Fate CROSS strange FAKE 作:N40
出来ればアニメ一期の分まで書けたらなーと思っています。
聖杯戦争。
それは東洋のとある国で人知れず行われた闘争。
『あらゆる願いを叶える願望器』として顕現する聖杯を巡る戦い。
その戦いにな七人の『魂』──歴史、伝承、呪い、虚構の中で記録された英雄の『魂』──英霊をサーヴァントとしてこの世に顕現させる。
サーヴァントを召喚した者──魔術師はそれらのマスターとなり、最後の一人になるまで潰し合い、殺し合う。
人とは比べものに魂を持つサーヴァントの魂は、聖杯となる器の中に注ぎ込まれ、それが満たされることで聖杯という願望器が完成する。
アメリカ大陸西部スノーフィールド。過去にあった聖杯戦争の際にとある魔術師が記録を持ち帰り、アメリカ政府と手を組んだことで聖杯戦争のシステムの一部を再現する為に発展し、作り上げられた歪な都市。
長い年月を掛け、悲願を達成する為にアメリカの地方都市で偽りの聖杯戦争が行われる。
しかし、彼らは、そして黒幕たる存在も実際に行われるまで気付けなかった。
英雄の魂が眠る座へと繋がる筈が、イレギュラーにより全く異なる世界へと繋がってしまったことを。
根のように伸びた繋がりは無数の世界と繋がり、そこに眠る英雄たちを呼び覚ます。
法則も根源も異なる未知なる世界。そこから呼び寄せられる誰も知らない未知なる英霊たちがスノーフィールドの地に降りたとうとしていた。
× ×
フラット・エスカルドスはスノーフィールド市内にある昼下がりの中央公園で衆人環視の中、英霊召喚を行った。魔術師の観点では考えられない行為だが、魔術師として技術と才能が底知れない代償として魔術師として大事な部分が欠落している青年なので、やったら何か出来てしまっただけなのだ。
「あんたが俺のマスター?」
気付けばフラットの座るベンチに誰かが座っていた。パーカーに付いたフードを目深に被って表情は見えないが、声の感じからしてフラットと年齢は近い。ただ格好が現代的過ぎて英霊と言われても気付かないだろう──マスターであるフラット以外は。
「は、はい! 俺がマスターです! よろしくお願いします!」
フラットはベンチから立ち上がり、腰が直角になるまでお辞儀をする。
「……言っちゃなんだけど、俺がサーヴァントだって疑わないんだな」
「え? まあ、でも貴方は普通じゃないっぽいですし」
妙な確信を持って言うフラットにサーヴァントを名乗る青年は失笑する。
「確かに普通じゃないな」
サーヴァントを名乗る青年が立ち上がり、フラットを向き合う。
背丈はフラットとほぼ同じ。フードで隠れているせいで口元しか見えないが、口には唇を縦断する傷痕がある。傷痕の大きさから過去にかなりの傷を負ったと推測出来た。
フラットは改めて自分が召喚したサーヴァントを見る。彼の中の『英霊?』のイメージと目の前の『英霊?』のイメージと一致しない。
「ってかそれしまった方がいいぞ。何人かチラチラ見ていたからな」
「あ、そうでした!」
召喚の触媒にしていた某有名殺人鬼の銘入りナイフのレプリカを慌ててしまう。
口調が砕けているのでますますイメージした『英霊?』とかけ離れる。
「貴方のクラスって何ですか? もしよろしければ真名もよろしくお願いします!」
「ん? ああ、バーサーカーの両面宿儺──ってことになってんな」
「へ?」
普通に話せられるこの青年が理性や正気を代償にして戦うバーサーカーとは思えなかった。
また両面宿儺というのもフラットは朧気ながら知っている。一つの胴体に二つの顔、四本の腕を持つ異形の筈なのだが、どこからどう見ても現代風の青年だ。
「あのー、失礼ですがあんまり両面宿儺っぽくないですね」
「そもそも両面宿儺じゃないし」
「ええっ!? どういうことですか!?」
真名が両面宿儺と告げておいて両面宿儺じゃないと言われて驚く。
「あんたのせいか、ここの聖杯ってやつのせいか知らないけど、両面宿儺と間違えて俺が召喚された」
「ってことは貴方は両面宿儺と全く関係ない人ってことですか!?」
「関係ないってことはないな……元同居人というか……」
複雑そうな事情があるらしく言葉が濁る。
「成程! そっくりさんってことですか! だからバーサーカーっぽくないんですね! 不思議なこともあるもんですね!」
フラットの反応は両面宿儺(仮)の想像よりも軽いものであった。
「一応適正はあるっぽいんだけど無理矢理当て嵌められた感じだからな。まあ、普通の聖杯とは違うっぽいみたいだし……普通の聖杯がどんなもんか知らんけど」
バーサーカーは狂化というスキルで正気を失わせることで力を引き出すのだが、両面宿儺(仮)はイレギュラーな形で召喚されたのでそのスキルも効果が発揮されていない。
「じゃあ、もしちゃんと召喚されていたらどんなクラスだったんですか? アサシンですか?」
「
× ×
少女は孤独だった。
見慣れたスノーフィールドの街。しかし、人々の喧騒はなく、雑音はなく、少女以外の生命が発する音が無い。
目覚めた時、彼女は無人となったこの街にいつの間にか立っていた。探しても探しても誰一人見つからず、既に孤独や寂しさが感じられなくなる程に一人彷徨い続けている。
泣いた時に思い出すのは両親の顔。
「おとうさん、おかあさん」
そして、同時に思い出す。両親から与えられた痛みと恐怖を。
それを紛らわせるように抱きかかえている絵本を強く抱き締める。その絵本は少女にとってお気に入りの絵本。無人の街で目覚めた時、いつの間にか手に持っていた。
少女は涙を流しながら絵本を開く。その絵本は独りぼっちの女の子を助けてくれる魔法使いのお話。孤独と恐怖に潰れそうな少女の心を何度も支えてくれた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
それでも悲しみは止まらず、涙が零れ落ちていく。涙と共に自分を支えるものも流れ出ていき、その場でしゃがみ込む。
少女は魔術師だった。正確には魔術師になろうとしていた。
魔術師である両親からの冷徹な愛情として魔術師が魔術を扱う上で必要な魔術回路を後天的に増幅させる改良された『細菌』をその幼い体に与えられ、結果として細菌が暴走して脳を侵されて意識を奪われた。
ここにいる少女は本当の少女ではない。実際の少女はスノーフィールド市の中央にある病院内で昏睡状態で眠っている。ここにいる少女も無人のスノーフィールド市も彼女の夢。細菌による改造を施されたことにより通常よりも細部が細かいリアルな映像として見ている夢であった。
「ちゃんとやりますから……ちゃんとがまんしますから……」
少女は恐れていた。両親の愛情が自分から離れていくことを。少女の人格など無視し、将来を継ぐ子を産める体ならばそれだけで十分だという魔術師というフィルターを通しての親の愛を本物だと信じて。
寂しさと悲しみが少女の中の魔術回路を暴走させ、夢の中である存在を呼び寄せる。
それは少女の中の『細菌』を媒体とし、『災厄』を呼び寄せる筈であった。だが、彼女は同時にもう一つの物を所持していた。
現実世界で両親から見放された少女を憐れに思い、眠り続けている少女が少しでも良い夢を見られるよう女医が少女へと送った絵本。
泣き崩れている少女の影。それが地面を這うように広がり、三対の翼を模る。影が液体のように蠢き、空からは黒い羽根が舞い落ちていく。
『災厄』と『本』。その二つにより少女の下へ召喚されるのは──
「どうしました? お嬢さん?」
「え……?」
静寂しかない世界に聞こえた自分以外の声。絵本を抱き締めて俯いていた少女は顔を上げる。
黒い服の上に深緑のローブを纏い、前髪の一房が腰まで伸びた長身瘦躯の青年。
「立てますか?」
青年は少女に手を差し伸べる。差し伸べられた右手の薬指は銀のアクセサリーで覆われていた。
訳が分からないまま青年の手を取り、少女は立ち上がると彼に訊く。
「だあれ? わたしは、くるおかつばきです」
少女──繰丘椿の幼い自己紹介に青年は微笑む。
「詩人ですよ。貴女の為に物語を届けに来ました。繰丘椿さん」
「しじんさん?」
ライダーのクラスを冠する彼はかつて自らの中に生まれた美しいものを言葉に乗せ、詩に乗せ、物語に乗せて人々へ届けた。やがて人々の幸福と豊かな世界を望み、この世の全てが記された存在に触れたことにより全てに絶望し、荘厳で美しい世界の終焉を望む存在へと成り果てた魔王。
ライダーに望みはない。彼は初めに言った通り椿が孤独に苦しみ、それを救う物語を求めたからこそ現れた存在。椿の理想を叶える強力無比なる者。
ライダーが現れた時点で椿の願いは全て叶うことが約束される。何故ならばライダー──
「手始めに先ずはこの寂しい世界を素晴らしい世界へと変えるとしましょう」
──限りなく全知全能に近い力を有しているからだ。
『グリモワール!』
× ×
スノーフィールド市内のオペラハウス内でアヤカ・サジョウは自分の置かれている状況に理解が追い付いていなかった。
ある人物によって導かれるままスノーフィールドにやって来て、そこで魔術師によって囚われの身となり、戯れでその魔術師が呼び出した英霊の最初の贄にされようとしていたが、前触れもなく現れた黒衣を纏った女性──アサシンにより魔術師はあっさりと命を奪われた。
そして、そのアサシンはアヤカの目の前にいる。
「……貴女は聖杯を求める魔術師か?」
自らの信仰に殉じ、聖杯を求めるならば自分のマスターすらも屠る。かつて所属していた組織の者たちにすら狂信者として揶揄されるアサシン。
返答を誤ればただ巻き込まれたアヤカの命も容易く奪われる。
「私は……」
刹那、オペラハウスを囲う光が発せられる。直前まで魔術師が行っていた召喚の儀式。それが再動する。
アサシンは光を警戒して離れるが、魔術師が死んだことで拘束が解けたアヤカは一歩も動くことが出来ない。目を細めながら光の方を見つめるだけ。
激しい光の中で浮かび上がる複数の人影。それらの影は一際濃い影の中に取り込まれていき、最後に残ったのは──
× ×
ゴスロリ服の十代半ばに見える少女──フランチェスカは、この騒動を少し前から監視していた。
「どうなっちゃうかな!? どうなっちゃうかな!?」
水晶を覗き込む彼女の顔は年不相応な淫靡さと醜悪さがあった。
彼女はこのスノーフィールドで行われる偽りの聖杯戦争の黒幕の一人。計画の予定を狂わせるアクシデントも愉しんでいる。
彼女の狙い通りならば高潔なる英霊である彼女が召喚され、手始めにマスターの命により罪の無い少女を斬り殺すこととなる。
その時、彼女がどんな反応をするか。それを考えただけでフランチェスカの邪悪な嗜虐が悦びで震える。
セイバーが呼び出された瞬間からこの偽りの聖杯戦争は裏返る。偽りの聖杯戦争で先に召喚されたセイバーを除く六柱のサーヴァントたちを呼び水にし、真のセイバーの召喚をスイッチとして偽のサーヴァントたちを生贄に本物の聖杯戦争を始める。
それがフランチェスカたちの狙いであった。
──が、その狙いも一歩目からアクシデントが起きる。用意していたマスターが偽のアサシンによって殺された。
しかし、フランチェスカはそのアクシデントもケタケタと笑う。
「ドラマチックな展開! こんな状況で呼ばれたらどうする──」
笑っていたフランチェスカは急に首を傾げ、疑問符を浮かべる。
「あれれ……?」
水晶玉から見える光景はフランチェスカの予想を大きく裏切るものであった。
「あの『セイバー』
× ×
『
アヤカが呼び出した英霊が偽アサシンを撃退する為に放った光の一振り。その一撃でオペラハウスは半壊し、天井からは星空が覗く。
光の眩しさに目を閉じてしまっていたアヤカは、目を開いた途端に驚いた。自分を守るように幾つもの巨大な氷柱が囲んでいたからだ。
「な、何、これ……?」
氷柱はアヤカの前で瞬く間に氷解する。濡れた痕すらなく普通の氷ではないのが分かる。
「感謝する」
オペラハウスを半壊させた英霊の次なる言葉は感謝であった。
「彼女を守ってくれたことを」
金色の髪に赤い毛が混じった十代から二十代前半に見える男性。首から下は荘厳な甲冑を纏っており、貴族もしくは王族だと分かるような姿をしている。
整った顔立ちとそれに相応しい爛々とした瞳。だが、その瞳には獣のような警戒の色が確かにあった。
「余計なお世話だったかもしれん。貴殿は彼女や民衆を巻き込まぬよう細心の注意を払っていたからな」
オペラハウスの影から現れたもう一人の人物。その人物は鞘に騎士剣を納めながら二人の前に出て来る。鞘に納める前に一瞬だけ見えた刀身の輝き。それは先程の青年が放った光と良く似ていた。
星光の下に現れたのは初老の男性。殆ど白髪となった頭髪と豊かな顎髭には元の髪色であった茶が混じっている。
六十前後と思われるが背筋は真っ直ぐ伸びており、体型からは老いを全く感じさせない。青年とは違い胴、腕、脚、腰に付けた防具に煌びやかさはなく年季が入っており、その上にフード付きの茶色いマントを纏っていた。
青年が一目で王族と分かるように初老の男性も一目で歴戦の戦士だと分かってしまう。
「──さて、念の為に確認してもいいかな? 俺は見ての通りセイバーのクラスだ。君のクラスは何だ?」
「奇遇だな。儂も
セイバーを名乗る二人の人物を前に、アヤカは腰を抜かしたまま啞然とするしかなかった。
偽りの聖杯戦争はこの時を境に真なる聖杯戦争へと移行する。しかし、共鳴するようにイレギュラーもまた加速する。
この聖杯戦争な中で起こる奇妙はまだ終わっていない。
真名は書きませんでしたが、ヒントでどのキャラかは分かると思います。