゃ正面からだとまず勝てねえ」

「殴り合いで負けた!?テンセイシャってそんなに強いのか!?」

「イドルム、テンセイシャの強さにはバラツキがあるって教えたはずだよ?」

 

竜の言葉で正気に戻る、聞き逃せない言葉があったからだ。

「あ、あの!その……へ、変な腕輪ってどんな形でしたか?」

視線が集まる、話すタイミングを間違えただろうか?冷や汗が噴き出てくる。

 

「……俺も戦ってる最中だったからハッキリと見たわけじゃねえが、確か骨の形をしてたような気がするな」

……聞いた瞬間、僕の足が動きそうになるのをボルトスが制する。

「もしかして、こんな形じゃなかったかな?」

ボルトスが爪を器用に使い、地面に絵を描く。

「ん?あー、それだそれ、確かにそんな形だった、あまりにも変でつい覚えちまってたんだよなあ」

 

 

……気づいたら僕は森の崖縁に座っていた。

衝撃のあまりボルトスやイドルムの制止も振り切って走っていたらしい。

ボルトスが地面に描いた絵、間違えるはずがない、あれは、優斗のバングルだった。

つまり、優斗は生きている。

 

「はははっ……生きてたのか、生きてたんだ……でも……魔物ってなんだよ……テンセイシャ?なんだよそれ……」

 

視界がブレ、頭が殴られたように揺れ、喉からは熱いものが込み上げてくる。

情報の濃さを消化できずに蹲る。

 

「おい!急に走るから心配するじゃねえかよ!……泣いてるのか?」

後ろからイドルムが追い付いてくる、子供にこんな姿を見られるのは情けないけど、今はそんなことを気にする余裕はなかった。

「飯がマズかったのか?腹が痛いのか?……わかった!明日の仕事が嫌なんだろ!ならアタシが代わってやる!お前は他の同族と遊んでていいぞ!」

 

気遣ってくれている、混乱した頭でもそれはわかる、でも

「うるさいんだよ……!何も分からないくせに!」

言葉は、止まらなかった。

 

「僕はあの時死んだんだ!バスが崖から落ちて地面と激突する時のことを今でも鮮明に覚えている!直前に掴んだ優斗のバングルの事もだ!気づいたらなくなっていた!頭は霞がかったように思い出せなくて、おまけに怪物にドラゴン!制服も燃やされた!挙句の果てには優斗が魔物!僕も魔物!なんだよ!なんなんだよおおおおおおおおおお!!!」

 

叫ぶ、支離滅裂な言葉の羅列を。

叫ぶ、内側に溜まっていたものを。

叫ぶ、自分のどうしようもなさを。

 

ひとしきり叫んで落ち着く、イドルムは俯いている。

「どうした?殺せよ、魔物は殺さなきゃなんだろ?ほら、ここにいるぞ、テンセイシャっていう魔物がさあ」

 

どうでもよくなり、嗤いながら手を広げ、迎え入れる体制を作る、自分でも何をやっているか理解していない。

イドルムが顔を上げ、こっちに歩いてくる。

そして、手を振り上げ……

 

 

「んなこと言うんじゃねえよ!」

 

――衝撃。

気づけば僕は地に伏せていた。

 

「アタシの知ってる魔物ってのはな、どんな状態でも命を狙ってくるやつのことだ!お前はそうなのか!?違うだろ!」

イドルムが叫ぶ、僕はそれに黙って耳を傾ける。

「……アタシはまだ子供で、外のこともあまり知らない、爺ちゃんや他の同族から聞いたことしか分からないよ、でもさ、お前が魔物じゃないってことくらいは分かるつもりだ、だからさ、死にたいなんて言うなよ」

「……言ってないだろ」

「言ってるのと同じだ」

顔を地に伏せたまま、喋る。

 

「ボルトスさんが言っていた、転生者ということがバレと殺されるって、なら、僕はどうやって生きていけばいいんだ?ずっとこのまま世話になってる訳にもいかないだろう?」

「んなら、バレてもいいようにすればいい」

顔を、上げる。

イドルムが何を言っているのかがわからなかったからだ。

「デカいことをしてさ、周りに認めさせるんだ、『こいつを魔物扱いできない』ってさ、そうすりゃ翼を広げて生きていける」

「大手を振って、って言いたいのか?そんなことできるのかよ」

 

「できるよ、爺ちゃんの孫であるアタシが言うんだ、間違いない」

 

涙が、零れる。

所詮は8才の子供の言うことだ、根拠もない

でも、僕には、それが、凄く……

 

「僕には記憶がないんだ」

「おう」

「それを、探しに行きたい」

「それで?」

「お願いだ、イドルム、僕を、守ってくれ」

「それは無理だ、でも、お前の敵を代わりに殴ってやる、んで、自分の事は自分で守るんだ」

 

なんだよそれ……と泣きながら苦笑する、でも、表裏もない真っすぐな言葉が、僕には響いた。

 

「今度の誕生日にアタシとレスはギルドってところに行くんだ、爺ちゃんは色々とアタシに知ってもらいたいことがあるらしい、それについてこいよ、そんで、デカいことをするんだ」

「できるかな?」

「やるんだよ!アタシとお前で!」

イドルムは拳をこちらに向ける、少し、戸惑ったものの

 

「ああ、一緒にやろう、デカいことをして、記憶を探して、友達も探すんだ」

 

 

 

答えは見つからない。

……でも、探すことはできる。

 

息を吐く。

 

 

涙を拭いて、イドルムの拳に僕の拳を、合わせる。

 

 

「生きるぞ、僕は」

 

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