【8話:朝日のような栞】
その日も、変わらず太陽が昇った。
いつもはバラバラに行動している少女たちであったが、
この日は昨日別れた場所に自然と集まっていた。
まるで、読みかけの物語を再開する様に。
あるいは、旅行の前に集まるように。
「おはようございます。外の世界ですが、少しだけ復元しているようです」
「復元した後も、崩壊していなかったわ」
特徴のない少女がそう言った。
それぞれに図書館を維持してはいるが、
図書館全体を最も広く維持する彼女の言葉は重たい。
しかもそんな彼女に、豊満な少女も頷きながら言葉を合わせたのなら猶更だ。
修復の管理人とは、なにも怪我を治すばかりではない。
その名は本来、世界を修復することを願われて付けられていた。
「こっちも問題なかったわ」
髪の長い少女も同意する。
最新のデータだ。
忘れっぽいとは言わせないぞと笑みを浮かべ、眼鏡の少女と幼い少女に視線を投げる。
「こちらも問題ありません」
「同じく! こっちも大丈夫」
眼鏡の少女も頷いて、幼い少女も頷いた。
そして……互いにそうして、頷いて。
言葉を発さない沈黙が、少しだけ重たくなった
皆、次の話題は分かっている。
ここには居ない、彼のことだ。
「……で、今日はどうするんですか?」
口火を切ったのは、珍しく眼鏡の少女であった。
その視線は――特徴のない少女に向けられている。
「あの栞を使って貰って、本に入る。これでいいのでは?」
視線は向けられていないが、眼鏡の少女の言葉を拾ったのは豊満な少女であった。
やらせたい事をやらせてあげればよいのでは?
という、ある種において当たり前のスタンスを取っており。
同時に、何でもサポートしますよ、と無言で彼を肯定している。
「私も何でも良いよ~ 入りたい本があれば、一緒に探そうかなって思ってたぐらい」
一応、面白そうな本は探してきたんだ~、と。
そんな事を言いながら、幼い少女は机の上に本を並べた。
空を支配する高度な科学、分岐した魔法世界。
確かに、彼女の好みに刺さりそうな本が幾つもある。
……彼の好みではなく彼女の好みをチョイスするのが、非常に彼女らしいのだが。
「私は何でも構いませんよ。あの栞を渡した時点で、次は譲るつもりでしたので」
特徴のない少女は、そうして一回休みを宣言した。
いつものように、無表情だ。
しかしその無表情の皮一枚の下が、勝ち誇った笑みに見えるのは気のせいなのだろうか。
少なくとも、髪の長い少女と眼鏡の少女は通じ合ったようには感じられた。
「私は、まあ何でも。とりあえず、今日の話を聞きたいし」
髪の長い少女は、腕を組んでそう言った。
積極的な筈なのに、まずは一歩引く。
ある種、彼女らしい回答であった。
「私も同意見です。まずは、話を聞いてみたいので」
眼鏡の少女も、結局はそれだった。
なんにしても、彼の話を聞いてみたい。
5人の方針は、一言で言えばそれに落ち着く。
そうしているうちに、背中に武器を背負った彼がやってきた。
その姿は、昨日と何も変わらない。
小さな足音が図書館の沈黙に響くのだが、
不自然なほどに気にならなかった。
「おお~。お兄さん、待ってたよ!」
幼い少女が彼の腕に飛びついて、こっちこっちと腕を引く。
そのまま押さえつけるように席に座らせ、
机の上に広がる本を見せた。
「ねえねえ、どれに入りたい? ちなみに、これが私のお勧め。それとも、本じゃなくて図書館を探検する? どっちでも良いよ」
「それも良いですね。むしろ、是非そうしたいのですが」
幼い少女がそう言って、豊満な少女も流れに乗った。
しかし彼はそんな二人に頷きながら、
無言で栞を――特徴のない少女に差し出した。
「栞ですね。もしや不備がありましたか?」
特徴のない少女は、不思議そうな顔で受け取り――真顔のまま、小さく固まった。
その様子が少し普段と違っていて、髪の長い少女が栞を見てみる。
中に書かれていた内容は昨日と変わっているが……
魔剣の名前が、変わっている……ように見える。
「あれ? これ、昨日もこんな名前だったっけ?」
「いえ……昨日は【栞の形をした魔剣】という名前でした」
「はい、その名前だった筈です」
眼鏡の少女がそう言って、豊満な少女もこくりと頷く。
「何て名前になってるの?」
幼い少女がそう聞くと、特徴のない少女が再起動したように口を開いた。
「【掌の中の太陽】…… これは……」
少女はもごもごと口を動かすが、適した言葉を見つけられなかったようだ。
最終的には手を口元に当てて、何かを考えるように黙ってしまう。
他の三人も、程度の差はあれ何かを考えているようだ。
しかし幼い少女は、あまり気にした様子がない。
当然、その発言にも遠慮はなかった。
「大げさな名前だね! ちょっとカッコよすぎるんじゃないかな?」
そう言って、髪の長い少女から栞を受け取り、名前を変えた。
「絶対これぐらいの方が良いよ」
改めて少女から差し出された栞を、彼は笑って受け取った。
そして一言礼を言うと、幼い少女に勧められた本の中に入っていった。
すぐに戻ると、そう言って。
~~~~~
世界は、昼と夜の顔を持つ。
太陽も、月も、星座だって。
実際のところ、見えないけれどずっとある。
消えたのではなく、隠れただけだ。
あらゆるものに、意味を与えるのは言葉である。
日が昇ると言えば希望を見る。
頂点にあると言えば絶頂を。
隠れかけたと言えば陰りを見る。
この話で大事なのは、太陽は明日も昇ることだ。
大事にすればするほど、沈めば戻ってこないと考える。
少なくとも、太陽は世界が滅んでもまた昇る。
~~~~~
「……あなたの言っていた通りでしたね」
栞のように見えた魔剣に書かれている物語は、名前と共に再び切り替わっていた。
驚いた様な、気付かされた様な。
そんな微妙な表情で口を開いた特徴のない少女は、反省するようにそう言った。
「抜け駆けしようとするからそうなるのよ」
報酬は山わけではなかった。
つまり、責任は負うと同義である。
元来、総取りとはそういうものだ。
……まあ、髪の長い少女は一番最初に抜け駆けしているのだが。
それを指摘しても、きっと本人は忘れたと言うだろう。
「分かっていたつもりだったけど…… これが、彼の魔法なのね」
読み違えると、取り込まれる。
いや、そういう攻撃的な表現は正しくないだろう。
目を凝らして読まないと、そもそも読めない。
これぐらいが正しいのだろうか。
何にしても、彼女たちにとって天敵に近い。
彼女たちの修正能力は、すべてを理解しているような速度を持っている。
しかし彼の魔法は、別の解釈をした時点で、別の物語に焦点が当たる。
どれだけわかった振りをしても、変わらない。
登り切ってから登る山を間違えたような、そんな様を晒してしまう。
そう、今回登る場所を間違った特徴のない少女のように。
「私は、お礼を言うべきなのかもしれませんね」
「傷付くのでやめてください……」
眼鏡の少女がそういうと、特徴のない少女が肩を落とした。
「まあ、そういう時もあるじゃん! 気にしないで行こうよ~」
幼い少女は、いつも少しだけズレていたが。
少なくともこの場では、彼女は最も正しかった。