Fate CROSS strange FAKE   作:N40

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真の侵攻

 アルケイデスの神への反逆もフィリアからすれば不遜な態度と変わらない。そもそも神に逆らおうと考えること自体が彼女にとって罪に等しい。ましてや文字通り弓を引くなど大罪。

 フィリアにとってアルケイデスは復讐者でも反逆者でもなくただの大罪人である。

 そして、大罪人に与えるものは一つ。罰しかない──が、アルケイデスの発言で不機嫌になっていたフィリアはすぐに微笑む。直に手を下すことよりももっと相応しい手段を思い付いたからだ。

 

「──とはいえ私って綺麗好きだから泥に触るなんてごめんだわ。ハルリー、貴女に任せるわ。あの汚い脱け殻を処分しなさい」

「ええっ!?」

 

 アルケイデスの相手をハルリ、つまりは真バーサーカーに全て丸投げする。会話の様子からフィリアがどうにかすると思っていたのだが、急に考えを変えられてハルリは悲鳴のような声を上げた。

 

「臆したか? それとも人の子を顎で使うぐらいしか今の貴様には出来ないのか? 女神の残骸よ」

「顎で使う? ふふふ、面白いことを言うのね。私、一度もそんなことをしたことがないのよ? だって皆、私の為に勝手に尽くしてくれるから」

「傲慢という言葉すら貴様を評するに足りんな」

 

 フィリアはアルケイデスのその言葉にクスクスと愉快そうに笑う。

 

「そんなことを言ったら失礼よ」

 

 意味深な様子で金髪の少年を横目で見る。その行為が何を意味するのか今のアルケイデスには分からなかった。

 

「ほら、私ばかりに気を取られていいの?」

 

 アルケイデスの目の前に佇む真バーサーカー。振り上げられた拳がアルケイデスに向かう。それを弓にて打ち払い、軌道を変える。軌道が逸れた拳は床を叩き、魔術工房全体が悲鳴を上げるように軋む。ダメージは与えられなくとも攻撃を逸らすことは可能らしい。

 体勢が崩れている真バーサーカー。アルケイデスは新たな宝具にて真バーサーカーを討とうとした時、真バーサーカーの体表に青白い火花が走ったのを見た。

 反射的に後退すると真バーサーカーを中心に放電が起こり、眩い電気の輝きが薄暗い魔術工房を照らす。

 体から電気を放ちながら体勢を戻す真バーサーカー。アルケイデスが間合いの外に移動したのを見て息を吸い込み、口から炎に変換させ魔術工房に火を放った。

 アルケイデスが近くにいればアルケイデスを狙い、アルケイデスが離れたら対象を魔術工房に切り替える。自我が無い代わりに機械的に事態に対処する。

 工房内の温度が一気に上昇していく中、バズディロットは乾いていく空気の中でも瞬き一つせずにいた。バズディロットは虎視眈々とマスターであるハルリの命を奪うタイミングを待ち構えている。フィリアと金髪の少年が傍にいる限りその可能性は万に一つ以下。しかし、その程度のことバズディロットが諦める理由には何一つならない。

 

『この魔術工房は破棄する。全力を出して構わん』

『──魔力結晶を失うことになるが?』

 

 アルケイデスは自分にとっての燃料である魔力結晶の消失を懸念する。それが無ければ全力を出してもすぐに力尽きる。

 

『問題無い。装置も魔力結晶も量産可能だ』

 

 魔術工房を展開した時点で部下たちは結晶ごと退避している。

 

『出し惜しみするぐらいなら全て使い尽くす。安心しろ。まだ他拠点の魔力結晶は十分貯蓄してある。お前は思う存分暴れろ』

 

 魔力切れという憂いを無くし──元から握っていた訳ではないが──アルケイデスへの手綱を放す。

 ここから先は全てアルケイデスに任せる。いずれはフランチェスカ。オーランド、ファルデウスに知られるだろうが、後始末や秘匿などはそれらが勝手にやってくれる。

 許可を得たアルケイデスは言われた通り出し惜しみなくその力を解放する。

 

「──『射殺す百頭(ナインライブズ)』」

 

 弓から放たれるのは武技の極致。いつ射ったのか分からない矢が九頭を持つ毒蛇或いは邪龍となって真バーサーカーを喰らおうとする。

 直前まで魔術工房に火を点けていた真バーサーカーは、命中する時になってようやく視線をそちらへ向けた。その時には生物のように軌道を変えた九頭の牙により貪られるようにその全身が呑み込まれる。

 

「バーサーカー!?」

 

 無抵抗のまま喰われてしまった自分のサーヴァントに悲鳴染みた声を出してしまうハルリ。九の矢からなる邪龍は欠片一つ残すまいと球状になって真バーサーカーを囲むが──フィリアだけは余裕に満ちた表情で嘲っていた。

 

「馬鹿ね」

 

 次の瞬間、九頭の邪龍は内側からの力に負けてバラバラに弾け飛ぶ。中にいた真バーサーカーはやはりというべきか無傷であった。

 

「ダメじゃない。もっと本気を出さないと。その程度じゃその子は殺せないわよ? ──せめて()()()()()()がないとね」

 

 アルケイデスを煽るフィリア。だが、その言葉には煽りだけではない含ませたものもある。

 

「貴様……」

 

 復讐に思考を支配されてもかつての知恵を持っているアルケイデスは、フィリアの言葉に真バーサーカーを倒すヒントに気付く。同時にそれに気付くことこそがフィリアの真の目的だと察し、屈辱で震える。

 アルケイデスは弓を構えるのを止め、弓を徐に持ち上げると自らの象徴とも言うべきそれを躊躇無く真バーサーカーへ投げつけた。

 空気の壁を裂いて飛んできた弓を、真バーサーカーは虫を払うかのように容易く打ち払おうとする。真バーサーカーの視線が弓に注目していた刹那の間、超人の踏み込みで真バーサーカーへ接近したアルケイデス。

 弓を打ち払うタイミングに合わせ、真バーサーカーの顔に拳を叩き込む。

 生々しい音が魔術工房内に響き、真バーサーカーが地を滑りながら後退させられた。その顔には殴打された痕が残り、口から鮮血が垂れている。

 

「バーサーカー……!?」

 

 今までアルケイデスの攻撃に怯むどころか全くダメージが無かった真バーサーカーが初めて血を流した。ハルリは衝撃と動揺を同時に受けているが、フィリアは上品に口を隠しながら静かに笑っている。

 

「思っていたよりも理解が早いじゃない」

 

 口では褒めているが、アルケイデスからすればそれは罵倒に等しい。

 血が滴る程に握り締められたアルケイデスの拳。そこにバンテージのように巻き付けられているのは『戦神の軍帯』。

 真バーサーカーにダメージを与える唯一の手段。それは万能の力を帯びた攻撃。アルケイデスはこうなるようフィリアに誘導されたことに強い憎悪を抱く。

 

「神の力を捨てたのに、神に縋るなんて滑稽ねー? でも、ある意味では()()()()()()()()()()?」

 

 全ては神への復讐者であるアルケイデスを虚仮にする為。

 神の力を蹂躙し、捻じ伏せ、自らの腕で支配するという考えを持つアルケイデス。だが、それが分かっていても神の力に頼らざるを得ないこの状況に怒りと憎しみが無限に湧き立つ。

 

「──笑いたければ笑えばいい。所詮この身は道化だった男の残骸だ。だが、笑っていられるのは今のうちだけだ。この憤怒と憎悪が貴様を尽く蹂躙し尽くす……!」

 

 屈辱を甘んじて受け、それすらも復讐の糧とする。

 

「はいはい。そうやって小賢しく自分を納得させるといいわ。そういうの得意でしょ? 人間は」

 

 翳りが見えないアルケイデスの復讐心を鬱陶しそうに受け流しながら皮肉を返す。目的を果たしたフィリアはハルリに囁く。

 

「もういい加減ここを更地にしちゃったら?」

 

 未だにフィリアのことを信じていいのかはっきりと決断出来ないハルリだが、魔術工房を破壊するという点だけは間違いなく彼女の意思。真バーサーカーに強く念じるとハルリの意思に応じて真バーサーカーが動き出すが、やはりその前にアルケイデスが立ち塞がる。

 

「私の祝福(呪い)とお前の祝福(呪い)。共食いをさせるのも一興だな」

 

 アルケイデスは『戦神の軍帯』を巻いた手を握る。拳を作ったように見えるが、しっかりと握り締められていない。何か握るように隙間が開いている。

 ハルリは空を握るアルケイデスのその手にありもしない棍棒を幻視した。アルケイデスの構えが無い物を鮮明にイメージさせる。

 アルケイデスは弓の名手であるがそれだけではない。時には棍棒を振るって様々な障害を打ち砕いてきた。

 その手に握り締める棍棒は無いが、そんなことは些末な問題。体に染み付き、魂に刻まれた経験が得物を変えても絶技となって再び放たれる。

 

「『射殺す百頭(ナインライブズ)』ッ!」

 

 棍棒を振るう動作から繰り出される九の拳打。それを迎え撃つように真バーサーカーは魔力を纏わせた後ろ回し蹴りを放つ。

 

 

 × ×

 

 

 時はフィリアとハルリが食肉工場を訪れる前まで戻る。

 自分の詳細を語らぬまま聖杯戦争参加者としてセイバーたちと接触する形となってしまったシグマ。

 セイバーからいきなり同盟の提案をされたが、シグマはそこまで相手を信用してはいなかったので不戦協定という形で同意した。

 偽アサシンはその間沈黙を保っていたので何を考えているのかは分からない。ただ、セイバーたちと共に行動はしているが足並みを揃えている訳ではないらしいので引き続き警戒が必要である。

 その時、ファルデウスから連絡が入る。

 シグマは無言でウォッチャーに目配せをした。蛇杖の少年は「あっちがオススメだよ」と言いながら杖で比較的安全な場所を差す。

 シグマはファルデウスとの繋がりをセイバーたちに話していない。自分の英霊についても詳細を語っていない。何処に潜んでいるか分からない偽アサシンに会話の内容を聞かれたら裏切り行為と判断され、即座に処断されるかもしれないので目や耳が届かない場所へ行き、応答する。

 

「……何かありましたか?」

『ただの定時連絡です。急を要するものではありません』

 

 通信機の向こう側から聞こえるファルデウスの声。相変わらず事務的な口調だが、心なしか声に張りが無く聞こえる。些細な変化だが、それが隠せない辺り調整役として色々と苦労しているのかもしれない。

 

『それに英霊の召喚は成功したという報告がまだだったので』

 

 シグマはウォッチャーのことについて詳細を知ってから連絡をするつもりであったが、現状、ウォッチャーについて殆ど知っていないのとその特異性から連絡を入れるのを先延ばしにしてしまい、ファルデウスの方が痺れを切らしてしまった。

 

「……チャップリンです」

『……はい?』

 

 ファルデウスの困惑した声。『この人もこういった人間らしい部分はあったのか』とシグマはファルデウスへの印象を改めた。

 

『……すみませんが、もう一度言ってください』

「ランサーのチャーリー・チャップリンです」

 

 シグマは予め用意していた答えをもう一度言うと通信機の向こう側のファルデウスは絶句する。

 

「よりにもよってチャップリンとは……」

 

 会話を聞いていた船長が失笑している。シグマの中で最初に思い浮かんだ偉人がチャップリンだった。何度か彼の喜劇映画を見ているせいでもある。内容は好ましいし、感心もする。ただチャップリンの喜劇でシグマは笑ったことはない。そもそも生まれてから一度も心の底から笑ったことはない。シグマの心は笑うという単純な行為が出来ないくらい乾いていた。

 

「交流を何度も試みていますが、その度にジョークやユーモアのある皮肉で話をはぐらかされました。どうやら英霊として召喚されたせいで、そのようにしか振る舞われないようです」

 

 架空の英霊チャップリンにそれらしい設定を付け足す。追求されたらボロが出るのが分かっているのでまだ何も分かっていないという嘘を吐く。

 

「現段階では宝具も分かっていません。令呪により強制的に聞き出そうか考えましたが、温存すべきと判断しました」

『貴方のサーヴァントといい、私のサーヴァントといい……』

 

 ファルデウスがブツブツと小声で何か呟いている。ひどく疲れた様子の重い声であり、内容は聞こえないが頭を抱えているファルデウスを幻視した。

 果たしてこの状態のファルデウスにセイバーが二人とそのマスター、そして偽アサシンを寝泊まりさせていると報告するのは得策だろうか、と判断に迷う。

 

「実は──」

『──分かりました。貴方のサーヴァントについてもう少し詳細を知りたいので使いを送ります』

 

 吹っ切れたかのようにファルデウスは一方的に告げた後、通信を切ってしまう。そのせいでセイバーたちのことを報告しそびれた。

 

(……大丈夫か?)

 

 敢えて隠した訳ではない。向こう側から切られたので報告するタイミングを逃しただけ。しかし、わざわざ使いを寄越すと言った時点でファルデウスはシグマに不信感を抱いている可能性が高い。その上で──意図していないが──情報の秘匿がバレてしまったらファルデウスはシグマを切り捨ててもおかしくない。

 

(もう一度通信を入れた方がいいか? いや、いつまでもこうしていたら不審に思われる)

 

 ファルデウスのことを気にしつつ、何処に潜んでいるか分からない偽アサシンの目にも注意しないといけない。

 

「……ふぅ」

 

 今後の立ち振る舞い方を考え、シグマは溜息を零す。

 

「──小僧」

 

 船長がそんなシグマを気遣ってか声を掛けてきた。

 

「先に謝っておくぞ。すまんな」

 

 船長の急な謝罪にシグマは訝しむ。船長が絡繰り仕掛けの翼の青年に変わる。

 

「まさか、短時間とはいえウォッチャーが見逃すなんてね……」

 

 驚きを露にした言葉。シグマは嫌な予感を覚える。

 

「まずは何もしない方がいい。……この相手は嫌な感じがする」

 

 蛇杖の少年の警告。何も分からないまま言葉の意味を問おうとした時、それはいきなり目の前に出現する。

 

「お前がシグマという小僧か?」

 

 正面に立っているのに声を掛けられるまで反応が出来なかった。サーヴァントを認識してようやく体が条件反射で拳銃を抜く動作に入ろうとする。しかし、この状況では誤作動と変わらない。

 抜けば攻撃される。シグマは長年染み付いた動きを自ら止め、目の前のサーヴァントに攻撃をする意思はないことを示し、向かい合っているファルデウスのサーヴァント──真アサシンの扉間に内心では驚愕しつつ素直に首を縦に振る。

 

「ファルデウスの奴め……ワシに仕事を頼んでおきながら更に仕事を押し付けてきおったな……仕方なくここへ来た」

 

 扉間は開口一番ファルデウスへの不満を吐く。

 

「仕事というと──」

「すぐに終わる……貴様の召喚した英霊を一目見たならな」

 

 英霊チャップリンという噓は思っていたよりもファルデウスの不信感を買ってしまったらしい。或いは人手に余裕があるから調べに来たのか。

 

「それは……」

「早くしろ。……他の英霊に気付かぬ前に」

 

 扉間がセイバーたちのことを既に把握していることに焦る。結果として隠すような形になってしまったが、理由はどうあれセイバーたちの報告をしていないのは裏切りと見なされ、この瞬間にも扉間はシグマの命を断ってもおかしくない。

 

「お前があの()()()()と何故行動しているのか問わん。ワシが命じられたのは英霊のチャップリン?という奴を確認することだけだからな」

 

 冷徹そうに見えた意外と温和な対応をしてくれる。

 

(……ん?)

 

 今の扉間の台詞にシグマは引っ掛かる部分があった。

 

「もう一度言う。貴様の英霊を見せてみろ」

 

 それについて深く考える前に扉間からの圧がシグマへ掛かる。シグマの汗腺が全て開き、そこから冷たい汗が滲み出てくる。指先は震え、冷たくなっていく。それに反して心臓の鼓動は早まっていく。シグマは無表情を貫いていたが、肉体と精神は扉間からの圧で悲鳴を上げている。外面だけでも取り繕えるだけ大したものと言えた。

 

「小僧。もう少し耐えろ。そうすれば事態は動く」

 

 船長はこの状況を打破する何かがあることを示唆する。しかし──

 

「……今、何か妙な感じがしたな。貴様、何かしたか?」

 

 シグマの脳内にしか投影されない筈の影法師に対し、扉間は見えないながらも『感知能力』により何かを感じ取っていた。

 

「ここまでしても一向に英霊を見せん。チャップリンという奴はそれ程までに薄情なのか? ……それとも()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 シグマの不審な行動からウォッチャーの存在に勘付き始める。

 

(このままでは不味い……!)

「おい」

 

 焦るシグマに掛けられる鉄のような声。

 

「いつまで棒立ちになっている、馬鹿が」

 

 ロールシャッハがそこに立ち、冷めた眼差しでシグマを見ていた。

 

「取れ」

 

 変動するマスクが見るのはホルスターにある拳銃。

 

「撃て」

 

 静かながらも怒りを孕んだ声。シグマが何もしないことに、抵抗しないことにロールシャッハは侮蔑と怒りを露にしていた。

 撃てば死ぬかもしれない状況。遠回しにシグマに死ねと言っているようなもの。

 しかし、シグマはロールシャッハが怒りを抱いていても殺意まで持っていないように感じられる。行動しろ、と暗に言っているように思えた。

 扉間はまた妙な気配を感じ取ったのか眉間に皺を寄せている。

 シグマは扉間が見ている前で拳銃のグリップに触れる。

 

「──下手な真似はするな、小僧」

「位置が気になっただけだ」

 

 シグマの露骨な噓に扉間は呆れた表情になる。

 

「噓を吐くならもう少しマシな噓を吐け」

 

 警告というよりも注意のような言葉。サーヴァントであるので拳銃程度に身構える必要もない。仮に効くとしても扉間からすれば容易に回避出来る距離である。

 

「本当に気になっただけで──」

 

 直後、銃声が鳴る。ホルスターに入れたままシグマは引き金を引いていた。

 

「すまない。暴発した」

「何をやっている貴様は?」

 

 分かり易い噓に白々しい噓を重ねるシグマ。今の銃声でセイバーらに異常を伝えたのは扉間には分かっていた。しかし、セイバーたちがこちらに来るまで僅かだが時間はある。その僅かな時間に賭けたのならシグマの行動は随分と御粗末な──

 

「『狂想閃影』」

 

 壁を突き破って伸びる黒髪。刺突と斬撃の連携に扉間はやむを得ずシグマから離れた。

 

「貴様は……」

 

 斬り刻まれた壁から飛び出すのは偽アサシン。扉間を見て一瞬目を見開く。だが、すぐに追撃の『狂想閃影』が扉間に這い寄る。

 それらを苦無で弾きながら躱していく扉間。その間に偽アサシンはシグマの傍にまで来ていた。

 

「あれは貴様の英霊ではないのか?」

「違う。事情は後で説明する」

「──逃げようと思わないことだ」

 

 シグマに釘を刺しておき、偽アサシンは扉間への攻撃に集中する。

 

(ワシとしたことがしくじったわ……!)

 

 偽アサシンの存在に気付けなかったことに扉間は内心舌打ちをした。

 屋敷に潜入する前に感知した時にはセイバーとシドの確認は済ませていた。しかし、『気配遮断』を持つ偽アサシンはその感知から逃れていた。セイバーとシドの存在感が『気配遮断』で存在が薄まっていた偽アサシンを偶然隠していた。

 とはいえ偽アサシンもシグマが発砲するまで扉間の存在に気付けなかった。本来の聖杯戦争ならまずあり得ない二柱のアサシン。お互いが持つ『気配遮断』のスキルが出会い頭の事故のような対面を起こした。

 触手のように伸びながら剣や槍のように振るわれる偽アサシンの髪。隙間を抜け、苦無で防ぎ、無数の手数を捌き続けていく。

 しかし、それでも限界が来たのか横薙ぎの一撃を受け、窓ガラスを突き抜けて外へ飛んでいく。

 すぐに追う体勢に入る偽アサシン。その時、動かしている髪に僅かな違和感を覚える。違和感のある髪を偽アサシンは注視する。

 硬質化した髪の先に突き刺さった一枚の札。偽アサシンは紙一枚分の重量の変化にも気付いていた。

 今の攻撃の中でいつの間にか扉間が刺したと思われる札。その時、偽アサシンの耳は小さな音を捉える。

 ジジジ、という導火線に火が走るような音。偽アサシン側から見えないが、札の中心には『爆』という文字が描かれており、音は『爆』の周りに描かれている文字が燃えている音であった。

 不味い、と偽アサシンが感じた時、火は『爆』の字に辿り着き、『爆』の字が光を発した直後に札が爆発した。

 

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