転生した僕は世界に適応して生きていく   作:netai98

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襲撃とマスターと、その仲間

――それから数分後、辺りは血と臓物の海になっていた。

イドルムは赤色で全身が染まっており、それ以外の場所を探すのが難しい。

レスさんがイドルムの身体を拭こうと近寄ったとき、僕の後ろから風切り音がした。

 

「GUGYAA!?」

レスさんの肩と両翼に矢が刺さった。

 

振り返る。

そこには、弓を構えた緑色の大柄な魔物が並んでいた。

さらにその奥――樹がそのまま歩いているような異形が、ゆっくりと前に出てくる。

 

「ゴブリンは囮……不覚……」

「レス!?大丈夫なのか!?」

 

イドルムが駆け寄り、矢を抜こうとするのをレスさんが止める。

僕も駆け寄ろうとしたけど、足が震えて、動けなかった。

 

村で何度か小竜たちの訓練を見たことはあった。

単純なぶつかり合いで金属が爆ぜたような音を聞き、耳を破壊するような轟音とも呼べる叫びを聞いた。

 

その中でもレスさんは大人に分類される竜の亜人だ。

それが、大怪我を負っているという事実に、僕は、恐怖で動けないでいた。

 

 

「なんや?間引きの時期になんで亜人と人間がおるんや?しかも人間はビビりやんけ」

 

場違いな声が聞こえたのと同時だっただろうか……

魔物が苦しみながら液状化していき、ぐずぐずと崩れ、地面に広がっていく。

レスさんとイドルムはくしゃみをたくさんしているようで、とてもまともな状態ではなかった。

「ハックショ!なんだこれ……ックショイ!」

「これは……うわさに聞いた……クチュン!マスター……クシャン!」

二人の、それよりも魔物が異臭を放ちながら液体化していく光景に思わず吐きかけるのを無理やりこらえる。

これを行っている人物は一体どんなやつなんだ?疑問は簡単に解けた。

「おうおうおう。しっかり苦しんどるみたいやのう?まあこれも勉強のうちや、これに懲りたら無用な外出は……いや、お前人間か?なんでなんともないんや」

 

……足音がした。

小さい。

場違いなほどに。

視線を落とす。

そこにいたのは――パイプをふかす、膝丈ほどのスライムだった。

 

「ほんで?お前らがボルトスの言ってたレスとイドルムで?お前はなんなん?人間が来るなんて聞いてへんぞ?」

チンピラが絡むように問いかけてくるスライム、名前をマスターというらしい。

種族名じゃなく個体名だとのことだ。

「ええと、ユキノフと言います……」

「ほーんユキノフね……で、お前の種族は?ワイのあっつーい吐息を受けといてなんともあらへん訳ないやろあーん?」

 

妙に腹立つ顔で凄むがあまり怖いと感じない……

「マスター!さっきは助けてくれてありがとな!」

「感謝……感激……」

「おう、精々感謝せい。んで、お前の種族なんやが……」

「それについてはこいつを読んでくれって爺ちゃんが言ってた。確実にマスターに渡せって」

「なんや手紙かいな……あのボケ爺もようやるのう」

 

マスターが手紙を受け取ると、自身の身体に取り込んだ。

どうやら、身体そのものをポケットとして扱えるみたいだ。

愛用のパイプも普段は身体にしまってあるらしい。

 

「なんにせよこんなとこで長話はできん、一旦拠点に戻るぞ」

「おう!さっきは不意を撃たれたけど今度は油断しねえ!」

「いつでも……ばんぜん……」

「何舐めたこと言うとんのや?今は間引きの時期やぞ?魔物共が連携したり数が異様に増える時期や、いくらドラゴンでも二匹じゃ足らん足らん」

 

「ボルトスもなんでまたこんな時期に……」と、ぼやきながらマスターは進み、レスさんとイドルムは警戒しながら歩き、僕もそれに続く。

その間、スキルの使用を忘れていたけれど、魔物が出てくることはなかった。

 

 

 

しばらく歩いた頃、森の奥に大きい小屋が見えてきた。

「あそこがワイの住処でもあり、仕事場でもあるギルド、マスターハウスや。ちゅうても今おるのは四人くらいしかおらんがな。おまけに一人は所用で実家に戻っとる」

そう言いながら先導するマスターについていく。小屋はところどころ修理した跡があり、ハッキリ言って無駄に大きなボロ小屋という印象が強かった。

 

「うわあボロいな……」

「崩れて…こない…?」

「ちょっと!」

「あーええよええよ。実際ボロなんは確かやしな。否定はせいへん……!避けろ!」

 

刹那――扉が轟音と共に爆ぜ、小屋が土煙で覆われると同時に背後で大きな爆発が起き、キーン、とした耳鳴りしか聞こえなくなる。

マスターが小屋に向かって何か叫んでいる……

 

ひとしきりマスターが叫び、土煙が晴れるとそこには、黒いコートに黒い眼鏡、黒い手袋に黒い靴といった、自然豊かな場所には不釣り合いと言ってもいい人物が寝ぼけたように立っていた。

 

だが、僕がそれ以上に目を引いたのは、その人物の手に握られている――

 

 

真っ黒に輝く、銃器。

現代の、ここにあるはずのない武器だ。

 

 

イドルムの手を借り、立ち上がる。

なんとか耳も聞こえるようになった。

「おい聞いてんのかヒデキ!いきなりバズーカぶっ放しおって!」

「ごめんって……魔物と見間違えたんだから許してくれよ……」

まだ聞こえないままでいてほしかった。

 

「あー……そこの三人かな?僕はヒデキ。マスターハウスに雇われてる傭兵さ。悪いね、魔物と間違えて攻撃しちゃった」

「攻撃しちゃったで済ませんなよ。見ろよあの木、無残に……もう生えてるよ」

マスターの話から逃れるように自己紹介をする人物、名をヒデキと言うらしい。

 

「えーと、僕はユキノフと言います。一応、人間です」

「あー……それは見ればわかるよ。よろしく。それよりもレスとイドルム……かな?久しぶりだね、いつぶりかな?」

「5年……くらい……イドルムが覚えてないのも当然……」

「え、こいつ竜族の森に来てたの?しかも知り合いなの?」

イドルムがヒデキさんを指さしながら問いかける。

どうやらレスさんとヒデキは知り合いのようだった。

 

「ところでマスター、彼についてなんだが……」

「ボルトスから手紙預かっとる。マグナとティフルのやつと一緒に読めと書いてあったわ。さっさと中入って……ドアが無残な姿になっとる……後で修理せえよヒデキ」

 

話も程々に、皆揃って建物の中に入る。

ドアは最早ただの穴になって機能していなかった。

 

建物の中は意外と綺麗で、中世風の酒場といった印象を受ける。

中にいるのは黄色いポンチョを着た異様な手を持つ女性。

レスさんと同じ体躯か、それ以上に大きい髭面の男性。

それと、謎の機械を腰につけた、パーカーを着た人魚。

 

……どうしよう、情報量が多すぎる。

僕の困惑を余所に、マスターはハイハイと手をたたき、自己紹介をしろと皆に言う。

事情もしっかり伝えているあたり、ちゃんと組織のリーダーなんだと感じる。

 

「んじゃあ私から。ハーピーのサルタートルだ。マスターハウスで伝令をやらせてもらってるよ」

「羽毛ハゲの悩みを抱えとるおばんや」

スッと鉈を取り出し、威圧するサルタートルさんを、マスターは笑って受け流す。

 

「……マグナ、平団員だ。……他に何かあるか?」

鋭い眼光が僕とイドルムを貫く。腕も足も丸太のように太く。そこにいるだけで存在感を発している。

 

「僕はヒデキ、さっきも言ったけど傭兵だ。さっきはすまなかった。怪我はないかい?」

本当にすまないと頭を下げるヒデキさんに対してイドルムは「まあ別にいいけどよ」と言い、僕も水に流すことにする。

 

「ティフルよ。ここでは事務作業をやっているわ。」

「物好き人魚やな。こいつが作るもんみんな磯臭いねん」

「踏むぞコラ」

腰についた機械はどうやら歩行器らしく、ガシャガシャと音を立てながらマスターを踏もうとするが、「はいはい茶番はそこまで」と、サルタートルさんに拾われ、定位置であろうやたらと高い椅子にマスターが置かれ、マスターは体内からキセルを取り出し、咥え、煙を吐く。

 

「んでワイがこのギルド、マスターハウス頭目のマスターや、あんじょうよろしゅう。とりあえずお前らはワイのとこで依頼を受けつつてけとーに強くなってもらうで。つってもレスは別の仕事についてもらうが……その前に手紙読んどこか。魚とモジャこっち来い。ハゲはあっちいっとけ」

 

嫌そうにしながらマグナさんとティフルさんがマスターの所に行き、サルタートルさんがマスターを睨む。

ヒデキさんはどこかから持ってきた酒瓶らしきものを呷っている。

三人がマスターの周りに集まり、マスターが手紙を開く。

 

直後に全員吹き出した。

マスターは手紙を近づけて見て、ヒデキさんは咳き込みながら僕を見る。

ティフルさんは口を抑え、「何考えてるのよ……」と呟く。

マグナさんはヒデキさんの被害に会ったのか、肩を濡らしながら腕を組み、何かを考えている。

 

「お前らこれまだ続きあるからな?気をしっかり持てよ?あとサルタートル、お前は絶対読むな。内容を知ったら絶対にあかん、絶対にや」

マスターは持ち直した三人と一緒に手紙を読んでいく。

数分くらいだろうか?

突如、マスターは手紙を食べてしまう。

 

「また仕舞うのかよ」

「いや、今回は喰った。これはあかんわ……あのトカゲ何考えとんねん……」

トカゲ発言に怒ったイドルムをレスさん、サルタートルさんと一緒に宥める。

内容が凄い気になるけれど、同時に知るのがとても怖くなった。

 

「ところで何が書いてあったんだよ、アタシは中見てないから知らないんだよな」

「……全部」

本当に何が書いてあったんだ。

 

マスターは凄い勢いで煙を吐くと、こちらに向きなおす。

「とりあえずユキノフ、お前はギルドの雑用に任命する。いきなり役職持ちなんて滅多にないんやぞ?誇りに思え。んでイドルムは見習いや、色々叩き込んだるから覚悟しとけ。あ、レスは平団員な」

 

イドルムが「よろしく頼む!」と意気込み、マスターもそれに応える。

さっきのやりとりを見てると不安しか感じない。

けど、当面の間はここで生きていく必要がある。

 

記憶の手がかり、そして、クラスメイトの行方を知るためにも。

 

 

 

「ほんじゃま、お前ら新入りに初仕事を与えたる」

 

「何でも来い!」と、イドルム。

「私は……別件だから……」と、レスさんは外に出る。

僕も初仕事に気合を入れ……

 

「ドアの修理や、道具とかはヒデキに聞け」

 

イドルムと一緒にずっこけた。

 

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