Fate CROSS strange FAKE 作:N40
偽バーサーカーの素顔を初めて目撃したクラン・カラティンたちは、予想よりも幼い顔立ちをしていることに少なからず驚く。
見た目は十代後半のアジア系、日本人と思われる、頭髪は茶色でツーブロックにしており、刈り上げた部分は黒と二色に分かれ、右眉の上と左唇の端には裂けたような傷痕がある。
サーヴァントの見た目の年齢など当てにはならないが、何処か老成した雰囲気を出していたせいでイメージと実際の容姿の差にズレを感じてしまう。
「呪術師……知らぬ名だ」
「だろうな」
「だが、弱き者と一蹴は出来ん」
アルケイデスは散らばっているケルベロスの肉片を一瞬見下ろす。
「ハデスの奴めの加護が無いとはいえ、この魔獣を一撃で屠るとはな」
大英雄としての経験と知識に当てはまる相手に警戒を強める。
「こっちはあんたの事、聞いたよ。
あまりに簡単にアルケイデスの地雷を踏み抜いた偽バーサーカーにクラン・カラティンは絶句し、アルケイデスの全身から噴き出す殺気に冷や汗を流す。
「……その名、我が前に出すということは自ら死を望むということだな?」
構えている弓矢から今にも矢を射りそうなアルケイデス。彼が寸での所で矢を放さなかったには、戦士としての理性が未知なる相手に不用意な行動を嫌った為である。
「いや、試しに聞いただけ。名前だけなら有名だし。まあ、何で有名なのか知らんけど」
ギリシャ神話では知らぬ者が存在しない大英雄だが、海を越えれば一気に知名度も下がる。とはいえ名前だけでも伝わっているのは偉大な事ではあるが。
「ディズニー映画でなら見たことがあるけど、あれってノンフィクション?」
クラン・カラティンは「嘘だろ、こいつ」というような信じ難いものを見る目を偽バーサーカーに向けている。
「……」
アルケイデスも何となく困惑している様子であった。嘗ての自分を辱めることを良しとしていたが、斜め上の方向から来たせいで反応に困っている。
「……生憎、絵物語の中までは把握していない」
「あっそ」
そこで会話が途切れる。緊張感が欠けた会話が射られた矢により強制的に終わらせられた。
音速に達する矢が偽バーサーカーの正面に射られる。このまま偽バーサーカーを貫き、そのまま病院ごと破壊する算段なのだ。
偽バーサーカーは回避に映らず、迫る矢に手刀のように手を向け──
「解」
ケルベロスの時と同じ言葉を発すると、アルケイデスの矢は真っ二つに両断され、二つに別れた矢は方向が狂い、病院を避けるように飛んで建物とアスファルトに命中し、建物の一部は爆破されたように破壊され、アスファルトには小さくクレーターが出来る。
(何だこれは……?)
ジョンは今の攻防が全く見えなかった。アルケイデスが矢を射ったことは分かったが、その後に何故か建物とアスファルトが破壊された。偽バーサーカーがケルベロスの時と同じ事をしたと思われたが、それも破壊痕からの推測に過ぎなかった。
「──成程。不可視の斬撃か」
アルケイデスはケルベロスと今の矢で偽バーサーカーの能力をほぼ見抜く。
「単純ながらも中々厄介だ。恐らく斬撃の形も変えられるのだろう?」
「早くない?」
「二度も見れば十分だ」
偽バーサーカーはそれを否定せず、寧ろ認めるような発言をする。そもそも初見不可視の斬撃を躱している。アルケイデスの感覚は既に不可視の斬撃を捉えていると思っていいだろう。
「その刃、この身に届かせてみよ」
一度に複数の矢を番え、それを同時に発射する。矢をそれぞれ独立した動きをし、ある矢は真っ直ぐ、別の矢は曲がりながら、更に別の矢は蛇行するなどして偽バーサーカーを翻弄する。
偽バーサーカーは険しい表情をしながら矢を指差す。先程とは違って矢が細かく斬り刻まれるがそれでもまだ射られた矢は残っている。
不可視の斬撃を潜り抜けてきた矢をすぐさま指差し、それも木っ端微塵にするが最後の一本だけ仕留め損なう。
威力だけなら軍事兵器と同等以上のアルケイデスの矢が偽バーサーカーを貫く──かと思われた刹那、偽バーサーカーは矢目掛けて掌打を繰り出した。
触れれば触れた箇所から持っていかれる威力の矢に偽バーサーカーの掌が触れた瞬間、金属同士が擦れ合うような甲高い耳障りな音が鳴り、射抜く筈であった矢が軌道を変えて真上に飛んで行き、空の彼方へ消えていった。
「いってぇ……」
小さく呟いた偽バーサーカーの掌から血が滴る。アルケイデスの矢を逸らした代償として掌に大きな裂傷が出来ていた。
(やっぱ半端ねぇな。あの矢)
アルケイデスが見抜いていた通り、偽バーサーカーは不可視の斬撃を飛ばす。掌で矢を弾いたのもそれの応用で、細かな斬撃を掌に無数に発生させてそれを動かし続ける防御技である。
しかし、偽バーサーカーが傷を負った事から分かるように威力ではアルケイデスの矢の方に軍配が上がる。そして、速度もまた上回っていた。
矢を破壊することは出来るが、破壊するだけで斬撃の勢いが大きく削られアルケイデスまで届かない。後出しで対応出来たのは、守りに徹した偽バーサーカーの勘と積み重ねてきた経験によるもの。
このまま矢を射ち続けられれば不利になるのは偽バーサーカー。しかも、今はまだ偽バーサーカーの方を狙っているが、病院を狙い出したら偽バーサーカーでも対応し切れなくなる。
(この間合いは向こうが有利)
この距離では勝てないことを素直に認める。勝つ為には偽バーサーカーの有利な間合いに相手を入れるのが絶対条件。
「ふぅ……」
息を吐き、心を冷やす。偽バーサーカーの目はアルケイデス一点に集中され、周りの音が遠ざかっていく。
一見すれば呆けたような姿に映るだろうが、対峙しているアルケイデスには偽バーサーカーの状態が伝わっていた。
(何という集中力。本当に理性無きバーサーカーなのか?)
クラスに疑問を抱くぐらいの偽バーサーカーの佇まい。偽バーサーカーが集中状態に入った瞬間、アルケイデスの中で放つ矢が偽バーサーカーを射るイメージが霞む。クラスに疑問を抱くぐらいの偽バーサーカーの佇まい。
偽バーサーカーとアルケイデスの間に流れる緊張感はクラン・カラティンにも伝わり、ある者は体を震わせ、ある者は冷や汗で全身を濡らし、ある者は口内が涸れ果て飲み込めないのに何度も喉を鳴らす。
(くそっ……何て様だ……!)
ジョンもまた場を埋め尽くすプレッシャーのせいで身動きが取れず、二人を見ていることしか出来ない。無力な傍観者となってしまった自分を恨めしく思うが、その恨めしさも二人の迫力の前には体を動かす原動力にもならない。
膠着してしまう戦況。誰が先に動くのか。
「今です! バーサーカーさん!」
張り詰めた緊張感に突き刺さる針のような見当違いな言葉。
空気を読めないとしか言いようがない台詞を発したのは、遅れて合流して来たフラット。
一体何が今なのか。何処にチャンスがあるのか。遅れて来たマスターが何をしゃしゃり出ているのか。
殆どの者たちがフラットに視線を向けてしまう。
その瞬間、あり得ないことにマスターの指示通り偽バーサーカーが動く──直後、アルケイデスは矢を射る──ように見せかけて止まった。
(
偽バーサーカーとフラットにより動かされたアルケイデスは射ると同時に自分の失態を恥じる。
フラットの指示は全て偽バーサーカーの念話により頼まれたもの。彼は合流直後に偽の指示を出すよう言われていた。
偽バーサーカーは矢が放たれると同時に前方へ疾走する。身を低くし、アルケイデスの剛矢の下へ入り込み、紙一重で躱す。避けた矢は病院前のアスファルトに命中し、大きなクレーターを造り上げた。
偽バーサーカーは走りながら拳を握り締める。アルケイデスの目には一瞬偽バーサーカーの拳が何かに包まれたように見えた。魔力とは異なる別のエネルギー。直感として抱いた感想は、自身が纏う『泥』に似ている気がした。
(正面から来るか。大したものだ)
アルケイデスは矢を外しても焦ることなく次の矢を番えながら偽バーサーカーの胆力を密かに讃える。
矢を射る方が先か。拳が届く方が先か。
近距離まで接近した偽バーサーカーの拳が、矢が放たれる前に突き出された。偽バーサーカーの方が先に仕掛ける。
真っ直ぐ伸びた拳はアルケイデスの胴体に吸い込まれていき──
ガキンッ
──アルケイデスの弓によって阻まれる。誰かが「ああっ」と絶望に満ちた声を出した。
盾代わりになった弓には既に矢が番えられている。矢の先端は偽バーサーカーの脳天を指していた。防御がそのまま攻撃へ転じる。
惜しかったがこれが現実。偽バーサーカーの拳は重くはあったが弓を破壊するには至らず、アルケイデスの腕力は超えられず。ここまで接近したことは褒めてもいいが、それでも拳がアルケイデスに届く事は無い。
(終わりだ。弱き狂戦士よ)
矢が放たれる──刹那、弓に衝撃は走りあらぬ方向へ矢が向く。
(
打撃とは違う衝撃が弓に生じ、狙いを外された。
(あの光か!)
偽バーサーカーの拳に宿っていた青黒い光。それが二度目の衝撃を起こしたのだと瞬時に見抜く。
アルケイデスの推測は正解であった。攻撃前に偽バーサーカーの拳を覆っていたものの名は「呪力」。人間の負の感情から生じる負のエネルギー。これをコントロールし、身体の強化などに利用するのが、偽バーサーカーが戦いの前に言っていた「呪術師」である。
偽バーサーカーが先程繰り出した時間差攻撃の名は「
元々は偽バーサーカーの呪力操作が未熟だったことによる悪癖であったが、そこから成長して正式な技へと昇華させた。
逕庭拳による隙。偽バーサーカーは一気に畳み掛ける。
゛
小声で呟きながら両掌を合わせ、指先をアルケイデスへ向ける。その構えは警察署でオーランドに見せたものであった。
゛
指先の間から発射される赤いレーザー。初速度のみ比較すればアルケイデスの矢に匹敵する速度。
赤いレーザーがアルケイデスの鳩尾へ真っ直ぐと伸びていき、突き刺さる。
が、この時二人は同時に思った。
(これは……!)
(──くそっ)
(血か!)
(躱された)
アルケイデスは偽バーサーカーが放ったものが血液であることを知る。血を極限まで圧縮させて水圧カッターのように発射したのだ。
人の生み出した道具を拒絶する神獣の裘も血では効果を発揮出来ない。そうでなくとも偽バーサーカーは拳と不可視の斬撃で攻撃して来るので裘が無意味と化す。
裘さえあれば大半の英霊は打つ手が無くなる筈なのだが、その性能を存分に発揮出来たのは初戦のギルガメッシュとヒッポリュテぐらいである。真アサシンは術、真バーサーカーは肉体で対抗してきた。数多の宝具の原典を持つギルガメッシュも次の戦いでは容易く攻略してくるだろう。
アルケイデスが偽バーサーカーの更なる能力を知ったように、偽バーサーカーはアルケイデスの桁外れの身体能力とセンスを見せつけられていた。
穿血で鳩尾を貫通することを想定していたのだが、アルケイデスは音速の穿血に刹那の間で反応し、命中箇所を鳩尾から脇腹にずらした。しかも、穿血は貫通するに至らず、円形の傷を造るに留まる。
(硬過ぎだろ……)
アルケイデスの肉体の強度に舌を巻く。流石は偽バーサーカーでも名前だけは知っている英雄。色々と規格外である。
穿血でも貫けない以上、偽バーサーカーが取れる手段は限られてくる。厳しい状況だが布石は打ってある。問題はそれがどれだけの効果を発揮するかだ。
(色々と賭けなきゃ勝てないだろうな)
どう転ぶか分からない運任せ。だが、勝つにはそれすら引き込む必要がある。
(奇怪な技だが恐れる程ではない)
不可視の斬撃と同様に初見で反応が出来た。二度目は貰わない。
アルケイデスは偽バーサーカーの首を狩るように弓を振る。偽バーサーカーはそれをしゃがんで回避。振り抜かれた弓の風圧で近くの建物のガラスが全て割れる。
低い体勢で接近し、アルケイデスの懐に入るとすかさず拳の連打。アルケイデスは手の甲で全ての拳を打ち払う。偽バーサーカーの手首を狙って払うのは先程の逕庭拳を警戒してのこと。命中しなければ時間差の衝撃は発生しない。
アルケイデスの防戦一方──のように見えて実はダメージが蓄積しているのは偽バーサーカーの方。大英雄の怪力は軽く叩いているように見えても手首から先が千切れ飛んでもおかしくない。偽バーサーカーは呪力で強化して何とか耐えている。
近接戦は本来ならば偽バーサーカーにとって優位な間合いの筈だが、規格外の英霊であるアルケイデスの前では有利不利など無意味。
何度目かの攻防の中、嫌な音が響く。音の発生源は偽バーサーカーの手首。歪に変形している。遂にアルケイデスの防御の前に偽バーサーカーの肉体の方が悲鳴を上げた。
(このまま獲る!)
戦神の軍帯の力を帯びた弓が偽バーサーカーの胴体を薙ぎ、偽バーサーカーの上半身と下半身を分断させる──筈であった。
(な、に?)
頭の中では既に偽バーサーカーを倒していたのに、現実の偽バーサーカーの健在。そもそも振るったと思われた弓がまだ振るっていない。
アルケイデスはそこで自分の体の異変に気付く。まるで凍えるように体が細かく震えている。
(これは──毒か!)
まずアルケイデスの体に打ち込まれた毒の正体は穿血によって体内に入り込んだ偽バーサーカーの血液。死には至らないが急激な体調不良を引き起こす。
ヒュドラの毒を知っているアルケイデスからすれば、それ以外の毒など恐れるに足りない。ただでさえ並外れた精神を持つので大概の毒の苦しみには耐えられる。しかし、今回はそれが裏目に出た。
殆どの毒にその精神力で耐えられるアルケイデス。だが、肉体の方はどうしても毒に反応してしまう。毒を無視する精神と毒に反応する肉体により齟齬が生じ、アルケイデスのイメージだけが先行してしまった。
生死の掛かった賭けに勝利した偽バーサーカーは、この機会を逃さない。
アルケイデスの精神と肉体のズレが修正される前に大きく溜めを作り──放つ。
拳がアルケイデスの胴体に打ち込まれた瞬間、それは起こる。
ある者は黒い火花と言った。ある者は黒い稲妻だと言った。
呪力を用いた戦闘で
アルケイデスに拳が触れると黒い光と化した呪力が炸裂。
゛黒閃゛
アルケイデスの口から血塊が吐かれ、神獣の裘を穢す。
打撃と呪力が完璧に合わさった時にのみ起こる「黒閃」。その威力は通常時の2.5乗と言われている。
偽バーサーカーの会心の一撃を貰い、アルケイデスの動きが一瞬硬直した。偽バーサーカーはすかさず第二打を繰り出す。
前述したように「黒閃」とは偽バーサーカーの技ではなく呪力を用いる者ならば起きうる現象。ただし、その難易度は極めて高く、まず狙って出すことは出来ない──
゛黒閃゛
二打目もまた黒閃──しかも、折れていた筈の手で殴っている──突き出した腕を曲げ、肘打ちへと繋げる。
゛黒閃゛
再び起こる黒い火花。前のめりになったアルケイデスの顔面を膝が突き上げる。
゛黒閃゛
仰け反るアルケイデスの首に跳躍した偽バーサーカーの飛び回し蹴り。
゛黒閃゛
クラン・カラティンたちは偽バーサーカーが何をやっているのか理解出来なかった。偽バーサーカーが攻撃する度に黒い光が発生し、肉体が出してはいけない打撃音が響く。クラン・カラティンの中にはその打撃音に身震いする者もいた。
゛黒閃゛
゛黒閃゛
゛黒閃゛
倒れることすら許さない偽バーサーカーの黒い打撃。それでも原型を保っていられるアルケイデスは流石の頑丈さと言える。
反撃する余裕がないアルケイデスへ出される偽バーサーカーの最後の攻撃は──
゛黒閃゛
左右の拳で顔面と腹部を同時に突くもの。二つの火花が同時に起こった。
二発同時に「黒閃」を食らったアルケイデスは、数十メートル飛んだ後に建物の壁を破壊して中に侵入。それでも勢いは殺されなかったのか、反対側の壁を突き破って外に出る。
数百メートル先で仰向けに倒れるアルケイデスを見ながら偽バーサーカーは、神妙な面持ちで言った。
「……あの建物の修繕費、誰持ち?」