Fate CROSS strange FAKE   作:N40

7 / 9
四人の英霊たち

 少女と弓兵が底の見えない水の中に引き摺り込まれた後、即座に自分の周囲を確認した。水は本物であり魔力や宝具の気配はない。そして、すぐに臨戦態勢に入るが攻撃の対象は少女は弓兵、弓兵は少女であった。

 何者かの仕業なのは分かっている。しかし、それよりも優先すべき理由がお互いにあった。

 少女もまた弓を構えており、その矢を弓兵へ向けている。弓兵もまた既に矢を番えた弓を向けていた。

 如何なる異変が起きようとも互いの方針はぶれない。

 だからこそ、一考すべきだったのかもしれない。わざわざ水中に二人も引き摺り込んだのはこのような状況を生み出す為だったのだと。

 弓兵の背に隠れるようにして出現する真アサシン。少女はアサシン特有の気配遮断と弓兵の強過ぎる存在感のせいで気付かない。

 弓兵もまた真アサシンが全く殺気を感じさせないせいで察知が遅れていた。

 真アサシンの手に握られる得物。刃の部分は平たく菱形の一点を伸ばしたような形をしており、滑り止めの為に布を巻いた柄。柄頭は引っ掛け易い輪になっている。

 クナイと呼ばれる忍具が背後から弓兵の首へ突き立てられようとしていた。

 その時、弓兵は頭を動かす。偶然か、それとも何かを感じ取ったのか。振り返ったことで首に刺さる筈のクナイは弓兵の頭から被っている布地によって阻まれる。

 奇襲に失敗した真アサシン。だが、慌てる様子はない。魚の如く水中を素早く泳いで弓兵から離れる。

 弓兵は下がる真アサシンに矢を放とうとするが、そこで気付く。周囲の水の抵抗が増しており弓兵の動きを鈍らせている。

 少女の方にも同様のことが起こっており、ぎこちない動きで弓を射ろうとしている。

 水の抵抗を受けたまま弓兵は怪力によりそれらを屈服させ、矢を放つ。矢は真アサシンへ一直線に飛んでいくが、水の抵抗のせいでギルガメッシュのホテルを射った時程の速度は出ていない。あの時が雷の如き速さだとしたら、水中の弓は銃弾で放たれたものまで下がる。

 それでも十分な速度であったが、真アサシンを射抜くには遅過ぎた。

 真アサシンが両手の指を組む。魔術的な動作なのはすぐに分かった。仏教の儀式や忍者などが行う印を結ぶという行為だが弓兵と少女はそこまでの詳細は分かっていない。

 真っ直ぐ突き進んでいた矢がある程度の距離まで真アサシンに近付くと、急に方向が逸れて外れてしまう。

 弓兵は続け様に数発矢を射ったが、どれも同じ結果であった。

 水中の為、視認は困難だが真アサシンの周囲には急速な水の流れが発生している。それが壁となって真アサシンを矢から守っていた。

 真アサシンは再び指を組む。様々な形にして組んでいるが、速過ぎて一つに重なったように見えた。

 真アサシンが何かを放ったのは分かった。しかし、流水の壁の時と同じように水と同化しているので見えない。

 だが、攻撃が不可視だからといって焦るような二人ではなかった。

 弓兵は事前に出していた布地を弓に巻き付ける。そして、少女もまた身に纏わせた帯から神秘の力を引き出す。二人の持つ布、どちらも同じ模様が縫い込まれており、似たような力を放っている。

 弓兵が弓を振るえば、海流の如き強い水の流れが起き、迫っていたものをその水の流れに呑み込ませてしまう。

 神秘の力──神気を纏った少女が水中で拳を突き出すと水中にもかかわらず水が波打ち、発生した水圧で不可視の攻撃を全て押し返してしまった。

 状況、状態共に不利だがどちらの英霊もそれを物ともしない。しかし、真アサシンも攻撃が通じなくとも感情を全く乱さず、冷静に相手を分析している。

 次なる一手を繰り出そうとした時、真アサシンが水上を見上げる。すると、上から幾つもの宝具が降り注いで来た。

 英霊たちが消えた荒野の池。その上空でギルガメッシュは怒り心頭としか言いようがない表情でその池を見下ろしていた。

 

「我の前で吞気に()()()か……。水を差してくれた礼だ。存分に我が宝具を呑ませてやろう!」

 

『王の財宝』から射出された宝具が次々と水の中に飛び込む。

 水中では頭上から降って来た宝具を避けていく三人。水の抵抗で宝具の速度は落ちているものの数が多い。それぞれぎりぎりまで宝具の軌道を見極めて回避、或いは捌いていく。

 このままでは埒が明かないと判断したのか弓兵が弓を構える。狙うは水上のギルガメッシュではなく水底。

 その時、一際大きな着水音と共に水中を黒い影が突き進む。影の正体は少女が連れていた駿馬であり、主の危機に危険を承知で水の中に飛び込んで来た。

 少女が馬に跨ると馬の全身に金色の紋様が浮かぶ。と同時に弓兵は真下に向けて矢を射った。

 今までの矢とは異なる豪射。底の見えない水を真っ二つにするように突き進んでいき、水底の闇の中に消えたかと思えば、矢は確かに底に命中してその衝撃で水が下から突き上げられる。

 真アサシンは突き上げてくる水流に呑み込まれる前に浮上。少女は跨る馬が水を蹴りつけることで急上昇。弓兵は構えたまま自ら起こした水流に乗る。

 ギルガメッシュが宝具の一斉発射を急に止める。ティーネがそれに疑問を抱いていると突然水が盛り上がり次の瞬間には爆発して大量の水が宙へ打ち上げられ局所的な雨が降る。

 その雨に紛れ、水中から解放された弓兵と少女改め──真ライダーが地上へと降り立つ。

 そして、水中の中に潜んでいた真アサシンもギルガメッシュたちの前に姿を現した。

 

「お前がこの我の前で姿を隠していた無礼者か」

「貴様が何者だろうと知ったことではない。易々と姿を晒す暗殺者などおらん」

 

 侮蔑と込めたギルガメッシュの眼差しと怒気を浴びせられても真アサシンはそれをあっさりと流す。

 

(暗殺者……あれがアサシンの英霊……?)

 

 アサシンという言葉が似合わない容姿にティーネは疑念を抱いてしまう。ギルガメッシュに次ぐ重武装である甲冑姿がアサシンとのイメージから離れさすが、同時にギルガメッシュには及ばないものの何か惹きつけられる感覚があった。ギルガメッシュのように一国を率いたカリスマと似たリーダー性が真アサシンにはあった。

 

「口で何と言おうと姿を晒した貴様は間抜けよ。ましてや暗殺者風情が我の前に顔を出すとは、その愚かさ死を以って償え!」

 

『王の財宝』から射出された剣、槍、斧などの宝具が真アサシンを狙う。

 真アサシンは両手の指を組み、印を結ぶ。

 

 ″水遁・水陣壁! ″

 

 体内の何処に蓄えていたのか分からない大量の水が真アサシンの口から吐き出され、真アサシンを守る壁となる。

 迫る武器群を完璧なタイミングで水が下から突き上げる。完全に防ぐことは出来ずとも軌道はずらされ、軌道が曲げられた宝具は他の宝具と接触し出しあらぬ方向へ飛んでいく。

 一瞬で葬る為、武器を密集させ過ぎたことが仇となったことにギルガメッシュは不愉快そうに舌打ちをする。

 真アサシンはすかさず新たな印を結ぶ。

 

 ″水遁・水龍弾の術! ″

 

 壁となっていた水が龍の形となって撃ち出される。弓兵を引き摺り込む為に使用したものであった。防御をそのまま攻撃に転じさせる無駄のない流れである。

 

「ただの水芸だな」

 

 放たれた水龍弾を一笑し、迫るそれを盾型宝具で防ぐ。大口を開けてギルガメッシュを呑み込もうとしても盾のせいでそれ以上進むことが出来なかった。

 だが、ギルガメッシュが真アサシンを狙おうとした時、既に真アサシンの姿は無い。すると、ギルガメッシュの背後で金属音が鳴る。

 いつの間にかギルガメッシュの死角に移動していた真アサシンがクナイで突こうとしていたが、自動防御宝具の盾によりクナイが防がれていた。

 

「空間転移……!?」

 

 ティーネは真アサシンが行ったことに驚愕する。キャスターであったとしても使用出来るか分からない限りなく魔法に近い魔術をアサシンが行使した。謎しかない真アサシンがますます理解出来ない存在となる。

 クナイでの攻撃を防がれた真アサシンは何かをしようとしたが、別方向からの殺気に気付き、持っていたクナイを投擲。真アサシンが一瞬消えて投げたクナイの先に出現すると、弓兵が射った矢がギルガメッシュを襲う。

 二人纏めて屠るつもりだったが、真アサシンは事前に気付かれて逃げられた。それでもギルガメッシュが仕留められれば問題無い。

 

「ついでで我の首を獲れると思い上がるな!」

 

『王の財宝』からすぐさま宝具が放たれ、弓兵の放った矢を迎撃する。

 

「アーチャァァァァッ!」

 

 真ライダーの強い敵意と共に跳躍する馬の上から矢を射る。弓兵──真アーチャーは避ける素振りもみせず、被っている布で矢を受ける。

 矢は真アーチャーを貫けず、逆に矢の方が砕け散る。

 

「やはりか……」

 

 真ライダーは焦った様子もなく最初からこうなることが予め分かっていた。真アサシンはその光景を鋭い眼差しで見ている。今と同じことが先程水中で奇襲して来た時に起きた。クナイで布を刺した時、不思議な感触が返って来た。手応えというものが全く無く、貫くイメージが全く湧かなかった。

 

(もしかしたら武器の類はあの布で無効化されるのかもしれん)

 

 真アサシンがそう推測する。

 

「……成程な」

 

 ギルガメッシュもまた真アーチャーの防御の秘密を理解する。ティーネは何が分かったのかギルガメッシュに恐る恐る訊ねる。

 

「何か、分かったのですか?」

「あれは具足が特殊なだけよ。恐らくは魔獣か神獣の類の裘だろう」

 

 魔獣、神獣。それは人の文明を特異点であり、拒絶する存在。試練のように発達する文明の前に現れる。

 

「少なくともアレには人が生み出すあらゆる『道具』は通じぬであろうな」

 

 文明を否定する特異さ故にギルガメッシュの宝具は効かず、真ライダーの神気を帯びた拳は届いた。

 凄まじい防御力──と思えるかもしれないが、真アーチャーが守っているのは頭部から胴体にかけて。それ以外身を守るような防具は無く、ギルガメッシュの何千という宝具を捌き切ったのも真アーチャーの技量によるもの。もし、裘を真アーチャーの手によって作られたのであれば、それは真アーチャーの武功を表している。

 

(そういうカラクリか。『道具』を使わなければいいという訳か)

「答え合わせが出来て満足か? 雑種」

 

 真アサシンの考えなどお見通しだと言わんばかり煽るギルガメッシュであったが、真アサシンは対真アーチャーへの戦いを考えていたので反応どころか見向きもせず完全無視であった。

 ギルガメッシュの怒りが天井知らずに燃え上がる中、他の場所でも似たような炎上が起きている。

 

「いつからその様な愚物となった! 答えろ! アーチャー!」

 

 真ライダーは真アーチャーと面識があるらしく彼の言動に強い怒りと失望を抱いている。しかし、真アーチャーの方はその怒気を浴びせられても冷徹な程に冷めた声を出す。

 

「……そうか、貴様か。()()()()()()

 

 真ライダーは最初から分かっていたという態度に対し、真アーチャーは今思い出した様子。記憶を引っ張り出さねば思い出せない存在として扱われたことに真ライダーは怒りを覚えるが、それよりも許せない事がある。

 だが、そんな怒りなど知った事かと言わんばかりにギルガメッシュが無差別に宝具をばら撒く。

 ヴィマーナから放たれたそれは爆撃に等しく、乾いた土地が地形を変えていく。

 

「カリオン!」

 

 真ライダーは騎乗した愛馬の手綱を握り、疾風の如き速さで宝具の雨を掻い潜り、真アーチャーは一射で九本の矢を射り剣、槍、斧を撃ち落とし、真アサシンは気付けば宝具の射程外まで移動していた。

 

「邪魔をするな、と言った筈だぞ!」

 

 巧みな馬術で宝具を躱しながらギルガメッシュを非難するが、ギルガメッシュは面白くなさそうに吐き捨てる。

 

「たわけが。王の面前で下馬せぬ者、顔を隠す者、拝礼どころか拝聴すらせぬ者。どいつもこいつも礼儀を知らぬ無礼共よ。そんな奴らにくれてやる恩赦などない。尽く消え失せろっ!」

 

『王の財宝』の数を増やし、三体の英霊を屠ろうとする。

 

「王だと? 貴様がか?」

 

 王と名乗るギルガメッシュを訝しそうに見ながらカリオンを操り、宝具の僅かな隙間を通り抜けていく。

 

「我の威光に気付かぬとは女王と呼ばれてもその程度よ。所詮は真の王たる我の不在の間に小競り合いを制した雑種の一匹に過ぎん。我という高みを前にその矮小さを身を以って知れ!」

 

 自分以外の王に価値無し、と言わんばかり冷たい言葉と共に殺意の代わりに宝具を飛ばす。

 真ライダーも愛馬の速さを生かし、上手く躱し続けていく。だが、これは乱戦。隙が生じればそこを突くのが定石。

 真ライダーが移動した先を狙って真アーチャーが矢を射る。狙う先は彼女の愛馬。先ずは『将を射んとする者はまず馬を射よ』という言葉を実行する。

 真アーチャーが矢を射るタイミングで真アサシンが空間転移で懐に現れる。射った直後の僅かな硬直を狙ってクナイを振る。

 真アーチャーの二の腕部分に浅い切り傷が出来る。そして、揺れる裘の端が僅かに切れていた。

 真アサシンの振り抜いたクナイから伸びる透明の刃。それは水によって出来たものであった。裘が道具による攻撃が無効と聞いたので、真アサシンの『技術』で作られた水の刃を試した。結果として効果があったが、ただ裘も真アーチャーも素が硬過ぎた為にかすり傷程度ダメージしか与えられなかった。

 嫌らしいタイミングで迫る真アーチャーの矢を人馬一体の動きで辛うじて避けた真ライダー。すぐに反撃に転じようとするが、真アーチャーの腕から流れる血に驚いた後、真アーチャーが振るった弓が真アサシンの胴体に命中し、体を上下に分かれる光景を目撃する──が、真っ二つになった真アサシンの体は煙を放ち、二つに砕かれた丸太と化した。

 本物は既に真アーチャーから離れた場所に立っている。真アサシンの面妖な技に一瞬啞然としたが、すぐにそれは彼への怒りで塗り潰された。

 

「貴様も話を聞いていないのか! その外道は私が倒すと言った筈だ!」

 

 自分以外の誰かが真アーチャーに傷を負わせたことに憤慨している。そして、ティーネを一瞥する。急に視線を向けられたティーネは分かり易く動揺していた。

 

「幼子をさも当然のように狙った……そんな外道に堕ちた奴を討つのは私の役目だ!」

 

 この戦いの開幕となった真アーチャーの一矢はティーネを狙っていた。そして、ギルガメッシュがティーネをここに連れて来た時も初撃はティーネ狙いであった。今はギルガメッシュによって守られているので様子を窺っているが、ギルガメッシュに何かあれば真アーチャーは恐らく彼女を射るだろう。

 

「マスターを狙うのはサーヴァントとの戦いでの定石だ。幼子だろうと魔術師、ましてやこの戦に加わってからには覚悟もしておろう。それとも手心を加えろと? 戦そのものを起源とする貴様だが、他者の覚悟を軽んじる程傲慢だったか? 女王よ」

「黙れ! 貴様の口からその様な凡庸な答えが出るとは思っていなかったぞ! 何処まで堕ちれば気が済む! 戦場の常識など全て覆し、捻じ伏せて来たのが貴様だろう!」

「知らん。そもそも私に捻じ伏せられた者の一人が私にそれを問うのか?」

「お前に殺されたからこそだ!」

 

 英霊になる前から面識があったと思われたが、想像よりも複雑な関係にティーネは言葉を失う。同時に彼らの会話から段々と二人の正体が浮き彫りになってきたが、その答えに冷や汗が滲み出る。

 

「……良く吼える娘だ」

 

 急に会話に入って来た真アサシンに全員の視線が集まる。

 

「熱くなり過ぎだ。感情を抑えてもっと視野を広くしろ。でなければまたお前はこの男に殺されるぞ?」

 

 真ライダーの様子に忠告する真アサシン。諭すような言い方であり悪意は感じない。

 真アサシンから諭された真ライダーは啞然として言葉を失う。

 

「ふははははっ! 確かに喧しい小娘だ! まるで馬の嘶きよ! ああ、そうか。もしかしたらその馬はお前の()()()だったか? だとしたら万物を見通す我の目も曇ったものだ!」

 

 真アサシンに便乗してギルガメッシュが煽る。内容が内容なだけに真ライダーの表情は怒りで歪んでいく。その表情を見たら狂戦士と勘違いしてしまうかもしれない。

 

「何処まで私を侮辱する!」

 

 真アーチャーに向けられていた怒りが真アサシン、ギルガメッシュにも拡散する。

 怒りのままカリオンを駆ろうとし、大地を蹴りつけた瞬間、カリオンがつんのめる。

 

「何だと!?」

 

 駆足の為の足が地面から湧き出た水によって縛られ、足止めをされていた。

 

「だからと言った筈だ。視界を広くしろと」

 

 真アサシンは冷徹に言う。怒りのせいで視界が狭まり、真アサシンの術に気付かなかった。

 そして、真アーチャーはこの隙を見逃す筈がない。

 

「刮目しろ。これが貴様が望んだ人の(かいな)によって捻じ伏せ、踏み躙り、支配した神の力(理不尽)だ」

 

 弓に巻き付けられた『戦帯』から放たれる力と真アーチャーの体から湧き出す神の力とは違う異質な力が混じ合い、溶け合い、毒となって放たれた。

 




結果的によってたかって真ライダーをいじめているような感じになってしまった…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。