機動警察パトレイバー Exchange Edition 作:リキ256
性転換タグをつけていますが、生まれた時から「泉野明が男性」、「篠原遊馬が女性」だったらどうなる、というストーリーです。
オリ主タグは、野明と遊馬が生まれた時から性別が逆であることによるものです。
アンチヘイトタグは、念のため入れています。キャラクターを貶めることはしませんが、物語の構成上で原作とは違った、否定的にキャラを描写する場合があります。
性別が違うだけで、野明がフォワード、遊馬がバックアップなのは変わりません。
後藤隊長やしのぶ隊長等の周りの登場キャラの性別に変更は無く、立ち位置を変えていません。
遊馬の設定、性格には独自の解釈を行っています。
性別変更に伴い、口調や性格に独自の解釈があります。
登場レイバーに独自の解釈があります。
小説版の「父の息子」の設定を取り入れ、独自の掘り下げを行っている部分があります。
性別逆転物に忌避感があったり、原作のキャラ性を重視される方は、すみませんがブラウザバックをお願いします。
それでは、やはりスタートは、
デーン↓デーン↑デーン↓
レイバー。それは産業…
小雪の舞う正午頃。東京晴海の国際展示場には多くの人が訪れていた。
展示場のメインゲートには、国際レイバーショーの看板が掲げられている。受付に並ぶ人々は平日のビジネスデーということもあり、年代は様々だがビジネス関係者が多く、家族連れや学生はまばらだ。
特車二課第二小隊隊長の後藤と第一小隊隊長のしのぶは、30分ほど並んでようやく会場内にはいることができた。
しのぶが一息つきながら、
「入るのも一苦労ね。これでお目当ての娘が見つからなかったらくたびれ損だけど」
「まあまあ、これから相手するレイバーを見て置くのもいいでしょ」
後藤は行き先があるのか迷わず会場内に歩を進める。
後藤の言う通り展示場内は、出展メーカーの現行レイバーから次世代レイバーが立ち並び、さながら巨人の国である。
「しのぶさん、見つけたよ」
展示に気を取られていると、後藤が声をかけてきた。しのぶは後藤が指さす方向を見てみた。
そこは菱井重工のブースで、隣は篠原重工と言う、会場でも一番注目度が高い区画。その菱井重工のブースの前で自社のパンフレットを配っている、ハイレグで胸の谷間の部分が強調された、菱井重工のロゴ入りのカラフルなワンピース水着姿のコンパニオンを、後藤は指さしていた。
「後藤さん…。私はあなたの趣味につき合わされて、ここまで来ているのかしら?」
しのぶは呆れと苛立ち半々の声で抗議する。
「よく見てよ、志願票の写真、覚えてるでしょ」
二人は新設される第二小隊の、募集している志願者を見に来ていた。
後藤が言うのでコンパニオンの顔をよく見てみる。切れ長気味の目、バランスのとれた鼻と口は志願票の写真と同じだった。写真では髪型がボブカットだったが、目の前の彼女はウィッグでも付けているのかロングヘアーであった。
禁止されているバイト、しかもイベントコンパニオン。経歴には中退ではあるが、レイバー研究でも有名な城南工科大学とあった志願者に興味を持ったのだが、しのぶは後藤に彼女を選考から外す事を勧めようと考え始めている。
年々増加するレイバー犯罪への対応で、第一小隊は完全にパンク状態。それを解消するために新設される第二小隊が有能でなければ、しのぶには困るのだ。だからこうやってわざわざ足を運んだのだが、規則破りの問題児では論外なのである。
二人の観察の対象になっていることなど彼女は知らず。明るい声で呼びかけながらパンフレットを渡している。
170cm代の女性にしては高身長で、出る所は出ている均整のとれたプロポーション。彼女の周りは、彼女からパンフレットをもらおうとしている来場者と、自分にカメラを向ける取材陣でちょっとした人だかりになっている。
彼女の表情は確かに人を惹きつけるものがあるのだが、どこか固い。
パンフレットを手渡す手を握ってきたり、どこを撮ってるのか問い質したいカメラ。
それらに穏便に対処しながら、いい加減うんざりしているのを隠して、いかにもモデルといった笑顔を貼り付けている彼女に、人ごみを押しのけて後藤が話しかけていた。
「ちょっといいかな?」
「はい、なんでしょうか」
「聞きたいんだけど、おたくのレイバーと、あっちのレイバーどっちが良いかな?」
彼女は後藤が指さした方向のレイバーを見て、ウゲッと呟く。そのレイバーは篠原重工の次世代機のコンセプトモデルだった。
直立姿勢で全身輝くパールホワイトに塗装されボディー。スラリとした人体に近い体型。両腕にはそれぞれ5本指のマニピュレータがある。
そのレイバーに実際に操縦者が乗って実演デモを行なっている。説明担当のコンパニオンの声が聞こえてくる。
「皆様ご覧のように。このAVXの特徴は、人間に近いプロポーション。そして、様々な状況に対応出来る、マニピュレーターです。」
直立していたAVXが滑らかに片膝をついてフロアに置いてあるロープをつまみ、ロープの端と端で結び目を作った。 観衆から大きな感心の声が上がる。
「指先の操作はグローブを使って行うので、直感的に行えます。」
AVXの胸のコクピットのハッチが開き、操縦者が手にはめているグローブを観衆に見せながら、手を開いたり閉じたりすると、ほとんど遅延無くAVXの指が動く。
「この指の動きをディスクにセーブしておけばグローブを介さず、スイッチ一つで再現出来ます。」
「蝶々結びとかもできますか!」
観衆から大きな声の質問が飛ぶ。質問主は、小柄でAVXに目を輝かせた短髪の青年だった。
「はい、グローブを介して可能です」
突然の横からの質問にも、説明担当のコンパニオンはよどみなく答え、説明を続けていく。
「で、どうかな」
後藤が傍らのコンパニオンの娘に答えを促す。
後藤が言ったおたくのレイバーとは菱井のヘラクレス21だ。
ヘラクレス21は、菱井の人気機種であるブルドッグの改良機であり、一応ブルドッグより人型に近くなった。かたや篠原のAVXは、箱型ボディに短い手足のついた建設機械から発展したレイバーのイメージを完全に覆す、人間に近いプロポーションを持っており、一世代飛び越えた印象と性能を見た人に抱かせる。
彼女はヘラクレス21がAVXに勝る部分をひねり出して答える。
「そ、そうですね。最大起重量にあまり差はなさそうですね。旋回半径はAVXの方が小さく小回りが効き、動作は軽快でしょう。
ですが、その軽快さは乗り心地の悪さにつながると思います。弊社のヘラクレス21は長時間労働でのストレスを考慮して、動作の機敏さと乗り心地のバランスが取れた改良を施しています。
あとは完全防水仕様のコクピットで水陸両用!あらゆる環境に対応します。燃える男の汎用レイバー!と言うところでしょうか」
「なるほどねえ」
尋ねた割にあまり興味なさそうな反応を返す後藤は、彼女の後方の展示中のヘラクレス21の辺りで、何か騒ぎが起きていることに気がついた。
菱井のネームプレートを付けた係員と、明らかに仕事として来ている人間ではない、ボサボサの長髪にラフな格好の男が取っ組み合っている。
「そのディスクよこせ!」
男は係員が後ろ手に持っていたディスクを奪い取り、ヘラクレス21に飛びついてコクピットに入ってしまう。
すぐにヘラクレス21の外部スピーカーから男の声が聞こえる。
「我々は海の家!東京湾をバビロンプロジェクトから守るため、この会場のレイバーを破壊してバビロンプロジェクト完全破壊への狼煙とする!」
どこに隠れていたのか、10人ほどの活動員がヘラクレス21の足元に集まる。
ヘラクレス21と活動員が、手始めに菱井のブースの展示物の破壊を始める。
「あらあら、元気だねー」
「のんきに見物してるつもり!私は小隊と連絡取りに行ってくるわ!」
外の電話ボックスに行こうとするしのぶを後藤は呼び止めて、自分の車のキーを投げてよこした。
「隊に戻るなら俺の車使って。俺はここで状況把握と避難誘導するから」
ひらひら手を振ってしのぶを見送ってから、コンパニオンの彼女を探すと、こっちでも篠原重工のブースのAVXの近くで係員と取っ組み合っている。
「AVXの起動ディスク持ってるんでしょ!よこしなさいよ!このまま壊されてもいいの!」
「誰だあんた!何をする!」
「あなた営業本部長よね。あたしの顔、忘れた?」
営業本部長と呼ばれた男が何かに気がついたのか、顔が驚愕に引きつり固まってしまう。
その隙を逃さず彼女は高身長の長い手足と、素早い身のこなしでディスクを奪いAVXに駆け寄ろうとするが、営業本部長に後ろから羽交い締めにされて止められてしまう。
「やめてください!あなた様に何かあれば私は首になります!」
「離しなさいよ!ちょっとどこ触ってるのよ!」
呆れつつ見ていた後藤は、ヘラクレス21がそろそろ菱井のブースを破壊しつくそうなのを見て、2人を避難させようと近づこうとした時に、AVXの足元で避難せずオロオロしている男に気が付いた。
その男はAVXの実演で質問していた短髪の青年である。
「だああぁ!こいつをテロリストにみすみす破壊させるなんて許せない!けど起動ディスク無いし、民間のレイバー勝手に動かせないし!」
青年のセリフをコンパニオンの彼女も聞いていた。
「あなたレイバー動かせるの!」
女性の相手になれてなく、自分より頭半分背が高いナイスバディーな水着のコンパニオンの女性に突然声を掛けられ、少々キョドりながら青年は答える。
「う、動かせる!教習中だけど教官からはスジが良いっていわれてる。あ、あと警察官候補生…」
「いいわ。あなたが動かしなさい」
彼女は起動ディスクを青年に投げ渡す。
「これ、あのレイバーの起動ディスク!?」
「何をしてるんです。部外者にディスクを渡すなど!」
「いい加減あんたは私からはなれなさい!あなたはさっさとあの子に乗って!」
「き、君は?逃げないのか?」
「巻き込むのだから、逃げるわけないでしょ。通信用ヘッドセットがあるから、あなたをここからサポートするわ」
青年はそれを聞くと頷いて、跪いているAVXの足に飛びついてよじ登る。コクピットに乗り込むところで、足元の彼女の姿を見下ろす。
身長が低めの野明にとっては新鮮な光景だ。あと水着を押し上げる豊かなバストの谷間に視線が止まる。
「どうしたの?早くコクピットへ!」
不届きな考えがばれていないかと、あわててコクピットに乗り込む。
野明は急いで、シートに置いてあったヘッドセットをつかんで頭にかぶり耳にヘッドホンをつけた所で、彼女までコクピットによじ登って来た。
彼女はかがんで上半身だけコクピットにするりと入ってくる。
「ふーん、やっぱり狭いね。あたしが乗りたかったなー」
ペタペタと天井のパネルに手を伸ばしている。
そうすると野明の目の前では、谷間に切れ込んだデザイン重視で、薄手の素材でホールド力弱目の生地に包まれた、確かな重量のある双丘が揺れながら迫ってくる事になる。なんなら甘い香りが鼻腔をくすぐってくる。
「早く降りて!ハッチ閉められないから!」
切羽詰まった声の抗議にそれもそうねと答え、コクピットの外に少し下がって野明の目線に、遊馬は顔の高さを合わせる。
「操縦法は教習用の95式と基本は同じはずよ。モードセレクターはシートの右下側面」
野明はシート右下側面に目線を動かし、手で確認して頷く。
目線を前に戻すと、目の前に自分を見つめている遊馬の顔があった。
「上手くやりなさいよ」
イタズラっぽく微笑んでコクピットの外に出る。彼女が飛び降りようとしたとこで、
「俺、泉野明。君は?」
彼女は野明の方に振り向き、ロングヘアーのウイッグを投げ捨る。肩まで伸びたボブヘアーがふわりと現れ、会場のライトを反射して輝く。片手に持っていたヘッドセット被り、マイクのスイッチを入れ、
「篠原遊馬」
野明の耳元に遊馬の綺麗なソプラノの声が届いた。野明が遊馬の声にドギマギしていると、遊馬が伸びやかな肢体を空中に躍らせ、軽やかに着地した。
大丈夫かと見ていた野明は、
「猫…アルフォンスみたいな娘だな」
ふと飼っていた猫のことを思い出した。でもアルフォンスはオスだったなと苦笑する。
野明は気持ちを引き締め、起動ディスクをドライブにセットして、ハッチを閉じセレクターをアクティブに回して、AVXを起動する。
ハッチを閉じた暗いコクピットの空間が、起動シークエンスを表示するモニターと、次々と点灯する周囲のインジケータが薄明るく照らしていく。
胴体両側面の冷却ファンの、静かだが高音の回転音が聞こえてくる。
今AVXが目覚めたと野明は感じ取る。
「うおおぉ!これは、趣味の世界だぁ!て感動している場合じゃないな。モニターメイン、サブ共によし、電装系よし、バッテリー残量50%確認、オートバランサーよし、各部アクチュエータ問題なし、後は諸々すっ飛ばして、オールグリーン起動できた!」
「どう?行けそう?」
「動かせそうだよ。大丈夫!」
「よし!すぐに立ち上がって、ヘラクレスがこっちに向かってくるわよ!」
野明は唾を飲み込んで操作スティックを操る。モニターに映るヘラクレスが殴りかかろうとしたところを、上半身を傾けて避けて、そのまま立ち上がらせる。
「やるじゃない!その調子よ」
遊馬からの賛辞の言葉に胸が高鳴るが、周りには標的を篠原ブースに変更した活動員が集まり始めているのを、モニターで確認している。
「そっち、遊馬一人で大丈夫なのか?」
「言ってなかったけど、あたしも婦警候補生よ。素人にやられるもんですか。やあっ!」
遊馬に襲いかかろうとした活動員の股間に、遊馬の美脚が入っている。
活動員の悶絶しているうめき声と一緒に、
「うっわー、実践したのは初めてだけど、足に嫌な感触が…」
野明は自分の股間まで押さえそうになる。
「私は大丈夫!警備員を呼びにも行かせてるから。野明はあいつのハッチを開けて中の犯人を引っ張り出すの!」
「どうやって開ける?あ…さっきの実演の?」
「そうよ。うちのAVXのセールスポイントの一つは器用なマニピュレータ。ハッチのレバーをロックオンして右スティックのボタンを押せば、後はセーブしてあるデータがオートでやってくれるわ。開発時のセーブデータがあるのは、さっき聞いて確認済みよ」
(うちの?確認済みって。篠原遊馬って言ってたよな。遊馬って名前が意外だなって思ったけど、それよりも篠原…)
「ぼさっとしてないで、あいつの右側面に周り込んで!」
頭に浮かんだ疑問を振り払って操作に集中する。
野明はAVXの足先を操作して、活動員を追い払って遊馬の安全を確保する。
軽く行っているように見えるが、遊馬を守りつつ活動員を踏みつけないようにしながら、それでも活動員の近くに足を踏み出して追い払うように、繊細に脚部を操作する野明のセンスには、非凡なものがあることが分かる。
あらかた活動員が逃げるか遠ざかると、野明はAVXをヘラクレスの右に周り込ませる。
旋回半径の性能差か、ヘラクレスはAVXの回り込む動きについていけない。AVXの軽やかとも言える足運びと、ヘラクレスの堅実だが硬い足運びから、モーター、オートバランサーの性能が比べものにならないことが分かる。
野明は指示通りにロックオンする。自分の傍で操作を見ているかのように、すぐさま次の指示が来る。
「ロックを維持して!右スティック横のファンクションスイッチを押して!」
野明は反射的に遊馬の言う通りに操作する。AVXの左手で邪魔するヘラクレスの右腕を押さえこみ、右手の指先でハッチ開放のつまみをつまんで回して、ハッチを開けてしまう。
「こんな簡単に…」
簡単と感じたのは操作が簡単なだけではない。AVXは早く正確に指示を実行した。教習で乗っていた95式はモッサリしていて、あまり細かい動きを再現してくれない。
シートから伝わるモーターの振動が驚くほど少ない。モーターのパワーが無駄なく伝わって、的確に素早く機体が制御されている。
野明が感動して止まっている間に、驚いた活動員がヘラクレス21から飛び降りるが、呼びに行かせていた警備員たちが到着し、取り押さえようと近づいてきた。
「クソ!ここまでだ!撤収しろ!」
その声に呼応して、近くの活動員達が発煙筒を焚き始め、周囲に煙が充満していく。彼らはこの煙幕に紛れて逃走するつもりだ。
レイバーで人を捕まえる訳にはいかず、どうするか野明が迷っていると、
「野明!早く降りてきなさい。私たちも逃げるわよ!」
「え?逃げるって?」
「私たち、民間のレイバー勝手に動かしたのよ。まずいでしょ」
何か理不尽なものを感じながらもAVXから降りて、遊馬に駆け寄っていく。
「私は着替えなくちゃいけないから、さっさと行くわよ」
発煙筒の煙を避けて一緒に駆け出すと、会場外から何台ものパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「着替えてる暇はないか…。荷物回収して離脱しないと…」
所々活動員によって破壊された展示スペースの間を2人は走り抜けて、出口近くまで走って来て立ち止まる。
脱出成功とばかりに野明と遊馬は見つめ合うと、
「はい!そこまでー」
いつの間にか後ろから後藤が2人の肩をつかんでいた。
「ひゃいっ!だ、誰よ!」
水着で丸出しの肩のところを掴まれて、飛び跳ねて驚いしまった恥ずかしさを隠すように振り向いた。
後藤が胸元から警察手帳を取り出し、身分証をみせる。
「警視庁警備部特科車両二課…」
野明が続きを読む。
「第二小隊隊長…。遊馬、逃げるのは無理だよ」
青ざめる2人を見ながら、後藤がニヤリと笑う。
「そういうことだから、事情聴取は受けるように。そっちのお嬢さんは、バイトしてたことは黙っててあげるから、急いで着替えくるように」
遊馬は観念してバックヤードに向かおうとしたところで戻ってきて、後藤に尋ねる。
「あの、私がここに来ていたのは知っていたのですか?それとも偶然…」
「あ、それね。君の寮に連絡して面会しようと思ってたんだよ。電話に出た君の相部屋の娘がさ、査察か何かと勘違いしたのか、バイトのこと、全部話してくれた」
「あの娘は~」
遊馬はガックリと肩を落す。
「ま、いい友達じゃない。お前さんのことを思ってだよ。友達だから、その娘にだけバイトのこと話してたんでしょ。その友達、大事にしなさいよ」
「そ、それはそうですが」
後藤が遊馬に顔を近づけ、小声で続けて、
「実家に援助を頼まず、バイトをしてでも金を集めていた理由も大体把握している。実入りが良くて、趣味にも合っていたんだろうが、違反のバイトはやめておけ。」
「私のこと…」
「そりゃ、志願票の親族名に篠原一馬と経歴に城南大の名前があったら調べるでしょ。有能技術者か爆弾娘のどちらを抱え込むことになるのか、知っておきたいじゃない。」
遊馬は何も言わず憮然とした表情で後藤から体を離して、バックヤードに向かおうとする。
「あ、最後に一つ。菱井のブースにいたのは意図的?偶然?」
「偶然です。本当はシャフトの担当だったんです。海外レイバーを間近で見られるからなのもあったのに、今日になって菱井担当の娘が休んで…。最初からあの場所の担当だったらやってません!」
「なるほどね。呼び止めて悪かった。行ってくれ」
遊馬の答えにひとり納得して、今度は野明の方に向き直る。
「お前さんも運が良いのか悪いのか、泉野明だったか?」
「は、はい!」
遊馬の後ろ姿を見送る方に集中していた意識を引き戻して、気をつけの姿勢をとる。
「そう固く成りなさんな。ま、今日会えたのは偶然だ」
到着した警察官が警戒しながら会場に入ってきた。
「そんじゃ君らのこと、話してくるわ」
「あの!第二小隊の選考は…もう…」
野明は第二小隊隊員の募集に応募済みであった。
「ここで選考にかかわることは話せないよ。次の適性試験は受けに来るように。」
「了解しました!」
野明が敬礼して返す。後藤はひらひらと手を振って野明を残して会場外に向かう。
「1号機のフォワード、バックアップ…か」
どういうパズル出来上がるのかはまだ分からないが、パズルを埋めるピースを一つ手に入れた。後藤は面白くなりそうだと、薄く笑いを浮かべて歩いていく。
降っていた雪は既に止んでいた。
◆
夜の高層ビジネスビルが林立する区域に、そのビルはある。
SINOHARAとロゴが掲げられた高層ビルの、広い一室に壮年の男が革張りの椅子に身を預けながら、大画面壁掛けテレビの映像を見ていた。
男は篠原重工社長、篠原一馬である。
机の上の社内電話のスピーカーから、
「社長、実山常務がお見えです」
通してくれと伝え、視線を映像から入ってくる実山に合わせる。
「お待たせしました社長、それで…その映像は!今日の晴海のですか?」
「晴海の件、知っていることは?」
「営業の武藤からは、テロリストによる被害は無く、警察によって何人かは逮捕されたと。後はニュース報道のみです。」
映像はAVXがヘラクレス21のハッチを開けるシーンを流している。
「ニュースでは警察によってテロリストのレイバーは確保されたとありましたが、この映像、いったいどこで…AVXを動かしたのは誰です?」
「現場に居合わせた報道によって撮られたのが、この映像だ。広報部で映像を回収し、警視庁の方でも情報の非公開には協力的だ」
「警察がメンツの問題で公表を控えるのは分かりますが、広報部を動かされたのは?」
一馬が手に持ったリモコンで映像を巻き戻して止めた。
「ここだ」
映像はAVXの近くにいる菱井のロゴの入った水着のコンパニオンらしき女性の、顔と上半身のアップを映している。
実山は、この映像のどこが自分の疑問への答えなのか、映像の女性と同年代の知っている人物をリストアップしていく。そして徐々に顔に驚愕の表情が浮かんでくる。
「あ、遊馬さん!?」
「そうだ。勝手に出ていったかと思えば、人の庭先でチョロチョロしおって。
しかも、ディスクを奪い外部の人間に渡し、AVXに乗せるなど」
一馬が映像の再生を再開する。
AVXがヘラクレス21の攻撃を躱し、ハッチを開けて取り押さえる光景が再度流される。
実山は、はっと気づいて、
「もしや、先ほどAVXの採用を警視庁が決定したとの連絡がありましたが、これが決定の理由で…」
一馬が実山の言おうとすることを遮る。
「実山よ、AVXはお前を含め社をあげて創り出したレイバーだ。警視庁が採用することは必然だった。小娘一人で動くことでは無い。そう思わないか?」
実山は交通事故死した一馬の息子の一騎を巡った、一馬と遊馬の不和を知っている。実山は日頃一馬と遊馬の関係回復を望んでいた。
「これを機に遊馬さんと話されてみては。AVXとプロテクトがかかっていない起動ディスクが無事だったのを聞いています。これは遊馬さんの働きなのでは」
レイバーショーのような市販前の開発中のレイバーを実演展示するには、開発中のOSを使用するしかないが、プロテクトは極秘であり開発者のPCで行えることではない。
「武藤君はディスクを持って避難する所だったと聞いている。AVXを放置したとして、どれほどのパーツを持ち出せたというのか。バカ娘のやったことは無駄だったのだ」
実山には返す言葉はなかった。一馬の後方の窓際のサイドテーブル上の、花瓶の横の倒してある写真立てに、実山の視線が行く。
一馬はそれに気づき、話題を変える。
「この話しはここまでだ。AVXは正式採用を持って開発番号から正式番号AV98となる。」
一馬はさらに続ける。
「君と高志君から上がって来た、AV98の改修、廉価モデルの開発、そして次のAVX案の策定を進めてくれ。以上だ。」
「かしこまりました。」
実山は一礼して社長室を後にした。
一人になった一馬は椅子を窓側に向けた。窓には深夜でも明かりの消えないビル群が映っている。
「バカ娘が…機体など、どうとでもなるというのに」
一馬は倒してあった写真立てを手に取りこちら側に向けた。
写真には、赤ん坊の遊馬を抱いて座って微笑んでいる亡き妻と、妻の傍らで明るい笑顔の幼少の一騎が写っていた。
「文枝。お前が生きていてくれれば…」
一馬の呟きは誰にも聞かれることなく、摩天楼の光と闇に溶けていった。
いかがでしたでしょうか。
妄想を小説の形にしたのは初めてだったので、至らないところが多々あったと思いますが、
楽しんでいただけたら嬉しいです。
今後の展開はゆっくり考えているところです。
黒いレイバー編を書くとしたら、前書きに性別変更は野明と遊馬だけと書きましたが、バドは
男の子ままか、女の子にするか、どっちか迷いそうです。
アニメ版のバドの女装が印象に残っているので。
あと小説版の「父の息子」の改変ストーリーをじっくり考えているところです。
「父の息子」で語られていた、兄一騎の死をめぐる遊馬と一馬の不和に、兄に執着する愛情を秘めた遊馬を足して、書くことを考えています。
最後はやっぱり、
この物語はフィクショ…