Fate CROSS strange FAKE 作:N40
警察署内署長室。そこではオーランドが一分一秒を惜しむようにせわしなく働き続けている。警察としての通常業務は勿論のこと、常に問題が起きる聖杯戦争についての監視、報告、情報などに目を通している。
ついこの間英霊たちが戦ったばかりで警察署内を破壊されても警察官に休みなど無い。当然ながら魔術師としての休みも存在しない。
オーランドは一枚の報告書に記された内容を訝しむ。スクラディオ・ファミリーの魔術工房がある工場地区で行われた戦闘についての報告であった。
半神の大英雄であったアルケイデスと戦ったのは真バーサーカーであり、その真バーサーカーについての情報が幾つか書かれ、アルケイデスと互角に戦っていたと記されている。また、真バーサーカーのマスターについても書かれており、マスターがハルリだということも既に分かっていた。
ハルリはこの戦闘が行われる前、スノーフィールドの街を堂々と歩いていたことが報告されている。尤も、堂々と歩いていたのはアインツベルンのホムンクルスと思われる女性でハルリはその後ろを付いて歩いていただけ。そして、ハルリは十にも満たない金髪の少年と一緒に行動していたことも分かっている。
アインツベルンのホムンクルスについての詳細な情報は無く、何故ハルリと共に行動しているのかは不明。また金髪の少年についても同様であり、ハルリの傍には正体不明の人物が二人もいる。
早急に調べる必要があるが、人材に余裕が無いので報告書を睨むしかない。
アルケイデスと真バーサーカーの戦いは付近の住人たちにも被害が及ぶと思われたが、フランチェスカのサーヴァントが介入することは最悪の事態は免れた。フランチェスカに借りを作る形になったのは少々癪だが、人命救助は最優先すべきことなので感謝もしている──裏にどんな意図があるか一先ず置いておいて。
その後はバズディロットとハルリはサーヴァントと共に姿を消し、警察の監視網から上手く逃れており現段階でも発見出来ていない。
念の為にクラン・カラティンに現場へ向かわせたが工業地区はフランチェスカのサーヴァントによって破壊を完全に隠蔽されていた。クラン・カラティンが出来ることは取り敢えず人払いの結界を張っておくぐらいである。
読んでいた報告書に区切りを付け、オーランドは次の仕事に取り掛かろうとする。
「──何?」
署長室に設置されてある監視モニターが視界に入った時、オーランドの視線は思わずモニターに釘付けになる。
署長室の監視モニターは使い魔の目に映ったものを映像として流しており、その監視モニターの一つが警察署のロビーを映している。
偽バーサーカーのマスターであるフラットがロビーをキョロキョロと見回していた。あまりに堂々とした行動にオーランドも暫しの間、言葉を失ってしまう。
(何を考えている?)
警察署には結果が何重にも展開されているのに全く反応していない。恐らくは魔力を完全に遮断していると思われる。偽アサシンが結界を突き破って現れたことを思い出すと、この様に静かに侵入してきたフラットの方がよっぽどらしい。
フラットは少しの間、不審人物のようにうろついた後に受付に行き、何かを話している。
もしや、自分にアポイントメントを取っているのではないかと思いつつ、見過ごす事が出来ないので警察署内に居るクラン・カラティンの何人かに連絡を入れ、何人か向かわせた。
クラン・カラティンにはあくまで警察官として接するように念を押しておく。そこまで危険人物ではないと思われるが、下手に刺激して万が一のことが警察署内で起こらないようする為である。
フラットの突然の来訪に短く息を吐きながら、どう対処しようか考えようとした時、オーランドは視線を感じて窓の方を見た。
「ども」
窓の外には偽バーサーカーがおり、オーランドと目が合うと気さくな態度で挨拶をしてきた。
偽バーサーカーが窓ガラスに触れると窓ガラスは蜘蛛の巣状に割られ、窓ガラスが無くなった窓から偽バーサーカーは中に入ってくる。
窓ガラスも当然結界により強化されていたのだが、足止めにもならなかった。
オーランドは即座に机から立ち上がり、ホルスターから拳銃を抜く。拳銃には特殊弾頭が仕込まれており、撃てば結界内の防御システムが作動する。防御システムが作動すればクラン・カラティンにも侵入を伝えられる。
オーランドは最速最小の動きで特殊弾頭を床目掛けて発射しようとするが──引き金を引いても発射されない。
「あぶな」
偽バーサーカーはオーランドの拳銃を指差している。オーランドの拳銃はグリップから上が綺麗に切断されており、バラバラになった部品が床へと落ちる。
(いつの間に……!?)
英霊と人間では大きな差があるが、それをハッキリと突き付けてきた偽バーサーカーの早業にオーランドは戦慄する。
「……これは傷付ける内には入らないよな?」
偽バーサーカーが誰かに話し掛ける。
「うーん……なるべく穏便に済ませたかってですけど……バーサーカーさんの凄技見せてもらったのでセーフです!」
部屋の隅から第三者の声。ロビーに居る筈のフラットが笑顔でそこに立っていた。
「な……に……?」
驚きの声が漏れ出てしまう。同時に何が起こったのか、オーランドは頭の中で状況整理もしていた。
モニターに映っていたのは魔術で造り出した偽装映像。自分に注目を集めさせることで偽バーサーカーの発見を遅らせた。
信じられないことにフラットは警察署の防御システムを掌握している。先程から緊急通達をクラン・カラティンのメンバーに送っているが、遮断されており完全に外部との連絡が断たれてしまっている。
窮地ではあるが反撃の目が無いわけではない。ロビーにフラットが居るという情報をクラン・カラティンのメンバーに送ってある。フラットが発見出来ないとなれば連絡を折り返してくる。オーランドがそれに応答しなければ異常が起こったと各自で判断し、ここへ向かってくる。
後はオーランドがフラットと偽バーサーカー相手にどれだけ持ち堪えられるかだ。
オーランドは帯刀している刀へ静かに手を伸ばす。
「止めた方がいいぞ」
偽バーサーカーはオーランドに警告する。偽バーサーカーは両手を重ね合わせた構えをとっていた。その構えを見た瞬間、喉元に刃物或いは額に銃口を突き付けられたような錯覚をする。
「治安の為に頑張っている奴らの足を引っ張りたくない」
「奴ら」という言葉から狙いがオーランドだけでなくこの警察署の警察官全員が対象になっていることを知らされた。
「……全員始末する気か?」
「まさか。ちょっとヤバめの風邪を引いてもらうだけだよ。二、三日すれば治る。でも、警察官が全員病欠なんて不味いだろ」
冗談を言っているようには聞こえない。まだ「全員殺す」と言われた方がすんなりと信じられた。バーサーカーというにはあまりに理性を感じさせる言葉。しかも、戦い方を少し見たが、バーサーカーというクラスに反して精密過ぎる。
「ヤバめの風邪って……どんなのですか? 俺、風邪を引いたことないんですよ?」
「……よく考えたら俺も無いわ。まあ、一つ言えることは──吐く。警察署がゲロ塗れになるな」
「うわー……掃除が大変そうですね……」
オーランドが考えている間にフラットと偽バーサーカーはマイペースに喋っている。
状況を考え、抵抗することは返って事態を悪化させると判断し、オーランドは溜息を吐いた後に椅子に座り、帯刀していた刀を机の上に置き、武装解除することで抵抗する意思が無いことを示す。
「……どうやら主導権は君が握ったようだな」
「話、聞いてもらえます?」
「ああ。殺すつもりならバーサーカーが部屋に入って来た時点でやっていただろう。自分たちの力の一端を見せて交渉を有利に進める。まるでマフィアのやり方だ。誰に習ったんだ?」
皮肉を混ぜての称賛にフラットは少しバツの悪そうな表情をする。
「いや、そういうつもりはなかったんですが……」
フラットはそこで頭を下げる。
「気分を害したのならすみませんでした。結界が全部署長さんと繋がっているみたいでしたから、署長さんと交渉した方が手っ取り早いと思って……」
フラットは横目で刻まれた窓ガラスとバラバラになった拳銃を見る。
「俺もバーサーカーさんも傷付けるつもりはなかったんですよ、本当に!」
「署長さん、これぐらいしないと話し聞かなそうだからなー」
結果として脅すような形になってしまったことを再び謝罪する。
オーランドはフラットという人物が良く分からなくなる。警察署の防御システムを容易く掌握したかと思えば、今のように魔術師らしからぬ行動をする。また、雰囲気も魔術師らしくなく良くも悪くも緊張感が感じられない。資料には天恵の忌み子という二つ名を与えられる異質で非凡な存在の筈なのだが。
「何か用件があることは分かった。だが、何故私なんだ?」
「え? 警察関係者にマスターさんが居るなら、そっちに会って話した方が良いかなって思ったんで」
「……待て。そもそもどうして警察関係者にマスターが居ると分かった?」
隠匿には細心の注意を払っていた筈なのに、しれっと言ってくるフラットに質問を重ねる。
フラットは何食わぬ顔で街の警察官たちの中に魔術師が何人か混じっていたこと。警察署を中心に魔術的な監視システムが組まれていたことを指摘する。どちらも何重に偽装工作をしていたというのにフラットには筒抜けであった。
「後は町の矯正センター? それとも刑務所ですか? そこも監視システムと繋がっていましたね」
ファルデウスの監視網もフラットにはあっさりとバレてしまっていた。二つ名通りの異常な技術である。
「──分かった。それで用件というのはやはり共闘の話か? 誰か最優先で狙う相手が居るのか?」
「え? ああ、共闘とは違いますね。俺たちは警察官の皆さんに通報しに来たんです」
「……通報?」
警察官として当たり前のことをされているのだが、魔術師の口からその言葉が出るのが新鮮過ぎて一瞬言葉の意味が分からなかった。偏見かもしれないが、魔術師は通報される側だと無意識に思っていたのもあるかもしれない。
「実は、病院に入院している椿って女の子が多分聖杯戦争のマスターです」
「……何だと?」
急に齎された情報にオーランドは聞き返してしまう。少なくともオーランド側は病院にマスターが居ることは知らない。そもそも異変すら感じ取れていない。ただ、椿という名に引っ掛かる。聞いた記憶があった。
「病院を拠点にしている感じですが、かなりヤバいサーヴァントが潜んでいると思います。……正直に言いますと、俺たちと署長さんたちが共闘したとしても勝てる可能性は低いです」
× ×
「──そうですか。分かりました。姉さんも体には気を付けてください」
そう言い、オーランドの部下であるヴェラ・レヴィットは電話を切る。頭の天辺から爪先まで乱れた所が微塵も無い冷静沈着な女性であった。
「確認しました。確かに、エスカルドス氏の言う通り、繰丘椿に令呪が発現しているようです」
フラットから齎された情報が正確であったことが裏付けされる。何の因果か病院で椿を診ているのはヴェラの実姉であった。
「つまり意識不明のままサーヴァントを召喚した……そういう事か?」
「はい。もしかしたら、英霊自身は独自に動いているかもしれないです。何かここにもちょっかいをかけている痕跡を感じましたけど……何か心当たりがありませんか?」
オーランドの脳裏に警察署襲撃の記憶が蘇る。偽アサシンが襲撃し、死徒が現れ、監督役の神父が登場し、もう一人のセイバーも現れ、そして──
「……あの怪物か?」
正体不明の怪物──カリュブディス。フラットの言葉を信じるなら、それしかない。
「まさか、あの怪物が繰丘椿のサーヴァントなのか?」
「うーん。違うと思いますよ。確かに病院との繋がりがぼんやりとは見えましたけど。多分、使い魔か宝具じゃないですか?」
病院には正体の掴めない大きな力が隠されており、カリュブディスはそれと繋がっている。使役される立場なのだ。
「俺たちが病院へ行った時も凄くヤバそうな人達が待ち構えていました。それも四人も。今思うとあれも宝具だったのかな……?」
何かを召喚して戦う英霊は存在する。冬木の第四次聖杯戦争ではライダーが自分の部下たちを召喚したという情報があった。もし、そうだとしたら英霊と互角以上に戦える存在が最低でも五体居るということになる。
現在確認されていない英霊は偽りのライダーのみ。消去法で繰丘椿の英霊のクラスはライダーである可能性が高い。ただし、エクストラクラスである可能性も捨てはしない。何かとイレギュラーの多い聖杯戦争なので、そうであってもおかしくない。
ライダーは他の英霊よりも多く宝具を所持している特性がある。怪物と四人組がそれぞれ一つの宝具としたら、ライダーがライダーであることを象徴する三つめの宝具の可能性を考慮する必要がある。
「……繰丘夫妻の姿は聖杯戦争が開始されて以降目撃されていない。もしかすると繰丘椿のサーヴァントにより既に排除されているかもしれない」
マスターは意識不明となると手綱は握られておらず、サーヴァントが独自に動き、暴走していると考えられる。今は然程被害は出ていないが、聖杯戦争が進めば何をするのか分かったものではない。
繰丘椿の英霊の情報が無いまま、警察の権力を使って病院に干渉すれば、未知なる敵の懐に飛び込むことになる。下手に突けば痛い思いをするのは自分たちだ。
魔術師らしくテロや事故を装って椿本人を病室、或いは病院ごと吹き飛ばすという手段もある。
しかし、オーランドは魔術師であるが警察官だ。ましてや、クラン・カラティンたちの「正義」を保障すると宣言している。「正義」を保障するなら、保障を約束した者も「正義」で在り続ければならない。それは枷であり、鎖であり、自分を警察官として縛り付け、形を保たせるもの。オーランドの中で幼い子供を犠牲することは正しくはない。
「あの……もしかして、助ける方法を迷ってます?」
険しい表情で何かを考えているオーランドを見てフラットが聞いてくる。
「うん? ……まあ、そうだな。相手が相手だけに方法が限られてくる。最悪の事態も想定しなければならないが、出来ることならそれは避けたい」
フラットはそれを訊くと表情を明るくする。
「それを聞けて安心しました!」
「……どういう意味だ?」
「迷うってことは、『魔術師らしい魔術師』がやるような事を積極的にしないってことですよね? 割り切って病室爆破なんでことするでしょうし。俺は共闘するならそういう人が良いです」
「俺も賛成」
二人の会話を聞いていた偽バーサーカーもフラットの意見に同意を示す。
「私が魔術師らしくない、と言いたいのか?」
「信用出来そうってことです!」
オーランドは自分自身が魔術師らしくないことは多少自覚している。だが、フラットという少年を観察していると、この少年もまた魔術師らしくない。そんな魔術師らしくないフラットが、これまたバーサーカーらしくない偽バーサーカーのマスターになっている。らしくない者たちが一箇所に集まることに奇縁を感じた。
「そんな署長さんだからこそ、俺も安心して紹介が出来ます!」
そう言い、フラットが差し出したのは一台の携帯電話。見た目は普通の携帯電話と変わらないが、フラットの魔術により二十七段階で暗号が変化するようになっている。
既に繋がっている携帯電話を少々訝しながらも手に取り、耳に当てる。
聞こえて来た声。話す内容。そして、電話の向こう側の肩書きを知り、口を噤む。
時計塔現代魔術師講師ロード・エルメロイⅡ世。フラットの恩師であり彼の後ろ盾のような存在。
それだけでも十分驚愕に値するが、オーランドは彼のもう一つの名を知っていた。
ウェイバー・ベルベット。冬木の第四次聖杯戦争に参戦し、生還した数少ない魔術師の一人である。
× ×
偽ライダーは物語の本をゆっくり閉じ、小さく息を吐く。視線の先では椿がカリュブディスとこの世界で数少ない穢れ──ジェスターと仲良く遊び、椿の両親もそれを暖かく見守っている。
彼女にとって理想の世界。ジェスターという汚物の侵入を許してしまったのは偽ライダーにとって最大の失態であり、ジェスターが視界に入るだけで消し去りたい衝動に駆られる。
だが、椿がジェスターを友達と認識している限りは偽ライダーも手を出せない。本体も椿の夢の外で待機しており、こちらから手を出せば彼女の命も危うい。
(全ては私のミス……こちらの世界を見誤っていたことですね)
ジェスターのようなイレギュラーを想像出来なかったことや他の者たちの実力の評価が低かったことが起因する。
そして、外の世界が騒がしくなってきたのも偽ライダーは知覚していた。椿の存在がバレ、様々な勢力が椿を狙っている。
聖杯戦争が終わるまで椿の為に詩や物語を詠む詩人で在りたかったが、それももう許されない。
だが、立ち上がった以上は椿の幸福を必ず守る。誰にも彼女の幸福に触れさせなどしない。
「物語の結末は……私が決めます」