Fate CROSS strange FAKE 作:N40
何だこれは? どういう状況だ? 我々はどうすればいい? 英霊と死徒と怪物が睨み合う場で一部を除いた『二十八の怪物たち』は混乱と畏れを抱いていた。
最初は突入してきた偽アサシンに人間として今まで積み上げてきた武と贋作ながらも本物と変わらない宝具という武を合わせて打倒するつもりであった。
そこにもう一人のセイバーというイレギュラーが混ざり、偽アサシンのマスターを語る招かざる客である死徒が現れ、最後にはその英霊と死徒を喰った怪物までもが現れた。
このような状況で、人間はどうすればいいのか。その答えを求めるようにオーランドへ視線が向けられていく。
何もかも想定していない事態。しかし、オーランドのやることは変わらない。体内の魔力を整え、宝具である日本刀を構えていつでも死地に踏み入れ、如何なる相手であろうと抗う覚悟をその様で部下に見せる。
打倒英霊を掲げている者たちが、死徒であろうと化物であろうと怯むことなどあってはならない。その目的に殉ずる覚悟は最初に説いてあるし、オーランドは例えこのような混沌とした状況で折れるような部下を『二十八の怪物たち』に選んでいない。
オーランドの在り方が、恐怖に吞まれかけていた部下たちに活を入れる。しかし、そんな彼らの覚悟を嘲笑うかのようにジェスターは彼らを無視し、怪物──カリュブディスを睨む。
「おい、貴様! 喰らったなぁ!? 彼女と私を! 貴様の腹の中で我が麗しのアサシンと私が一つに溶け合うのはそれはそれで甘美な想像を駆り立てる! だが、彼女を穢していいのは最初に彼女を見初めた私だけだぁ! 醜悪な怪物如きにそんな権利など──」
ジェスターの鳥肌が立つセリフは最後まで続かなかった。足元の影すら置いていきそうな速度でジェスターの前まで移動していたハンザの拳により強制的中断されたからだ。
カリュブディスに意識を取られていたジェスターは反応が間に合わず、顔面を打ち抜かれたロビーの壁まで殴り飛ばされ、その壁すら突き破って奥に消える。
「声が大きいし甲高い。ここはお前の歌劇場じゃないんだよ、屍」
ハンザの人外染みたパワーとスピードにオーランドたちは目を奪われてしまう。英霊であるシドと偽アサシンもそれぞれ感心と警戒の視線を送る。
「それと──」
振り向き様にカリュブディスの胴体に蹴りを打ち込む。カリュブディスは防御もせずにその蹴りを受け、地面を数メートル滑った後に止まる。表情が無いせいでダメージを負っているのか分からない。
「ふむ、想像以上に頑丈だ。それと重い。ここに来るまでの間に何を喰ったんだ?」
様子見の為の蹴りであったがそれでも半分以上の力を込めていた。結果はダメージ無し。蹴り飛ばした時に見た目以上の重さを感じた。それこそ大型トラックでも蹴ったかのような重量。
攻撃を与えられたカリュブディスはハンザを見る。しかし、すぐに興味が失せたように視線を外し、偽アサシンの方を見た。
「こちらに興味なし──いや、もしかしたら攻撃しないよう指示されているのか?」
攻撃されてもハンザに対する敵意も戦意も無し。カリュブディスが注目しているのは英霊もしくは死徒のみ。ハンザの中である仮説が生まれる。
「油断したぞ……油断したなぁ……」
ぶち破られた壁の穴からジェスターの何かを噛み締める声が聞こえてきたが、ハンザは無視してオーランドの方に話し掛けた。
「あいつは俺が消そう」
「……我々に手を貸すというのか?」
「適材適所という奴だ。俺は神父だからな」
二人の会話を遮るように穴の向こう側からコンクリート片の瓦礫が飛んでくる。
ハンザは身構えない。間に割って入ったシドが飛来してきた瓦礫に騎士剣を振るう。どういう原理かカノン砲で撃ち出された速度で射出された瓦礫が完全に勢いを殺され、シドの足元に落ちた。
ハンザはその光景に感心したように口笛を鳴らす。
「お見事だ、御仁。わざわざ助けてくれたということは協力してくれるということかな?」
「ああいう魔物の類は何度も戦ってきた。君の言うように適材適所という奴だ」
「──という訳だ。あの吸血鬼は我々に任せてあんたたちは、あのアサシンか怪物の対処に全力を注いでくれたまえ」
ジェスターの相手を引き受けた直後、壁の穴の中から大量の瓦礫が撃ち出される。散弾のようなばら撒かれたそれは、確実にシドとハンザを狙っていた。
シドは騎士剣で迎え撃とうとする一方、ハンザは懐から取り出した刀身の無い柄のようなものを両手の指に挟み込む。次の瞬間、無かった筈の刀身が柄から現れると、飛んで来た瓦礫が命中するかと思われたタイミングでハンザの両腕が残像を生み出す。
『黒鍵』と呼ばれる武装が銀の軌跡を描くと複数の瓦礫は塵となりハンザの体を通り抜ける。ハンザが瓦礫を砂埃に変えている間にシドの方に飛んでいた瓦礫は全て彼の足元に転がっていた。
他の警官たちに被害が及ばないようわざわざ塵にしたハンザに、霊体化すればそもそも防ぐ必要もないシド。オーランドは拡散する筈であった瓦礫を無力化する二人を見て本当に協力する気があることが伝わった。
少なくともこの二人は敵ではない──今は。
「……ならば任せた。ハンザ・セルバンテス、セイバー」
オーランドが死徒を彼らに任せ、自分たちが倒すべき相手に意識を向けると、それに応じたかのように壁の穴からジェスターが現れる。瞼が痙攣しておりはち切れそうな怒りを内包していた。
「気に喰わん。ああ、気に喰わんな……そこの神父と老いぼれ。老いぼれの方は英霊なのは分かる……神父、貴様は『代行者』だな?」
魔霊、悪魔、死徒といった教義としてこの世存在してはならないものを祓うのではなく神の力と裁きに代わって抹消する武闘派集団、故に代行者。
「代行者は休職中だ。……今日は監督官として来ている」
傍で聞いていたシドはジェスターの口振りとハンザの格好から代行者とは自分が知るディバインナイトのようなものだと解釈する。何処の世界にも似たような役職は存在するらしい。
「愚かな選択だな! ハンザ・セルバンテス! 聖杯戦争で監督役は中立! 私を倒すということはその中立性の放棄! そのような不公平は後の聖杯戦争に多大な悪影響を及ぼすぞ!」
下手をすれば二度と教会が監督役として関われないことを示唆するが──
「はて、お前が聖杯戦争のマスターなどという話は聞いたことがない」
ハンザはわざとらしく惚け、ジェスターを挑発する。
「さっき私がアサシンの前で断言しただろうがぁ!」
ふざけた回答に憤怒するジェスターだが、ハンザは何食わぬ顔でシドに聞く。
「御仁も聞いていたか?」
「何せ奴が言うように儂は老いぼれでな。ついさっきのことなど何も覚えておらん。──まあ、そもそもの話、敵の戯言など聞くに値せん」
「その通り。という訳だ。お前の虚言などこっちは最初から聞くつもりはない」
ハンザの真っ当な指摘に対し、屁理屈で応える二人。どちらも挑発目的で言っているのでジェスターの神経を逆撫でする。
「虚言はそっちだろうがぁぁぁ!」
噴出する怒りと共に壁を掴み、コンクリートで出来ている筈の壁を紙のように千切り、トン単位はありそうな瓦礫を投げ放った。
シドは床に騎士剣を突き立てる。すると、床から巨大な氷柱が発生して飛んで来た瓦礫を貫く。氷柱に貫かれた瓦礫は不自然な急停止をし、その場で固定される。氷柱はそこで止まらず、ジェスターへ目掛けて一直線に迫る。
まるで運動エネルギーをゼロにされたような瓦礫の停止を警戒し、ジェスターは氷柱の射線上から離れる。
そこにはハンザが待ち構えていた。
シドが瓦礫を止めると同時にハンザはジェスターの側面に回り込んでおり、動きを誘導されていた。
地面に亀裂が生じる程の踏み込みで爪となった黒鍵を突き出す。だが、今度はジェスターの方も見えておりカウンターの手刀がハンザの心臓に突き出されていた。
ジェスターは手を翳し、黒鍵を受けようとしたが黒鍵の刀身はジェスターの手を貫く。
黒鍵がジェスターの顔面に入り、ジェスターの手刀がハンザの胸に突き立てられた──ように見えていた。
だが、実際はジェスターの手刀は黒鍵の爪によって防がれ、ハンザの黒鍵もジェスターの歯によって止められている。
ハンザは黒鍵に力を加え、ジェスターの喉元まで押し込もうとする。ジェスターも手刀に力を込め、ハンザの心臓を抉り取ろうとする。
力が拮抗し合い、二人共痙攣するように身体を震わす。このまま力比べになるかと思いきや、ハンザはフッと笑う。
「いやー、こういう時は本当に楽だ」
ジェスターが気付いた時には遅い。胴体に押し当てられるシドの騎士剣。ジェスターの意識がハンザに集中した間にシドはここまで接近していた。
「頼むぞ、御仁」
騎士剣の一閃でジェスターの胴体は切り裂かれ、背中の皮一枚繋がった状態となる。
「がはっ!?」
堪らず咥えていた黒鍵を呼気と共に吐き出す。
死徒の再生能力なら斬られた傍から接合していくが、シドの騎士剣が持つ神聖なる力がそれを阻害し、再生を遅らせる。
それでも千切れ掛けた部分を繋げるようと傷口が蠢くが、その顔面にハンザの蹴りが命中。
「硬いが
ジェスターの上半身は完全に千切れ飛んだ。
しかし、ジェスターはこうなることをある程度想定していた。二対一で最初から不利なのが分かっていたジェスターは、千切れた上半身から血を噴射させて空中を加速。ロビー入り口の回転ドアを突き破って街へと飛び出した。残された下半身もそれを追うように自らの影の中に沈み込む。
ハンザは一瞬シドに目配せをする。シドは返事の代わりにジェスターを追うとハンザもまたそれに並走する。
英霊、代行者、死徒には狭い警察署内での戦いは終わり、次なる舞台へと移る。
しかし、警察署内での戦いはまだ続いていた。
× ×
『二十八の怪物たち』の一人であるジョン・ウィンガードは自分の無力さに歯嚙みしていた。
警察署内では偽アサシンと白い怪物──カリュブディスが未だに戦っている。
閉鎖空間である警察署内を縦横無尽に駆け巡る偽アサシンの動きをカリュブディスは目で追っている
ジョンはカリュブディスの背後の位置に立っているが、カリュブディスはジョンを見向きもしないどころか無防備な背中を晒し続けている。敵とすら認識していない態度であった。
カリュブディスが叫び声を上げながら胴体の口を開ける。そこから二本の腕が飛び出し、疾走する偽アサシンを追い掛ける。
偽アサシンが通過した壁に両手が命中。コンクリートの壁を土のように握り締め、砕く。偽アサシンを捕まえることを目的として飛ぶ手。偽アサシンを捕まえようとしていることから、ジェスターの腕のように捕食を目的としている。
(今なら……!)
カリュブディスの無防備な背中を見てジョンは攻撃するチャンスなのではと考えてしまう。
サーヴァントと怪物の戦いにわざわざ人間が首を突っ込むなどバカげている。しかし、ジョンは魔術師であるがそれよりも警察官なのだ。市民に危険を及ぼすような存在を前に『怖いから』などという理由で立ち止まることは出来ない。
『君達は、正義だ』
オーランドの言葉がジョンの背中を押す。意を決し、宝具であるダガーを構えてカリュブディスへと突っ込む。
ジョンの単独行動に誰もが目を見開く。だが、走り出したジョンを誰も止められない。
次の瞬間、カリュブディスはジョンの行動が分かっていたかのように振り返り、巨大な口を開けて待ち構える。
「──あ」
走り出してしまったジョン。最早彼自身も止めることは出来なかった。
禍々しい口が一瞬で閉じ、咀嚼するように蠢いた後に胴体へ戻る。
『ジョン!』
ジョンは冷たい汗に塗れた顔でダガーを持っていた右手を見る。
右手は──無事であった。しかし、ダガーの方は鍔から上がカリュブディスによって喰われており、ジョンの右手には柄しか残っていない。
(偶然……いや、違う! こいつ……どういう意図なのか分からないが宝具だけを狙った!)
明らかに右腕ごと持っていけるタイミングであった。しかし、カリュブディスの方が何故か宝具だけしか食べなかった。
どうしてそんなことを、と考えるジョンの前で闇が広がる。カリュブディスがジョンに気を取られている内に追尾していた両手を振り切った偽アサシンが、カリュブディスの背後に迫っていた。
カリュブディスの後頭部を偽アサシンの手が触れる。
数ある御業の一つ。相手の脳を爆弾に変え、炸裂させる奥義。
「
黒い線が走る。偽アサシンは爆破寸前で手を離した。偽アサシンの手から血が流れ、白い指先から床に垂れる。
「馬鹿な……!」
カリュブディスの後頭部から伸びる無数の黒い束。先端が鋭く光るそれは、間違いなく偽アサシンが使っていた頭髪を刃とする『狂想閃影』。
カリュブディスは喰らった対象の能力を吸収する。偽アサシンの髪を喰らったことで『狂想閃影』を使えるようになった。
偽アサシンの動揺は大きい。自分の技が真似られたこともそうだが、この様な怪物が偉大なる先達の御業を使うことが許せなかった。
だが、同時に思ってしまう。こんな怪物に御業を使わせたのは自分の未熟さのせいではないかと。死徒といいこの怪物といい悉く先達たちの名誉の為に戦っている筈なのにそれを穢すような結果となったことに苦しむ。
自分のことなら信仰心で強制的に思考を切り替えられるが、先達のこととなるとその信仰心のせいで心が整理出来なくなる。
偽アサシンの苦悩が隙を生み、撒いていた両手が偽アサシンの背中を殴りつける。
苦悩は中断され、殴られた偽アサシンはその場で膝を着く。
カリュブディスの手にいつの間にか巨大な鉈が握られている。自分の身長程はある長大な鉈で柄以外にも鉈の背に二か所持ち手が付けられていた。
振り上げられた巨大鉈が偽アサシンに振り下ろされようとする──
「待て!」
──そんなカリュブディスの背中にジョンがしがみついた。周りもジョン本人ですらその行動に驚く。
(何をやっているんだ、俺は……!)
自分の行動の矛盾を嫌でも感じさせられる。そもそも偽アサシンはこの警察署を襲ってきた敵であり、仲間にも危害を加えた相手。助ける理由など──
(だけど、俺は動いてしまった……!)
目の前でカリュブディスに偽アサシンが殺されそうになる瞬間、体が反射的に動いてしまった。警察官としての使命が彼を突き動かした。
もし、偽アサシンが他の英霊によって倒されたのであれば納得していたかもしれない。だが、カリュブディスのような怪物に喰われるような最期なら見過ごせない。
それに、この様な怪物を放置したらスノーフィールドの街にどんな厄災が起こるか分からない。
街の未来を守る。ジョン・ウィンガードの熱意の原点はそれであった。
カリュブディスはしがみつくジョンを鬱陶しそうに振り解こうとするが、思いの外ジョンは粘る。
その気になれば簡単に振り解ける力の差がある筈なのだが、カリュブディスの動きは妙に大人しい。ジョンを傷付けることを嫌がっているように見える。
ジョンが奮闘している間に偽アサシンはカリュブディスから離れる。黒衣に覆われて目しか露出していないが、ジョンの行動に驚いていた。
カリュブディスは髪を伸ばし、ジョンの襟首を掴むと力任せに引き剥がす。しかし、カリュブディスはそれだけに留めた。
(こいつ……我々を攻撃する意思はないのか?)
カリュブディスの度重なる不審な行動からオーランドはそう推測する。
オーランドの推測は当たっていた。ライダーが現実世界にカリュブディスを解き放った時、カリュブディスに命じたのは『サーヴァント及びそれに類似する者たちに危害を加えない』というもの。マスターである椿に人死に関わらせたくないライダーの配慮であった。
カリュブディスはその命令に従い、偽アサシンや人外であるジェスターしか攻撃していない。ジョンから宝具を奪ったのも無力化の為である。
しかし、ここで一つ問題が発生。カリュブディス自身にも思考する能力がある。ジョンの妨害を受け、偽アサシンを撃破もしくは捕食するには『二十八の怪物たち』の存在が邪魔になると考えた。
カリュブディスは目線を上げる。ロビー上階には弓矢を構えている『二十八の怪物たち』の女性警官がいた。
カリュブディスは左手を向ける。左腕にある牙が帯状に展開し、螺旋を描くと
「──え?」
何が起こっているのか把握出来ないままカリュブディスは女性警官から弓矢を奪い取り、腹の口の中に放り込んでしまう。
カリュブディスは自分で考えた結果、『二十八の怪物たち』から宝具を奪い、無力化させるという答えを導き出した。
英霊に向けられていた捕食の牙が、『二十八の怪物たち』の矜持へ向けられる。