Fate CROSS strange FAKE   作:N40

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魔人召喚

 その男は銀狼の鼻も、エルキドゥの『気配感知』をすり抜けていきなり目の前に現れた。

 

「初めましてランサーのエルキドゥ。私がライダーです。とは言っても呼び水の為に呼び出されて偽りのライダーですが」

 

 薄ら笑いを浮かべ、慇懃無礼な態度で挨拶してくる。

 

「──やあ。君に会ったら一言礼を言おうと思っていたんだ」

「礼? はて? 何についてですか?」

「君のお陰で砂漠に住む生き物たちの住処を壊さずに済んだ。心から礼を言うよ」

「貴方も変わり者ですね……」

 

 手を伸ばせば相手に触れられる距離で言葉を交わす両者。互いに手を出すことはしない。エルキドゥは偽ライダーから戦意は感じず、偽ライダーもまたこちらから手を出さなければエルキドゥも手を出してこないことが分かっているからだ。

 

「カリュブディスもだらしない──と言いたいところですが、流石に貴方相手では生まれたばかりのカリュブディスには荷が重い」

「今まで君の気配は感じなかった。姿を現したのは彼の為かい?」

 

 エルキドゥの視線は偽ライダーが持つカリュブディスの本に向けられる。

 

「こちらの世界に合わせて言うなら、カリュブディスは私の宝具。そう易々と失う訳にはいきません。多少リスクはあったとしても回収せねば」

 

 そう言いながら偽ライダーは空を見上げ、ふっと笑う。

 

「……そうか。君も感じているんだね」

()()()()()のことですか? 如何様な存在であろうと私は恐れるつもりはありません」

「凄いね」

 

 皮肉ではなく心から讃える。認識した上で警戒していないその態度に。慢心しているように見えるが、どうにか出来るという確信が偽ライダーから感じられた。

 

「それでどうしますか?」

「どうするって?」

「カリュブディスは回収しました。私は戦うつもりはありません。この聖杯戦争での私の目的は、マスターの為に物語を聞かせることですから」

 

 積極的に戦う意思はないことを告げる。

 

「……ただし、貴方が私を黙って見送るのであればの話ですが」

 

 大森林内の空気が重く、冷たくなる。身を潜めていた生物たちが一斉に逃げ出す。エルキドゥの傍にいる銀狼の尾も下がり、凍えるようにエルキドゥに身を寄せた。

 

「あまり他の生き物たちを怯えさせないでくれ。彼らの恐怖が僕には分かるんだ。可哀想じゃないか」

 

 エルキドゥは微笑で応えるが、その眼光は鋭い。

 

「仮に戦うのであれば私も容赦はしません。ですが、私と貴方が戦うにはこの森は狭過ぎる。ましてや、マスターを庇って戦うとなれば貴方も苦でしょう」

 

 広大な大森林を狭過ぎると評した偽ライダー。事実、初戦のギルガメッシュとエルキドゥの戦いも偽ライダーが介入しなければ地形が変わっており、天変地異の跡になっていた。力がある者たちの戦いはそういうものである。

 

「無駄な争いを僕は好まないよ。そもそも僕がこの戦争で全力を尽くす相手は決まっているんだ。そんなことをしたら彼にすねられてしまう」

「英雄の王、ギルガメッシュのことですか……彼も中々に厄介な存在ですね」

 

 厄介というだけで負けるつもりはない、と言外に匂わせる。偽ライダーにはギルガメッシュへの勝算があるらしい。

 

「私としては貴方と彼に共倒れして欲しいところです。可能ならば静かに」

 

 ギルガメッシュとの初戦でのことを思い出し、また偽ライダーがストレートに相打ちになって欲しいと言ってきたのでエルキドゥは苦笑する。

 

「……それは約束出来かねるかな。僕たちの戦いはどうしても周りに被害や迷惑を掛けるんだ。最初の戦いの時みたいに静かな幕引きをされる方が奇跡のようなものさ」

 

 はぁ、と偽ライダーは嫌味を込めてわざとらしいため息を吐く。そして、カリュブディスの本を虚空へ仕舞う。

 

「まあ、これ以上何かを言っても無駄でしょうね。貴方はとても強情そうだ。ですが、忠告はしました」

 

 偽ライダーの薄ら笑いが消え、暗い光を宿した双眸がエルキドゥに突き刺さる。

 

「二度目の忠告はありません」

 

 そう言い、偽ライダーは一冊の本を取り出す。カリュブディスの本と良く似た黒い本。カリュブディスの本に描かれていた紋章もある。

 その本を見た瞬間エルキドゥから笑みが消え、最大の警戒を行う。

 偽ライダーが取り出したもの、それは世界。掌に収まるまで編纂された真理。本の形をした全知全能。

 どのような原理でそれを成したのかエルキドゥにも分析、解析出来ない。しかし、恐るべき脅威なのは間違いない。

 間違いなく偽ライダーの宝具。それをわざわざ見せたのは牽制であり脅し。エルキドゥではなく観測者にも向けられており、『自分に手を出すならば相応の覚悟をしろ』と告げている。

 笑みを消したエルキドゥとは対称に偽ライダーは考えを読ませない上っ面の笑みを彼に向ける。

 

「──ですが、きっと貴方の相手は私ではないでしょうね」

 

 警告は十分だとし黒い本を消す。

 

「カリュブディスは再び貴方の前に現れます。()()()()()()()()()()()は今よりも貴方を楽しませてくれるでしょう」

 

 カリュブディスが復活することを宣言し、偽ライダーの姿は消える。無駄だと分かっているが一応『気配感知』をしてみたが、偽ライダーの気配が引っ掛かることはなかった。

 お互い戦いに消極的だったので戦闘は避けられた。しかし、もし戦いが始まってしまったら偽ライダーの言うようにマスターを守って戦うのは厳しかったかもしれない。

 銀狼が心細そうに鳴く。エルキドゥはしゃがみ、銀狼を抱き締めた。

 

「大丈夫」

 

 エルキドゥは安心させるように銀狼の柔らかな獣毛を撫でる。

 銀狼と触れ合いながら、エルキドゥは偽ライダーの台詞を思い返していた。

 

(再び現れるか……)

 

 一度目は圧倒したカリュブディス。再戦を約束されたが、どんな成長をしているのか少し楽しみに思ってしまった。

 

「ギルが知ったら叱られるかな?」

 

 親友以外との戦いを心待ちにしていることを知ってしまった時の気難しい親友の反応を想像し、エルキドゥは苦笑してしまった。

 ようやく表に出て来た偽ライダー。しかし、現在のところ彼の存在に気付いたのはごく一部。偽ライダー自身も然程問題は無いと思い、カリュブディスの回収に自ら出た。

 しかし、後に彼はこの時の行動を後悔することとなる。

 

 

 × ×

 

 

 複数の英霊たちによる渓谷での戦闘後、フランチェスカは自分の工房にあるベッドの上で腹どころか腸が捻じ切れそうなぐらい笑い転げていた。それこそ笑い過ぎて涙が出て来る程の心の底からの爆笑。

 最近大笑いしてばっかだと思いながらもこみ上げてくるものを止めることは出来ない。直近ではテレビカメラの前で堂々と演説したセイバーを見た時もこれぐらい笑ってしまった。

 

「きゃはははははっ! お腹痛い痛い! 大丈夫!? 捻じれてない!? 新品なのに取り換えることになったらどうしよう!?」

 

 黒幕の一人だというのに足をバタバタとさせ、子供のように笑い続ける。一見すれば無邪気そのもの。だが、彼女自身が発する邪悪さを打ち消すにはその無邪気さでは足りない。

 

「ちょっと笑い過ぎじゃない?」

 

 フランチェスカの笑い声で満たされる工房に挿し込まれる少し不機嫌な少年の声。一人だけしかいなかった工房内にいつの間にかもう一人いた。

 艶やかで少しの光でも光沢を放つ綺麗な髪を丁寧に切り揃えられており、美少年という言葉を形にした顔立ち。年はフランチェスカと変わらないぐらいであり、暗さと底知れない狂気を宿した目を半眼にして笑い死にしそうなフランチェスカを見ている。

 

「あ、帰って来たんだ。おつかれさまー」

「おつかれさまー、じゃないよ。何処かの誰かさんに言われた通り役目を果たそうとしたのに、とんだ恥をかいちゃったよ」

「ギョっとさせる筈がギョっとさせられちゃったもんね? きゃははははは! ナイスリアクションだったよ!」

 

 恥の部分に爪を突き立てられ、抉られるが少年はやれやれという感じで肩を竦めるだけ。

 

「マスターなのにもう少し労いの言葉とかないの? 過程はどうあれ半神様たちの揉め事を解決したっていうのにさ」

「えー? だって君にもギャフン! っていう目に遭って欲しいんだもん! じゃないと不公平じゃない? ()?」

「何で僕まで君の辿って来た道を歩かないといけないのさ? 自業自得を僕にまで適用させないでよ、()?」

 

 相手を私、僕と呼び合う不思議な関係。だが、それにはちゃんとした理由がある。

 この少年こそフランチェスカが喚び出した真のキャスター。真名はフランソワ・プレラーティ。

 青髭として有名なジル・ド・レェの暴虐のパートナーにして錬金術師。

 フランチェスカはそんな彼を聖杯戦争に召喚した。触媒としたのは自分自身。自分を使って過去の自分を英霊として喚んだ。つまり、二人は同一人物といっても過言ではない。

 フランソワが処刑された時点でフランソワという人物は二つに分かれた。英霊として座に記憶されたフランソワと、そこから何らかの方法で蘇り、人の世を生き続けるフランソワ。その過程で何度も体を変え、()()()()()()()()()()()()()となった。

 

「王様たちだけなら煙に巻けたかもしれないけど、あのアサシンのせいで出鼻を挫かれちゃったよ。ジョークや冗談も通じなさそうだし……っていうか誰のサーヴァントなの?」

「うーん。確証はないけどファルデウス君のサーヴァントかな?」

 

 フランチェスカは首を傾げ、わざとらしくあざとい悩むようなジェスチャーをする。

 

「ほら。アサシンのあの仏頂面! ファルデウス君にそっくり! もしかして、仏頂面過ぎて同じような顔のサーヴァントを喚んじゃったとか?」

「僕、そのファルデウスっていう人、知らないんだけど……?」

 

 フランチェスカのつまらない冗談に、フランソワは真面目に答えてくれ、と言わんばかりの目を向ける。

 

「だって本当に知らないんだもーん! ファルデウス君が私にいちいち『英霊を召喚しました』、『クラスはアサシンです』って言う義務なんてないし、そもそも隙や理由があれば私のことなんて排除したいって思っているぐらいだし!」

「相変わらず僕には人望が無いようで安心したよ」

 

 不貞腐れているフランソワをフランチェスカが揶揄う。一見すると距離間が近いマスターとサーヴァント。しかし、彼女たちの関係は根本的に違う。彼女と彼は元は同一人物。相手が何を考えているのか凡そ把握している。何を言えばどんな反応が返ってくるのか分かっているのだ。

 

「それにしても、そのアサシンのことがそんなに苦手なんだったら、もう関わらない方がいい?」

「そうだね。出来るならもう関わりたくない……」

 

 フランソワが顔を俯かせ、両者の間に暫しの沈黙が訪れる。だが、それも息の合ったタイミングで噴き出した二人によってあっという間に消し飛んだ。

 

『噓だけどね!』

 

 完全に重なり合う声。今までの全てが演技。つまりこれは一人遊び且つ最初から茶番だった。フランチェスカのノリに、或いはフランソワのフリに合わせているだけのおふざけ。

 

「あー、君が結構本気でこの聖杯戦争をやっているのは知っているけど、僕の方も結構本気になってきちゃった。是非ともあの仏頂面のアサシンに最高の悦楽と絶望の悪夢を見せたい。あの顔をグズグズに解して溶かしてやりたい!」

「いいねいいね! モチベーションアップは大事だよ! 大丈夫大丈夫!  萎えないようにファルデウス君にはアサシンのこと聞かないであげる! ネタバレは厳禁!」

「その心遣い、マスターとして良いんだが悪いんだか」

 

 互いに顔を見合わせ、鏡合わせのように笑い合う。彼女と彼の中では情熱のような狂気が渦巻き続ける。

 

 

 × ×

 

 

 時間は偽りの聖杯戦争が幕を閉じ、真なる聖杯戦争の幕が上がった時にまで遡る。

 スノーフィールド内にある火力発電所。その地下で一人の魔術師が今まさに息を引き取ろうとしていた。

 黒魔術専門の魔術師ハルリはこの時の為に全てを万全に整えていた。彼女もまたフランチェスカが用意したマスターの一人であり、この火力発電所地下で真なるバーサーカーを召喚することになっていた。

 召喚するに辺り、彼女は自らの血を媒体の贄に使用していた。失血死寸前まで己の血を使い、それでもまだ足りなく予め抜いておいた血液パックや増血の魔術まで使用して描き切った魔法陣。

 そして、彼女は召喚に成功した──と同時に体中の魔力を根こそぎ吸い取られ、魔力が枯れ果て、それでもまだ足りずに生命まで啜り取られる。

 自分が喚び出した真バーサーカーがどのような姿が確認する前に視界は黒く染まり、呆気無く命の危機に陥る。

 

(凄いの……喚んじゃったのかな……?)

 

 予定ではエジソンを召喚する筈だったのだが、どうにも雰囲気が違う。魔力の枯渇とは違う震えが、死に掛けのハルリを蝕む。

 不思議な感覚だとハルリは思う。放っておいても死ぬのに、体が、魂が死を恐れている。もしかしたら心の奥底では生きたいという願望があるのかもしれない。

 しかし、それでもハルリには自らの命よりも優先すべきことがある。

 ハルリの目的は復讐。それも個人への復讐ではない。自分の父を異端を断じて殺し、ハルリの一族から全てを奪っていった『魔術社会』そのもの。魔術に関わるものなら区別なく、時計塔だろうとアトラス院だろうと有名無名関係無く魔術に関わる全ての者を滅ぼしたかった。

 だが、それも志半ばで終わりを迎えようとする。だったら中途半端なことはしない。自分の全てを捧げ、真バーサーカーに託す。

 

「私を贄にしていい……だから……貴方の存在が続く限り……全てを壊して……貴方の全てを世界に見せつけて……」

 

 ハルリは願う。この世界の理の破壊を。

 

「へぇ。貴女、中々変わった足搔きかたをするのね」

 

 若い女性の声。最初は真バーサーカーが答えたのかと思った。

 今にも死にそうなハルリの顔を覗き込む女性。その顔のあまりの美しさに一瞬死を忘れた。

 ルビーのように赤い瞳。雪のような白い肌。人形と錯覚してしまう程に整った容姿。そして、言葉に出来ない魅せる力が光となってハルリの目を通じて脳髄を揺さぶる。

 そこで異変に気付いた。今にも死にそうだった筈なのに苦しみを感じない。視界もクリアになり、四肢に力が入る。白い女性に見られていただけなのに。

 何が起こったのか分からないままハルリは立ち上がった。

 

「貴方も思い切ったことをするのね……面白いわ」

 

 白い女性は既にハルリから離れており、ハルリが召喚した真バーサーカーに興味を移していた。ハルリはそこで初めて自分が喚び出したサーヴァントを見た。

 見た目の年はハルリとそう離れていない。少年と青年の狭間に立つ年齢に見えた。耽美な中性的な顔立ちだが上半身には何一つ纏っておらず、下は膝までの丈のハーフズボンとスポーツシューズという現代風の格好。

 しかし、そんな格好など特に気にならない。それよりも目を惹くのは少年の全身を記された刺青のような黒い紋様。顔から胸、足元まであり、薄緑の淡い光がその紋様を縁取る。

 薄暗い地下で輝く紋様と少年の双眸。その目は金色の光を宿しているが、意思を感じられず人形のようにハルリには思えた。

 

「ほら、何か命令してあげなさい。貴女、マスターでしょ?」

「一体何が? 貴女は? アインツベルン……?」

 

 ハルリの混乱は続いており、疑問がそのまま滑り出る。

 

「アインツベルン? ああ、この『器』のこと? 運が良かったわ。こんな入りやすい『器』があるなんて」

 

 他人事のように語る白い女性。

 

「あと安心しなさい。こう見えても人間は好きなのよ?」

 

 遥か高みから与えられた好意。ハルリはそれを黙って受け取るしか選択肢はなかった。

 

「そんなことよりもマスターらしくこの子に指示を出したらどう? この子、()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ハルリの脳内に真バーサーカーのステータスが浮かび上がる。英霊として高水準のステータスだが、その中でハルリの目が点になったのはあるスキル。

 狂化EX。狂化は理性や思考能力を失うことでステータスを上げるバーサーカーの固有スキルなのだが、この真バーサーカーは意思と思考能力を完全に放棄しており、暴走しない代わりにプレイヤー(マスター)に全てを委ねている状態であった。真バーサーカーを生かすも殺すもハルリの意思次第になる。

 

「貴女の願いに応えて力だけを貸してくれた感じ? それとも()()()()()?」

 

 白い女性の目がハルリに向けられる。慌てて「知らない」と弁明しようとするが、そこで白い女性の視線が微妙にずれていることに気付き、その視線を追う。

 

「っ!?」

 

 ハルリは言葉にならない恐怖を覚えた。ハルリの傍にいつの間にか立っている金髪の少年。整い過ぎて人間味を感じない十にも満たない年のスーツ姿の少年。

 片方の手を上着のポケットに入れ、もう片方の手はハルリの手を握っている。ハルリはその事実に全く気付くことが出来なかった。

 死の恐怖から解放されたハルリは別種の恐怖に囚われる。恐れのあまり、得体の知れない金髪の少年の手を振り解くことも出来ずにただ震える。

 白い女性は金髪の少年を見ながらクスクスと楽しそうに笑う。

 

「私、これから人類を支配しようと思っているの。遊びじゃなくてちゃんとね。貴方も手伝う?」

 

 金髪の少年は何も答えず、白い女性をジッと見つめた。それが会話の代わりと言わんばかりに。

 それが伝わったのか白い女性は両手を広げ、金髪の少年を歓迎する。

 

「ようこそ。素敵なぐらい傲慢な異邦者(ゲスト)さん?」

 

 




クロスさせるサーヴァントはこれで最後となります
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