Fate CROSS strange FAKE 作:N40
「……どういう事? 聖杯を望んだから、召喚で出て来たんじゃないの?」
セイバーが言うに英霊たちは『座』と呼ばれる特殊な空間におり、そこでは時間や世界線すらも混濁している。過去も未来も入り混じっているので、これから先のセイバーが聖杯を望むような出来事があったのかもしれない、と推測した。
「……シドもそんな感じなの?」
「どうだろうな。先程も言ったように儂は人の願いを叶える物に対して懐疑的だ。それらは人を惑わせ、狂わせ、災いを呼ぶ。そういう物に対する忌避感が、儂を喚び出したのかもしれん」
場合によっては聖杯を壊すという考えも召喚に応じる条件となる。シドや偽アサシンのように。
「聖杯そのものだったら手に取ってみたいな。尊敬するアーサー王が求めた偉大な遺物だ。それを手に入れ、アーサー王に寄贈するのも悪くないかもしれないが、他の大望を踏み躙って叶えたいほど欲しいとは思っていない」
すると、急にセイバーが苦笑し、虚空へと話し掛ける。
「まあ、それが教訓となって殊勝になったと言えるだろう?」
セイバーは時折見えない誰かと話す。最初は不気味に思えたが、夢の中でオーランに会ったのでもしやと思い、訊いてみた。
「もしかして……そこに誰か居るの?」
「話が早いな! ああ、そうだ。彼の名はピエール・バジル。弓兵だ」
「えーと……よろしく?」
虚空に対して取り敢えず挨拶をする。
「彼は凄腕だ。何せ
自慢するようにさらっと言うが、情報処理が追い付かずアヤカは絶句してしまう。シドの方も目を丸くしていた。
「俺が使える宝具……というか切り札は二つある。その内の一つが、俺が選んで同意した奴の魂を、座から転写して何人か同行させる力だ」
流れで自分の宝具の能力まで説明し始める。警察署内から脱出した際に見た光源を生み出す魔術と、今紹介された弓兵を合わせれば最低でも二人は同行していることとなる。
「サーヴァントみたいに最初から最後まで実体化させ顕現させ続けるのは無理だ。そいつらを現界させようとなると普通の魔術師ではすぐに魔力が枯渇してしまう」
「──成程。貴殿の宝具は儂のと少し似ているな」
セイバーの説明を聞いてシドもまた自分の宝具の能力について開示し出す。
「儂の宝具もまた二つ。一つは既に見たエクスカリバー。もう一つはセイバーの能力と同じく仲間の力を借りるものだ。ただし、セイバーのように何人も同行させることは出来ん。連れて来られるのは一人だけだ」
シドの能力もまた仲間を連れて来るもの。セイバーはその共通点に微笑む。
「ならば余程強固な縁を持つ者を連れて来たんだな」
「嘗て同行を断ってしまったからな。今回は付いて来ると言って聞かなかった」
シドは困ったような表情をしているが、口角が確かに上がっていた。
(義父上って言っていたし、何だかんだ言っても自分の子と一緒に居られるのが嬉しいのかな……ってそうじゃなくて!)
オーランの事をぼんやりと思い出していたが、重要なのはそこではない。
「俺と同じように『技』や『魔術』で手助けして貰えるということか? おおっ! 異界の技や魔術なんて興味しか湧かないな! そうだろ!?」
見えない仲間に同意を求めるセイバー。好奇心旺盛なその様は子供と変わらない。
「よし! 君が説明をしてくれたからには俺ももう一つの宝具について説明をしないとな! 実は俺もエクス──」
「いや! ちょっと待って! 待って!」
「どうした?」
「何か聞きたいことがあるのか?」
急にアヤカが大声を出すので二人は何事かと彼女を見る。
「さっきから話し過ぎだよ! ピエールさんだっけ? その人があんたを殺したなら、詳しく調べたらあんたの真名が分かるじゃん! 聖杯戦争に参加している魔術師なら尚更すぐに分かるよ!」
「ということは、アヤカは俺の真名にピンと来ていないのか? 俺の知名度、結構低いのかな……」
「そう嘆くな。儂など真名を名乗ったところで誰も分かりはせんよ」
思いの外低い自分の知名度に首を傾げるセイバーをシドは自分を引き合いに出して慰める。シドの外見と父性を感じさせる雰囲気、セイバーの若さもあって──実年齢はどうかは知らないが──父と子のように見える。
「そういうことじゃなくて! バレたらあんたが不味いでしょ! シドも呑気なこと言っているけど、もしかしたらシドのことを知っている英霊や魔術師もいるかもしれないじゃん!」
アヤカは真名を聞かされて巻き込まれることを恐れるのではなく、それによりセイバーたちの身に危険が及ぶ可能性を恐れている。
「その時はその時だ。バラされる前にさっさと君に名乗っておこう」
「どうしてそうなるの!?」
「どうしていけないんだ?」
自分の行いに全く疑問を抱かないまま問い返すセイバーにアヤカは咄嗟に返す言葉が見つからなかった。助けを求めてシドの方を横目で見るが、シドは腕を組んで静観しており、アヤカの視線に気付いている筈なのに彼女の方を見ない。
「……私とあんたとシドは魔力が繋がっているだけでしょう? 正式なマスターとサーヴァントの関係ですらない……私なんかに話した所で損しかならない……」
言っていてどんどん自己嫌悪に陥っていく。もっと上手く説得する言葉は沢山ある筈なのに自分を下げる言葉しか出てこない。
「だからさ……あんたにとって良いマスターと出会うまで真名をとっておいた方がいい。シドは……少し真名を言ったけど、私もなるべく口に出さないようにするから」
今まででになく真剣な様子でアヤカは言う。彼らのことを案じ、なるべく自分と関わらないよう警告する。
「──そうか」
セイバーは落ち着いた態度になり、彼女に背を向けた。シドも顔を俯かせているのでローブが目深になり表情が見えない。
散々相手の好意を踏み躙るようなことを言った。二人の態度は当然であり、それに寂しさなど覚えるべきではないと自らを戒める。これで二人と──
「我が名はリチャード! ノルマンディーの君主にしてイングランドの王である!」
アヤカの思考を遮るように振り返って凛々しい声で発せられる真名。不意打ちで告げられたセイバーの真名にアヤカは開いた口が塞がらなくなる。
「王であったか……道理で強い意思を宿した目をしていた訳だ」
セイバーが王であったことに納得するシド。彼の知る王の中でセイバー程活力に満ちた王を知らない。
「真名や立場よりも……『
ライオンハート。勇敢な心、獅子のような強い精神の意味を持ち、恐れ知らずや勇猛果敢な人を讃える言葉。その語源となったがセイバー──リチャード1世である。
「獅子か……ふっ」
獅子という言葉を聞き、シドは密かに苦笑する。つくづくセイバーとは繋がりを感じてしまう。
「名乗られたからには、こちらも名乗り返すのが騎士としての礼儀」
シドはエクスカリバーを抜き、その剣先で床を突いて仁王立ちとなる。
「我が名はシドルファス・オルランドゥ! 南天騎士団団長にして雷神の名を授かった騎士である!」
セイバーに応じてシドもまたアヤカに自らの真名を明かす。
「おおっ! やはり位の高い騎士だったか! 雷神……良い通り名だな!」
「ただ団長の位には元が付く。色々とあってその地位は捨てたのでな」
「そういうなら俺も元だ。死んだ今となってはな」
互いに大層な肩書きと通り名を持っているが、全ては過去。その事実をお互いに笑い飛ばす。
「何なのよ……あんたたちは……」
もうあれこれ言っても無駄な段階まで来てしまったアヤカは、自分の抵抗は何だったのかと思い、疲れたようなため息を吐いた。
× ×
「最初に言った筈だよ?」
森の中で良く通るエルキドゥの涼やかな声。何処までも響いていきそうな声と眼差しは足元に向けられている。
「性能が違う、って」
エルキドゥの足元に転がるのはバラバラにされたカリュブディス。胴体から手足だけでなく頭部も離れており、五体が完全に分解されている。
一方でエルキドゥにはダメージは見当たらない。それも当然のこと。カリュブディスはエルキドゥに一撃でやられてしまったからだ。
カリュブディスに掛ける声は優し気だが、戦闘となればその雰囲気とは真逆で情を挟まず、容赦もしない。
呆気無くカリュブディスをせめて埋葬でもしてあげようと考えていた時、エルキドゥは小さく声を上げる。
「うん?」
バラバラになったカリュブディスの体が震え始めたかと思えば、切断された箇所が次々と接着していき、瞬く間に元の状態へ戻る。
「へぇ……思ったよりも丈夫なんだね」
カリュブディスの再生能力を目の当たりにしてのエルキドゥの感想は、子供の意外な特技でも見せられたかのような「思ったよりは凄い」程度のもの。この時点でもカリュブディスのことをそこまで脅威として見ていない。
復帰したカリュブディスは咆哮しながらエルキドゥ目掛けてザルツドラを投擲。大木、巨岩すらもバターのように切断出来る速度と切れ味でエルキドゥを両断しようとする。
エルキドゥが微笑むと地面が蠢き、そこから剣、槍、斧が生み出される。エルキドゥは指一本動かすことはせず、エルキドゥを守る為に地面から生えた数々の武具が交差し、盾となってザルツドラを弾いた。
これがカリュブディスがバラバラになった理由。エルキドゥはこれといった動作もなく地面から武具を生成出来る。しかも、粗製乱造ではなくどれも一級品以上の性能を持つものばかり。カリュブディスの戦いが大雑把且つ単純であった為に容易く返り討ちにされた。
遠距離攻撃に切り替えて同じ失敗を繰り返さないようにしたが、あっさりと無手になってしまったカリュブディス。しかし、すぐさまその両手に弓矢を構える。警察署内で『二十八の怪物』の一人から喰らい奪った宝具である。
鉄の板すらも貫通することが可能な矢が弓から射られる。射られた矢は武具の盾の隙間を上手く通り、エルキドゥ本体へ飛んで行く。
矢が来ているのが見えている筈なのにエルキドゥは微笑んだまま避けようとはしない。
エルキドゥの美麗な顔に矢が突き刺さる──ことはなく、エルキドゥが翳した掌の指と指の間に挟まれて静止していた。
力を入れる動作もなく矢に罅が生じ、粉々に砕ける。
「もしかして、君は……」
カリュブディスに何かを感じ、生成した武具を射出する。カリュブディスはこれもまた『二十八の怪物』から奪った大盾で防御する。一瞬耐えた大盾だが、すぐに亀裂が入る。
大盾が壊れ、このまま貫かれるかと思われたが大盾の後ろには腹の大口が待ち構えていた。
武具が次々とカリュブディスの腹の口に飛び込んでいく。飛び込んだ武具は背中から抜けていかず、カリュブディスの腹の中に収まった。
「大きな口だね。しかも、好き嫌いが無いみたいだ」
カリュブディスの口を見てもエルキドゥは平然としていた。それすらも驚きの範疇にはない。
カリュブディスは再び腹の口を開ける。開花のように広がった口から放たれるのは先程呑み込んだ武具の数々。
吐いたものをそのまま吐き出しているのではない。吐かれた武具の中には同じ形をしたものが幾つも混じっている。喰らい、取り込むことで己の力に変えたのだ。
「どうやら僕と君は少し相性が悪いみたいだ」
大地から飛び出したエルキドゥの武具がカリュブディスの武具と衝突し、相殺される。威力も性能も同質の証だった。
エルキドゥが武具を生成するのは、カリュブディスからすれば餌を与えてくれるようなもの。エルキドゥが攻撃をすればするほどにカリュブディスの力は増していく。
「君はいずれ脅威になるだろうね。でも……」
不意にエルキドゥは攻撃を止めた。カリュブディスはここぞとばかりに悲鳴のような叫び声を上げると、腹の口から武具を吐き出し、ダメ押しと言わんばかりに偽アサシンからコピーした『狂想閃影』を発動させ、刀剣の鋭さを得た髪を伸ばし、四方からエルキドゥに切り掛かる。
カリュブディスの全力がエルキドゥを圧し潰す──
「それはずっと先のことだろうね」
カリュブディスの隣にエルキドゥが立っていた。ランサーのクラスに相応しい俊敏性。しかし、そうだとしてもエルキドゥの動きは速過ぎた。
カリュブディスがエルキドゥの方に体を向ける僅かな時間でカリュブディスの全身に斬撃による傷が刻まれる。
カリュブディスがエルキドゥと向かい合った時には行動を可能とするダメージの許容範囲を超えてしまい、カリュブディスは膝をついてしまう。
そこへ土から生えた武具が追い打ちし、あらゆる武器がカリュブディスの全身を貫き、刺されて浮き上がったカリュブディスは、無数の武具によって磔刑のような無惨な姿に変わり果てる。
エルキドゥは刃となっていた指先を戻す。肉体の変化によるものだが、大地から生み出した数々の武具よりも濃密な神秘と魔力を発していた。
「もっと経験を積んでいたら、君は僕の敵に成りえたかもしれないね。残念だけど
カリュブディスの潜在能力を褒めながらも自分には到底敵わないという現実を突き付ける。事実、エルキドゥは実力の半分も出していない。
全てはエルキドゥとの実力差が分からずに挑んでしまったカリュブディスの愚かしさ──知性や理性の低さが起こした敗北であった。
カリュブディスは数え切れない程の武具に貫かれた状態で必死に手を伸ばす。しかし、刺された体ではエルキドゥに伸ばした手は届かない。
そう伸ばした手は。
カリュブディスの腕の牙が螺旋状に展開され、エルキドゥを囲む。
嫌な予感を覚え、エルキドゥは素早く後退する。螺旋状の牙の範囲から確かに逃れたエルキドゥであったが、牙が閉じた瞬間エルキドゥは再びカリュブディスの前に立っていた。
「……驚いた。まさか、空間まで食べられるなんて」
この戦いで初めてエルキドゥが微笑み以外の表情となる。
だが、カリュブディスの反撃はそれが限界だった。引き寄せたまではいいが、そこから攻撃する力は最早残されていない。
だが──
「……?」
風に揺れるエルキドゥの長い髪。そこでエルキドゥは気付いた。髪の一部が不自然に切られていることに。
カリュブディスの捕食を完全に回避することは出来なかった。切られたエルキドゥの髪の一部は──
「覚え……て……いろ……」
エルキドゥ以外の声。声を発しているのは瀕死のカリュブディス。獣のように叫ぶか咆哮するしかしなかった怪物が人語を話している。エルキドゥの一部を取り込んだカリュブディスは持ち合わせていなかったものを手にした。
「次は……僕が……
屈辱に塗れた言葉を残し、カリュブディスの肉体は爆散する。
砕け散ったカリュブディスを見てエルキドゥは暫しの間言葉を失っていた。自分の力をコピーすることよりも、空間を捕食する能力よりも、カリュブディスが最期に見せた知性と理性の片鱗がエルキドゥを最も驚かせた。
獣が喋ったことに驚いたのではない。獣が知性と理性を手に入れた様が自分と重なってしまったからだ。
「……何だか複雑な気分だね」
神の兵器として創り出されたエルキドゥは、聖娼と交わることで力の大半と引き換えに知性と理性を得た。今度は自分がそれを与える側になったことに表現し難い気持ちになる。運命の皮肉のようなものを感じてしまう。
クゥーンという声が聞こえる。エルキドゥに身を隠すよう言われていた銀狼が傍に来ていたエルキドゥの手に顔を擦り付けていた。呆然としているエルキドゥを心配していることが動作で伝わる。
「大丈夫だよ、マスター。心配をかけてごめんね」
エルキドゥは銀狼の目線に合わせてしゃがみ、銀狼の顔を撫でる。
銀狼の顔が横に向けられる。エルキドゥも同じ方を向く。カリュブディスが爆散した跡に一冊の本が落ちていることに気付く。
「これは……」
エルキドゥがその本を拾う。手に収まり切らない程の厚みがあり、白い金属質の表紙には『CHARYBDIS』と書かれている。
「これが本体なのかい……? カリュブディス……それが君の名前なんだね」
その名を覚えておこうと思った時、真正面から伸びてきた手がカリュブディスの本を取り上げる。
「拾ってくれたことを感謝しますよ。これは
「その声……聞き覚えがあるね」
カリュブディスの主である偽ライダーが潜伏を止め、
【CLASS】セイバー
【真名】シドルファス・オルランドゥ
【属性】秩序・善
【ステータス】筋力B 耐久B 敏捷B+ 魔力C 幸運C 宝具EX
【クラススキル】
対魔力B(A)
雷神A++
剣聖EX