ドアを修理してる時のことだった。
「そういえば、ユキノフとイドルムは収納術は使えるのかい?」
「あーそういや、同族から教わったな。ユキノフは多分使えねえはずだ」
唐突だった。
どんなものか聞いてみると実演してくれるらしい。
「そんな大層なものでもないんだけど……ホラッ」
ヒデキさんがコートのポケットに手を突っ込む。
無造作に漁り、取り出したのは大型の銃器……種類はわからないが、1メートル位のサイズはあった。
「これが収納術。後で教えてやるよ」
「ヒデキ!アタシにも教えてくれ!まだ少ししか入らないんだ!」
「ああ、いいとも」と木槌でドアを固定しながらヒデキさんは応える。
後で聞いたのだが、ヒデキさんは大量の銃器をコートに仕込んでいるとかなんとか……
ドアの修理が終わり、ヒデキさんに収納術について軽く学ぶ。
収納術の名の通り、ものを多く収納する、所謂アイテムボックスのようなものらしい。
訓練次第でどんなものも入れられるようになるそうだけど、総重量もしっかり加算されるので調子に乗って入れすぎて持ち運べなくなったり床が抜けたり……ということもあるそうだ。
「そこの石をポケットに入れてみな」とのことで、ヒデキさんにアドバイスを貰いながら試す。
曰く、自然に押し込むのが重要とのことらしいが、いまいちイメージができず、キャベツくらいの大きさの石をポケットに捩じ込む程度で終わった。
……人間やろうと思えばやれるものである。
因みにイドルムはうまくいかずに拗ねていた。
そんなこんなで夜になり、食事ができたと、サルタートルさんが僕らを呼びにきた。
今日の夕飯は豪華になるらしく、ちょっと楽しみにしている……
マスターハウス歓迎会
本日のメニュー
干し肉の塩漬け
魚の塩漬け
野菜の塩漬け
「ティフル……塩漬けは初めての人には厳しいと思うぞ?」
「あら、なんでわかったのよヒデキ」
「いえ、久々に塩分が摂れるので非常にありがたいです」
「なんか白っぽいな……食って大丈夫なのか?」
イドルムが野菜の塩漬けをおそるおそる口に運び……目をカッと開くと同時に食事を掻き込むように食べる。
どうやらお気に召したらしい
確かに一見すると塩辛そうだけど、実際に食べてみると確かに塩辛い。
だけどその中に確かな甘み、そして素材の味が強調されており……
非常に不味い!肉に手を出したのが間違いだった!
「ハズレの肉を引いたな?こっちを食え、まだ手をつけていないが当たりの肉だ」
「ありがとうございます、マグナさん……」
素材の味が強調されるということはエグみも増すということを知ってしまった……
マスターが「これで口直しせえ」と瓶を受け取り、飲む……
思い切り吹き出す。
喉が焼けるように熱い!
「ゲヒャゲヒャヒャ!どや!ワイ特製激辛酒の味は!」
「ちょっと!こっちに吹かないでよ!鱗にかかったじゃない!」
慌ててたのもあってイドルムの水をひったくって飲み干す。
イドルムがジト目で見ているが気にしている余裕はなかった。
思えば、ここまで騒がしく食事したのは久しぶりだと、そう感じた。
「とりあえず身体鍛えんぞ、まずはお前らがどれだけ動けるかの確認じゃ」
あまりにも唐突すぎた。
歓迎会も終わり、案内された部屋で寝ていた所にマスターがのしかかってきて、「訓練の時間じゃ!起きんかい!」と、文字通り叩き起こされ、眠いと愚図るイドルムも起こし、案内されたのは、建物の裏手にある訓練場だった。
どうやら、僕とイドルムの運動能力等を見るとのことだ。
「まずはイドルム、ヒデキと組み手せぇ。ブレスでもなんでもつこうてええから」
「いや、いいのかよ。そんな強そうに見えねえんだけど……」
イドルムはドラゴンの亜人である。
そこらの樹なら粉砕できる程度のパワー、目にも止まらない速さ、その両方を兼ね備えていて、とてもじゃないけれど、人間のヒデキさんでは戦いになりそうになかった。
まさか、銃を使うんじゃ……と考えていると、ヒデキさんは両手を広げ、そのままイドルムに近づき……
「シッ!」
「GYA!?」
一瞬だった。
あまりにも隙だらけの恰好だったのに、気づけばイドルムに対して掌底を叩きつけていた。
「よくもやってくれたな!」
吹っ飛ばされたイドルムが立ち上がり、脚に力を溜め、ヒデキさんに飛び掛かる。
「GAGOA!?」
イドルムが消えたと思ったら、今度は地面に叩きつけられている。
どうやら、飛び込んだ時の衝撃を利用して叩きつけたらしい。
「いやあ流石ドラゴンの亜人だ。そこらの亜人とは比較にならない。もう少し成長してたらヤバかったかもね」
「舐めんじゃねえ!この真っ黒野郎!」
「舐めてないさ」
起き上がったと同時に、イドルムの顔面が掴まれ、その勢いで後頭部から樹に叩きつけられる。
先ほどから同じような光景の繰り返しだ。
「GOUORORORORORO……」
ヒデキさんに掴まれたままのイドルムが唸り、角と顔の鱗が赤熱していく。
イドルムが本気を出す際に起こる現象だ。
口端から炎が漏れる、ヒデキさんは炎に触れる前にイドルムから距離をとる。
「いいぜ、こいよドラゴン」
「後悔すんじゃねえぞおおおおおおおおお!!!!!!!!」
イドルムが息を吸い込んだ。
腹部と胸部が膨れ、背骨が折れんばかりに仰け反る。
ゴウッ!
耳をつんざく音と同時に、ブレスが放たれる。
その勢いは途轍もなく巨大なガスバーナーを連想する程だ。
だが、
「悪いがそれを食らうわけにはいかないな」
いつ取り出したのか、大型の銃器を持っており、ブレスに向かって数発、銃弾が発射され……
業火は、実にあっさりと、散らされた。
あまりの結果に、イドルムは呆然としている。
「ん~……ん~~!!!」
いや、地団駄を踏んでいる。
かなり悔しそうだ……ああしていると普通の子供にしか見えない。
「相手は歴戦の傭兵やぞ?敵うわけないやろが」
「戦い方を覚えれば僕なんかあっというまに蹴散らせるようになるさ、これからこれから」
ぷんすかするイドルムをマスターがあやす。
……ように見えて絶妙に煽ってる。
「では次は余が相手になろう、前に出ろ、ユキノフ」
「は、はい!」
「安心しろ、手加減はしてやるし、武器も使わん。好きに仕掛けてこい」
次は僕の番のようで、マグナさんは腕を組んだまま、こちらに呼びかける。
僕は今まで人を殴ったことなど殆どない。
事実、先日のゴブリンの時等は立ってみていることしかできていなかった。
なのに、何故だろう。
何故僕は全力で、マグナさんに殴りかかっているんだ?
「身体能力にしてはよくやるね」
「思ったより思い切りがええな。ええことなんやけど」
「ユキノフのやつ……あんな動きできたのかよ……」
「もっと細かく腕を振れ!足運びにも意識を向けろ!」
「はい!」
マグナさんに指導を受けながら、攻撃を仕掛ける。
攻撃は当たらず、空を切るばかりだが、そのたびに自分の動きが改善されているように思える。
――違和感を、感じる。
『いいかい?幸信君、パンチを打つ時はこうやってスマートに打つんだ』
『清史郎、戦い方も大事だけどよ、やっぱり基礎体力が大事じゃねえか?」
『そのために君のチートがあるんじゃないか』
『あんまり使いたくないんだけどな……お前はどうしたい?幸信』
今のは、なんだ?真っ暗な空間で、優斗と会長が僕に指導をしていた……
「意識を他所に向けるな!」
――衝撃
気づけば横っ面を叩かれ、地面へ叩き伏せられていた。
「動きは悪くない。体力をつけろ、貴様にはそれが必要だ」
「は……い!ありがとうございました!」
なんとか姿勢を整えて、お辞儀をする。
「マグナ!次はアタシを見てくれ!」
「……まあいいだろう」
「ヨッシャア!」と、イドルムが駆け出し、マグナさんはそれを受け止める。
見た目通りパワーがあるようだ……
「おう雑用、訓練はその辺にしとけ、十分見たからな」
「えっと……ヒデキさんとはやらなくていいんですか?」
「おう、その代わりに仕事に行ってもらうぞ、ヒデキに存分に教われ」
……先ほど見えた光景、自分の動きへの違和感。
まだ、何もわからないままでいる。
でも、少しづつ前に進んでいる。
そう思いたいと、僕は心の中で呟いた。