僕が生きることを決意した数日後、イドルムの誕生日と共に旅立つ日がやってきた。
ボルトスさんに僕も出発することを話したら、イドルムの面倒を見ることを条件に了解を得た。
レスさんは別の用事があるらしく、ギルドについたら一旦分かれるらしい。
「準備はできたみたいだな……まあなんだ、イドルムをよろしく頼むわ、ユキノフ」
ギルトへの道中は危険らしく、大人のドラゴンに乗ってギルドの手前まで飛び、そこからは徒歩で向かうとのことだ。
「おっと、間に合った……これは餞別だ、この世界のお金みたいなものだから計画的に使いなさい。」
ボルトスさんが出発間際に走ってきて、金板の束を渡してくる。
「金板一枚で三日分の食料、または酒や菓子等の嗜好品と交換してもらえる。仕事をすれば貰えるから後は自分で稼ぐことだね」
交換を受け持つのは十二支が率いる正規軍らしい……元の世界で聞いたことのある単語にビックリしたが、態度に出すなとボルトスさんに注意されたのを覚えている。
「先日、君が転生者というのは竜族の皆に伝えている、絶対の味方という訳ではないが、何かあったら頼るといい。それと、何か困ったことがあったら私の名前を出しなさい。大抵の無茶は通るから」
ボルトスさんの言葉にビックリして周囲を見渡すと、竜族達は僕を見ていた。
その目に警戒の色はなく、どこか自分を見定める視線となっていて。
「イドルムとジジイが信じるっていうんだ、それならアタイ達も信じなきゃ、だ」
「同族じゃねえが、お前も特別ではある。それと、ガキの面倒見てくれてありがとな」
「ユキノフ兄ちゃん!お土産は新鮮な野菜でいいからね!」
感慨深くなり、視界が涙で滲む。
少なくとも、この集落に居場所ができているのだ。
そして、皆に期待されている。ならば、応えなければいけない。
「おい!ユキノフ!いつまでも喋ってないで行くぞ!」
「乗るとき……声かけて……危ないから」
イドルムが待ちくたびれている。
そろそろ、別れの時間だ。
「……行ってきます!」
その声と共に駆け出し、ドラゴンの背に乗り、しがみつく。
ドラゴンは少しばかり走って助走をつけると一気に飛び立つ。
森の木々より高いが、低空で飛び続ける。
集落は、すぐに見えなくなっていた。
「おかしい、矢が飛んでこねえ。いつもなら3、4本くらい飛んでくるはずなんだが…」
飛び始めてから数分くらいだろうか?ビークさんがそう呟く。
ビークさんは今乗せてもらっているドラゴンの名前だ。
「矢?ってと確か遠いところにいるやつを攻撃するブキ?だよな、飛んでこないなら別にいいんじゃないのか?」
「よくねえ、この辺は空喰の荒野が近くてな、飛んでると確実に何かしら飛んでくるはず何だが……これはどういうことだ?」
空喰の荒野(そらはみのこうや)――ボルトスさんに聞いたことがある。
遠距離攻撃を得意とする魔物が沢山いるという話だけど、今現在僕たちはかなりのスピードで飛んでいる。
矢なんて飛んでくるものなんだろうか?
そう一人で考えていると、視界の端にウィンドウが見える。
随分久しぶりだな。
今更出てきてなんなんだ、と怪しみつつ触れてみると、ウィンドウが広がり、文字が表示される。
〈スキル:適応 レベル:100 追加効果:他者へのスキル効果の付与〉
以前はスキル名とレベルしか書かれてなかった所に、新しく追加効果が書かれている。
字面からすると、僕の持っている適応を、他の人にも分けられるのだと思う。
「矢が飛んでこないのは僕のスキル、って言ったらいいのかな、だと思います。スキルによって魔物に気づかれにくくなってる……んだと思います」
「なんで……疑問形…?」
「スキル……つーと、爺ちゃんが言ってた、テンセイシャそれぞれにある『技術』か」
「すみません、僕自身にもよくわかっていなくて……」
レスさんに平謝りをして、その場を誤魔化す。
未だに僕自身にも、スキルの効果を把握しきれていないのがもどかしい。
それにしても、ずいぶん都合のいいタイミングでウィンドウが出てきたな……?今まで出てくる様子すらなかったのに。
まるで誰かが僕を見ていて、操作しているみたいに感じた。
気のせいだと思いたいけれど……
「まあなんでもいいよ。それより、ギルドってどんなところなんだ?ざっくり聞いただけでよく覚えてないんだよな」
「ん?ああ。簡単に言うと、正規軍が請け負いきれない依頼を請け負う集団の事だ。つっても、今それを名乗ってるのは一つしかねえ。それがギルド、マスターハウスってところだ」
「一つしかないんですか?他のギルドは?」
「まず、最初にマスターハウスがギルドの体系を作って、それに追従するやつもいたんだが、うまくいかずに潰れたって話らしいぜ?最も、本来主流なのは傭兵……って言ってたらそろそろ着くな」
森だったのが林くらいに木々が薄まった頃だろうか?少しばかり開拓したであろう場所にビークさんは、メギメギッという音とともに無理やり降り立つ。
「あの……かなりなぎ倒しましたけどいいんですか?」
「この辺りのやつは心配ねえよ、ほら、見ててみ?」
背中から降りて、ビークさんが指差したほうを見る。
無残に倒された木々をよそに、既に新しい木が生え始めて、そのまま森の一部となる。
「ここ以外でやったら顰蹙もんだけど、ここならいくら雑に扱っても大丈夫なんだ、それでいて丈夫で加工もしやすいのが最高らしいぜ?」
「適当なサイズに切って持ってくと、いい稼ぎになるんだ」
そう言いながら、デカい木片を木材へと加工していく。
いくら異世界だからと言っても都合が良すぎではないだろうか?
「んじゃあ俺は行くよ、この道を真っすぐに進めば小屋が見えてくる。そこがマスターハウスだ」
「わかりました。お世話になりました」
「ここまでありがとうな!」
「気を……つけて……」
挨拶もそこそこに、木材を抱えたビークさんは大きく羽ばたき、あっという間に空へ消えていく。
マスター、称号とかではなく、ちゃんとした名前らしいが一体どんな人なんだろう……?
「わはははは!何も出てこねえ!」
「これじゃ……経験にならない……その、スキル?消せない……?」
イドルムが、ズカズカと歩く。
反対にレスさんが、しずしずと歩く。
どうやら僕のスキルはまだ働いているみたいだ。
レスさんが僕の服を摘んで、お願いをする。
……レスさんの身長が3メートルもあるせいで身の危険を感じるというのはさておき、僕自身魔物と遭遇したことは最初の2件くらいしかなく、実際に見て、僕が――そしてイドルムとレスさんがどれだけ動けるのかを確かめておきたかった。
二人を呼び止めて、静かに目を閉じる。
意識を、研ぎ澄ます。
スキルの範囲、イドルムとレスさんを範囲外とし、自分のみ範囲内とする。
まだ、僕は戦えないと、ボルトスさんが判断していたからで、僕自身もそうだと思うからだ。
――カチリ
あの時と同じ感覚
何かが、噛み合う。
「んーとこれで魔物が襲ってくるようになるのか……よし!どこからでもこい!」
「油断は……禁物」
目を開け、二人が準備運動をする。
それを終え、いざ歩き出した。
それと同時に、正面の木が弾け飛んだ。
僕はというと反応ができず、レスさんに掴まれ、投げられる。
視界の端には、妙にデカいイノシシ、そして、イドルムが跳ね飛ばされるのが見えた。