Fate CROSS strange FAKE   作:N40

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大森林にて

(はぁ……全く……)

 

 アヤカは心の中で溜息を吐きながらファーストフードのハンバーガーを咀嚼していた。

 睨むような視線の先ではハンバーガー、ポテト、炭酸飲料を食して目を輝かせて感動しているセイバーことリチャード。

 流れるように真名を聞かされ、その衝撃が抜け切れないまま着替え終えたバンドマンたちが差し入れで買って来てくれたファーストフードを食べる羽目になった。

 美味い不味い以前に味が分からない。アヤカの頭の中でセイバーやシドのことで一杯一杯になっており味わう余裕がなかった。

 悩むアヤカとは裏腹にセイバーはバンドマンたちから音楽プレイヤーを借り、食事をしながらプレイヤーから流れる音楽に魅了される。

 心底現世を謳歌しているセイバーにアヤカはつい恨めし気な眼差しを向けてしまった。

 

(すまんな。君に名乗るタイミングがあるとすればあそこしかなかった)

 

 霊体のシドが不満気なアヤカに謝る。

 

(君をますますこの戦いに巻き込むこととなったが、現時点に於いて君程適切なマスターも見当たらん。謝罪の代わりとは言わんが、この戦争中は命を賭して君を守ろう)

(……いいよ、別にそこまで気負わなくても。それにシドに関しては半分真名を聞かされていたようなものだし)

 

 自分の為に命を懸けようとするシドにアヤカはそこまでする必要はないと言う。過去から来る罪悪感が、アヤカをいまいち一歩踏み込むことを躊躇させる。

 一つの空間に生まれる喧騒と静寂のグループ。アヤカはハンバーガーを小さな一口で食べ続け、合間にフライドポテトに手を伸ばす。

 

「……」

 

 カートンから抜いたポテトをまじまじと見つめた後、それを口に含んで咀嚼。飲み込んだ後にカートンを虚空へ向ける。

 

(……食べる?)

 

 ずっと霊体化しているシドに自分のポテトを差し出す。

 

(セイバーばっか今の時代を楽しんでいるなんて不公平だし、シドも少しだけ楽しんだら? ……セイバーみたいに羽目を外さない程度に)

(サーヴァントは空腹を……いや、有難くもらおう)

 

 断りかけたがすぐに訂正した。それが彼女なりの歩み寄り方だと気付いたからだ。

 アヤカはさり気なくセイバーたちの死角になる場所へ移動する。幸い、バンドマンたちはセイバーとの音楽の話に夢中になっているのでそれに気付かない。

 視界を遮る場所へ着くとシドは霊体化を解き、アヤカから差し出されたフライドポテトを一本貰い、食す。

 

「……美味い」

 

 口許を緩ませるシド。この時代の食べ物は口に合った様子。

 

「民が食を楽しむぐらいには豊かな世のようだ」

 

 身分の格差、戦争、それによる重税。食うに困り、飢えて苦しむ者たちを見てきたシドからすれば、ただ腹を満たすだけでなく味も楽しむことが出来るこの時代に自分の世界にはなかった平和を感じた。

 遠くを見るシドの横顔から感じられるのは郷愁と憧憬。故郷を懐かしむ同時に満たされたこの世界と比べ、その差に嫉妬をするのではなく感心を抱いている顔をしていた。

 

(セイバーがあんなにはしゃいでいるのも、自分の生きていた時代に無かった豊かさを感じる為……?)

 

 与えられたものに新鮮な反応を示し、全身でその喜びを表し、無邪気に楽しむセイバー。荒れていた時代では出来なかったことを後悔が無いように堪能しているのかもしれない。

 

「さっぱりした男だ、セイバーは」

 

 この時代に素直に順応しているセイバーを見てシドが思っていたことを言う。

 

「獅子の異名からして勇猛果敢でもあったのだろう」

「シドから見てセイバーは良い王様に見える?」

「……どうであろうな」

 

 セイバーとの関係は悪いものではなかったので、てっきり肯定的なことを言うと思っていたが、シドの答えは曖昧であった。

 

「上に立つ者としての素養は間違いなくあるだろう。だが、王としての在り方が……()()()()()()とは限らん」

 

 セイバーの性格はまだ一端しか分かっていない。セイバーがどんな王であったか知らない内はシドも簡単には評価を下さない。

 

(この二人って……)

 

 今まで互いに尊重し合っており思考の隅にも無かったが、セイバーは王でありシドは騎士。使役する側と仕える側。考えが異なる部分があってもおかしくない。

 

「堪能させて貰った。感謝する」

「う、うん」

 

 この時代の食事に満足し、シドは再び霊体となる。

 

(大丈夫だよね……?)

 

 

 × ×

 

 

 太陽が真上まで昇った頃、アヤカたちはライブハウスから出て来た。

 セイバーはツヤツヤとした満足気な表情をしているが、アヤカの方は少し疲れている様子。

 ファーストフードを堪能し、様々なジャンルの音楽に感動していたまではアヤカも暖かい目でセイバーを見ていたが、そこからバンドマンたちに勧められたミュージカル映画を観賞し出し頃には若干呆れを覚え、映画の内容に一喜一憂しているセイバーを見ていたアヤカの方が疲れを覚えてしまった。

 兎に角、何もかもがエネルギッシュであり、陽光のような明るさを放ち続けているせいで陰のあるアヤカはその明るさに少しばててしまっていた。

 

(セイバーってもしかしてとんでもない王様?)

 

 王と名乗った時点は内心セイバーに畏怖を覚え、萎縮してしまって遠くから眺めるばかりであったが、音楽や映画を見てはしゃいでいるセイバーを見ていたら、その考えも馬鹿馬鹿しく感じてしまった。

 少なくとも王様として見るのは止めた。それよりも一人の人間、それも信頼出来そうな人物として見る方が気が楽であった。

 バンドマンたちに別れを告げ、アヤカたちはライブハウスから離れて行く。周りに人の目や魔術師の監視が無いことを確認すると、シドは霊体化を解いて二人の前に現れる。

 

「すまないな。俺ばかり楽しんで」

「気にするな。実は儂も映画というものを見ていた。興味深いな、あれは」

 

 好みではなかったアヤカは途中で眠気により脱落してしまったが、シドは最後まで観賞していた。映画の内容よりも映画そのものを楽しんでいた。

 

「──それで、今後の方針は?」

「誰かと同盟を組もうと思っている」

 

 先程までの和やかさが一気に消え、戦争の為の会話に急に入るのでアヤカは話題の急転換に付いて行けず「……はぁ?」と聞き返してしまう。

 

「その口振り、当てはあるようだな」

「ロクスレイが調べてくれた。だが、一筋縄ではいかない相手のようだ。何せあのロクスレイが森に入るのを少し躊躇うぐらいだからな」

(そもそも誰だよロクスレイって……)

 

 心の中で突っ込むだけで口を挟む余裕も無い。セイバーの中で既に確定事項となっているので抗議するのも無駄に感じた。

 

「──という訳だ」

 

 セイバーはアヤカの方を見た。炎を納めたような赤い瞳には強い意志しかなく、何を言っても無駄なのが改めて分かった。

 

「……取ってつけたような確認は止めて。そもそも事前に相談してよ」

 

 何でもかんでも一人で決めてしまうセイバーに、つい嫌味な言葉を言ってしまう。ただ、相談して欲しかったのは紛れもなく本音。

 

(あー……私が聖杯戦争に乗り気じゃなかったからかな……)

 

 もしかしたら自分の身を案じて行ったことかもしれない、と言った後にその考えに至る。巻き込まれた者へセイバーなりの責任の取り方なのかもしれない。今も別に乗り気という訳ではないが。

 セイバーはアヤカの言葉に苦笑を浮かべる。

 

「良く言われた言葉だ。どうも俺のこの性分は死んでも変わらないらしい」

 

 自覚はあるが治さない、もしくは治せない。小さな棘が刺さったような苦笑いにアヤカは自分の方が悪者になったような気がして溜息を吐く。

 

「謝らなくていいよ……ただ一言言って欲しかっただけだから」

「ああ! 今度からはそうしよう!」

 

 見事というしかない爽やかな笑顔で言われると、逆に「本当に分かっているのか?」と疑ってしまうが、いつまでも文句を言っても不毛なのでここら辺りで止めておく。

 そして、アヤカとシドはセイバーに導かれるままスノーフィールドの大森林を訪れ、森の中に入っていく。

 森の奥へ進むごとに英霊の気配が濃く感じるようになる。気配を隠さないのは、分かり易く警告の為だと思われる。気配だけで只者ではない雰囲気があった。

 しかし、英霊の気配に対して森の中に罠などはなくすんなりと目的の場所まで辿り着く。

 

「今日は客人が多いね」

 

 男性か女性か分からない長髪の美しい英霊──エルキドゥは微笑を浮かべながら待ち構えていた。

 

「いきなりの来訪ですまない……もしかして取り込んでいたか?」

 

 エルキドゥは大木に背を預けて座っているが、その周りには戦闘痕らしきものが残っている。木々の傷や抉られた土の乾き具合を見て戦闘があったのは最近のことである。

 

「安心してくれ。先客は既に帰っているよ。それで? 僕に何の用だい?」

 

 想像していたよりも穏和で友好的なエルキドゥの態度にアヤカは肩透かしを喰らった気分になる。一方で交渉事を全てセイバーに任せているシドは剣の柄に掌を乗せていた。いつでも抜けるように。

 

「俺たちと、同盟を組む気はないか?」

 

 駆け引きなど省いていきなり本題へ入る。セイバーの率直さにアヤカは少し溜息を吐き、シドも少し困った表情になる。

 

「同盟か……」

 

 エルキドゥは形の良い顎に、これまた形の良い指を当て思案するポーズになる。

 良いとも悪いとも言えないエルキドゥの反応にアヤカは鼓動を早まらせるが、急に掌に柔らかな感触を覚え、驚く。

 

「ひゃっ!」

 

 視線を下げるといつの間にか銀狼──アヤカ視点だと大きな犬──がアヤカにすり寄っていた。アヤカは知らないが、この銀狼はエルキドゥのマスターである。

 銀狼はアヤカに甘えるように体を擦り付けて来ており、アヤカも人懐っこさに絆されて銀狼の頭を撫でる。

 撫でられた銀狼は甘えた声を出し、ますますアヤカに体を押し当てた。

 交渉事の最中なのだが、アヤカは銀狼の暖かでモフモフとした体毛を撫でることに意識を取られてしまう。

 すると、銀狼は傍に立つシドに気付き、鼻を近付けて彼のニオイを嗅ぐ。暫くその行為を続けた後、垂らしていたシドの指先を舌で舐める。

 警戒心を抱いていない。銀狼はアヤカ程ではないが、シドにも懐こうとしていた。

 エルキドゥは銀狼が懐いている姿に優し気な眼差しを向けていた。

 

「別に構わないけれど……僕はともかく僕のマスターに何か利益はあるのかな?」

 

 優先すべきは自分の意思ではなくマスターの意思だと告げ、同盟を組み見返りに何を提示出来るか問う。

 

「君のマスターに新しい友達が出来る……というのは?」

「中々魅力的な話だね」

 

 エルキドゥの反応は割と好印象であった。

 

「……自分で言っておいて何だが、マスターを大事にしているのなら素性の分からない相手に近付けない方がいいのでは?」

「それはお互い様さ……尤も、そういう心配が無いから好きにさせているんだろう? お互いに」

「ああ。当然手は打ってある。心強い騎士も傍にいるしな!」

 

 エルキドゥはシドを見て少しだけ目を細める。シドを凝視している様は何かを探っているかのようであった。

 いつの間にか銀狼はアヤカの膝の上に乗り、そこで体を伸ばして全身を彼女に撫でて貰っている。サーヴァントの心配を他所にマスター同士は非常に友好的な関係を築いている。

 

「もっと人を警戒する生き物だと思っていたが……」

「マスターは少し人間との関わり方が特殊だったからね。人間が好きという訳じゃないよ。君のマスターに懐いているのは特別だと思う。味方か仲間だと思っているみたいだ」

「シ──彼にも警戒していないようだが?」

「何だろうね? 彼は人間だけどまるで御伽噺から抜け出してきたような……幻想に近い存在だからだろうか?」

 

 古い存在であるエルキドゥですらシドという存在を不可思議に感じる。だが、嫌な感じはしない。未知なる幻想と神秘が色濃く残る興味深い存在であった。

 

「成程。君にはそう感じる訳か。ますます好奇心が湧いてくるな!」

 

 未知なるものに目がないセイバーは、シドへの興味を深める。

 

「……で、話は変わるが同盟の話の続きだ。実は同盟を組もうとしている理由は、街で二体の魔物を見かけた」

 

 片や偽アサシンのマスターである吸血種、死徒と呼ばれる人類の天敵ジェスター・カルトゥーレ。もう片方は謎の魔物カリュブディス。セイバーは直接見た訳ではないが、念の為に連絡係として残していたロクスレイと目撃したシドから聞いている。

 

「吸血種の方は僕の時代にいたのかな……? 血肉を喰らう魔物はいたけど。それと、カリュブディスの方は僕も会っているよ」

「おお! 倒したのか?」

「倒したけど撃退止まりだね。()()()が来てしまったから」

 

 持ち主。その言葉でカリュブディスはやはり使役されていた魔物だと知る。

 

「やはりサーヴァントのスキルか宝具だったか。そうなると持ち主のクラスはキャスターか?」

 

 魔物を使役する能力からしてキャスターのクラスの可能性が高いと推測する。

 

「少なくともバーサーカーやアサシンという感じではなかったね。因みに僕はランサーさで既にアーチャーとは会っている」

 

 エルキドゥはそれに同意せず、他の可能性を否定することで選択肢を減らす。これによりカリュブディスを操っている者がキャスターかライダーのどちらかになった。

 

「ランサー……槍は見当たらないな」

「槍は持ったことがないよ。貫き、縫い、止める。概念としてランサーに選ばれたみたいだ」

 

 バーサーカーじゃなくて良かったよ、と微笑みながら付け加える。

 

「俺が言うのも何だが随分といい加減だな。これが聖杯戦争なのか? それともこの聖杯戦争は既におかしいからなのか?」

 

 セイバーは苦笑を消し、真剣な表情でエルキドゥに問う。口振りからしてセイバーよりも古い時代の猛者。先人の知恵から何かを得ようとする。

 

「座から与えられた知識では説明出来ないことがこの聖杯戦争では起こっている。放っておけば途轍もない厄介事が起こるか、或いは利用されるか……。後者なら原因を排除し、改めて聖杯戦争を仕切り直した方がいい」

「この戦争が変わっているのは確かだろうね……」

 

 エルキドゥは偽ライダーを思い出しながら、シドのさり気なく見る。シドもまた偽ライダーと同じイレギュラーな気配があった。エルキドゥの『気配感知』に気付いた真アサシンやスノーフィールドの街で何かをしている偽バーサーカーもまた未知なる気配を纏っていることをエルキドゥは知っている。

 すると、アヤカには聞こえないようにセイバーは声を潜める。

 

「もし俺が敗退して彼女が教会に避難したところで彼女の無事は保障出来ない」

「強そうな彼がまだ居るじゃないか」

「それも承知しているが、万が一のこともある。吸血種だけではなく俺も知らないような術や技を持った英霊たちも居るからな」

「まあ、それが考え過ぎとは言わないよ」

 

 実際、エルキドゥも偽ライダーの力の一端を目の当たりにしたが、どういう原理なのかは不明であり、エルキドゥですら再現は困難であった。恐らくは親友であるギルガメッシュの蔵の中にも同類の力は存在しないだろう。

 

「マスターのことが大事なんだね」

「いや、彼女がマスターとしてきちんと自覚があるのならここまで気を遣っていない。彼女はこの聖杯戦争に巻き込まれた被害者だ。偶然とはいえ俺や彼とリンクしてしまった。彼女を無事に聖杯戦争から帰すのが俺の責任だ。そうしなければ我が一族の系譜を連ねる国々と偉大なる祖王の名を穢すことになる」

 

 堂々と語る様にエルキドゥは興味深そうにセイバーを見る。

 

「君もきっと王様なんだろうが、僕が知っている王様とは全然違う。こういうのをタイプが違うっていうのかな? 面白いね。時代が変われば王様としての在り方もこうも変わるんだね」

「そうか? 因みにどんな所が違うんだ?」

「君の方が友達が多そうなところかな?」

 

 ギルガメッシュが聞けば鼻を鳴らしそうな台詞。エルキドゥだからこそ許される台詞でもある。

 

「君はその王様の数少ない友人なのか?」

「互いに心を曝け出せるたった一人の親友さ──そのせいで友達が少ないのかもしれないけど」

 

 エルキドゥはゆっくりと両手を広げる。大地が蠢き、数多の武具が生成される。

 唐突に戦闘態勢に入ったエルキドゥにアヤカは慌てて叫ぶ。

 

「ちょ、ちょっと!」

「安心しろ。きっと同盟を組む為の腕試しだ。同盟とは色々な意味で対等でなければならないからね。弱い相手との同盟など意味は無い。自然な流れだ」

 

 心なしかセイバーの声が弾んでいるように聞こえた。この状況を楽しもうとしている。

 

「っていうかあんた、武器無いじゃん!」

 

 警察に捕まった際にオペラハウスを半壊させた剣は没収されている。しかも、今は鎧を着ておらずバンドマンたちに貰った服を着たまま。

 

「鎧も着てないし!」

「大丈夫だ。この服が傷付きそうになったらちゃんと着る!」

 

 ズレた回答をしてくるセイバーに、これ以上あれこれ言っても無駄だと即座に判断してシドに頼もうとする。

 

「これは俺の戦だ! アヤカのことは任せた!」

 

 先手を打ってセイバーがシドにアヤカの護衛を頼む。そう言われてしまうとシドの方も簡単には手を出せなくなる。

 

「いいのか?」

「ああっ!」

「……貸すぞ?」

 

 シドは自身のエクスカリバーを貸し出そうとする。

 

「えっ!? いいのか!? ……いや、大丈夫だ」

 

 少し後ろ髪を引かれる感じであったが、誘惑を断ち切るようにそれも断る。

 

「神の世に生きた伝説への挑戦だ。我が祖王から与えられた機会、俺が挑まないでどうする!」

 

 

 

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