Fate CROSS strange FAKE 作:N40
「おとうさん! おかあさん! 見て見て! 可愛でしょ!」
「まあ、可愛いらしい」
「本当だね」
椿は現実世界では有り得ないワンダーワールドのみに存在するウサギに似た幻獣を両親に見せながら頭を撫でられている。
他から見たら仲睦まじい様子の親子。それを本を片手に離れた場所で眺めている偽ライダーは少し冷めた目で見ていた。
椿の両親をワンダーワールドに連れて来たのは偽ライダーの仕業。本当ならば連れて来るつもりはなかったが、椿の手に令呪が浮かんでいることを知り、それを切断して我が物にしようとしていたのを事前に防いだ結果こうなった。
我が子に対する愛情は持っているが、それは通常の愛情とは異なる魔術師としての情。常人ならば悍ましさを覚えるものであり、事実椿の両親は椿が昏睡状態になっていても次の世代が生めるかどうかの心配だけであった。そもそも椿が昏睡状態になったのもこの両親の実験のせいである。
椿に危害を加えようとした時点で偽ライダーはこの二人を消し去ろうと考えたが、寸前の所で思い留まった。両親から椿への愛情は異質なものだが、椿から両親への愛情は純粋なもの。外道な両親であっても二人を失えば椿は哀しむ。
椿の為に召喚されたのが偽ライダーなので彼女が傷付くことは出来ない。
やむを得ず偽ライダーは二人の始末を止め、代わりに二人を洗脳して普通の両親として椿に引き合わせた。
魔術に生涯を捧げた者たちがそれらを全て封じられ、凡百の一般人になるのはさぞ苦痛だろうと内心嗜虐的なことを考える。
「おっと……いけませんねぇ」
危うい考えを抱く自分を戒める。
生前は世界の終焉を望む破滅願望者であったが、彼が見初めた英雄のお陰で初心に戻ることが出来た。サーヴァントとして召喚された影響か、偽ライダーの中にはそのどちらの人格が混じっており、時折悪であった部分が表に出てくる。
現実世界に解き放ったカリュブディスは早速サーヴァントの一体と交戦した。仕留めることは出来なかったが焦る必要はない。
カリュブディスは成長する。例え倒されたとしても偽ライダーが存在する限り何度でも復活する。いずれは完成したカリュブディスにより英霊たちは喰い尽くされる。
その日が来るまで偽ライダーは椿の幸福を見守っていればいい。
偽ライダーは見誤っていた。カリュブディスと偽ライダーの繋がり、それを気付く者などいないだろうと。
× ×
「いやー! 昨日は凄かったですね! バーサーカーさん!」
宿泊している安モーテルで霊体化と解いた偽バーサーカーに興奮気味に話すフラット。
「テンション上がってんなー」
フラットに偽バーサーカーは呆れ気味の様子。
英霊の演説の生中継。警察署での死徒、代行者、英霊の戦闘。それら全てフラットたちは目撃していた。
「凄過ぎて英霊も見学に来るくらいでしたからね!」
「確かにヤバいのが来てたな」
見学しに来た英霊とはギルガメッシュのことを指す。偶然通り掛かっただけなのだが二人がそれを知る術はない。存在を知って尚フラットたちは目立った行動は取らなかった。バレたらそこで新たな戦闘が始まると思ったからだ。尤も、フラットの方はちゃっかりギルガメッシュの写真をこっそりと撮っていたが。
「もう一人──一人であっているのかな? 良く分からないエネルギーの『塊』が動いていましたけど、そっちの方も写真撮りたかったなー! でも、透明になっていたから無理か……」
「……何だって?」
偽バーサーカーも初めて知る情報をフラットはさらりと開示する。
「あ、気付いていませんでした? 何か変なエネルギーを持った何かが警察署からフラフラって出て行ったんですよ。何でしょうね、あれは?」
「……俺が言うのも何だけどそういう大事なこと言ってくれよ」
下手をすれば命にかかわることなのにフラットの表情は変わらず笑みを浮かべている。
「でも、探るのがバレたらやばいと思ったんですよ。あの良く分からないものは、もっと良く分からないものと繋がっていたみたいですし……あの凄い英霊と同じで探るのがバレていたら殺されていたと思いますし」
フラットは暢気に、それでいてドライな態度で死をあっさりと語る。何も考えていない馬鹿とは違う、得体の知れない部分が垣間見えた。
「……フラットはさ、きっと呪術師にも向いてるよ」
「本当ですか! どんな所がですか!?」
「
「ええっ!?」
「素質があるってことだ」
偽バーサーカーのストレートな発言にショックを受けたように見えたが、すぐに言葉を返す。
「でも、逆に嬉しいです、俺」
「嬉しい?」
「小さい頃から変に怖がられたり、避けられたりしてばっかで……きっとバーサーカーさんが言う俺の『イカレてる』所が受け入れられなかったんでしょうね……。それをバーサーカーさんに肯定されて嬉しいです」
話せば話す程呪術師に向いていると思う偽バーサーカー。普通じゃない根源が何処から来ているのか気になる。
無邪気でありながらも偽バーサーカーからして測り切れない何か内包しているフラット。
後に偽バーサーカーから小言を言われることとなるが、フラットは一つ言っていないことがあった。
透明の怪物は確かに深くは探っていない。しかし、浅くは探っていた。そして、フラットはそこで気付いた。透明の怪物と繋がる力が何処かへ伸びていることに。
× ×
スノーフィールド『クリスタル・ヒル』最上階ロイヤルスイート。そここそギルガメッシュとティーネの拠点──というよりギルガメッシュが一方的に選んだ場所である。
スノーフィールドには無数の監視の目がある。そんな中でこの様な目立つ場所は自分がここに居ると全員に告げるようなもの。また、魔術工房にしようとしてもホテルそのものをどうにかされたら元も子もない。そんな大胆なことをする魔術師やサーヴァントと居ないと思いたいが、生憎前例が在るので楽観的にもなれなかった。
全面ガラス張りの最上階で高らかに笑うギルガメッシュ。足元に広がる光景への嘲笑も混じっていた。傲岸不遜としか言えない態度。しかし、ギルガメッシュ程の実力者ならばそれも許される。ティーネは自分の置かれている状況に落ち着かなさを覚えながらも、ギルガメッシュという絶対的な存在が傍にいることに安堵もしていた。
ギルガメッシュの方針はここで待つということ。ホテルの最上階をわざわざ陣取っていれば向こうからやって来ると考えていた。
特に友であるエルキドゥとの戦いを邪魔した偽ライダーを敵視していたが、偽ライダーの方はギルガメッシュとエルキドゥは無視出来ない存在だと認識しつつも積極的に戦うつもりはないので、ギルガメッシュのことは気付いても完全無視を決め込んでいる。それらは全てカリュブディスに任せてあった。
しかし、ギルガメッシュの行動は決して無駄ではない。事実、彼の行動は二人の英霊に注目されていた。片や気配を殺して偵察を務めているが、もう片方の英霊はギルガメッシュの中に流れる神の血を憎悪し、二十キロを超えた先からもそれを感じ取っている。
憎悪の形を一射に込め、レーザー光線と見間違う速度で矢が放たれる。
放たれた矢は瞬く間にスノーフィールドの街へと届き、ビルや建物のガラスを通過した際の衝撃波で粉々に砕いていく。
やがて、矢は英霊ギルガメッシュ──ではなく彼のマスターであるティーネの額に向かい──無数の雷鳴により打ち砕かれる。
ロイヤルスイートのガラス張りは全て砕け、ティーネは無言の詠唱で荒れ狂う風による防護壁を造り、飛び散るガラスから自分、ギルガメッシュ、彼女の部下の黒服たちを守る。
矢を迎撃したのはギルガメッシュが用意していた自動防御宝具。エルキドゥの襲撃を想定して準備したものだが、別の勢力が仕掛けてきた。
ギルガメッシュは宝物庫から取り出した遠見の宝具で強襲してきた人物を覗き見る。
身長は二メートルを超えようとしているが、長身に不相応な身体の細さ。痩躯のような体型だが、隆起している筋肉の質は皮膚の上から見ても異常。
顔は見えない。何故なら頭部から縦長の長布を被っており、顔を覆い隠している。長布の隙間から見えるのは腰布や下穿き。露出している肌は何か染料を塗っているのか赤黒い色をしている。
その異形の男は自分の身長に近い木弓を構え、第二射を放っていた。
「
「弓兵?」
偽りの聖杯戦争の真の意味を知らないティーネは、アーチャーとして呼ばれたギルガメッシュがいるのに新たなアーチャーが登場したことの意味が分からず困惑する。
そうこうしている間に音速の矢が再び迫っていた。
「……来るか」
再び自動防御宝具で迎撃するかと思われたが、矢が市街を通る最中にそれは起こった。
矢
『解』
ノ 一 大
人外の領域の速度で突き進んでいた矢が空中で分解され、霧散する。
「ほぉ……?」
ギルガメッシュは片眉を上げ、ティーネは前触れもなく細切れにされた矢に驚く。ギルガメッシュが何かした風には見えなかったので、別のサーヴァントがやったと考えられた。
「王たる我の手を煩わせなかったことは褒めてやろう。褒美にこの場では見逃してやる」
ギルガメッシュの眼光が眼下の街を照らす。混乱する大勢の人々の中から目的の人物を正確に見通していた。
「我は礼儀を知らぬ蛮人を誅するとしよう」
割れたガラス張りの傍に召喚される巨大な宝具。小型の空中戦艦の宝具『ヴィマーナ』。あらゆる宝具の原典を有する宝物庫が貯蔵するのは何も武具だけではない。
ギルガメッシュはティーネに乗るよう指示を、ティーネも言われるがまま乗る。手摺りも座席もない──一応座席は一つあるが、どう見てもギルガメッシュ専用の席だった──のでティーネは落とされないよう姿勢を低くし、風除けや重力制御の魔術を予め施しておく。
操縦桿などなくギルガメッシュの意思でヴィマーナは急発進。
飛行するヴィマーナを撃ち落とす為に何発か矢が射られるが、それらはギルガメッシュに届く前に細切れになる。
見えない何かによって切り刻まれているのをティーネは特等席で目撃することとなる。
やがて、ヴィマーナはスノーフィールドの街から飛び去っていった。
「何あれはっや」
ヴィマーナを見上げながら偽バーサーカーは率直な感想を言う。口調は平坦なので本気で驚いているのかいまいち分からない。
「おおおっ! 凄いですね! バーサーカーさん!」
偽バーサーカーの実力の一端を見せてもらったフラットは感動していた。
「怪物探しの甲斐がありました!」
正体不明の怪物──カリュブディスの痕跡を探す為にスノーフィールドを歩き回っていた二人は、偶然ながらギルガメッシュと謎の弓兵との戦闘に巻き込まれた。
突如として割れた建物の窓ガラスに人々がパニックになる中、偽バーサーカーは冷静に空を見上げ、指先を向けて一言発したら矢はバラバラになって消滅した。
「バッチリ見られたな」
フラットはギルガメッシュに気付かれることを避けていたが、今ので偽バーサーカー共々存在を知られてしまう。
「まあ、仕方がないですよ、こうなってしまったら。そうなったらそうなったので動き方を変えればいいだけです。それに向こうはまだ俺たちのこと敵とすら認識していないようですし」
ポジティブさとドライさを感じさせる切り替え方。だが、そのドライな部分はこの様な状況では頼もしい。
「じゃあ、行っちゃったみたいですし俺たちも引き続き探しましょう! 俺、病院辺りが何か怪しいと思うんですよねー」
× ×
襲撃から邂逅までの時間はそう掛からなかった。スノーフィールド北部の渓谷にて両者は対峙する。
ギルガメッシュによる仕置きの宝具の連射は、襲撃者──ギルガメッシュの言葉を信じるならば弓兵──の弓捌きにより全て打ち払われていく。
神業と呼ぶしかない信じ難い技量。数十を超え宝具はあっという間に全て撃ち落とされ、地面へ無様に突き刺さる。
弓兵はさも当然のように佇み、ギルガメッシュに手招きをして挑発。
安い挑発だったが、既に激昂しているギルガメッシュを煽るには十分な効果はあった。
数十の宝具は数千となり、正面からであった一斉発射は弓兵の全方向且つ回転しながら放つというものになる。
しかし、弓兵はそれすらも無傷で切り抜ける。王の裁きをものともしない様子にギルガメッシュは多少の興味へと変わり、ティーネはギルガメッシュによる圧倒的な破壊を超えた弓兵に戦慄する。
「──
ギルガメッシュを相手にあってはならない一言を放つ弓兵。
「物置の最奥にある剣を抜くがいい。それで対等だ」
乖離剣エアを持ち出せば対等と宣言する。弓兵の不敵な態度にギルガメッシュのオーラが濃度を増し、空気が苦しい程の冷たさを帯びる。
「エアは我の分身同然よ。弱者が拝謁出来ると思い上がるな。どうしても我に抜かせたけばそれに値する力を見せてみよ!」
エルキドゥ相手には最初から抜いていたエアだが、弓兵程の実力があってもギルガメッシュは抜こうとしない。言葉通り相応の相手にのみエアは開示され、認めていない者に見せるなどエアへの辱めであり、延いてはギルガメッシュにとっての恥辱となる。
「愚かな……」
弓兵はそう呟いた後、虚空から布地を顕現させる。ギルガメッシュの眉間に皺が寄る。神嫌いを自称する彼は、その布地から放たれる濃密な神の気配を感じていた。ギルガメッシュの知る神とは異なる神だが、気分が悪くなるのに変わりない。
数秒後、神気による一撃が大地を震わせた。
× ×
「ギル……何だか強そうな人と戦っているね……?」
スノーフィールド近くの大森林。エルキドゥはそこで静かに時を過ごしている。傍らには狼が寄り添っている。この狼は合成獣であり、エルキドゥのマスターでもあった。
エルキドゥは森にいなながらも最高クラスの気配感知により森の外の様子を把握している。エルキドゥは聖杯が呼べる以上の数の英霊が召喚されていることも感知しており、既にこの聖杯戦争の異常さに気付いていた。
「あれ?」
戦いの様子を感じ取っていたエルキドゥは、すぐ傍でまた別の気配が急に現れたことに気付く。
「一人……また強い気配が増えたね」
新たな気配を感じ取ったエルキドゥであったが、不意に目を細める。
「おや……? まだ気配が……?」
深く探っていたエルキドゥは感知した気配の中に違和感を覚える。上手く周りに同化しているので分かりづらかったが、微かに英霊の気配がもう一つあった。
「上手く隠れているね……。へぇ……」
エルキドゥの目が一瞬見開かれた後、微笑を浮かべる。
「
× ×
派手な音と共に弓兵は殴り飛ばされる。
殴り飛ばしたのは十代後半に見える少女。赤く長い髪を後ろで一纏めにし活発さと生気に満ちて凛とした彼女の引き締まった腕が繰り出した一撃であった。
黒毛の馬と共に何処からか現れた少女の強襲により弓兵は離れた壁面まで一直線に飛ばされた後、高台は衝突の衝撃で崩れて弓兵は生き埋めになる。
『王の財宝』でも一切傷付かなかった弓兵が少女の拳で殴り飛ばされた光景に絶句するティーネ。一方で相手を測るつもりで『王の財宝』を展開していたギルガメッシュは、少女の横槍に露骨で露骨に不機嫌になっていた。
「あの外道は、私の得物だ。……お前たちは手を出すな」
「興が削がれるというのは、まさにこの事だぞ……小娘」
睨み合う両者。だが、その睨み合いも火山のように打ち上げられた瓦礫によって中断される。
宙に舞う無数の岩に混じって矢を番える弓兵。
誰もが頭上を見上げていた。だからこそ反応が遅れた。少女の足元を濡らす小さな水溜りに。
冷たい感触が少女の爪先を濡らす。その時に異変に気付いた少女であったが、水溜りから生物のように動く水により少女はあろうことか水溜りの中に引きずり込まれた。
「何っ!?」
浅い水溜りの中に完全に消える少女。
射るべき相手を突如見失い、弓兵の矢を放す手が一瞬止まる。その瞬間、水溜りは小さな池程の大きさとなり、水面が波打つと水面は龍の形になって飛び出し、弓兵へと飛翔していく。
弓兵は矢を射るのを止め、弓の一振りで水の龍の頭を弾き飛ばす。頭部を失い、水の龍の形が崩れる──が、膨張して散弾のように水飛沫を浴びせた。
水は粘液のように弓兵の体に纏わりつき、自由を奪う。弓兵はすぐに水を怪力で吹き飛ばそうとするが、そうなる前に水は荒れ地に出来た池に引き寄せられ、少女と同じように中へ引きずり込む。
「……俺としたことが、潜んでいる雑種を一匹見逃すとは」
「こんな荒れ地でこれだけの水を……!」
ヴィマーナの上から見ていたギルガメッシュは更なる横槍にますます不機嫌となり、ティーネは乾いた大地に池サイズの水が生じたことに驚く。しかも、引きずり込まれた英霊二体の姿が見えない。見た目に反してかなり深いことが分かる。
ティーネの想像は当たっていた。英霊たちが引き込まれた水中は、底が見えない程に深く。端が見えない程に広い。
深海にでも連れて来られたような感覚だが、少女も弓兵も臨戦態勢を崩すことなく構えている。
弓兵が全方向を警戒する中、その背後に浮き出すように現れる真アサシン。音もなく弓兵の首に己の得物を突き刺した。