プロの暗殺者たちが手ぐすね引いて待つ古都・京都への修学旅行。その初日は、新幹線の中で配られた「鈍器」と見紛うばかりにクソ分厚く重たいしおりの重圧から始まった。殺せんせーが全生徒一人一人のためにマッハ20の猛スピードで手作りしたというそのしおりは、もはや旅行の案内書の域を超え、一種の筋トレグッズと化していた。
連「……あー、眠い。あいつ、何考えてこんなもん作ってんだよ」
京都駅の集合場所。暁連はいつも通り、遅刻のペナルティが発生する寸前のギリギリのタイミングでしれっと現れた。ワインレッドの髪は少し寝癖で跳ねており、紫の瞳は眠そうに細められ、大きなあくびを噛み殺している。
渚「あ、連君! おはよう。……って、やっぱりギリギリだったね」
渚が苦笑しながら、その腕に抱えられた「鈍器(しおり)」を直した。
連「遅刻しないだけマシだろ。……っていうか、重い。こんなもん持ち歩かせる時点で、このイベントのデバッグが済んでない証拠だわ」
そんな愚痴を叩き込みながら、一行は大型バスへと乗り換えて宿泊先の旅館へと向かった。
しかし、京都の街並みを窓から楽しむ生徒たちの前で、信じられない光景が広がる。あのマッハ20で空を飛び、地球を破壊すると豪語する超生物が、バスの座席で「おろろろ……」と見たこともないようなドロドロの緑色になって、ぐったりと のされているのだ。
殺センセー「ヌ、ヌルフフ……。先生、乗り物全般に極めて弱いのです……。新幹線の揺れ、そしてバスの小刻みなG(重力)が、先生の三半規管をマッハ20で破壊しています……」
連「……マッハ20で飛べるくせに、時速40キロのバスで酔うとか、どんなバグだよ」
連が冷ややかに突っ込む。
さらに旅館に到着した直後、殺せんせーはあれだけ「要らないだろ」と突っ込みたくなるほどの大量の荷物(京都の全和菓子屋のデータや予備の変装グッズなど)を抱えていたにもかかわらず、急に顔を真っ白にして叫び声を上げた。
殺センセー「ヌヤッ!? 先生、人生最大の痛恨のミスです! あんなに準備したのに、いつも使っているマイ枕を東京の自宅に忘れてきました! これでは枕が変わって夜も眠れず、明日の暗殺の授業に支障が出ます!」
連「……置いてけよ、そんなもん」
殺センセー「いいえ! 先生の繊細な頭部には、あの低反発ウレタンが必要なのです! というわけで、ちょっと東京に戻って取ってきます! ヌルフフフフ!」
シュバッ! という凄まじい風圧を残し、黄色い超生物は京都の空へと消えていった。マッハ20の無駄遣いも甚だしい。
イリーナ「……本当、自由なタコねぇ」
長旅の疲れも見せず、煙草に火をつけようとしたイリーナが溜息をつく。
初日は移動のみ。夕食を食べて風呂に入るだけというスケジュールだったため、残されたE組の面々は、ターゲットのいない旅館の開放感に包まれ、一気にわいわいと騒ぎ始めた。
---
地元の名店から仕入れられた豪勢な夕食を終えた後、男子たちの多くはすぐに大浴場へと向かった。しかし、連の部屋にはまだその姿はなかった。
連は畳の上に寝転がり、スマートフォンを片手に、ノートPCの画面を鋭い眼光で見つめていた。画面の向こうに映っているのは、暁不動産がメインスポンサーを務める国内最高峰のプロeスポーツチーム『AKATSUKI Gaming』の格闘ゲーム部門に所属するトッププロたちだ。
「――連様、お忙しいところ恐縮ですが、本日実装された新キャラクターのフレームデータと、実戦でのキャラ性能の検証が完了いたしました」
画面越しのプロゲーマーが、14歳の中学生である連に対して極めて真摯な口調で報告する。スポンサーの御曹司という立場もあるが、それ以上に連の「ゲーマーとしての圧倒的な理論構築」と「ハザードレベル」に裏打ちされた直感に、プロ側も一目を置いているからだ。
連「……あ。このコンボ、弱キックからの繋ぎの発生フレーム、明らかに調整ミスだろ。判定が強すぎる。格ゲーの仕様としちゃあ、次回のアップデートで間違いなくナーフ(弱体化)対象だな」
エボルト『ククク……連、このキャラのハメ技、なかなか凶悪じゃないか。俺の戦術に少し似ているな』
脳内でエボルトが愉快そうに笑う。
連「効率が良いのは認めるけど、美しくねえんだよ。……おい、そこはガード硬直が解けた瞬間に最速で投げを仕込め。そうすれば相手の択を完全に潰せる。……よし、このデータは京都のホテルにいる間に頭に叩き込んでおく。お疲れ」
通話を切った時、時計の針はすでに男湯の終了時間が迫るリミットを示していた。
連「……あ。やべ、格ゲーのキャラ対に集中しすぎて、風呂の時間忘れてたわ」
連は慌ててタオルと着替えをひったくると、部屋を飛び出した。廊下を静かに歩き、大浴場の暖簾の前に立つ。入り口には『男湯』の文字。すでに男子たちの騒がしい声は消え、静まり返っている。
連「……みんな、もう上がったか。貸し切り状態でラッキーだな」
連は躊躇なく脱衣所に入ると、制服のボタンを素早く外し、衣服を脱ぎ捨てた。ワインレッドの髪をグイッと後ろにかき上げ、タオルを片手に、湯気が立ち込める大浴場のガラス扉をガラリと開けた。
---
連「ふぅ……。やっぱり京都の湯は、移動の疲れが――」
イリーナ「――あら。随分と遅いお出ましじゃない、連」
湯煙の向こうから響いたのは、聞き慣れた、しかしここにあるはずのない妖艶な大人の女性の声だった。
連の動きが、完全にフリーズする。
格ゲーで言えば、入力不能の特大カウンターを喰らったような硬直。
湯気が少し晴れた視界の先。そこには、広い温泉の岩風呂にゆったりと浸かる、金髪の絶世の美女――イリーナ・イェラビッチの姿があった。
さらに、その周囲には……。
茅野カエデ、中村莉桜、速水凛香、神崎有希子、奥田愛美といった、E組の女子メンバーたちが全員揃って湯船に浸かっていた。
女子達「「「「………………え?」」」」
数秒の沈黙。
誰もが、思考の処理が追いついていない。
連は無表情のまま、自分の背後……大浴場の入り口の暖簾を振り返った。そこには確かに『男湯』の文字があった。だが、その文字の横に、小さく『※本日に限り、夜21時以降は女子専用に交代いたします』という旅館の手書きの張り紙があるのを見落としていたのだ。
連「……あ。システムのバグかと思ったら、俺のルート探索ミスか」
連が極めて冷静に(しかし内心では『やべぇ』と思いながら)呟く。
「「「きゃあああああああああああああああッ!!」」」
茅野と奥田が顔を真っ赤にしてお湯の中に沈み、中村は「ちょっと連!? 何サラッと入ってきてんのよ!」と叫びながらもお湯をバシャバシャと飛ばしてきた。神崎は驚きつつも上品に顔を隠し、速水は鋭い視線で連を睨みつける。
イリーナだけは、大人の余裕を見せるように岩に肘をつき、ニヤニヤと笑っていた。
イリーナ「あらあら、可愛いウサギちゃんが迷い込んできたわね。連、あんた財閥の力で男湯を女湯に変えたわけじゃないでしょうね?」
連「変えるかよ、そんな無駄な権力の使い方。張り紙を見落としただけだ。悪かったな、すぐ出るわ」
連が踵を返そうとした、その瞬間だった。
女子たちの叫び声が、ふっと止まった。
湯気の中に晒された、暁連の「肉体」。
14歳の中学生のものとは、到底思えないその造形に、彼女たちの視線が釘付けになったのだ。
---
連の体は、ただスリムなだけではなかった。
幼少期に父親である巌斬から叩き込まれたという、プロ級のスポーツと武術の基礎。そして、ここ数日の烏丸による極限の訓練。さらに、仮面ライダークローズやブラッドスタークとして戦う中で磨き上げられた、生物としての「究極の戦闘用肉体」。
無駄な脂肪が一切削ぎ落とされたシックスパックの腹筋。美しく隆起した広背筋と大胸筋。
だが、女子たちの目を最も惹きつけたのは、その美しさの裏にある「異常性」だった。
連の背中や肩口、そして脇腹のあたりには、いくつかのはっきりと分かる「傷跡」が刻まれていた。
それは、中学二年の頃に五十人の不良をボコボコにした時の、刃物か何かで付けられた生々しい古傷。そして……生身では決して耐えられないような、超生物やスマッシュとの戦闘で生じた、皮膚が焦げたような奇妙な痕跡。
茅野「……連君、その体……」
お湯から顔を出した渚(ではなく、茅野)が、息を呑んだ。
普段は制服の下に隠されている、その過酷すぎる「戦歴」の証明。
莉桜「……何よ、その傷。あんた、暁不動産の御曹司のくせに、どんな修羅場をくぐってきたわけ?」
中村莉桜が、いつものからかい半分のトーンを忘れ、真剣な目で連の体を見つめる。
速水凛香も、その卓越した動体視力で、連の筋肉の付き方と傷跡の深さを正確にトレースしていた。
速水(……ただの不良の喧嘩じゃない。この筋肉の緊張のさせ方……いつでも命を懸けて戦える、本物の『暗殺者』のそれだわ……)
神崎有希子は、どこか哀しげに、しかし神秘的なものを見るような目で連を見つめ、奥田は「ひゃぅ……」と声を漏らしながらも、医学的な観点からその強靭な肉体に圧倒されていた。
イリーナの目が、プロの暗殺者としての鋭さを帯びる。
イリーナ「……ほう。いい身体してるじゃない。玲奈と巌斬の遺伝子を最高な形で引き継いでるわね。それにその傷……。連、あんた、私たちが知らない『戦場』を知っているわね?」
女子たちの、品定めするような、そしてどこか見とれてしまっている熱い視線が、連の全身に突き刺さる。
連はワインレッドの髪から滴る雫を払い、紫の瞳で彼女たちを見下ろした。その表情には、気恥ずかしさも、取り乱した様子も一切ない。ただ、いつもの「戦闘狂」としての冷徹なオーラが、湯気の中に静かに広がっていく。
連「……ハッ。ゲームのキャラクリエイト(キャラメイク)を褒められてる気分だな。別に隠すようなもんじゃねえよ。俺にとっては、全部『ステータス』を上げるためだからな」
連はタオルを肩にかけ、不敵に口角を上げた。
連「悪かったな、お前らの大事な『イベント時間』をバグらせて。」
そう言い残すと、連はガラス扉をガラリと閉め、堂々とした足取りで脱衣所へと戻っていった。
大浴場に残された女子たちは、しばらくの間、言葉を失っていた。
莉桜「……何あいつ、かっこよすぎでしょ……悔しいけど」
中村が赤くなった顔を隠すようにお湯に潜る。
茅野「……うん。連君って、本当に別の世界に生きてるみたい」
茅野がぽつりと呟いた。
速水「……あの筋肉。無駄がなさすぎる」
速水が小さく吐息を漏らす。
京都の夜。湯煙の向こうで繰り広げられた、偶然の「ステータス開示」。
暁連という男の底知れぬ『力』と、その肉体に刻まれた秘密は、E組の女子たちの心に、消えない強烈なインパクトを残すのだった。
呪術廻戦×ブラクロの小説を投稿する?
-
暗殺教室と平行して投稿する
-
暗殺教室を終わらせてから投稿する
-
投稿しない