【6話:栞の形をした魔剣】
図書館の一室を、特徴のない少女は片付けていた。
人が住めるように、動線を配置する。
人が眠れるように、余白を確保する。
人が思索できるように、区切りを設け。
そして――ちょっとだけ、自分が便利だと考えている道具を配置する。
使えとは言わない。
明示もしない。
ただ、自分の好きなものを置いただけだ。
選択の助けになれば良いと、それ以外の意図はない。
本当である。
「どうすれば、彼の安全を確保できると思いますか?」
図書室の一室を整理しながら、眼鏡の少女はそう言った。
口は動いているが、ても動いている。
その仕事ぶりは、一片の曇りもなく真面目である。
好きなものを置く、なんて遊び心はない。
ただこの部屋を、人が住めるようにすることを最優先にしていた。
「彼は本に入るのを望んでいるように見えます」
特徴のない少女は、また一つ、お気に入りの形をしたペンを置いた。
使うのかは分からないが、ついつい置いてしまう。
これはもはや、彼女の癖ですらあった。
「その思考方向では、あなたの望む答えは出せないように思います」
「……分かっているつもりではあるんだけどね」
「分かっています。私も、片付けている筈なのに物を増やしてしまう」
眼鏡の少女に応えながら、特徴のない少女はペンの横にメモ帳を置いた。
きっと、使いやすいに違いない。
少女の顔は、そう確信している顔である。
それを見る眼鏡の少女の顔には、
「だからいつも片付かないんでしょ」とばかりの呆れが浮かんでいた。
「あなたのそれと一緒にしないでほしいんだけど」
「癖という意味では同じです」
言葉少なく、特徴のない少女はぴしゃりと言い切った。
外見には特徴がないわりに、言葉にはずいぶんと切れがある。
とはいえ、それは当然なのかもしれない。
助言という意味では、彼女と髪の長い少女が頭一つ抜けているのは事実であった。
方向性が、違うのだ。
「なので、私はこんな提案をしてみます」
体に隠れて一瞬だけ見えなくなった指の中に、いつの間にか一つの栞が挟まれていた。
特徴のない少女は、見せつけるようにそれをすぅっ、っと静かに差し出す。
「これは?」
「見ての通りに、栞です。ただ、物語に刺し込める栞です」
「……ごめんなさい。よくわからないのですが」
特徴のない少女は、やはりいつの間にか取り出していた本を開いた。
片付けている筈なのに、物が増える。
しかしまあ、実際「困る程は散らかっていない」ので、眼鏡の少女は何も言わない。
……実はちょっとだけ、不満に感じてはいたのだが。
「これがあれば、彼がどこにいるか分かります」
少しだけ感じていた不満は、特徴のない少女の得意げな提案に吹き飛ばされた。
確かに、言われてみるとその通りである。
どこに入るつもりなのかが理解できれば、当然「先回り」も可能である。
「なるほど…… その発想はなかったです」
「あなたは、物を増やすのは苦手ですからね」
「整理が得意と言って欲しいのですが」
なんにしても、眼鏡の少女の悩みは解決しそうであった。
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人は、本を読むことを中断する際に、栞を挟むそうだ。
しかし栞には、実は別の効果がある。
それは「どこまで読んだのか」を可視化する効果だ。
この効果、実は栞の本質なのだがあまり気にされない。
何故なら「他人がどこまで読んでいるのか」を気にする人間は、多くないからだ。
しかし「他人がどこまで読んでいるのか」と気にする人間は、存在する。
それはきっと、相手を理解したい人間だ。
同じ話題を共有する。
これは、非常に初歩的なコミニュケーションである。
しかし、いつからか失われてしまった。
だからこそ、魔剣などという形で再現できる。
この魔剣は、他人の考えを共有できる。
そして共有されないまま、読まれ続けることもある。
言葉と話題が通じても、対話ができないことは両立できる。
~~~~~
「……そういうわけで、こんな魔剣を作ってみました」
特徴のない少女が、そう言って彼に栞を差し出した。
彼は、この栞の意味がよく分かっていないらしい。
ただ少女たちは、この栞の意味がよく分かっていた。
「なるほど…… これなら、どこに居ても見つけられるわね」
「どこに入りたいかも分かりますし。良いと思います」
「へぇ~、確かに便利そう! でも、もっとカッコよくできないの?」
髪の長い少女と豊満な少女は、感心したように頷いた。
無邪気な少女だけが、少しだけズレた答えを返す。
まあ、いつものことである。
「今日は一日付きっ切りでしたけど、この栞があればあなたも自由に本の中に出入りできます。まあ、私の代わり、ぐらいに認識してください」
「……なんでそこ、私“たち”の代わりと言わないの?」
髪の長い少女は、笑顔でそれを指摘した。
しかし特徴のない少女は、まるで用意していたように言葉を返す。
「すみません、わざとではないのですが」
「絶対わざとだよね、あれ」
「まあ…… あの魔剣を作ったという意味では、間違っていないのですが」
幼い少女はそう言って、豊満な少女少し唸った。
特徴のない少女は、こういう部分がある。
まあ、あまり油断できないという話である。
「まあ、受け取ってください。損はさせませんので」
そう言って、特徴のない少女は栞の形をした魔剣を押し付けた。
そして栞に、まるで空白のメモ帳に情報を書き込むように幾つかの項目が記されていく。
――名前、性別、持っている魔法。
――今の健康状態に、所持している物語。
公開される代わりに、補助を受ける。
少女たちは気付いていないが、おそらくこの魔剣はそういう魔剣である。
その事実を、影だけはしっかりと認識した。