Fate CROSS strange FAKE 作:N40
フラットたちがオーランドとその部下であるクラン・カラティンとの共闘が約束された後、事は迅速に進んでいく。
日中に椿の事を告げると、すぐさまオーランドは救出作戦を考え、その日のうちに決行が決まった。
スノーフィールドの聖杯戦争が始まって二日目の夜10時頃。作戦目標であるスノーフィールド中央病院から少し離れた場所に建てられた教会。そこに派遣された二十五人程のクラン・カラティン。警察署で残ったクラン・カラティンと共に指揮を執るオーランドに代わってヴェラが今回の件について監督役である神父のハンザ・セルバンテスに説明をしていた。
ハンザ自身はオーランドの作戦に協力する気は無くあくまで中立の立場を取る。そうなることは予測済みであり、ヴェラが求めたのは救出後の椿の保護である。
サーヴァントと交渉して椿の聖杯戦争を離脱が約束出来れば問題は無いが、交渉が決裂した場合はサーヴァントを排除しなければならない。それは自分たちの領分だと言い、教会の中立は侵さないことを念押しすることでハンザの協力を得られた。
これでハンザとクラン・カラティンの話は終わりなのだが、ハンザはクラン・カラティンの中で浮いた人物──フラットを見つけ、彼に興味を持つ。
「彼は警察官には見えないのだが?」
ハンザの視線に気づき、フラットはハンザの前へ移動する。
「あ、初めまして! 俺、フラットと言います。バーサーカーのマスターをやっています。それでこちらが──」
「ども。バーサーカーをやらせてもらってます」
霊体化を解き、フランクに挨拶をしてきた偽バーサーカーにハンザと彼の付き人である四人のシスターたちは目を丸くした。理性の無い筈のバーサーカーなので殊更驚く。
「今回の件でこちらの皆さんと協力させて貰う事になりました。聖杯戦争の監督役、よろしくお願いします!」
「監督役が何するのか知らないけど、頼んだ」
監督役を受けてからちゃんと挨拶をしてきたのがバーサーカーとそのマスターという事実にハンザは苦笑してしまう。
「何とも興味深いバーサーカーとそのマスター。だが、礼儀を知っているのはポイントが高い。ハンザ・セルバンテスだ」
ハンザの自己紹介をされた後、フラットは観察するようにハンザを眺める。
「あの……間違っていたらすみません。この間、警察署と戦っていた方ですか? 身体の七割ぐらい……機械ですよね?」
「マジで? サイボーグ?」
それを聞いた偽バーサーカーの声が心なしか弾む。フードを目深に被っているので表情は半分くらいしか見えないが、何となく目が好奇心で輝いているような感じがした。
「……ほう、解るのか?」
「ええ、魔力の流れが幾何学的に変化していますし、『
他の者たちは自然と聞き流していたが、偽バーサーカーだけはフラットの言葉に違和感、引っ掛かりを覚える。だが、あくまで感覚的なものなので口を挟むことはしない。
「もし、サイボーグだったらありますか……? ロケットパンチとか! ドリルとか!」
「目からビーム撃てる?」
「それも有りましたね!」
ハンザの特性を一瞬で見抜いた後に、何とも言えない質問をするフラット。そして、それに便乗する偽バーサーカー。
「拳は飛ばないし、ドリルは秘密だ。だが、片腕は3メートル程伸びるし、グレネード弾を射出可能だ。特別サービスとして足には聖別済みのチェーンソーが仕込んであることを教えよう。因みに目からビームか胸から光線を出すのかは
フラットと偽バーサーカーは「おおっ」と声を揃えて感動している。三人のやり取りを見ているクラン・カラティンやシスターたちは何が「おおっ」なのか理解出来ない。
フラットは感動のままハンザと固い握手を交わし、偽バーサーカーはハンザに変形機構を見せてくれないか頼んでいる。
時計塔の魔術師と教会の代行者が、休憩時間に行われる学生同士の馬鹿話のように盛り上がっている光景は、彼ら以外を困惑させるのであった。
× ×
椿救出の下準備を終えたフラットは、教会屋上で夜空と星を見上げながら作戦実行までの時間を潰していた。
「そういえば」
不意に偽バーサーカーが霊体化を解き、フラットに話し掛けてくる。偽バーサーカーは基本的にフラットと会話する時は実体化する。彼曰く「頭の中で声がするのって気色悪くない?」と念話に対して否定的だからであった。
「フラットの先生と初めて話したけど、何か話し方だけでも滅茶苦茶頭良さそうだったな」
オーランドとエルメロイⅡ世との会話後、ついでに偽バーサーカーも軽く会話を交わしていた。内容は当たり障りのないものであったが、偽バーサーカーはエルメロイⅡ世が良い先生だと確信していた。
『フラットをよろしく頼む』
『彼のことを護ってくれ』
懇願するような感情的な言葉ではなく、平坦な口調であったが通話の最後に言われた言葉は今も偽バーサーカーの耳に残っている。
「それに良い先生っぽそうだ」
「教授は凄いですよ! 魔術の腕は低いですけど、そんなの関係無いぐらいに強い人です!」
偽バーサーカーのエルメロイⅡ世の評価にフラットは我が事のように喜ぶ。
「俺の知っている先生とは大分違うな」
「バーサーカーの先生……どんな人だったんですか?」
「いっつもヘラヘラしていて他人を舐め腐った言動が多い天上天下唯我独尊を地で行く人」
「それは……何というか……」
それだけ聞くと何とも問題の多い先生である。
「でも、
「最強、ですか?」
「世界中を敵に回しても多分勝てる。まあ、途中で面倒くさくなって止めると思うけど」
冗談を言っているようには見えなかった。
最強。魔術師にはあまり縁の無い言葉。探求者である魔術師からすれば強さをあまり重視しないからかもしれない。
「俺、バーサーカーさんの先生に会ってみたいです! 「最強」っていうのがどんなものか見たいです!」
「俺が喚ばれたぐらいだし、その内喚ばれるかもな」
自分という前例が出来た以上、召喚される可能性を否定しない。
互いの先生の話で盛り上がった後、フラットは唐突に尋ねる。
「あの、今更ですけどバーサーカーさんって俺があの女の子を救出しようとすることに何も思わないんですか?」
「マジで今更だな」
「すみません。俺は人助けが当たり前──っていうか教授の、エルメロイ教室の俺だからこそ助け出そうと思ったんです」
フラットはエルメロイⅡ世に強い恩を感じており、エルメロイ教室が自分の居場所だと思っている。そこに属している限りフラットは教授や教室の仲間たちを裏切ることは出来ない。魔術師らしい他者を切り捨てるような選択はフラットにとって裏切りに等しかった。
「ふーん」
フラットが椿を助ける理由を聞いた偽バーサーカーの反応はそれだけだった。否定も肯定もせずにただ理由として受け止めている。
「俺、昔から体が頑丈で結構力があったんだよ……まあ、そこそこ強かった」
フラットの理由を聞き終えると今度は偽バーサーカーが語り出す。
「俺は爺ちゃんに育てられたんだけど、爺ちゃんが死ぬ間際に言ったんだよ」
オマエは強いから人を助けろ
手の届く範囲でいい。救えるなら救っとけ
迷っても感謝されなくてもとにかく助けてやれ
「迷ったり救えなかったりダメだったりしたけど、ブレずには生きられた──と思う」
祖父の遺言は偽バーサーカーの生き方を縛るある種の呪いとも取られるかもしれない。しかし、その言葉があったことで後悔しない生き様は出来た。
「救えるなら救うに越したことはない。だから、俺はお前の選択を肯定する」
フードを捲り、フラットの目を見て彼の意思と自分の意思が重なっていることを告げると、フラットは安心したように笑った。
「ありがとうございます。
× ×
「しじんさん?」
「──おや? どうかしましたか?」
椿に声を掛けられ、偽ライダーは一拍置いて反応する。何かに気を取られて椿に話し掛けられるまで彼女に気付かなかった。
「どうかしたの?」
「いえ。少し考え事をしていました」
無意識に険しくなっていた表情をほぐし、微笑へ変える。
「またおはなしをきかせて」
「私も貴女に聞かせたい話がまだ沢山ありますが……」
偽ライダーは少しだけ困った表情をする。
「申し訳ありません。少しやる事出来てしまいました?」
「やること? たいへんなこと? わたしもてつだえる?」
「その気持ちだけ受け取っておきます。私は貴女には本や詩、そしてこの世界だけを見ていて欲しいのです」
椿の申し出をやんわりと断りながら、サーヴァントとしてマスターに穏やかな時を過ごして欲しいと願う。
「でも、みんなしじんさんがくれたんだよ? わたし、しじんさんにおんがえしがしたい!」
「……貴女は本当に良い子ですね」
「哀しみと憐れみを覚えるぐらいに」と心の中で付け加える。偽ライダーは椿の持つ危うさと儚さを知っていた。
「貴女が今、この瞬間を楽しんでくれているのなら、それだけで私は十分です」
「でも……」
「椿さまー? どこー?」
カリュブディスが椿を探してキョロキョロと周りを見ている。
「カリュブディスが呼んでいますよ? 彼と遊んであげてください」
「──うん! わかった! カリュくーん! ここだよー!」
椿が離れていくと、偽ライダーの顔から微笑が消える。
「はぁ……」
『溜息とは随分とお疲れの様子だ』
偽ライダーにしか聞こえない声。その声に偽ライダーは再び溜息を吐く。
「その理由の一つが貴方だということは自覚していますか? 四六時中喋り掛けてきて実に鬱陶しい……」
泡が浮き上がるような音と共に艶やかな赤と青の服装の豪奢な人物が現れる。性別を超えた美しい容姿をしているが、この世の者ではないのか体が半透明であった。
『元はといえば私の声に全く耳を傾けてくれなかったからじゃないか。こんな素敵な空間を創っておいて、まさか完全に無視してくるとは思わなかったよ』
『
偽ライダーは聖杯戦争が終わるまで無視し続けるつもりだったが状況が変わった。ジェスターという招かれざる者の侵入によって。
「……きっとこの先の戦いは私が出ざるを得なくなるでしょう。その時が来たら、貴方はどうしますか?」
『回りくどい言い方だね。素直にあの子を護ってくれと頼めばいいじゃないか』
「私の使命を容易く委ねる程、私は傲慢でも無責任でもないのですよ」
敗北するつもりは無い。しかし、だからといって何も手を打たない程自惚れてはいない。相手を甘く見て既に苦い思いをしている。取れる手段があるのなら何でも使うつもりであった。
『神代の如き気配が複数。空には『番人』の化身。森羅万象から滴り落ちた魔。自然神……その分け身に光から堕ちた闇。これは本当に人の世か? ちゃんと人理は機能しているのか? 偶然も過ぎれば必然にも思えてくる』
『鮫』の感覚がワンダーワールドの外で起きている事象を掴みとる。まるで見て来たかのような詳細さであった。
『そして、それらに全て挑むのは
「人のことを回りくどいと言っておいて、貴方も随分と持って回した言い方をする」
『誰かと会話をするのは久しぶりなのさ。少しでも話を長引かせたくなってしまう』
「……私は貴方程時間に猶予がある訳ではないのですがね」
非難する眼差しを向けるが『鮫』はその目と合わせようとしない。
『ちゃんと考えているよ。かつて神とまで呼ばれていたが、今の私は残滓。あの弩弓にこびりつく残り物に過ぎない』
自分が如何なる存在か偽ライダーに説明する。
「……役立たずということですか」
『君はもしかしてあれかな? 私みたいな存在には何を言っても傷付かないと思っているのかい? 自分の発言に注意してくれないか? 私を役立たずと罵ったのは君が初めてなんだよ? 出来れば訂正をしてくれないかな?』
少なからずショックを受けているのか『鮫』は少し早口で喋り出すが、偽ライダーは聞く耳を持たず、『鮫』から離れて行く。
「そろそろ時間ですね。備えるとしましょう」
『待ちたまえ』
去ろうとする偽ライダーを『鮫』が呼び止める。
『私がやる事には限界があるが、その限界を迎えるまでにあの子の手助けをしよう。何とかしてあの弩弓を彼女に持たせるか、共にいる者に持たせればあの少女を護る力を貸すことが出来るかもしれない』
「……期待はしませんよ。あくまで最悪の場合を想定してのことですから。そうなる前に私が全て滅ぼします」
『……なら、そうならないように願っているよ。子供が泣くのを見るのは私も忍びない』
『鮫』は最初に現れた時のように静かに消える。
残された偽ライダーは空を睨むように見上げる。
「来るならきなさい。私も全力で貴方たちの相手をしますよ」
× ×
準備はほぼ整った。後は手筈通り病院周囲の人払いを済ませた後、病院内の患者たちを魔術によって眠らせ、認識阻害魔術を施した警官たちを病院に突入させるだけなのだが──
「……フラット。予定変更だ。出る」
「え?」
偽バーサーカーの唐突な台詞にフラットは呆けた声を出してしまう。フラットと偽バーサーカーはクラン・カラティンらに何かあった時の為に待機している予定であった。つまり──
「何か来たんですね?」
「
偽バーサーカーは屋上の縁に立ち、フラットを横目で見た。
「俺もすぐに追い付きます。警察の人達を助けてあげてください」
「──行ってくる」
偽バーサーカーは勢い良く跳び、一瞬でフラットの視界から消えた。
× ×
病院前大通り。
クラン・カラティンのメンバーは今まさに病院に突入する瞬間であった。
「……何だ?」
メンバーの誰かが重い足音と冷気のような寒気立つ気配に気付くと、伝播するように他のクラン・カラティンたちも異変に気付いた。
「何か……来る!」
警察署での戦いで宝具を失うという失態を犯してしまったジョンは、汚名返上の為に今回の作戦に参加したが、彼も異様な気配を感じて偽キャスターから与えられた新たな宝具であるガントレットを汗が滲む手で押さえる。
やがてソレが彼らの目に映る。
象程の大きさを持つ三つ首の獣。口からは青い炎と毒々しい唾液を垂れ流している。
それだけでも脅威と呼べる筈なのにジョンを含むクラン・カラティンのメンバーは獣ではなくその背に立つ赤染の布を被った男に目を奪われてしまっていた。
真アーチャーのアルケイデス。何故かここへ現れてしまったこの聖杯戦争に於いて最強の一角。そのせいで彼が立っているのが絵画や伝説の中で有名な冥府の番犬『ケルベロス』の上だということを忘れてしまう。
アルケイデスの堕ちた英雄としての覇気とケルベロスの威圧感と恐怖。それらがクラン・カラティンを呑み込もうとする──
「でっかい犬。何食ったらそんなになんの?」
──瞬間、緊張感の無い声が彼らを正気に戻す。
クラン・カラティンたちを護るように最前線に偽バーサーカーが立つ。
「──何者だ」
「バーサーカー。あんたはアーチャーだっけ? そういうのも有りなの?」
偽バーサーカーはケルベロスに全く怯むことなく日常会話のように話し掛けている。
「邪魔をするな。退け」
「邪魔しなかったらどうすんの?」
「英霊を身に宿した幼子を──屠る」
クラン・カラティンたちは戦慄した。アルケイデスが現れたのは偶然ではない。椿のこと、そして作戦のことを知っていた。何処から情報が漏れたのか、裏切り者がいるのか、嫌でもそれを考えてしまう。
「させると思う?」
「ならばその愚行、死によって代償を払うことになる」
ケルベロスが唸り声を上げ、今にも飛び掛かろうとする。
「噛み砕け」
アルケイデスが命令し、ケルベロスが咆哮を上げた。
「解」
その咆哮はキャンセルされ、ケルベロスの動きが止まる。ケルベロスの体に無数の線が浮かび上がったかと思えば、全身が賽の目状に切り分けられた。
クラン・カラティンたちは言葉を失った。偽バーサーカーが何をしたのか全く見えなかった。
「──何をした?」
バラバラになったケルベロスの上にアルケイデスが降り立つ。偽バーサーカーが攻撃される直前に彼はケルベロスの背から跳び上がっていた。
アルケイデスは弓を構え、矢の狙いを偽バーサーカーに定める。全身から泥による穢れた魔力が蠢いている。
「呪霊みたいな呪力出してんな……まぁ」
偽バーサーカーは被っていたフードを脱ぎ、素顔を晒す。
「