Fate CROSS strange FAKE   作:N40

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ギルガメッシュの台詞が一番難易度が高い。


静かな開戦

 時系列はアヤカ・サジョウがオペラハウスにて二人のセイバーを召喚した前に戻る。

 真なるセイバーが召喚されたことで偽りの聖杯戦争は真の聖杯戦争へと昇華されたが、真の聖杯戦争が始まる前に偽りの聖杯戦争の初戦は既に始まっていた。

 しかも、その戦いは首謀者たちに聖杯戦争がどれ程のものか焼き付け、叩き込むぐらいに鮮烈なものであった。

 

 

 × ×

 

 

 スノーフィールド北部にある大渓谷。夜の静寂は二人の英霊により容易く破られていた。

 黄金の鎧を纏い、逆立った金髪。至高の作りの顔にある鮮やか赤目は闘志で宝石を超える輝きを発している。

 太古にあった後にメソポタミアの土地。その地にて英雄であり王であった存在。神が神で在り続け、人が今よりも神秘に染まっていた時代に生まれた人と神の間に生まれた半神半人の英雄であり、ウルクという城塞都市に君臨し時代の頂点を極めた王。

 数ある英霊、英雄という存在の中で最強の称号を冠するに相応しい英霊──英雄王ギルガメッシュ。

 アーチャーのクラスとして召喚された彼は天に立ち、周囲の空間を歪め、そこから数多の剣、槍、斧、矢などを絶え間なく射出している。

 それらは全てギルガメッシュの宝具。正確に言えば彼の蔵『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』の中に納まっている彼の財であり宝具の原典。

 膨大な数の宝具の原典を文字通り雨のように降らすのがアーチャーとしてのギルガメッシュの基本的且つ必勝の戦い方であった。

 並の英霊なら一瞬で、一級の英霊でも為す術もなく倒されてもおかしくないが何事にも例外は存在する。

 ギルガメッシュが今戦っている相手こそ数少ない例外であり、ギルガメッシュが本気で戦うに相応しい唯一無二の存在。

 緑の長髪が爆風によって靡く。ゆったりとしたローブのような飾り気の無い白い衣装を着ており、首から上と手足ぐらいしか露わになっていない。目鼻立ちからして女性のように見えるが、その顔の造形は完璧なまでに整っており人間味を感じさせない人形のような美しさであった。

 その真名はエルキドゥ。クラスはランサーでありギルガメッシュが唯一対等と認める親友。

 神々が創り出した泥の人形であったが聖娼として名高い女性と出会い、共に六日七晩過ごしたことで神と泥を自ら削ぎ落し、それと引き換えに聖娼の姿を模った人間の姿と知性、理性を手に入れた元神の兵器。

 ギルガメッシュと私闘し、互いを認め合い、共に数多の冒険へと繰り出し、最後には死別した無二の朋友。

 それが時代を超えて再び互いの力をぶつけ合う。

 聖杯を奪い合う戦いの初戦にしてはあまりに爽やかな動機による戦い。しかし、それが齎す被害は尋常ではない。

 彼らの初手は砂の大地に大穴を開け、空の雲を全て吹き飛ばす神話の再来のような開幕であった。

 世界を切り裂く森羅万象の一撃と引き裂かれた世界をも繋ぎ止める大地の一撃。星すら畏怖する力の激突は彼らにとって挨拶代わりのもの。

 互いに相手が何も変わっていないと判断したなら次なる撃ち合いが始まる。

『王の財宝』から出し惜しみなく撃ち出される無数の財。ギルガメッシュ本人ですら把握し切れていない程の大量の財が、たった一人の親友へ向けられる。

 対するエルキドゥは足を大地と同化させ、大地を操り無数の触手を造り出す。触手の先端は『王の財宝』を迎え撃つ為に合わせたのか剣や槍や斧という武器の形状となり、ギルガメッシュの宝具を迎撃していく。

 瞬きの間に千を超える武具の衝突は圧巻であり現代に蘇った神話そのもの。たった二柱の英霊が正に戦争と呼ぶに相応しい戦いを巻き起こす。

 その桁外れの光景は当然ながらどの陣営も監視し、戦慄をしていた。二人にとってはただの語らいだが、この戦争に参加している者たちはある者は歓喜、ある者は畏怖し、ある者は危険視。彼らの中の既存の常識を壊すに相応しい埒外の光景であった。

 英霊という奇跡たちの激突に誰もが固唾を呑んでいた。スノーフィールド内の魔術師たち、その魔術師の協会の総本山である時計塔。魔術師たちと対立関係にある聖堂教会等々。静観していた者たちの顔に押し付けるように無視出来ない光景を見せつける。

 規格外の二柱の英霊による戦いを誰もが息を殺しながら早く終わることを祈りつつ観戦する。

 たった一柱の英霊を除いて。

 

 

 × ×

 

 

 繰丘椿の夢の中、彼女の自宅で椿はベッドの中に入りながら目を輝かせていた。ベッドの傍ではライダーが彼女の為に寝物語を聞かせている。

 

「──こうして炎の神獣と聖剣を操る剣士は出会い、彼らの大いなる戦いが始まるのでした」

 

 その言葉で締め、赤いドラゴンと炎を宿した聖剣を振るう剣士が描かれた絵本を閉じる。

 

「ねえねえ! そのけんしさんはどうなるの!?」

 

 話の続きが気になって仕方がない椿はライダーに話の続きを求める。

 

「もう子供は寝る時間ですよ?」

「でも、しりたい! おしえてしじんさん!」

 

 寝かせる為に聞かせていたのだが、返って椿の目を冴えさせてしまった。

 

「困りましたねぇ」

 

 苦笑を浮かべるライダー。不意にその表情から笑みが消える。直後、小さな揺れが家に起こった。

 

「……じしん?」

 

 椿は不安そうに窓の外を見た。窓の外では風に乗って何処からともなくしゃぼん玉が飛んで行き、空ではクジラが泳ぎ、絵本の中でしか見たことがない生物が空を駆け、地面に建っている筈のビルや家が宙に浮いている。

 椿の夢の中のスノーフィールドが幻想小説のような世界に変えられていた。全てライダーが椿を喜ばせる為にやったものであり、実際椿も絵本のような世界に大変喜んだ。

 夜を照らす大きな金色の三日月。その周りでは星屑が輝いている。静かな夜になる筈であったが、遠く彼方の空が明滅すると次の瞬間には轟音が響き渡る。

 大きな音が鳴ると椿は驚き、ライダーにしがみつく。

 

「かみなり!」

 

 ライダーの服を掴んでガタガタと震える。どんな経験を経ていようと椿はまだ幼い。理解出来ない自然現象に恐怖を示す。

 

「かみなり、怖いよぅ……」

「大丈夫ですよ」

 

 ライダーは震える椿の背中は擦って宥める。

 

「雷はすぐに聞こえなくなりますから」

「ほんとう?」

「ええ」

 

 椿に微笑み、彼女をベッドの中に戻す。そして、椿の顔に手を翳すとライダーの力で椿は眠ってしまった。

 これでいい。ライダーは詩人以外の顔を椿には見せたくない。

 

「……騒がしい人たちですねぇ」

 

 ライダーは小さく呟き、自らの宝具を取り出す。

 ライダーの手の中に納まるのは厚みのある一冊の黒い本。硬質的な見た目をしており、本の表紙には金の楕円を囲む二対の角の紋章が描かれてある。

 

『グリモワール!』

 

 夜の静寂を破り、椿を怯えさせる原因に全知全能に近い力を持つ魔導書が向けられる。

 

 

 ◇

 

 

『世界が七度生まれ、七度滅びたように感じた』

 

 そのような錯覚を覚える程の力と力、神秘と神秘、数と量の戦い。全てを巻き込んでしまいそうな力が激突し、その余波で風は竜巻へと変わり、地震のように大地は揺れ、轟雷のような音が響く。

 戦いは佳境に入る。再会の時に発散された熱が、互いの語らいの中で再びその熱を帯びていき、二度目の頂点に達する。

 ギルガメッシュが構えるのは『エア』。剣や槍という武具が存在する以前より在った剣のような武器。エアという名もギルガメッシュが付けた渾名に過ぎず、あまりにも古過ぎるせいでどのような存在かは詳細が分からない。

 天と地を切り裂き、無を空へ、空を無へ帰す開闢の力。ギルガメッシュが振るうことで対人とも対軍、対城とも違う世界を滅する対界宝具となる──乖離剣エア。

 

「宴はまだまだこれからよ! エアよ! お前もまだ謳い足りないであろう!」

 

 初撃の余熱が残るエアがギルガメッシュの呼び掛けに応え、円筒状の刀身が空間そのものをかき回すように回転し出す。また展開している周りの宝具の力を受け、初撃の時よりも強化される。

 

「愉しそうだね、ギル。そんな君を見ていると──嬉しいよ」

 

 大地と一体化したエルキドゥに貯められていく膨大なマナ。

 天は悲鳴を上げ、大地は唸りを上げる。

 天地が叫ぶ中で二人の顔にあるのは笑みのみ。これから天地を引き裂こうとしている者たちとは思えない爽やさがあった。

 その戦いを使い魔を通して観測している魔術師たち。塵芥程度にしか思われず眼中にもない彼らは、これから行われる神話の再現に多種多様な意味で震える。

 

(オレ)に愉悦を与えた褒美だ! 存分に受け取れ!」

「ならすぐにお返ししよう。こういう場合、キャッチ&リリースって言うのかな?」

 

 覇気ある攻撃の宣言に少し惚けたように返す。

 

天地乖離す(エヌマ)──』

人よ(エヌマ)──』

 

 開帳される宝具の名。必殺の一撃が再び衝突しようとし──

 

開闢の星(エリシュ)!』

神を繋ぎ止めよう(エリシュ)!』

《朗読中は……》

 

 ──その瞬間、開いた本の形をした結界が二人を閉じ込め、起こる筈であった破壊が全てその中に閉じ込められる。

 観測していた魔術師たちは啞然とする。あれ程の強大な力が突然消失したのだから。

 

《お静かに》

 

 二つの『創生の叙事詩(エヌマ・エリシュ)』は閉じた本の中に仕舞われ、ギルガメッシュとエルキドゥは気付けば結界の外に締め出されていた。

 本の形をした結界は閉じた状態のまま消えてしまう。二柱の英霊が繰り出した力を取り込んだまま。

 

「注意されちゃったね」

「ふん。王たる我に物申すとは不敬な輩もいたものよ」

 

 苦笑するエルキドゥにギルガメッシュは不機嫌な表情で吐き捨てる。折角、盛り上がっていた戦いに水を差されたのでギルガメッシュも機嫌の変化の落差は凄まじい。

 

「見たことがない不思議な力を使うようだけど、感じた限りでは真面目そうだ」

 

 ついでと言わんばかりにギルガメッシュとエルキドゥの戦闘痕も綺麗に戻しており、無数の宝具で穿たれた大地や焼き尽くされた植物も完全に復活していた。先程まで規格外の英霊たちが戦っていた後とは思えない。

 

「我たちの爪痕を残さず全て拭い去るとは無粋の極みだな」

「そうかい? 僕としては僕らのやらかしを無かったことにしてくれて有り難いよ」

「こんな殺風景な砂漠に申し訳なさを覚えるのはお前ぐらいよ」

 

 傲慢の塊であるギルガメッシュは相変わらず不機嫌なままだが、エルキドゥが戦闘態勢を解除していることから分かるようにギルガメッシュもこれ以上戦う気はない。

 

「久しぶりの再会だったからね。お互いに熱くなり過ぎた。この時代に合わせて言うならテンションが上がり過ぎたってやつかな」

「──まあよい。我も少しはしゃぎ過ぎた。焦る必要もあるまい」

 

 再会した友との戦を一晩で終わらせるのも勿体無い。

 

「焦るべきは数多の雑種共よ。此度の戦、本気となった我が立ち塞がるのだからな」

 

 聖杯戦争の勝者が自分であることを微塵も疑わない。彼にとって他の英霊たちは自分への挑戦者にしか過ぎない。或いは本気になっているからこそいつもよりも寛容になり、大目に見て有象無象を挑戦者として扱ってやっているのかもしれない。

 

「次のお前との戦いまでには無粋な横槍を入れる雑種も消えておろう。お前も森に籠っていないで価値無しと判断したら間引いてやれ」

「そういうことは王様である君に任せるよ」

 

 ギルガメッシュは変わらぬ友の態度に鼻を鳴らし、エルキドゥは相変わらず微笑を浮かべる。

 開戦は嵐のような激しく、終了は夜の静寂に等しい

 誰一人死なないどころか争った形跡すら残らなかった戦い。観測していた者たちは全員何が起こったのか理解に及ばず、狐につままれた気分を味わうのであった。

 

 

 × ×

 

 

 アヤカはベッドの上で仰向けになって溜息を吐く。状況の何もかもが自分を置き去りにして一方的に動くことに疲れを感じていた。

 ひんやりとした空気が流れる完全な個室。ホテルの一室ではない。警察署内にある『ポリスセル』と呼ばれる留置場的な場所である。

 つい先程まで警察官から取調べを受け、延々と単調な質問を繰り返されていたことで精神的に疲労してしまった。

 あのセイバーという男は、オペラハウス内でセイバーと名乗るもう一人の初老の男性と何か会話をし、それが終わると初老のセイバーは消え、その直後に警察がやって来て若い方のセイバーを逮捕してしまった。

 若いセイバーは大人しく逮捕された上に報道されている中で堂々とした演説をし、オペラハウスを破壊してしまったことを謝罪した後に連行された。

 サーヴァントの逮捕、生中継、連行という前代未聞の行動に、それを見ていた聖杯戦争関係者は度肝を抜かれることとなる。

 それの巻き添えで逮捕されたアヤカはこれから先どうなるか、焦燥と不安を覚えながら呟く。

 

「……結局、もう一人のセイバーは何処に行ったんだ?」

「呼んだか?」

「ええっ!?」

 

 個室の中で聞こえたもう一人の声。慌ててベッドから飛び起きるとベッドの傍に初老のセイバーが立っている。

 

「な、な、な──」

「霊体化という奴だ。こうすれば他に気付かれなくなる。便利なものだな」

 

 不意を衝いての登場に二の句が継げなくなるアヤカであったが、暫く呆然とした後に落ち着いたのかようやく言葉が出る。

 

「何でここに?」

「あのセイバーと名乗った若者に頼まれたのだ。『少しの間、俺は離れることになる。その間、彼女を見守ってくれないか?』と」

 

 警官が来ることに事前に気付いていた若いセイバーが、もしもに備えて初老のセイバーに護衛を頼んだことを今知る。

 

「……よくすんなりと受けたね」

「儂もマスターを一人にするのが心配だった」

「だから、マスターじゃないって……」

 

 二人のセイバーを召喚したのはアヤカであったが、彼女自身色々とあったせいかマスターであること拒否していた。

 

「そうか。なら何と呼べばいい?」

「いや、名前なんて──」

「君の名を儂は知らん。自己紹介も無いとなると便宜上マスターと呼ぶしかないな」

 

 マスターと呼ばれることが嫌だったアヤカは渋々といった表情で名乗る。

 

「……サジョウ・アヤカ。サジョウが苗字でアヤカが名前」

「そうか。よろしく頼むぞ、アヤカ」

 

 やむを得ず名乗ったが、関係が一歩前進してしまった感じがしてアヤカは溜息を吐く。

 

「そういうあんたの名前は? 私だけ名乗るなんて不公平でしょ? あいつもセイバーって名乗ってたし、あんたもセイバーでややこしいから」

 

 本当は関わり合いたくないが、本人が言うように不公平に感じたので初老のセイバーの名を訊ねる。

 

「確かにセイバーが二人もいたらややこしいな……うむ、儂のことは『シド』と呼んでくれ」

「シド……?」

「まあ、他に知られても問題はないだろう。そもそも儂はここでは無名に等しい」

 

 略称とはいえ真名を晒す初老のセイバーことシド。英霊にとって真名は自らの弱点を知られる可能性が高いものなのだが、シドは例外であった。

 

「『()()()()』と名乗ったところで首を傾げられるだけだ」

 

 雷神という二つ名を聞かされてもアヤカはピンと来ない。シドの言うように首を傾げるだけであり、そんなアヤカを見てシドは苦笑する。

 

「本来呼ばれたのはあのセイバーだ。儂は彼に引っ張られて召喚されたに過ぎない」

「引っ張られてって……そんなことあるの?」

「そう多くはないだろうな。恐らくは彼の強い想いと儂の何かが結び付いてこのような事態になったのであろう」

 

 特異な状況に対し冷静に分析するシド。長年生きてきた者としての経験豊富な落ち着き方は、アヤカにも伝播し焦燥や不安は遠くへ行っていた。気付けばシドと普通に会話している。

 

「結び付くようなものを持っているの?」

「恐らくは──」

 

 シドが鞘に納めてある自分の剣に目を落とす。

 

「思ったよりも元気そうだ。良かった」

 

 尋問されている筈のセイバーの声が聞こえたと思ったら、いつの間にかシドの隣に立っている。霊体化を既に知っているのでアヤカは二度驚くことはしなかった。

 

「すまない。俺の頼みを聞いて彼女を護衛してくれたことに感謝する。いずれこの礼は何らかの形で返すと誓おう」

「気にすることはない。儂も彼女のことが心配だったので丁度良かった」

 

 もう一人のセイバーというイレギュラーな存在だというのにセイバーとシドは互いに敵意もなく普通に話している。

 

「──さて、色々と話したいこともあるが……先ずは互いに自己紹介から始めよう」

 

 その案に頷くシド。あまり干渉されたくないのにぐいぐいと来るセイバーに顔を顰めるアヤカ。

 一旦離れた者たちが再度合流したのと並行し、彼らが現在居る警察署内にて新たな戦いが始まろうとしていた。

 

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