Fate CROSS strange FAKE 作:N40
「あっ」
モーテルから出て少し移動した後、急にフラットは足を止めて周りをキョロキョロと見回す。
「どうした?」
隣にいる偽バーサーカーがフラットの不審な行動を見てその訳を訊く。
「今ちょっと離れているっぽいですね……」
「離れている? 何が?」
「いや、俺も何かまでは分かりませんが、凄く危ない存在がです!」
フラットの説明は抽象的であり、具体性に欠ける。しかし、偽バーサーカーはフラットの感覚が尋常ではないこと、人の作った常識の枠に収まり切れないことを知っているのでそれについては疑わない。
「これはチャンスかもしれないですよ! 今のうちに怪しいと思っていた病院辺りに行きましょう! 急いで!」
「急いでか……了解」
偽バーサーカーはフラットをひょいっと持ち上げ、荷物のように脇に抱える。
「へ?」
フラットを抱えたまま人目に付かないように路地裏の方へ入っていく。
「え? え? バーサーカーさん?」
「ここでいいか」
偽バーサーカーは周りに誰もいないことを確認すると、建物の壁面前に立つ。
「あの──」
「喋ると舌噛むぞ」
フラットは上から掛かるGに開けていた口を閉じさせられる。偽バーサーカーはフラットを抱えたまま垂直に跳躍し数十メートルまで上昇する。だが、それでも少しだけ高さは足りなかった。
「よっ」
すると、偽バーサーカーは落下する前に空中で何かを踏んだ。見えない何かを足場にして垂直の壁をもう一度跳び上がり、建物の屋上に到達する。
そこからはまるでジェットコースターのようであった。建物の屋上を駆け抜け、端まで行ったら何十メートルの距離があっても難無く飛び移り、それを十数回繰り返したらあっという間に目的地の病院近くまで来ていた。
「着いたぞー……大丈夫か?」
「大丈夫です……ちょっと絶叫マシン乗りっぱなしをした気分ですけど……」
偽バーサーカーはなるべく丁寧に扱っていたが、それでも抱えられた状態での高速移動と連続跳躍はフラットにはきつかったらしく乗り物酔いしたかのように顔色が蒼い。
フラットはふらふらしながらスノーフィールド中央病院を眺める。人の出入りがあり、医者や看護師が働いている姿が確認出来た。表向きは何の問題も見当たらない。
「なーんか変な感じですね……」
スノーフィールド中央病院を見ながらフラットは首を傾げる。分析能力に長けた彼でも違和感を覚えるだけでその違和感の具体的な正体が掴めない。そもそも、違和感を覚えただけでもフラットの感覚は尋常ではない。
「いまいち掴み切れないな……ちょっと中に入ってみます」
「それ、やばくない?」
相手の懐に飛び込むようなもの。フラットの大胆な行動に偽バーサーカーは賛成しなかった。
「危険は百も承知です。でも、ここまで来たんなら徹底的にやりましょう! 何か一つでも情報を手に入れないと!」
マスターであるフラットがやる気なら彼のサーヴァントである偽バーサーカーは反対することは出来ない。
「──やるか」
危険を覚悟でスノーフィールド中央病院内に入ることを決断。
肝心の潜入方法だが──
「ドクター! ドクター! 誰か助けてください! ブラザーが! ブラザーがぁぁぁ!」
偽バーサーカーはフラットを持ち上げた状態で病院に真正面から突入。混乱しているように喚いて皆の注目を集める。
「ど、どうしました!?」
「ブラザーが急に倒れて!」
慌てて看護師が近寄ってくる。看護師はぐったりとしているフラットを見る。確かに顔色が青白い。偽バーサーカーのせいで酔って悪くなった顔色が思いもよらない形で役に立った。
「死ぬな! 死ぬなブラザー!」
「お、落ち着いてください!」
物静かだった偽バーサーカーの迫真の演技。こういう時だけは年相応の少年のように見えるしやや過剰な演技だがそこまで違和感がない。もしかしたら、偽バーサーカーの素はこれに近いのかもしれない、と偽バーサーカーの演技を間近で聞きながらフラットは思う。
パニックになってフラットを激しく揺さぶる──演技をするが、偽バーサーカーの演技が過剰気味であった為に演技をしている筈のフラットも本気で気持ち悪くなってくる。
「──うっ」
呻き、フラットが頬を膨らませるのを見て何事かと見物していた者たちが一斉に退く。
「揺さぶってはダメですって!」
見かねた看護師が偽バーサーカーをフラットから離し、容態を確認する。
その瞬間、偽バーサーカーはまるで全員の意識の死角入ったかのようにさり気ない動作でフラットから離れ、衆目の中で霊体化をして姿を隠す。大胆過ぎる行動だが、全員偽バーサーカーの行動に気付くことはなかった。
偽バーサーカーは霊体化のまま病院内部に潜入する。マスターから離れるのは危険な行動であり、霊体化中は敵の魔力攻撃に対して無防備となる。共にリスクを背負うが両者は納得していた。いざとなったら令呪を使用するつもりである。
(どうですか? バーサーカーさん)
(取り敢えず侵入は成功。今のところは特に問題なし)
フラットの念話が偽バーサーカーの頭の中に響く。偽バーサーカーは忙しなく働く看護師たちの合間を縫って病院内部へ進んでいく。
(ご苦労様)
看護師たちを労いながら偽バーサーカーは奥へ向かう。当てがある訳ではないが、フラットの感覚が病院奥が怪しいというのでそれを信じて動く。
(そういやちゃんと見えているか?)
感覚共有でフラットは偽バーサーカーの目を通してその光景を見ている。
(はい、見え──うぷ)
(ごめん。やり過ぎた)
周りを信じさせる為に少々激しくし過ぎた。頭の中に響くえずく音は中々来るものがある。
(気にしないで下さい。隙を見てこっちからも調べてみます)
空元気な感じもするが、フラットのことを信じて偽バーサーカーは潜入を続ける。
「お疲れ様です」
「あら? もうそんな時間?」
仕事を終わった女性看護師と女医が話しているのを見かけた。
「はい。何か物騒なのでなるべく早く帰ろうかと」
「それが良いわ。私の妹も警察署に勤めているんだけど、今朝連絡があるまで気が気じゃなかったわ」
「まぁ」
警察署の話を聞き、警察署内で武装強盗による襲撃があったニュースを思い出す。十中八九聖杯戦争絡みだが、当事者ではないが関係者として他人の不幸なニュースが聞くことにならなくて偽バーサーカーは密かに安堵する。
「そういえば椿ちゃんも最近体調も安定してきたの。意識不明のままだけど、何だが笑っているような顔に見えるのよね」
話は変わり、子供と思われる患者の話になる。日本人の名前だったので少し気にはなったが調査が最優先なので立ち聞きはここまでにしようとした。
「いい夢を見ているんですね」
「この状態が続けばそのうち意識が戻るかもしれない」
「……でも、意識が戻っても大丈夫でしょうか? あまり言いたくはありませんが、まともそうな両親には見えませんでしたし……」
「そうね……椿ちゃんの手に
偽バーサーカーの足が止まった。聞き捨てならない言葉が女医の話の中に混じっていたからだ。
女医たちは立ち話を止め、話の続きを歩きながらしてここから離れて行く。
(──聞いたか?)
(はい……どうやら
この病院内にサーヴァントとマスターがいる。断片的な情報だと椿という名であり、恐らくは少女。そして、意識不明の状態になっている。
(意識不明でもサーヴァントのマスターになれるのか?)
(分かりません。……もしかしたら、契約した英霊がかなり特殊なタイプなのかも)
重要な情報を得た。後は椿という人物の病室を見つけられれば完璧である。
(ちょっと俺の方で調べてみます)
偽バーサーカーとの視界を共有したままフラットは魔術で病院内部を調べようとする。
幸い今の彼はベッドの上に寝かされた状態であり、看護師も医者を呼びに行ったので離れている。調べるチャンスであった。
「
その言葉を合図に病院内に施されているであろう術式に介入しようとする。
「……あれ?」
魔術を発動させ、少し経った後にフラットは困ったような声を洩らす。
(どうした?)
(魔術っぽい気配があるのに術式とかが見当たらないんです。おかしいなぁ、あるっぽい感じはするのに……)
フラットの魔術は現代風に言えばハッキングである。既に施された魔術に自分の術式を浸透させ、リアルタイムで書き換えるという通常の魔術師ならば啞然とする行為。だが、介入すべき魔術が病院内に見当たらない。フラットの感覚では間違いなく『ある』と感じているのに。
(探っても探って微妙にポイントとが違う……何か気持ち悪いですね)
(例えるなら痒いのに痒いところが分からなくて、ずれた所を掻いている感じか?)
(そんな感じです!)
(あってんのかよ)
適当な例え話が的を射っていたことに偽バーサーカーが呆れた声を出す。
(もう少し探れば……)
透明だが分厚い膜で覆われているかのように存在だけは認識出来る異質な力。それを特異な魔力として探り続けるフラット。
すると、段々とその力が近くに感じるようになってきた。もう少し深く探れば──と思った時、フラットの背筋に悪寒が走る。
分厚い膜の向こうから近付いてくる力。深海から浮上するように徐々に輪郭が見え始めてくる。
そこで分かった。こちらが向こうに迫っているのではない。力の方がこちらに迫ってきていることに。
(あっ)
フラットが小さく声を上げ、次の瞬間ベッドから跳ねるように起き上がる。
(ヤバいヤバいヤバい! すみませんバーサーカーさん!
フラットは急いでこの場から離れる。一刻も早く離脱しなければ命が危うい。偽バーサーカーに呼び掛け、すぐに脱出するよう言う。場合によって出し惜しみなく令呪を使う覚悟があった。
(──ああ、そうみたいだ)
念話で偽バーサーカーの静かな声が聞こえてきた。フラットが焦っているからこそ冷静に努めている──訳ではないのがフラットに伝わった。
(いるんですね! バーサーカーさん!)
(いるな、目の前に)
霊体化状態の偽バーサーカーの前に静かに佇む黒いローブの男。ローブにより顔が隠されており、口の辺りしか見えない。
そのローブの男は気配も予兆も無く現れ、霊体化している偽バーサーカーを捉えていた。
偽バーサーカーは勘だが目の前の人物が英霊には見えなかった。神秘的且つ凄まじい力を秘めているが、強い意志は感じられない。人形、というのが第一印象であった。
(どうする? ここでやるか?)
それは自問自答であり、同時にフラットへの問い。一対一ならば倒せる──周りの被害を考えなければ。偽バーサーカーが本気で戦えば最低でもこの病院を更地変えられる。出来ることならそのような事態は避けたいのが偽バーサーカーの本音。だが、やれというのなら偽バーサーカーはやる。
しかし、フラットからの返事が中々返ってこない。
(……どうした?)
偽バーサーカーは嫌な予感を感じながらもう一度フラットに呼び掛ける。
(すみません……バーサーカーさん)
ようやく返事があったが、来たのは謝罪の言葉。偽バーサーカーの嫌な予感が当たってしまった。
(……
(はい……)
フラットの声が硬い。フラットの緊張が伝わってくる。
偽バーサーカーが黒いローブの男と対峙している同時刻、フラットはさっきまで寝ていたベッドの前で固まっていた。
眼球だけを動かし、真横を見る。そこには青を基調としたストラを首に掛けた別の黒いローブの男がおり、静かにフラットの動向を見ている。
(バーサーカーさん、不味いです……下手なことをしたら多分俺の首が飛びます)
(なら、下手なことはせずじっとしていてくれ。お前の首が飛んだら俺も終わる)
偽バーサーカーは周囲に人が居ないこと確認してから霊体化を解く。この状態でなければ戦いにもならない。
(さっさと攻撃せずにこっちを窺っている……? 積極的に戦うつもりはないのか?)
黒いローブの男はあくまで偽バーサーカーを見ているだけ。攻撃の体勢にも入っていない。
偽バーサーカーはパーカーのポケットに入れていた両手をゆっくりと抜く。それに反応して黒いローブの男がピクリと反応した。
偽バーサーカーは引き抜いた手をゆっくりと動かし──
「お邪魔して悪かった」
降参といった感じで両手を挙げた。
「フラット、帰るぞ」
(ええ? ここから大人しく帰らせてくれるんですか?)
「これは警告だ。でなければとっくに俺たちは攻撃されている」
黒いローブの男の敵意も殺意も無い様子から偽バーサーカーはそう結論を出した。若干、直感的な部分もあるが。黒いローブの男たちは周りに人気が無い状態で姿を表した。少なくともこの病院に潜んでいる英霊は被害を出すことを望んでいないと思われる。
偽バーサーカーは黒いローブの男に背を向ける。大胆過ぎる行動であり、攻撃してくれと言わんばかりの大きな隙。しかし、黒いローブの男は何もせず、その場から一歩も動かない。
(合流するぞ)
調査を切り上げ、偽バーサーカーは再び霊体化をして人目につかないようにする。
暫くしてフラットと偽バーサーカーは病院玄関で無事に合流することが出来た。
「正直、終わったかと思いました」
霊体状態の偽バーサーカーに素直な心境を話す。フラットの額からは冷や汗が滲み出ていた。
偽バーサーカーの言う通りに戦闘する意思はないことを示すと、フラットを監視していたストラの男は無言で見続けるだけで攻撃はして来なかった。ただ、相手の視線が完全に途絶えるまで生きた心地はしなかったが。
(向こうの情報は手に入ったが、こっちのことも向こうに知られたな)
「うーん……追って来ますかね?」
(ここで見逃したっていうことは、相当な自信があるんだろう。それこそ全員纏めて相手に出来るぐらいの)
相手をわざと見逃すことに高慢さが感じられるが、それを裏打ちする実力の片鱗もあった。
フラットは何気なく振り返り、目を丸くする。
病院最奥で並び立つ黒いローブの男とストラの男。更に黒いローブに赤と白の腰布を付けた男と金と茶の腰布を巻いた男。計四人がこちらを見ている。
「増えてます……」
(うっわ)
大人しく退いて正解だったと改めて思う。四人を同時に相手するのは偽バーサーカーでも骨が折れる。
視線に悪寒を感じながら病院の外に出た。もう四人の姿はいなくなっている。
「これからどうしましょうか?」
(ここがヤバいのは分かった。でも、放ってはおけないと思っているんだろ?)
今回手に入れた情報で椿という少女がここに巣食う英霊のマスターである可能性が高い。だが、椿は意識不明の状態で眠っているという。どういう経緯で英霊を召喚したのかは不明だが、マスターのコントロールが効いていない英霊を放置しておくのは周りにだけでなく椿自身も危険に晒す。
「となるとあれしかないですね!」
(あれ?)
「通報しましょう!」
× ×
「行っちゃったか……つまんないなぁ」
椿の眠る病室。機械音だけ鳴る部屋で一人眠る少女の傍に立つ白い髪の少年。
「思ったよりも君のサーヴァントは理性的だね、椿ちゃん?」
機械に繋がれて眠り続ける少女に語りかけるが、当然ながら返事は無い。その無反応をクスクスと愉しむ白髪の少年こそ死徒ジェスター・カルトゥーレ。『六連男装』の能力で青年から幼い子供へ姿を変えた彼は、それによりハンザの追撃から逃れていた。
そのままほとぼりが冷めるまで身を潜めようとしていたジェスターであったが、人とは異なる感覚を持つフラットと同様に死徒という特殊な視座を持つ彼もまた病院の異変に気が付いていた。
それを探る為に病院へと潜入したジェスター。本来ならば死徒潜入した時点で偽ライダーは気付くべきだが、ジェスターは見た目だけでなく魂や性質をも変える。無力な幼子となっているジェスターに反応することが出来なかった。
しかし、ジェスターも本丸と言える椿の病室へ近付くことには慎重だった。下手に近付けば偽ライダーに気付かれる恐れがあった。
だからこそ機会を窺っていたが、その機会は思ったよりも早く巡って来た。偽ライダーの不在を感じ取ったジェスターは、即座に椿の病室へ潜り込む、死に掛けの少女を発見し、どう利用するか心を弾ませる今に至る。
「上手く行けば大好きなアサシンのお姉ちゃんを泣かせられるかな……?」
姿形を変えても偽アサシンへの執着の形は変えないジェスター。甘美な妄想に浸りながらこの病院を守護する四人に嘲笑を含ませた言葉を送る。
「その時まで僕たちを守ってね、
偽ライダーが配置した四人。三つある偽ライダーの宝具の一つ。成長する宝具『
とある名も無き男が生涯刀を振り続け、三つの斬撃を同時に放つ技を編み出したように武技を極めて異能の域へ入った四人の達人。
その宝具の名は『
宝具的に偽ライダーはキャスターの方が適正高いですね。