Fate CROSS strange FAKE 作:N40
スクラディオ・ファミリー。
その手腕で裏の世界では知らぬ者はいないガルヴァロッソ・スクラディオを当主とするマフィアである。
マフィアと聞けば概ね映画の世界でのマフィアを連想させるが、スクラディオ・ファミリーの在り方は普通のマフィアは異なる。
彼らは他のマフィア、或いは裏に属する組織、表の組織問わずに多くの者たちと手を結び、もしくは吸収することで巨大になっていった。
血筋や思想、血統などは問わず来る者は歓迎し、欲しい者は強奪することで際限無くファミリーを膨れ上がらせていく。
ガルヴァロッソは伸ばした根はアメリカンの裏社会に広く深く浸食しており、それにより莫大な財力と不可侵の権力を手に入れた。
そして、彼のファミリーが他のマフィアと大きく異なる点として、彼は多くの魔術師たちを自分の庇護に置いた。
魔術師として縄張り争いに負け、家を失った者。
魔術の高みを目指しながらも財が足りず、志半ばで諦めてしまった者。
異端として疎まれた者。
犯罪を犯して表社会に居られなくなった者。
自ら進んでスクラディオ・ファミリーの門戸を叩いた者など庇護に入った者たちの理由は数え切れない。
ガルヴァロッソはそんな魔術師たちに望むものを与えた。
金銭の無い者には金を、居場所が無いものには土地を、といったように魔術師たちのパトロンとなって支援を行った。
その見返りとしてガルヴァロッソは魔術師たちの力と知識を得ることが出来た。
マフィアなど一歩外に出れば周りが敵だらけでもおかしくない。それこそガルヴァロッソに死んで欲しいと願う者など星の数いる。そういった目が届かない不意を衝くような悪意から身を守る為に魔術がガルヴァロッソには必要だった。
当然、ガルヴァロッソの敵も普通の暗殺だけでなく同じように魔術師を使った暗殺も試みた。そこでものを言うのが数である。数多の魔術師たちを擁しているスクラディオ・ファミリーからすれば魔術師の一人や二人敵にもならなかった。それどころか腕次第では買収してしまうケースもあった。
ガルヴァロッソは自分の目的を叶えてくれる者に報酬を惜しまない。きちんとした結果を出せばそれ相応の褒美を与える。
魔術師たちはこの褒美を使い、魔術師たちの悲願である『根源』への研究を行う。
スクラディオ・ファミリーから魔術師たちが出奔する事態はまず無い。何故ならばガルヴァロッソ自身は根源に興味などなく、延いては魔術師たちの成果に見向きもしないからである。
横取りされる心配が無いので魔術師たちはガルヴァロッソから与えられた財で存分に好きなだけ研究に打ち込める。
スクラディオ・ファミリーの敵が現れば、魔術師たちは一致団結してその敵を完膚なきまでに叩き潰す。凡そ人が持つ倫理観からかけ離れた価値観を持つ魔術師だが、魔術の研究をするのに最高の環境を維持する為ならば力を出し惜しむことはしなかった。
裏を牛耳り、その影響は表社会にも及び、やがて政府も無視出来ない組織となっていき、意識されたことで政府の役人たちとの繋がりが生じ、そこから政府の一部との癒着にも成功。
現在では合衆国が企てたスノーフィールドの偽りの聖杯戦争に一枚噛める程にまでなった。
そして、そのスクラディオ・ファミリーから送り込まれた魔術師の一人がバズディロット・コーデリオン。表向きの肩書きは産業廃棄物処理会社の社長であり、スクラディオ・ファミリーの幹部。
偽りの聖杯戦争が始まる前まで刑務所に収監されていたが、今回の聖杯戦争に参加させる為にフランチェスカの手引きで出所している。
少なくとも百二十五件の殺人への関与が疑われているが証拠不十分で逮捕が出来ず、微罪による積み重ねで逮捕出来たが、収監された刑務所で看守三名、囚人二十六名を行方不明にした。しかも、半年間の間で。
この様な経歴からファルデウスはバズディロットを強く警戒していた。コントロールなど出来る対象ではなく、放っておけば合衆国や聖杯戦争に悪影響を及ぼすかもしれないと懸念していた。
フランチェスカはファルデウスのその懸念も娯楽とし、彼の胃に更なるダメージを与えるかのように召喚用のとっておきの触媒と、彼女が嘗て冬木という町で入手したこの世の全ての悪意を煮詰めた『泥』をバズディロットにプレゼントした。
とっておきの触媒をバズディロットに渡したのは彼女の好奇心故の行動。
そして、バズディロットは喚び出した。世界にその名を深く刻み込み、悠久の果てまで忘れ去られることはない偉大にして高潔なる英雄を。目的も為なら手段など選ばず、そもそも迷うような精神性を持たない冷血を超えて機械のようなマフィアによって。
スノーフィールド工業区域地下。そこは食肉工場を入り口とした広大な魔術工房の一角でありバズディロットとその部下たちの拠点である。
バズディロットの部下のマフィアたちは工房内を下手にウロチョロせず、指定された区域のみ警護を続けている。彼らバズディロットと違って魔術の腕や知識は高くなく、最低限魔術を使用することが出来るだけ。技術の低さを裏社会で培われた経験と暴力で補っている者たちである。
地下を漂う冷たい空気。だというのにマフィアたちは先程から汗が止まらない。自分たちの体調がおかしくなったのかと思っていたが、すぐにその理由を知る。
カツン、カツンと地下に降りてくる足音。通常時ならば彼らの手はすぐに懐の銃に伸びる。しかし、その足音を聞くだけで彼らは委縮し、体を硬直させ、それなりの修羅場を潜り抜けて来たマフィアたちが子犬のように震える。
魔術工房に現れたのは裘を頭から被った赤黒い肌の巨漢──アルケイデス。
アルケイデスはマフィアたちを一瞥もせず路傍の小石のように気にもせず、堂々と彼らの前を横切り、バズディロットが待つ工房を奥へ消えていった。
アルケイデスが去って少し経った後、マフィアたちは一斉に大きく息を吐く。アルケイデスがいる時、呼吸音一つ立てるのすら恐ろしかった。
「あ、あ、あ、相変わらずとんでもねぇ……」
「く、くそ、震えが止まらねぇよ……!」
それなりの悪行をし、司法や国家権力なで鼻で笑う程の悪人でもアルケイデスの威圧感の前では幼児のように震え、涙すら浮かべる。
「ちびっちまうかと思った……」
「……オムツでも履いとけ」
「そういうお前はどうなんだよ?」
「……」
「お前、まさか……」
恐怖から解放された反動かマフィアたちは饒舌になり、わざと下らない話をする。こうでもしないとトラウマになる畏怖から心を守れない。
恐ろしくて一秒でも同じ空気を吸いたくないし、視界にも入りたくない。そういう意味では路傍の石ころ扱いされているのは有り難かった。
「……大丈夫だよな、コーデリオンさん」
「……お前がコーデリオンさんの心配をするなんて十年はえーよ」
そう言いながら煙草に火を点けるマフィア。煙草を持つ手は小刻みに震えている。
バズディロットの恐ろしさと容赦の無さ、そして冷酷さは部下として間近で見てきた彼らだからこそ信頼している。
バズディロットは近寄りがたい存在だが、部下に理不尽な真似は決してしない。その分、裏切り行為やファミリーの不利益になる行いをした者には凄惨という言葉すら生温い目に遭わせるが。
「だってよぉ……コーデリオンさん、今令呪が無いんだぜ?」
その言葉に周りは沈黙するしかない。
マフィアの一人が言うようにマスターであるバズディロットとサーヴァントであるアルケイデスの関係は既に破綻している。
マフィアたちはバズディロットがアルケイデスになる前──ヘラクレスを召喚した時のことを思い出し、身震いする。バズディロットの胆力、精神力と理解を超えた稀代の大英雄との邂逅は今も鮮明に思い出せた。
バズディロットはヘラクレスを召喚した直後、ヘラクレスに問うた。『闘争に勝つ為なら幼子もその手にかけられるのか』と。
ヘラクレスを少しでも知っているのなら自殺行為といえる問い。案の定、それはヘラクレスの逆鱗を掠めた。
最初に警告だったのはヘラクレスが高潔な英雄だったからこそ。だが、その高潔さが今回ばかりは仇となる。バズディロットに令呪を使用させる猶予を与えてしまった。
ヘラクレス本人も令呪で命令されたとして、それすらも凌駕する自信はあった。だが、バズディロットの令呪の使い方はヘラクレスにとって予想外のものであった。
『
それはヘラクレスの頑強な心の蓋に隙間を開ける呪いの言葉。
『
続いて使用された令呪によりその隙間から溢れ出す忌まわしい記憶。
ヘラクレスを恐れ、憎み、嫉妬した者たちの顔。愛する妻の最期の言葉。そして、自らの手で葬ってしまった愛する我が子の死に顔──
ヘラクレスの脳髄を侵す悍ましい記憶。悪夢のようなそれは全て起こったことであり、消し去ることも忘れ去ることも出来ない歴史にも記された事実。
完全無欠の英雄の心にこじ開けられた隙間。ほんの僅かなその隙間を埋めたのは──
『
──バズディロットが取り込んでいた『泥』。
普通の人間なら触れただけで発狂する悪意の塊をバズディロットは自らに取り込んでいた。
そして、ここで切られる三画目の令呪。サーヴァントの反逆を恐れるのであれば一画は必ず取っておくべきなのだが、バズディロットはヘラクレス相手に全ての令呪を切ってしまった。
正気の沙汰とは思えない行為。しかし、あの『泥』を取り込んでいたバズディロットならばそれを平然と行ってもおかしくはない。元より人の心が無いか或いは異形の精神を持っているからこそ『泥』に呑まれることなく制御を可能とさせた。
ヘラクレスは令呪三画と『泥』に覆われることでその性質を大きく歪められた。隙間の潜り込んだ『泥』は、ヘラクレスから神性を削ぎ落し、人間へ堕とす。
アーチャーでありながら復讐者として変質された瞬間からヘラクレスはアルケイデスとなり、神への復讐を始めた。
そして、復讐者と成り果てたアルケイデスはマスターではなく利用する為の存在──バズディロットの前に立つ。
年齢は三十代から四十代。髪型から服装まで人間味を感じない程綺麗に整えられており、掛けている眼鏡の奥には昏い底無しの闇を秘めた眼。一般人ならその眼を向けられただけで体温が奪われていくような恐怖を抱く、人間性が欠落した眼であった。
「どうだった。噂の英雄王は」
「強いな。戦い方は一辺倒だったが、あれだけで殆どの敵は屠れる」
「お前はその数少ない例外ということか」
「本気を引き出させていないだけだ」
利害が一致しただけの関係だが、緊張感はあるが険悪な空気は無く互いに相手を謗るようなことはしない。これ以上関係が発展しないドライな関係であったが、互いの性格からすればこれが最良と言えた。
「英雄王の他にライダーとアサシンと戦闘を行った。ライダーの方はどうとでもなるが、アサシンの方は侮れん」
「ライダーではなく
「得体の知れない術を使ってきた。あれは恐らく魔術ではない未知の技術だ」
扉間が使用した幾つかの忍術にアルケイデスは警戒を示す。アルケイデスの被っている裘も人の手によって生み出された兵器は効かないが、扉間は水を武器として扱っており、その概念防御を超えてくる。
偽りの方のアサシンではなく真の方のアサシンだと察したバズディロット。フランチェスカの知っている者がマスターの可能性があるが、この時点では情報が少な過ぎる。
今後も敵として立ち塞がることを想定し、情報として頭の中に入れておく。
現時点に於いてはアルケイデスの運用は成功していた。ヘラクレスを召喚すれば勝利を約束されたも同然だが、扱う上で大英雄の精神は悪鬼羅刹が平然と跋扈する聖杯戦争の中では最大の障害となる。
大英雄は何処まで行っても大英雄。道を外れた行為を嫌い、英雄としての道を突き進む。それを阻むのであればマスターにすら牙を剥く。頼みの令呪も三画全て切っても心許ない。
そういった問題を排したアルケイデスは扱い易いと言えば扱い易い。しかし、当然のことながら別の問題も浮上してくる。
魔力問題である。
ヘラクレスの時点で魔力の消耗は凄まじいのに、アルケイデスの状態では彼の宝具の数と性質により更に魔力の燃費が悪化する。一流の魔術師だろうと一回の戦闘で干上がってしまう。
ヘラクレスを召喚することを想定していたバズディロットはこの問題を当然ながら解決させていた。ただし、普通の精神なら行えないような方法で。
地下の工房の更に奥。機械に繋がれた円筒状の水槽が無数に並ぶ空間。水槽の中に浮かぶのは人。それが繋がれた先の機械では透明な結晶が生成されていた。
魔力が足りないのであれば他で補えばいいだけのこと。魔力を物質化した魔力結晶を電池にし、アルケイデスに供給していた。
バズディロットは人間を贄とし、魔力結晶を作り出していたのだ。
数多の人間を犠牲にして動いている事実にもアルケイデスは動じない。全てはオリンポスの神々を滅ぼす為の必要な犠牲。その為ならば自分が贄になることすら厭わない。
多くの人の命では最早歪められた英雄の心にさざ波程度の動揺も起こすことは出来ない。
そして、バズディロットの方もこれだけの命を犠牲にしても心は微動だにしない。
魔力結晶の拠点はここだけでなく他にも幾つか用意してある。
魔力結晶を作り出す為に犠牲になった人間の数は二万四千九百七十六人。
バズディロットは数を正確に記憶している。殆どがスクラディオ・ファミリーの敵だった者たちであり、バズディロットはそれを有効に活用した。
バズディロットからすればただの数字かもしれないが、数字を記憶することは大切である。
数を覚え、上手く調整すれば秘匿の手間を掛けずに誰にも知られることも疑問に思うこともせず人を闇へ葬れる。
◇
「暫く居ない間に随分と息苦しい世界になったわね」
発電所地下から外に出たフィリア──その中にいる『何か』──は呆れたように、そして愉しそうに喋る。
「あら? あんなに高い建物まで作って……人間って高い所を目指す習性があるのかしら?」
遠くに見える高層ビルを眺めながら華やかに笑う。小馬鹿にした台詞だが、フィリアが言うと彼女にはそれを言う権利があると錯覚してしまう。それ程までに今の彼女は人の世界から浮いていた。
「貴方の見てきた世界もこうなの?」
フィリアが微笑みながらハルリの、正確には彼女と手を繋いでいる金髪の少年に話し掛ける。
少年は何も語らず、フィリアを見返した。すると、フィリアは一瞬目を丸くした後にクスクスと笑う。
「それは随分と賑やかそうね。私も混ざりたかったわ」
訳の分からない者同士の訳の分からない会話。ハルリはずっと心臓が突き破りそうな勢いで鳴っている。フィリアも金髪の少年も危害を加えるつもりは今の所無いのは分かっているが、謎過ぎて落ち着く暇がない。金髪の少年などずっとハルリの手を握っており、ハルリも恐ろしくてその手を離すことが出来ずにいた。
そこに加えてハルリの背後に立つ真バーサーカー。一言も発せず当たり前のようにハルリの後を付いてくる。その無言の圧にハルリはずっと冷や汗が止まらない。
(もう少し離れて欲しい……)
心の中でそう思うと真バーサーカーはハルリから数歩分離れる。真バーサーカーの行動に驚くハルリ。
「言ったでしょ? その子、貴女の言うことしか聞かないって。今のうちに扱いに慣れておきなさい。折角、
そんなハルリにフィリアは忠告をする。ハルリには分からないが、フィリアは金髪の少年も真バーサーカーのこともお見通しのような口振りであった。
「私、少し歩いて来るわ。観光っていうやつ? 貴女、ちょっと付いて来て」
「えっ!?」
フィリアの発言にハルリは声を上げてしまう。ハルリは真バーサーカーを召喚した反動で魔術回路が損傷しており、身を守れる状態ではない。
その上何処に監視の目があるのかも分からない状態で歩くなど自殺行為。せめて魔術回路だけは修復させたい
「大丈夫。私とこの子たちの傍はこの世界で一番安全よ」
当たり前のように言うフィリア。それでも不安を覚えるハルリ。その時、ハルリの肩に何かが乗る。
ビクリと体を震わす。ぎこちない動きで振り返れば真バーサーカーの手がハルリの肩に置かれていた。
何を、と思った瞬間にハルリは自分の身に起こった変化に気付く。一瞬にして損傷していた魔術回路が治っていた。どう考えても真バーサーカーの仕業である。
こんな事も出来るのか、とハルリは絶句しながら真バーサーカーを見る。その様子がおかしかったのかフィリアは上品に笑いながら言った。
「早速、上手く使えているじゃない」
各陣営の話を書くとどうにも話が先に進まなくなる。
次回辺りで戦闘を一つくらい入れたい。