Fate CROSS strange FAKE 作:N40
「バーサーカーさん! やりましたね! 流石です!」
フラットは我が事のように喜ぶ。緊張感ある戦いから解放された安堵もあって喜びも増す。今まで実力の断片は見て来たが、実際の戦闘を見るのはこれが初めてであり、偽バーサーカーの無駄の無い戦い方はフラットにとって好ましく、また尊敬出来るものであった。
一方でクラン・カラティンたちはフラットのように素直に喜べもしないし、安心も出来ない。アルケイデスを素手で殴り倒した偽バーサーカーの存在に戦慄している。
今は椿を救出する為に手を組んでいるが、それが終われば再び敵同士になる。打倒英霊を掲げているクラン・カラティンだが、アルケイデスに勝てるビジョンは見えず、当然そのアルケイデスに殴り勝った偽バーサーカーに勝てる可能性も見えない。
偽バーサーカーに向ける眼差しは味方に向けるものではなく、何処までも聳え立つ明日の敵を見る目であった。
「喜んでいるところ悪いけど、まだ早い」
緩みかけていた空気が偽バーサーカーの一言で引き締まる。
戦った当人だからこそ偽バーサーカーは分かっていた。アルケイデスが立ち上がることになる。
全身が挽肉になってもおかしくないレベルの黒閃をこれでもかと叩き込んだが、偽バーサーカーの拳にはまだアルケイデスの肉体が壊れる感触が伝わっていない。つくづく頑丈な体である。
(親から貰ったその頑丈な体、大事にしろよ……って言ったらキレるかな? まぁ、俺も人の事言えないけど)
親という存在に複雑な事情がある偽バーサーカーはそんな事を考えていると、ぶち抜かれた建物の向こう側で動く気配がした。
「ふっ……」
アルケイデスは血を吐きながら自分の無様な姿を笑っていた。だが、その笑いは自嘲によるものではない。自分がどんどんヘラクレスから離れていく、つまり人間に近付いていることへの喜びから来るものであった。
大英雄ヘラクレス。それは絶対性を持つ存在。誰からも恐れられ、敬われ、肯定される者。その在り方は、アルケイデスが嫌悪する神々に近い。
大英雄ヘラクレスは完全無欠と崇拝されている。アルケイデスからすれば、完全無欠など鼻で笑ってしまう。取り返しのつかない失敗や恥など数え切れない程ある。
だが、それを指摘する者は少なく、声も小さい。大多数の前では少数は呑み込まれ、無かったものにされる。そして、残るのは大多数が支持する完全無欠という虚像。
(もっとだ……
幼子を狙うことを罵倒すればいい。汚い手を使うことを怒ればいい。英雄としての在り方を捨てたことを拒絶すればいい。
善を宿しながらも悪を行い。悪を宿しながらも善を行う矛盾の存在。完全無欠とは程遠い、愚かで無知で不安定な存在こそが人間。
(もっと土に塗れろ。もっと泥に塗れろ。もっと血に塗れろ)
令呪によって与えられた
アルケイデスは糸で引っ張られるかのように腕を使わずに立ち上がる。その際、黒閃のダメージで咳き込む。神獣の裘に染みた血が垂れ、アルケイデスの足元を汚していく。
(流れ出ればいい神の血など。傲慢さと共に地面の染みとなればいい)
嫌悪すべき神の血を踏み躙りながらアルケイデスは前進する。弓を構えず、宝具を出さず、ただ前へ進む。
「──来たな」
偽バーサーカーは目を細めながら皆に届く声量で告げる。何が来るのか言われずとも分かる。
クラン・カラティンたちは各々の宝具を強く握り締めながら大穴が開いた建物を凝視する。瞬きなど当然出来ない。アレを前に一瞬でも目を瞑るという行為がどれだけ恐ろしく、命知らずなのか恐れと共に知っていた。
夜の静寂の中で段々と近付く足音。遅くも速くもなく、一定の間隔で聞こえてくる。
そして、遂に全員が目視出来る距離までアルケイデスはやって来た。
「……頑丈過ぎじゃない?」
黒閃を九連続貰ったというのにしっかりと両足で歩いているアルケイデスに、偽バーサーカーは最早呆れたように言うしかなかった。
「……良ければ名を聞かせてもらおう。呪術師よ」
弱き者ではなく、狂戦士でもなく、呪術師という言葉を出す。そこには敵である偽バーサーカーへの敬意があった。
偽バーサーカーにもそれが伝わったが、彼は溜息を吐く。
「
「お前の拳は確かに効いた。神話の時代でもあれ程の威力を、それも何度も放つ戦士は数少ないだろう。見事と──」
「そっちじゃない、そっちじゃない」
アルケイデスからの称賛を、手を振りながら遮る。
「
偽バーサーカーが心配したのはアルケイデスの在り方。特大の呪いを宿しているというのに、何処か高潔さが抜け切れていない。本来の在り方を捻じ曲げられているように感じられ、捻じれの先にあるアルケイデスの魂を慮る。
「くっ。向かない、か。きっとサーヴァントとして初めての在り方なのだろう、今の私は。だが、同情は無用。『泥』に染まった時からこうなることは覚悟していた」
「そういうところだと思うんだけど……」
神々を憎悪し、大英雄である自分を唾棄する復讐者なのだが、言動の端々に生来の高潔さを感じてしまう。濃密な呪いをその身に宿しているにも関わらず。そう思うと偽バーサーカーの中にある考えが浮かぶ。
(行けるか?)
戦って感じたことだが、アルケイデスの放つ呪いは彼自身が発しているのではなく後付けのようであった。それが魂レベルで混じり合っているので普通ならどうにもならないが、偽バーサーカーにはそれをどうにか出来る技がある。
「さっきも言ったけど、あんたの呪い、祓わせてもらうよ」
「殺す──とは言わないのだな」
偽バーサーカーの言葉に何かを感じ取ったが、追求はしない。アルケイデスは言葉の代わりに弓を構える。
「虎杖悠仁。
真名を名乗る偽バーサーカーこと虎杖にクラン・カラティンは驚くと同時に知らない名だと思う。そして、勝手に真名をバラしてマスターであるフラットはどう思うのかとフラットを見たが、フラットは虎杖を表情も変えずに見ているだけであった。
「呪術師というものが如何なるものか、もっと見せてもらおう」
アルケイデスは大量の矢を番えると、虎杖から狙いを外して斜め上に矢を放つ。
不自然な矢の軌道に全員の目が上空へ向けられる。射られた矢はある程度の高さまで行くと山なりの軌道になり、そのまま降り注ぐのではなく空中で止まる。
アルケイデスは跳躍し、矢が止まっている高さまで上がると再び大量の矢を射る。
射られた矢が集合したかと思えば、複数に分裂して鳥を模った。
真バーサーカーとの戦いで見せた「ステュムパリデスの怪鳥」。あの時とは違って巨大ではなく分裂した分、小さくなっている。しかし、それでも成人男性よりも遥かに大きい。
怪鳥たちは真っ直ぐ偽バーサーカーに向かうのではなく上空で旋回する。虎杖の斬撃に対応して動いている。
「──解」
その内の一匹に斬撃を飛ばす。すると、その怪鳥はまるで見えているかのように斬撃の範囲から逃れていく。たった二回見せただけだが斬撃の速度を理解していた。逃げられないよう広範囲に斬撃を飛ばす方法もあるが、それを見越して怪鳥らは建物の近くを飛んでいる。もし、そんな事をすれば巻き添えが発生する。
「速度は既に見切った。次はこちらの番だ」
怪鳥の背に乗ったアルケイデスが矢を放つ。すかさず解にて矢をバラバラに分解するが、アルケイデスは既に次の怪鳥に飛び移り、別角度から虎杖を射る。
虎杖はすぐさま解を発動させようとするが、矢との距離が近くこのまま切断しても巻き添えになると即座に判断してその場から全力で跳ぶ。
そのすぐ後に矢が命中。命中の際に発生したエネルギーにより爆ぜる地面。拡散された地面の破片は周囲の建物を破壊。最初から爆弾が仕込まれていた方がまだ納得出来る大きな凹みが生まれた。
虎杖は後方へ跳びながら両手を合わせ、「百斂」により血液を圧縮。
「穿血」
今度は解ではなく穿血によりアルケイデスを狙う。
発射された穿血は最初に見せた時の赤いレーザーような一直線ではなく、発射と同時に枝分かれをし、鏃のような先端でアルケイデスを貫こうとする。
「速さではなく数で来たか」
解と比べれば速度が落ちている。更に複雑な軌道と数を両立させているせいか最初に見せた穿血よりも遅い。
蛇行して軌道を読ませないようにしているが、アルケイデスからすれば遅過ぎる。
「行け」
無情な号令によりアルケイデスが乗り物にしている以外の怪鳥らは穿血へ特攻する。
矢で模られた怪鳥に穿血が突き刺さると縫うように全身を貫き、最後は蜘蛛の巣状に広がって怪鳥を覆う。纏わりつく血は怪鳥が羽を動かしても粘液のように伸び、それでいてどんなに細くなっても千切れない剛性を持つ。
複数の怪鳥たちは飛行の自由を奪われ、空中に留まることが精一杯であった。
「軍神に飼い殺しにされた玩具などこの程度か」
怪鳥たちの無様さに怒りも湧かず、ただ冷たく見下す。
唯一無事であった怪鳥の背を踏み躙りながらアルケイデスは弓を構えようとし──別方向からの気配に気付く。
アルケイデスは舌打ちをし、怪鳥の背を爪先で蹴る。怪鳥はすぐにその場から移動しようとしたが、一歩遅かった。
アルケイデスらの近くにある建物の窓ガラスが割れ、そこから飛び出してきた穿血が怪鳥を貫く。
虎杖は穿血を複数発射しながら本命の一発だけはアルケイデスに気付かれないようにこっそりと建物の中を通していた。そして、タイミングを見計らって撃ち抜く。事前にアルケイデスが察知したのは流石と言える。ただ、怪鳥の方はアルケイデス程感覚が鋭くなかった。
全てのステュムパリデスの怪鳥が虎杖の血を受ける。この時を待っていたフラットが動く。
「──
虎杖が怪鳥たちを攻撃している短い時間で完成した普通の魔術師では理解出来ない複雑にして怪奇なる術式が発動。
フラフラとしていたが怪鳥たちが一斉に動きを止める。それはアルケイデスの乗っている怪鳥も例外ではない。
「──何?」
動きを止めた怪鳥たちに脳内で指示を飛ばすが反応しない。すると、止まっていた怪鳥らが一斉にアルケイデスの方へ向かってくる。ここまですれば、フラットが怪鳥らを操っているのが分かる。
アルケイデスの宝具であるステュムパリデスの怪鳥を乗っ取るなど通常では不可能。しかし、今回は条件に条件が重なったことで一時的に可能とした。
重要なのは怪鳥らに撃ち込まれた虎杖の血。フラットはそれを媒体として怪鳥に干渉。虎杖の血は呪力を帯びており、また怪鳥らの魔力はアルケイデスを通じて呪いを帯びており、呪いを祓う呪術師としての特性故か絶大な効果を発揮した。
また、ステュムパリデスの怪鳥が本来の性能と比べると大分劣化していることもあり、フラットの魔術でもギリギリ介入することに成功。
何よりもそれに応じた魔術を即興で作り出したフラットの桁外れの才能。
それらの要素が噛み合うことでコンピューターウィルスのように内部から支配し、怪鳥のコントロールを奪取した。
ただ、コントロール出来るのは短時間。時間を超えると術式が自壊してしまう。
奪った怪鳥らの性能を最大限引き出す方法を、フラットは既に思い付いていた。
暴走させられた怪鳥。矢で出来た体の隙間から光が洩れ出す。それと同様の現象が、アルケイデスが乗る怪鳥にも起こる。
まさか、と思った時には遅かった。殺到くる怪鳥、そして足元の怪鳥が自爆。内包された魔力がそのまま破壊力に変換された。
「──
クラン・カラティンは言葉を失った。一時的とはいえ英霊の宝具のコントロールを奪ったフラットに。そして──
「いやー、上手くいって良かったです」
──前代未聞のことをしたのに「イチかバチかの賭け」ではなく「少し難しいチャレンジ」が成功した程度のリアクションをするフラットに戦慄する。
魔力の爆発を至近距離で浴びせられたアルケイデスが落下。しかし、流石というべきか地面間際で体勢を変えて両足から着地する。
爆発を至近距離で受けたアルケイデスの肉体は肉や皮が吹き飛ばされ、血塗れであった。最早、無傷の箇所を探すのも困難。しかし、それでも五体満足の状態であり戦闘を継続出来る。
傷の深さなど関係なくアルケイデスは構えようとする。既に虎杖が間近に迫っていた。
虎杖はアスファルトが砕け散る程強く蹴り付けることでアルケイデスの懐に瞬時に入り込み、掌をアルケイデスの胸部に押し当てる。
対象をアルケイデスに限定し、より深く術式が入るように設定。アルケイデスの魂に纏わりつくナニカを切り離す。
「──か」
突如、虎杖の脳内に溢れ出した
10月31日。
渋谷。
崩れ落ちる無数の建物。
斬り刻まれ、原形をとどめていない人々。
醜悪に笑う呪霊。
後を託し、散る先人。
これは虎杖にとって忘れてはならない記憶。傷痕にしてはならない罪の記憶。過去にしてはならない心の生傷。
アルケイデスの魂に触れると同時に彼は『泥』に触れてしまう。『泥』という悪意そのものが虎杖のトラウマを抉り、嬲り、嗤い、鮮明にする。
数時間分の記憶を刹那に叩き込まれ、虎杖はアルケイデスを前に一秒以上無防備を晒してしまった。
触れている手をアルケイデスが掴む。この時、虎杖は我に返り、自分が最悪のミスを犯してしまったことを知る。
「虎杖さん!」
だが、そこから虎杖の行動は迅速だった。解にて掴まれている手を即座に切断。片腕を失いながらもアルケイデスから離れる。
片腕を失ったことは痛手──という訳でもない。時間を巻き戻すように断面から骨が伸び、肉が盛り上がり、皮膚が覆う。失われた片腕はすぐに元の状態に戻った。
反転術式という呪力という負のエネルギーを掛け合わせ、正のエネルギーに変えて肉体を治癒する術。手首の骨折にも使用したのがこれである。かなり呪力を消耗するので何度も使用すること避けたいが、アルケイデスには万全の状態で挑まなければ勝てないのでやむを得なかった。
アルケイデスは切断された虎杖の腕を持ち上げる。
「見事、見事なり歴史に記されぬ狂戦士よ。神々の傲慢の残滓が残るこの身をここまで良く傷付けてくれた」
夥しい流血をしながらも堂々と立ちながら虎杖の腕を掲げる姿は、まるで勝者を讃えるかのよう。
「羨むぞ、その力。そして、敬意を抱こう。
アルケイデスの宝具は生前の技を昇格させた『
「
片腕に残る呪力が噴き出し、アルケイデスの腕を伝って彼に流れていく。
「──『
呪力がアルケイデスの体内に取り込まれていく。その光景に虎杖は瞠目する。何故ならアルケイデスの体から今まで無かった筈の呪力が噴出したからだ。
暴れ狂う呪いの力。しかし、すぐに鎮まってアルケイデスの体内に収まる。これは、虎杖にとって恐るべきことであった。あれだけ凄まじい量の呪力を一瞬で制御したことを意味する。
「──成程」
アルケイデスは自分の身に起きた変化を理解する。
「怒りも憎悪も腹の中に収め、糧とする。垂れ流すだけなど幼子の癇癪と変わらんな」
「……奪ったのか、呪力を」
「いや、
『天つ風の簒奪者』は相手の宝具を奪う宝具。だが、虎杖に対して不完全な状態で発動した。だが、それでも得るものはあった。アルケイデスは
「これがどんなものか──」
アルケイデスが跳躍。振り上げた拳に呪力の光が宿っている。それを見た瞬間、虎杖は本能的に後退する。何か不味いことが起こる、と。
虎杖はその場から離れ、アルケイデスは狙う相手を失うが構うことなく着地と同時に拳を地面に叩き付けた。
刹那、生じる
地面は砕かれ、場所によっては隆起し、局地的に地震のような揺れが起こって周囲の建物が音を立てて揺れる。
虎杖は戦慄する。アルケイデスという存在に宿る比類なき才能に。そして、それが開花してしまった事実に。
アルケイデス、初撃にて黒閃へ至る。
× ×
眠る椿の病室。そこに起きる揺れ。アルケイデスの拳はスノーフィールド中央病院も揺さぶっていた。
その揺れは椿の体を通じて、夢の中の椿にも伝わる。
夢の中で彼女は恐怖した。いつかの雷のように。
椿が泣いた。危害が加えられた。危害を与えた者は病院の外。よって自動的に操丘椿の護衛から脅威の排除へと切り替わる。
四人の賢神が動き出す。