【3話:今は繋がっていない世界】
髪の長い少女は、眼鏡の少女と特徴のない少女を探していた。
髪の長い少女は思う。
しかし珍しいこともあるものだ、と。
この二人、実は似た者同士である。
眼鏡の少女は、冷徹なロジックを組んでいるようでその実は優しく。
特徴のない少女は、一歩引いた様な冷たさを持っているがいつも優しい。
その実、決定的に違ってもいる。
眼鏡の少女は、実は過程ではなく結論を優先する癖がある。
――故に彼女は、誰も聞いていない言い訳で物語を書き換える、なんて真似も出来た。
特徴のない少女は、冷たいようで過程を結論と同じように重視する。
――故に彼女は、過程を切り捨てられない。その癖に結果には拘る。
矛盾している。
しかし矛盾とは、理解しても解決できないが故に矛盾と呼ばれる。
彼女たちも、きっとそうに違いない。
――なら、私はどうなのだろうか。
髪の長い少女は、少しだけ忘れっぽい。
そして……誰よりも優秀であると自負しているし、認められてもいる。
そして……人は賢さのことを、時に愚かさと呼ぶ。
本質的に知性とは、矛盾しているものなのだろうか。
「ああ、ここにいたの」
肩を並べた二人の少女に、髪の長い少女は声をかけた。
二人がゆっくり振り向いて、お互いの視線が絡み合う。
言いたいことも、反論も。
少女たちはそれだけで理解できてしまう。
眼鏡の少女は、少しだけ気分を悪くしたように眉根を寄せて。
特徴のない少女は、納得したように頷いた。
分かっている。
しかしそれでも、彼女たちは会話をする。
だって。
そうしなければ、きっと会話のやり方を忘れてしまうから。
「……だから、早いと思ったんです。先にこっちに入るべきだったのに」
眼鏡の少女はそう言って、手に持つ本の表紙を見せた。
色の無い白い背景。
青い雲。
そこにあるのは、槍にも棒にも――あるいは柱にも見える、一つの武器。
黒雲すら貫くであろうその武器は、しかし威容を見せずに表紙を飾る。
「確かに、そっちに入れば魔剣が手に入ったかもね」
物語が魔剣となる世界。
おそらく、彼と――いや。
彼の魔法と、相性の良いであろう世界。
「でも、あの場じゃ否定されるわよ?」
だって、あの場には豊満な少女と幼い少女が居た。
彼女たちは、本質的にこの場の三人とは考えが異なっている。
豊満な少女は、まず支えるのが前提で。
幼い少女は、どこか失敗を許容している部分がある。
――支える相手がいて、失敗しても大丈夫。その前提は必須だが。
「だから待ったんです。今なら、こっちに入ってくれる。……彼も含めて」
「そういう事です。次は、あなたもこっちに賛成してください」
特徴のない少女は、
結論へと急ぐような眼鏡の少女の言葉を付け足す。
結論の速さは焦りからなのか、それとも……ずっと考えていたからか。
少なくとも髪の長い少女には、二人の回答は分からない。
「勿論よ。で、何があるのかしら?」
「分からないけど、きっと役に立つ筈」
眼鏡の少女は本を開き、とある一文を指さした。
~~~~~
今日の目玉はこれ。無双の名を冠した稀代の英雄が愛用した一振りだ。
さあさあ、見てくださいよこの刀身。
長く分厚く、しかも鋭い。
力自慢の戦士なら、振り回して叩きつければどんな敵も一刀両断間違いなし。
しかも、ほら。
この反り返ってる形状を見てくださいよ。
これは刀っていう武器の特長でしてね?
引く動きを加えることで、切れ味を何倍にも増幅させてくれるってんだから驚きだ。
思わず疑っちまうような眉唾ものの作りとは、まさにこれさ。
そもそも大太刀ってのは、滅んだあの国が作り上げた業物さ。
これを逃せば、次は何時出会えるかも分からない。
さあさあ、どうしますかお客さん?
……ああ、お客さんじゃないですか。
どうしたんですか? そんなに怖い顔して。
まともに使えたものじゃないから返金して欲しい?
まあ、そいつは構いませんが……いやぁ、それは残念だ。
~~~~~
胡散臭い語り口の商人の取引だ。
この大太刀には、事実として魔法的な特性は何もない。
しかし、こうも書かれている。
――重たいこれを自在に操るには、並外れた筋力と技量が要求されるそうだ。
それはこの太刀を扱えるからこそ、無双と呼ばれた証明なのだろうか。
「なるほど、考えたわね」
そして彼の魔法は、物語を武器にする。
つまりこの太刀を扱えるまで鍛えるから無双と呼ばれることが、
この太刀を扱えるのだから無双の筈だ、という理屈になる。
文字の上では商人の詭弁に見えただろうが、
同時に事実を表してもいる。
嘘は何もついていない。
納得はできる。
しかしそれが、同時に少し引っかりを生む。
これはつまり、二人のどちらかが彼の魔法を当てたことになる。
彼の魔法を見ないまま、という条件を付け加えて。
「あんたでしょ、なんで彼の魔法が分かったの?」
髪の長い少女は、眼鏡の少女にそう聞いた。
責めている訳ではない。
不思議そうに首をかしげるその様子は、単純に「何故?」の感情が浮かんでいる。
「正確に理解していたわけではありません。ただ、無為に死ぬつもりはないように見えましたから。おそらく、戦場で武器を調達できるような魔法…… あるいは、無手で戦場を生き残れる理屈が、少なくとも彼の中では確立しているのだろう、と。そう予想を付けただけです」
「なるほどね」
――とてもロジカルだ、と。
その言葉は、付け足さなかった。
少女の思考の癖が、どうしても出てしまう。
眼鏡の少女はきっと、今はその言葉を聞きたくないに違いない。
「見せに行きましょう。多分役に立つわ」
「同感です。彼との再会を逃してまで探したのですから、反応を見てみたい」
「……あなた、自分から図書館の確認をするって言ってなかった?」
「そうでしたか? 覚えていません」
「それ、私のセリフでしょう……」
特徴のない少女は、しれっと話を修正した。
そして、髪の長い少女は今はまだ覚えていた。
人間のような会話をしながら、3人はゆっくり歩み始めた。
まるで、答え合わせをするように。