Fate CROSS strange FAKE 作:N40
空気を焦がす熱量を閉じ込めた光の斬撃。しかも、それが四本。エルキドゥは頭上から照らしてくるそれを穏やかな顔で迎え撃つ。
「──眩しいね」
呟いた言葉はそのままの意味もあるが、セイバーの宝具から伝わる強い憧憬、人形の自分には無い輝きを放つセイバーへの敬意も含まれていた。
セイバーの光の斬撃は確かに貴いものを感じる。だが、だからといってそれを素直に受け止めることはしない。エルキドゥには親友との約束がある。その約束がある限り誰にも勝利を譲るつもりも与えるつもりもない。
エルキドゥの足が大地と一体化する。周辺の大地はエルキドゥそのものとなり、エルキドゥの意思に従い大地から大量の武具を生み出す。
そして、そこに加えられるエルキドゥのスキル『変容』。エルキドゥだからこそ許されたスキルであり、その能力はステータスの再振り分け。このスキルにより一体化した大地から発射される武具に高ランクの魔力、俊敏、耐久が振り分けられる。
大地から光が伸びた。アヤカにはそうとしか見えなかった。性能を限界まで引き上げられた武具は、セイバーの『永久に遠き勝利の剣』による光の斬撃と激突。元が葉っぱだったせいか四本の剣閃はエルキドゥの武具により撃ち抜かれ、消し飛ぶ。
しかし、撃ち抜いた先にセイバーの姿は無い。セイバーは既に大地に降りており、高い俊敏性を生かしてエルキドゥの懐に飛び込もうとしていた。その速さはエルキドゥが一瞬視界から外してしまう程。
セイバーは接近しながら地面に生えている長く伸びた草を千切る。指に挟んでいた木の葉は既に燃え尽きていた。
エルキドゥの目が再びセイバーを捉えた時、セイバーはその草に『永久に遠き勝利の剣』の光を与えている。
エルキドゥの微笑が消え、唇が一文字に結ばれる。エルキドゥがこの戦いで初めて人形らしい表情となった。
無手のエルキドゥにセイバーは光の斬撃を繰り出す。だが、その斬撃はエルキドゥの素手によって防がれた。
「……これまた見事な業物だな」
刃に変わったエルキドゥの手を見てセイバーは真面目な表情のまま冗談を言う。
セイバーの草はエルキドゥの刃に僅かに食い込み、周りを赤熱化させていた。元がただの草だと考えれば脅威的な威力である。しかし、やはりただの草なので強度は全く足りずそこで限界を迎えて炭化し崩れてしまった。
「驚いたね。葉や枝でこれだけの威力を出せるなんて」
「褒め上手だな。実力の半分も出していないというのに」
「君もまだ全力とは思えないけどね。それにこれは互いに確かめ合う為の戦いだよ?」
「そうだったね。それで俺は合格かな? 俺から見たら君は完全に合格ラインを超えているが」
エルキドゥの顔に微笑が戻り、刃だった手も元に戻る。
「君は強いね。まあ、僕の友人が見たら何て言うか分からないけど。少なくとも僕は君の強さを良いと思った」
「その友人は君よりも強いのか?」
「三日三晩殴り合って決着がつかなかったぐらいの相手、かな」
「それ程か。だとしたらこうやって君と馴れ馴れしく話していたら不味いかもな」
「もしもの時は僕が彼を止めればいいさ。それに、君と──」
エルキドゥの視線がセイバーから外される。
「彼が居れば
戦闘が終わり、二人の傍まで来ていたシドを見ながら二人の健闘を予想する。
「結構か……」
高いのか低いのか分からないエルキドゥの評価にセイバーは苦笑いをした。
「ちょっと! 大丈夫なの!?」
シドと一緒に寄って来ていたアヤカがセイバーの状態を焦った表情で確認する。見た目には怪我は無いがアヤカにはセイバーが少し疲れているように見えた。
「大丈夫だ、アヤカ。ただの腕試しだから無傷だ」
「どこが腕試しだ! あんなの殺し合いじゃない! 心臓がどうにかなるかと思った……!」
「いや、まあ世の中には命懸けの──」
そこまで言い掛け、シドの視線に気付く。
(心配させた貴殿が悪い)
(だが、騎士として……)
(彼女に騎士の理屈が分かるとでも?)
(その、あの)
(言い訳無用)
目線だけでこの様な会話を交わし、セイバーは溜息を吐く。
「──確かにいきなりだった。心配させたことは謝罪する。こういう事を度々起こすかもしれないが先に言っておく、許してくれ」
シドが見ているせいで話を逸らすことも出来ず、セイバーはアヤカと向き合いながら今の行動に対する謝罪と前以って未来のやらかしについても謝っておく。
「ああいう空気にしたのは僕にも原因がある。彼だけ責めないでくれ」
戦いの責任をエルキドゥも背負おうとする。
二人が素直に詫びてしまうとアヤカもこれ以上彼らを責めることは出来ない。
「……あんたが私の為に何かをしようとしてくれるのは分かっているよ。でも、そんなことされる度に私は思ってしまうんだ。「その優しさに報いられるのか?」って」
誰かが自分の為に何かをしてくれる。その行為が彼女を自己嫌悪させる。彼女自身が囚われてしまっている過去のせいで、自分にそんな価値が無いと強く思ってしまう。
彼らを頼ろうとする程、信じようとする程、自分を醜悪に感じ、何も返せない自分の矮小さが嫌になる。
「こんなにされているのに、私は私を信じられないんだ……いつかあんたたちを裏切ってしまうような気がして……保身で敵に売るかもしれない……」
アヤカの絞り出すような声を聞いたセイバーは困ったような表情をし、シドも小さく息を吐く。
「アヤカは時折凄まじく後ろ向きな考え方になるな……」
「真面目に考え過ぎだ。まさか、仮定の話でそこまで思い詰めるとは……」
二人揃ってアヤカのネガティブさに少々呆れていた。とはいえここまで自分を疑うのは、過去に何かあった故のトラウマがあるからなのも分かっていた。彼女を気遣い、過去の傷に触れるのを避けようとする。
「そもそも俺を裏切る、売るなど小さな事だ」
「小さな事って……」
「今はどうかは知らないが、俺の時代ではよくあることだからな。何せ血を分けた弟に敵国に売られかけたしな」
何でもないことのように自分の過去を語る。弟に見捨てられるどころか、金を払ってまで解放させないようにしたこと。何とか国に帰って来たが、王座を簒奪しようとしていた弟が貴族だけでなく国民からも顰蹙を買って失敗したこと。
「俺の金遣いの荒さで苦労していた筈なのに……弟には本当に可哀想なことをした」
見捨てようとした弟に寧ろ同情的なセイバー。弟の方は兎も角としてセイバーには弟への悪感情は感じられなかった。
「つまり、だ。俺はこういう奴なんだ。裏切られたり、見捨てられたり、逃げられたりしてもおかしくない生き方をして来た。善人とは程遠い男だ」
堂々と胸を張って言いながらも言っていることは自嘲に等しい。
だが、次の言葉を言う際、セイバーはアヤカも初めて見る曇った笑顔を見せた。
「何せ俺が出来る事は、戦争だったからな……」
セイバーの言葉にシドは人知れば表情を硬くする。シドにとっても戦争という言葉は重要な意味を為す。彼の人生の大半を占めるものであり、シドの人生を色々な意味で大きく狂わせた。
自己嫌悪の台詞がセイバーの自嘲を引き出すことになり、アヤカはどうしていいのか分からなくなる。言うべき言葉、掛ける言葉が見つからずに棒立ちになってしまった。
「ウォン!」
会話の間に生じてしまった静寂を銀狼の一声が破る。急に鳴いたせいでセイバー、アヤカ、シドは驚いた表情で銀狼を見た。
銀狼は鼻を鳴らした後、アヤカたちに注目されている中でゆったりとした歩みでエルキドゥの傍に行く。
「流石、マスターだ」
重苦しくなっていく空気を見事に吹き飛ばした銀狼を、エルキドゥは撫でながら褒める。
「……え? マスター? その子があんたのマスターなの!?」
マスターは魔術師、人間という先入観を持っていたせいで銀狼がマスターとは微塵も思っていなかった。エルキドゥがこの森で見つけた人懐っこい大きな犬というぐらいの認識である。
「ごめん……あんたのマスターなのに物凄く撫でちゃった」
「気にしなくていいよ。マスターも喜んでいたしね。それに同盟を組むんだ、ある程度仲が良い方がいい」
エルキドゥは銀狼を撫でる手を止める。
「君も触れてみたいのかい? さっきからずっと見ているみたいだけど」
明後日の方を向きながらエルキドゥは誰かに話し掛ける。
「……え?」
森から現れる黒い影。アヤカがそれに驚くといきなりシドの背中が目の前に現れ、二度驚かされる。アヤカを守る為に彼女の前に出たシドはエクスカリバーを鞘に納めたままだが柄は握っている。
「久しい……という程間は空いていないな」
黒い影は黒装束であり、アヤカたちがオペラハウスであった偽アサシン。シドは警察署でも会っているので二度目の邂逅であった。
偽アサシンはセイバーを見て複雑な表情になる。
「獅子心王……リチャードか」
「そうだ」
セイバーの真名を見抜く偽アサシン。セイバーもそれをあっさりと認める。アヤカが肯定したことを咎める眼差しをセイバーへ向ける。
「声に確信があった。誤魔化すだけ無駄だ」
偽アサシンはセイバーから視線を外さない。
「話は聞かせて貰った。……あの魔物を斃すのか?」
「人に害を為すなら。と言ってもああいう魔物は十中八九災厄を起こす。生前、あれの同種の吸血鬼に手を焼かされた。まあ、きちんとやり返したが」
セイバーがリチャードであった時に吸血種と邂逅している。多くの部下を失うこととなったが、セイバーとセイバーが敬愛している好敵手、そして当時の『山の翁』と手を組むことで滅ぼしていた。
「私も……お前の話は聞かされている……お前がどれだけ恐ろしい男だったことも」
偽アサシンの全身が強張る。今にも飛び掛かりそうになる自分を抑えている様子であった。
セイバーはいつでも戦えるように気を張り巡らすが、そんな彼の肩をシドが掴み、後ろへ下がらせた。
「交代しよう」
「おいおい。ここでそれはないんじゃないか?」
「貴殿が前に出たがる性分なのは良く分かった。しかし、今の貴殿はアヤカを守る騎士なのだろう? 護衛も騎士の本分だ」
戦いに熱くなるセイバーを無理矢理下げることで頭を冷やさせようとする。
「一理あることは認めよう。だが──あいたたたたたっ!」
食い下がろうとしたセイバーが急に悲鳴を上げる。セイバーの編み上げた後ろ髪、それをアヤカが全力で引っ張っていた。
「ちょ、やめてくれ! 千切れる! 禿げる!」
「シドは戦ったばかりのあんたの体調を気遣ってんだよ!」
「それは分かっている! でも──
「本当に分かっているの!?」
「痛い! 痛い! 分かった! 駄々をこねて悪かった!」
後ろ髪にぶら下がる勢いのアヤカ。セイバーは仰け反りながら自分の非を認め、謝罪する。
偽アサシンはそんなセイバーの様にすっかり毒気を抜かれ脱力してしまい、小さく息を吐いた。
「少し疲れているようだね。木の実か果物ならすぐに用意出来るよ?」
エルキドゥは偽アサシンの纏う空気を無視して彼女に話し掛ける。
「ランサー……でよかったな?」
「うん」
「迷惑を掛けたことを先に謝罪しよう。あの怪物は私を追い掛けてこの森に来た」
偽アサシンはエルキドゥとカリュブディスを撃退したこと知っている。直接見た訳ではないが、二人が戦闘を行った際の気配は感じ取っていた。偽アサシンが確認しに行った時にはカリュブディスは既に偽ライダーに回収された後であったが。
「気にしなくていいよ。僕も身を隠したりしなかったからね。──それに
戦ったことでカリュブディスに力を与えてしまった。エルキドゥはそのことに負い目を感じており、責任は取ろうと考えている。
「さて、同盟を組んだことだし、いざという時は君たちの手助けをするけど僕の手助けもしてくれるかな?」
「手助け? 君程の英霊が助けを必要とする相手がいるのか? ……それは吸血種よりも厄介な相手そうだ」
エルキドゥは笑みを消し、無表情になる。
「そうだね。僕が友達との約定を果たすのに一番の壁だろうね。それに、彼の持つ宝具も途轍もない」
もし、ギルガメッシュとエルキドゥが戦うとなると真っ先に妨害に来るであろう偽ライダー。彼の持つ宝具は、エルキドゥですら畏怖を覚える。
「もし、聖杯と彼の宝具が一つに合わさったら……
× ×
コールズマン特殊矯正センター内にあるファルデウスの工房。
人形に囲まれた室内でファルデウスは独り言を零す。
「居ますか? アサシン」
「何の用だ?」
さっきまでファルデウス一人しか居なかった筈なのに突如としてファルデウスの目の前に真アサシンこと扉間が現れる。
「貴方の戦いを見せてもらいました。私の想像を遥かに上回っていた。アサシンとは思えない程でしたよ。まさか、ギルガメッシュやヘラクレスを相手にああも立ち回れるとは」
「世辞はいい。一人も仕留められなかったからな」
(仕留めるつもりだったんですか……)
それが決して不可能な高望みではないことは、あの戦闘を見ていたファルデウスも知っている。何故なら扉間自身はずっとファルデウスの傍にいた。戦っていたのは彼の分身。ファルデウスも扉間が分身を解除するまで扉間自身が戦っていたと思っていた。
ファルデウスが扉間を危険視しているように、扉間もそう簡単にファルデウスを信用はしていない。
しかし、だからといって扉間も不信を煽るような真似はしない。如何にサーヴァントとして有用かをあの戦いで見せた。今、ファルデウスの頭の中では如何に扉間を使おうか思考を働かせているのを扉間は見抜いている。そうなれば不信感で令呪を使用する確率は下げられる。
令呪は戦いに於いて必要なもの。下らない命令や自害如きで使われては勿体無い。使うとすれば最も有効的な場面まで取っておきたい。尤も、自害させられたとしてどうにかする方法が扉間は持っているが。
ファルデウスは合理的で冷酷な人間であると今までの言動と経験則からして判断した。そういう人間にはそれに合あわせた歩み寄りがある。
「半神をも暗殺しようとした貴方にお願いがあります」
「……何だ?」
「一人……殺して欲しい人物がいます」
ファルデウスからの暗殺の指令。当然ながら扉間は表情一つ変えない。暗殺もそれ以外の殺しにも感情を全く揺らさない程度には慣れている。
「それは個人的な頼みか?」
「まさか。将来的なことを考え、ここで消えてもらうことが一番だと判断したまでです」
冷静沈着に見えるファルデウスの声に感情が乗り始める。
「元よりこの聖杯戦争に私の我が入り込む余地はありません。この魔術も命も我が合衆国に捧げると決めた時から」
それは確固たるファルデウスの信念。合衆国の発展と安寧、そして国益の為。魔術師という人種の中でも珍しい愛国心にて動いている。ファルデウスの声に感情が滲み出たのはその愛国心を扉間に軽く見られたと思ったからだ。
「その為に殺すか」
「ええ。私は合衆国の為なら国民すら殺す事を厭わない」
合衆国の為ならばそこに住む国民すらも切り捨てる。矛盾した言葉であると同時に欺瞞に満ちた言葉。しかし、ファルデウスが発した言葉が偽りに聞こえないのは、その切り捨てる側に自分も含んでいる覚悟があるからなのだろう。
ファルデウスの信念を聞かされた扉間の無表情が一瞬崩れる。眉間に深く皺が刻まれた。
ファルデウスは失言したかもしれないと思いつつ無表情を保ち続け、肉体をコントロールする。そうしなければ全身が冷や汗で濡れてしまう。
「気に入らん──」
扉間のその言葉にファルデウスは最大限集中する。いつでも令呪を使用出来るようにする。全開は幻術により令呪を使ったと思わされたが、今度は簡単に術中には嵌らない。
「──言葉もあるが、その信念だけは認めてやろう」
継いだ言葉は肯定的なもの。ファルデウスの発言の一つに引っ掛かったが、彼を見限る程ではなかった。
扉間は数多くの忍が属する里の長。彼は里の者たちを愛し、敵対者には容赦しない。国の為に国民を切り捨てる考えは気に入らないが、合衆国への献身と覚悟は本物だと認める。扉間も里の為に自らの犠牲を厭わない。それに関してはファルデウスに多少の共感を覚える。
「その任務、引き受けよう。情報があるなら全て出せ」
扉間の協力を得られたことに内心溜息を吐く。安堵を覚えるには扉間との対峙はストレスが強かった。
ファルデウスは扉間に一枚の写真を見せる。そこには護衛に囲まれた老人が写っている。
「名前はガルヴァロッソ・スクラディオ。彼を──消して下さい」
セイバーとシドは個人的には考えが合わないと思っています。
衝突しないのは今は互いにサーヴァントという立場だからです