Fate CROSS strange FAKE 作:N40
飛び散る血飛沫の上に更なる血飛沫が掛かり、どちらのか分からない血が濃く染み込んだ大地は捲れ上がっていく。
アルケイデスと真バーサーカーの戦いにより周囲は壊滅し、二人の衝突の凄まじさによって大地が沈んでいく。
一見すると互角の戦いに見えるが、アルケイデスの傷は増えていくが真バーサーカーは傷を負うとその都度再生している。時間が掛かれば負傷の具合からしてアルケイデスの不利──という訳でもない。
真バーサーカーの方は魔力の消費が大きく、今も傷の再生に魔力を消費している。再生は自動で行っており、真バーサーカー自身にそのオンオフは出来ない。ハルリが命じれば自動再生は止まるが、自動再生自体をハルリは知らなかった。
魔力の消費による影響はまだハルリには現れていない。真バーサーカーには自力で魔力を回復させる能力を内蔵しているのだ、ある程度ハルリの負担を軽く出来る。しかし、生み出せる魔力の量は消費を下回っているので、時間が掛かれば魔力の消耗により自滅する危険があった。
傷をどれだけ負ってもパフォーマンスに影響を及ぼさないアルケイデス。機械のように与えられた動きを続ける真バーサーカー。どちらが勝利してもおかしくないバランスの上で二人は命を削り合う。
しかし、そんな戦いにも変化は訪れる。いつまでも食い下がってくるアルケイデスに対し、真バーサーカーは危険な存在と認識。確実に排除する為に切り札の一つを発動することを自動的に決断する。
何度かになる相討ちで両者は突き飛ばされ、間合いがあく。
真バーサーカーは両腕を交差させる。全身の紋様が輝きを放つと地面から火の粉のような光が噴き出す。両者の間に生じる地面の亀裂。その亀裂からは魔力の光が今にも溢れ出そうになっていた。
アルケイデスはこの時攻撃ではなく後退を選択。本能的に巻き込まれたら危険だと察知していた。
しかし、アルケイデスの足元には既に大地の亀裂が伸びている。
真バーサーカーが全ての力を解き放とうとした時──
「螺湮城は存在せず、故に世の狂気に果ては無し!」
頭上から響く少年の声と同時にアルケイデスと真バーサーカーは落下した。突如として出現した奈落の穴に吸い込まれて。
フィリア、ハルリ、バズディロットはその光景を目撃していた。
「何で? 急に? 穴が……?」
「何、この魔力の気配は……? ミケーネの居候連中の系譜?」
フィリアは異変前に不穏な魔力の気配を感知しており、不愉快そうに眉をひそめている。
「私の前でこれだけ派手なことをやるなんて生意気じゃない! 世界のテクスチャを騙すなんて真似してくれて……!」
口は笑みを作っているが目は笑っていない。一歩間違えれば自分も巻き込まれていたかもしれない。穴に近付こうとすると自身の周囲に満ちた魔力が途端に薄れていく。世界への幻術がフィリアにも影響を与えており、その事実がフィリアの気分を害する。
「ッ! バーサーカー!」
まだ魔力のパスが繋がっているのは感じる。しかし、地球の中心にまで繋がっていそうな穴。しかも、大魔術と思われる力で創造された穴で何処まで繋がりが保てるのか保障はない。
バズディロットは眉一つ動かさないまま地面に出来た穴を見ていた。その無表情からは何も情報は得られない。ただ、フィリアとハルリと違って穴の近くにいるせいで真キャスターの宝具の影響が強く、スーツの袖から刺青のようなものが這いだし、皮膚の上で生物のように蠢いている。彼の体内に収めている『泥』が魔力の使用を抑えられてしまったことで宿主に牙を剥いており、それを制御しようとしている。
「──どういうつもりだ、キャスター?」
この事態を引き起こした元凶を知っているバズディロットは何もない空間に向けと問う。すると、バズディロットの隣に真キャスターが音もなく現れる。
「いやいや。どういうつもりとかじゃないでしょ? 聖杯戦争を恙なく進める為の必要な処置さ。君だって聖杯戦争を全うする為に来ているんでしょ? あんな化物同士をぶつけさせあっていたら、ファルデウスの胃が何個あっても足りないよ! あーあ、可哀想なファルデウス君。胃どころか他の内臓にもストレスの影響が出てそう!」
そろそろ頭髪にも来るんじゃないかな、と心配しているというよりも面白がっている。
「……」
「無視? ノリが悪いなぁ。でも、バズディロット君は簡単にキャラを崩すタイプじゃないから仕方がないか」
目は合わせているが真キャスターの言葉には全く反応を示さないバズディロット。冷徹な眼光を浴びせられても真キャスターは愉快そうに笑っている。
「そこの御二人さんも降りて来なよ。話をしよう」
「嫌よ。貴方が来なさい」
「じゃあ、そうするね」
バズディロットの隣に居た筈の真キャスターが逆さまの状態でフィリアたちの前に居た。幻術、それもいつ掛けられたのか分からないハルリは混乱しつつ、いつでも使い魔の蜂を飛ばせる準備をする。
「そう警戒しないでよ。僕は味方だよ? 君たちの味方だ。同時に人間の味方だし、神様の味方だし、魔獣の味方だし、魔術師の味方だ」
「八方美人は疎まれるわよ?」
「八方どころか多方面さ。さっきも言ったように僕は皆の味方だからね」
真キャスターを全く信用していないフィリア、そんな彼女の視線も愉しそうに受け止める真キャスター。ハルリはどうすればいいのか分からず二人の交互に眺めることしか出来ない。
「そう、僕は皆の味方だからまだスノーフィールド八十万人を殺したくないんだ。君たちとは違って」
真キャスターが手を打ち鳴らす。すると、大穴を囲うように年齢も人種も異なる人々が数え切れない程現れた。真キャスターの言葉を信じるなら八十万の人間を幻術として召喚されたことになる。
ハルリにはそれが幻には見えなかった。何故なら八十万の人間たちはそれぞれ独自に動いており、自分の置かれている状況に戸惑っているリアクションをしている。本物の人間をここへ連れて来たようなリアルさがあり、もしこれが真キャスターがリアリティを出す為にさせているのなら悪趣味極まりない。
「ほら。こんなにも多くの命が溢れているんだよ、スノーフィールドには」
「──まあ、私としても命を無駄にするのは好ましくないわ。これでも人間をちゃんと守ってあげるつもりだし」
真キャスターに同意を示しながらも「でも」と続ける。
「あの二人はどうでしょうね?」
フィリアは穴の方を見る。真キャスターとハルリも釣られてそっちを見た。
その直後に穴から飛び出してくる赤黒い九頭の蛇と無数の光弾。高く上昇していったと思えば反転して地上へ降り、そこからは地獄絵図であった。
真キャスターが映し出したスノーフィールドの人々の幻影が地を這う蛇によって虐殺されていく。悲鳴も絶叫も呪いと毒に満ちた蛇に呑み込まれて腹の中に消えていく。
頭上から降り注ぐ光弾も人々を貫き、縫うようにして飛び交う。
「……っ!」
ハルリには少々刺激が強過ぎたらしく蒼褪めた顔をして顔を背ける。或いは足元の光景が彼女のトラウマを呼び起こしたのかもしれない。犠牲になっている者たちには明らかに家族と思われる者たちもいた。
「えぇ……穴の中でまだ戦っているの? 戦闘狂っていう奴? 僕、そういう狂気はちょっと趣味から外れるんだよねー」
穴の中での争いが外に漏れ出していることに呆れる真キャスター。
「貴方が危惧していることが分かり易くなって良かったじゃない」
「いや、そういう趣向も有りだけど、今じゃないタイミングでされても困るんだよー。しかも、僕の演出じゃなくて向こうのアドリブだし」
狂気に満ちた惨劇は嫌いじゃないが、それを勝手にされると少しだけ悔しい思いも過る。
「あー。どうせなら僕がやりたかったなー。僕ならもっと細かい所を拘るのにさぁ!」
真キャスターがもう一度手を鳴らすと虐殺されていた人々は霞のように消え去る。後には破壊の跡のみが残った。
「──まあ、こういうことを僕は望んでいないという訳で。だから、ここは大人しく引いてくれないかな?」
気を取り直して真キャスターはフィリアたちに頼む。
「い──」
「『嫌よ』っていいたいのは分かるよ、うん、分かる。自分で言うのも何だけど僕って詐欺師っぽいからペテンにかけられているようで気分がよろしくないんでしょう?」
フィリアの拒否の言葉を先回りして奪うと、フィリアは無言で鏃のような魔力を真キャスターへ飛ばす。真キャスターの体は魔力により貫かれるが、貫かれた箇所は煙のように実体は無く、すぐに戻ってしまう。
「じゃあ、言葉を変えてここは公平に取引といこう」
フィリアに攻撃されたことなど意に介さず話を続ける。
「昔、口の悪い民衆に『悪魔』だなんて呼ばれた……この僕とね」
真キャスターは軽口のつもりだったのだろうが、その台詞を聞いた瞬間にフィリアは真顔になる。そして──
「フフ、フフフ……アハハハハハハッ!」
フィリアは腹を抱えて笑い出す。真キャスターの言っていることの何がそんなに可笑しかったのか。真キャスター自身も然程面白いことを言ったつもりはなかったので、フィリアの反応に怪訝そうにしている。
「ウフフフ……間が良いんだか、悪いんだか……」
「あのー、参考までに聞かせて欲しいんだけど。何かウケるようなことを言ったかな? 女神様をそこまで笑わせられるなら、一生もののネタになりそうなんだけど」
笑わせているというよりも笑われているという感覚。真キャスターは何故そうなったのか好奇心から聞きたくなった。
「私が笑った理由? 簡単よ。
フィリアは見下すような笑みのまま真キャスターに答える。
「彼に会ったら貴方、赤面ものよ?」
× ×
『ハルリさん……貴女は一体、何を喚び出したんですか……?』
扉間の目を通してスクラディオ・ファミリーの魔術工房及び周辺の工場が全壊させられた光景を目撃したファルデウスは、扉間が聞いていることを忘れて思わず独り言を言う。
「……さてな。厄介な相手なのは間違いないが」
扉間は目を細めて拾える情報全てを頭に入れる。
ハルリの真バーサーカーはアルケイデスと真正面から戦える戦闘力を持つ。武器などを使用せず己の肉体のみで戦う、ある種の潔ささえ感じる。
扉間は頭の中で真バーサーカーと戦うシミュレーションを行うが、どんなに攻めても勝ちのイメージが湧かなかった。
「手強い敵になるかもしれん」
扉間は真バーサーカーが神の力のみ通ることをまだ知らない。しかし、真バーサーカーから発せられる何かを直感で感じ取っており、このまま戦えば負けることを予感していた。
いざという時はアサシンらしくマスターであるハルリを狙うことになる。扉間自身気は乗らないが、だからといって躊躇う程甘くは無い。既に選択肢の一つに入っている。
「──まあ、そうなった時はあの娘が障害になるだろうな」
ハルリの傍にいるフィリアを睨む扉間。人間離れした雰囲気を持ち、得体の知れない気配を放っている。
扉間は以前に同じ気配を感じ取ったことがある。ギルガメッシュとヒッポリュテが放っていた気配に似ているが、フィリアの気配はその二人よりも濃い。
「何者だ? あの娘は?」
『アインツベルンのホムンクルスと見て間違いないようですが……』
「そのホムンクルスとやらは、どれもこれもああなのか?」
『……少なくとも私は前例を知りません』
ファルデウスにとってもフィリアの存在は謎であり、同時に胃を痛める存在だと薄々思う。
しかし、それよりも遥かにファルデウスの胃を痛めることがある。
『……やってくれましたね、フランチェスカさん……』
工場地区があった場所に生じた巨大な穴。何万という人間を動員して何十年もの月日をかけて造るような大穴。地盤沈下や事故などでは片付けられない神秘の晒し者であり、それを隠匿するには絶望的に時間が足りない。
昔と違って今は宇宙にも人の目が存在する。国や民間の人工衛星がこれを発見すれば瞬く間に秘匿すべき神秘が人々の間に情報として行き渡るだろう。
それが齎す影響を容易く想像ができ、ファルデウスは頭痛を覚える。
「いっそのこと始末するか?」
『……こんな時に言わないで下さい。反射的に『はい』と言いたくなりますから』
「そうか」
慰めか本気かは分からないが、扉間のフランチェスカ暗殺は精神的に疲れているせいで恐ろしく魅力的に聞こえてしまった。
監視の任務を終えた扉間はファルデウスからの次なる指示を待つ。
『……ちょっと待っていてください。……フランチェスカさんから通信が入りました』
× ×
コールズマン特殊矯正センター内に響くコール音。ファルデウスは溜息を一つ吐いてから応答する。
「……今、忙しいのですが?」
『ヤッホー! 開口一番がそれなんてよっぽどストレスが溜まっているねー?』
フランチェスカの毒を含んだ愛らしい声が通信機の向こう側から聞こえる。十人に聞けば十人が可愛らしい声と評するだろうが、ファルデウスからすれば癇に障る声でしかない。しかも、心なしか普段よりも声が弾んでいる気がする。後始末に追われているこちらを面白がっているからだとしたら殺意が漏れ出そうになる。
『きっと仏頂面しているファルデウスに朗ほーう! モニターに注目ー!』
ファルデウスはモニターを見る。すると、映し出されていた巨大な穴が消え、それどころか破壊し尽くされた建物も復活し、蹂躙された大地が蘇っていく。
「これは……」
『少しは仏頂面はやわらいだかなー? 私からサプラーイズ! どう? どう?』
何となく思っていたが、やはりフランチェスカは機嫌が良さそうに思えた。こちらを揶揄う声に喜と楽が滲み出ている気がする。掴みどころのないフランチェスカだからこそ相手に感情を悟らせるような真似が珍しく、そして不気味に思える。
「……どうもこうもありませんよ。一体、何をしたんですか?」
『ただの幻術だよー? 英霊になったおかげか荒地を雪山に変えるのよりももっと凄いことが出来るの。私の宝具って素敵でしょ?』
確かに凄いが素直に褒めたくなくなるのはフランチェスカのキャラのせいか。
『あー、そうそう。あそこで喧嘩していた人達は、何でか知らないけど急に喧嘩を止めちゃったよ。何でだろうね? 不思議だね? やっぱりあれかな? 愛の力! ラブでピースなんて素敵だよねー!』
よくまあここまでの戯言を口から吐けるものだとファルデウスは逆に感心する。逆の立場だったら、こんな白々しい台詞は一生ものの恥としていただろう。
フランチェスカのあからさまな嘘を真面目に取り合うつもりはない。マスター間で何かしらの取引をしたと考えられる。
『そうだ。言い忘れていたんだけど。上手くカモフラージュしているけどあれは結局幻術だからね。触れもするし、住むことも出来るし、何だったら魔術工房としての機能も生きているけど、それでも幻術! 5日後ぐらいには世界が騙されていることに気付いて解けちゃうから、それまでに隠蔽工作をよろしくね?』
実際は問題の先延ばしだったことを告げられ、ファルデウスは絶句してしまう。
『あーもしかして私が全部やってくれると思った? ダメだよ! そんな甘い事考えちゃ! 最後の最後には私と君は敵同士なんだからね? それを忘れちゃいけないよ?』
フランチェスカを一度たりとも味方側だと思った事がないファルデウスにしてみれば、フランチェスカが言っていることが煽りにしか聞こえない。今からでも扉間の提案を再考しようか本気で思ってしまう。
「……貴女には存在価値があるので手は出しませんよ──今は」
× ×
「つばき様ー! 待ってー!」
「こっちだよ! カリュ君!」
花が咲き誇る自宅の庭で追いかけっこをする二人。微笑ましい光景に思えるかもしれないが、白い怪物が少女を追い掛け回す絵面は襲われて逃げている様にしか見えない。
偽ライダーが椿の新しい友達として連れて来たカリュブディス。最初はその外見に驚いたが、カリュブディスの無邪気な様子に椿もすぐに心を許し、今では楽しそうに遊んでいる。椿からすればカリュブディスは大型犬のようなものであった。
カリュブディスと戯れながら椿は手を振る。
「本当に楽しそうだね、椿ちゃん」
それに応えて手を振り返す白髪の少年。彼はカリュブディスが現れる少し前に椿の前に現れた。
椿はそんな少年に特に疑問を持たず、友達として快く迎え入れた。
「ジェスター君もおいでよー!」
椿は好意で白髪の少年──ジェスター・カルトゥーレを遊びに誘う。その瞬間、無邪気に戯れていたカリュブディスの視線がジェスターを射抜く。ジェスターという存在に微塵も気を許していない証であった。
そんなカリュブディスを挑発するようにジェスターは遊びの誘いに乗ろうとするが──
「その前に彼と話をさせてくれませんか?」
──後ろから伸びてきた手がジェスターの肩を掴む。
「しじんさんと?」
「すぐに済みます」
「うん! わかった!」
偽ライダーは椿を安心させるように微笑み、椿もそれに従う。
「僕に話って何だい? 詩人さん?」
「気安く呼ばないでくれますか? 彼女が貴方を友人と思っていなければ今すぐにでも消滅させてあげますよ」
偽ライダーは上辺だけ微笑みながら、その目は絶対零度の殺意を込め、ジェスターもその殺意を受け止めながら嗤う。
楽園のような世界で人智を超えた怪物同士が睨み合う。