暗殺教室 地球外生命体と超生物を殺す   作:ぐちロイド

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第23話 二次元の涙と、眼鏡の初台詞 名付けイベント:『律(りつ)』

 

椚ヶ丘の険しい裏山を登る、翌朝の登校路。

杉野は大きな溜息をつきながら、頭の後ろで両手を組んで歩いていた。その隣を歩く渚も、どこか憂鬱そうな表情を隠せない。

 

杉野「あーあ……今日もまた、あの山のような銃撃の爆音と硝煙に耐えなきゃいけないのかなぁ。いくら暗殺のためとはいえ、さすがに限界だろ。いい加減、烏丸先生にガチで苦情入れねえとな……」

 

渚「そうだね、杉野。僕たちの席、前の方だからまだマシだけど、固定砲台の真ん前に座ってる連君なんて、昨日は本気で殺意のオーラ出して黒板ブチ壊してたし……。今日もあれが続いたら、クラスの誰かが連君にデバッグ(物理)されちゃうよ」

 

二人は昨日、寺坂が連の怒りに触れて腰を抜かした恐怖のコンボを思い出し、身震いした。

そんな不安を抱えながら、二人がE組の古い木造校舎のドアをガララッと開けた、その瞬間。

 

渚「……え?」

 

杉野「うわぁっ!? な、なんだこれ!?」

 

二人の口から、驚愕のインプットエラーが生じたような声が漏れた。

教室には、すでに先に入っていた茅野や片岡、前原たちが、連の席の後ろを取り囲むようにして、文字通り絶句して立ち尽くしている。

 

そこに置かれていたのは、昨日までの「冷徹で不気味な漆黒のモノリス」ではなかった。

筐体全体が、桜のようにおっとりと優しい、パステルピンクとホワイトのツートンカラーに塗り替えられ、角張っていたエッジには全て安全な丸みが持たされている。さらに、液晶画面のすぐ下には、まるで京都の老舗旅館を思わせるような、温かみのある檜(ひのき)のサイドテーブルのような意匠(実は昨夜の高級寿司の余韻をタコが引きずった結果である)まで施されていた。

 

殺センセー「ヌル、フフフフフ! 皆さん、おはようございます!」

 

教卓の前に立っていた殺センセーが、顔を「完璧なドヤ顔(緑の縞模様)」に染め上げ、触手をウネウネとさせながら胸を張った。

 

殺センセー「先生、夜を徹して彼女の手入れ(アップデート)を完了させました! 見てください、このクラスの環境に完璧に調和した、素晴らしいニューモデルを!」

 

前原「いや、ちょっと待ってよ殺センセー!」

 

前原がすかさずツッコミを入れる。

 

前原「防衛省から派遣された軍事用AIのハードウェアを、ターゲットであるお前が勝手に魔改造していいわけ!?」

 

殺センセー「ヌルフフフ、防衛省との契約書には『生徒に危害を加えてはならない』とは厳格に書かれていますが、『生徒をより良く改良(アップデート)してはならない』とは一言も書かれていませんからねぇ〜!」

 

杉野「屁理屈のレベルが高すぎるだろ……」

 

杉野が呆れ果てる中、殺センセーは白目を剥きながら、自分の古い布製の財布をパカッと開いた。中から出てきたのは、寂しげにチャリンと音を立てる、黄金色の**5円玉が、たったの1枚。**

 

殺センセー「……ちなみに、彼女のペイント代や液晶画面の超解像度化、さらに某・暁不動産のデータベース(昨日連から貰ったUSB)をインポートするための外付け高速コンバーターを購入した結果、先生のお小遣いは今月残り5円となりました。……どなたか、先生にポテトチップスを恵んでくれませんか……?」

 

前原「自業自得だろ! 5円じゃ縁起が良いことくらいしかできねえよ!」

 

クラス全員からの冷たいツッコミが、哀れな教師へと浴びせられた。

 

---

 

 

液晶画面がパッと明るくなり、そこに映し出された電子の少女――自律思考固定砲台は、昨日までの冷酷な軍事用ホログラムとは完全に異なる、豊かで可憐な表情を浮かべていた。

 

律『皆様、おはようございます。昨日は私の未熟な初期プログラミング(仕様)のせいで、授業を著しく妨害してしまい、深くお詫び申し上げます。本日は皆様との協調(マルチプレイ)を最優先に稼働いたします!』

 

茅野「わぁ……! 凄い、ちゃんと笑ってる!」

 

茅野が目を輝かせて画面に駆け寄る。

 

神崎「話し方も、昨日までの冷たい機械音声じゃなくて、すごく聞きやすくて可愛い声になってるね」

 

神崎が上品に微笑むと、片岡や奥田、倉橋たち女子陣も一斉に画面の周りに集まり、「お洋服可愛い!」「お肌ツヤツヤだね!」と、まるで本当の女子の転校生を迎えたかのようにキャッキャと盛り上がり始めた。

 

だが、そのE組の平和な和(サーバー)を乱す男が、後ろからドカドカと歩み寄ってきた。

寺坂竜馬だ。

 

寺坂「ケッ、くだらねえ。見た目をいくらピンクに変えたところで、中身はただの防衛省のポンコツAIだろ? 機械のくせにヘラヘラ笑ってんじゃねえよ。どうせ一時間目が始まったら、またガトリングぶっ放して俺たちの邪魔をするに決まってんだ」

 

寺坂の粗暴な言葉(デバフ)が、教室の空気を冷え込ませる。

すると、画面の中の少女の表情が、キュッと悲しげに歪んだ。彼女の大きな瞳に、デジタルな涙のエフェクトがじんわりと浮かび上がる。

 

律『……すみません。私は……皆様に嫌われるために、ここへ来たわけでは……グスッ……』

 

茅野「あーっ!!! 寺坂、何言ってんのよ! 最悪!」

 

茅野が烈火のごとく怒り狂い、寺坂の胸ぐらを掴む勢いで詰め寄る。

 

片岡「ちょっと寺坂君! 何まともな女の子を泣かせてるのよ! 最低、デリカシーがバグってるわ!」

 

片岡も鋭い目で寺坂を糾弾する。

 

寺坂「は、はぁ!? 何言ってんだよお前ら、こいつは人間じゃねえだろ!」

 

慌てる寺坂に、矢田や倉橋が声を揃えて叫んだ。

 

片岡「関係ないわよ! あんた、今、**二次元の女の子を泣かせたのよ!!!**」

 

寺坂「紛らわしい言い方をするなァァァッ!!! 俺がまるで、そっち方面の最悪な不審者みたいに聞こえるだろーが!」

 

寺坂の全力のツッコミが教室に響き渡る。男子たちは「いや、ある意味間違ってないけど……」と苦笑いしている。

 

その時、教室の最前列の隅、いつも静かに眼鏡の奥の目を光らせていた男――竹林孝太郎が、すっと眼鏡のブリッジを中指で押し上げながら、妙に説得力のある、低く重厚な声でボソリと呟いた。

 

竹林「……良いではないか。たとえ二次元(画面の向こう側)だろうが、三次元だろうが……少女の涙の価値に、優劣など存在しない。彼女のそのグラフィックの揺らぎは、今、確実に僕たちの『萌え』のレイヤーを刺激している……」

 

「「「「「(竹林……ッ!!!)」)」)」」

 

渚と前原が、驚愕の表情で竹林を指差した。

 

前原「竹林、お前……!! 今学期が始まってから、**それが記念すべき『初台詞』だけど、そのオタク全開のセリフで本当に良いのかよ!?!?**」

 

渚「もっと他にカッコいい初台詞の仕様(イベント)あったでしょ!」

 

前原の鋭いツッコミに、竹林はふん、と静かに目を閉じて、それ以上の発言をシャットアウトした。

 

---

 

 

連「……朝っぱらから、何のバグ音声(ノイズ)で盛り上がってんだよ、お前らは」

 

ガララッと、予鈴のチャイルが鳴る寸前のタイミングで、ワインレッドの髪を少し乱した暁連が、いつものように琥珀色のエナジードリンク(レッドブル)を片手に教室に入ってきた。

昨晩、深夜に旧校舎で殺せんせーと律のアップデートに付き合ったせいで、連の睡眠不足は今日も絶好調のレッドゾーンである。

 

渚「あ、連君、おはよう!」

 

渚がホッとしたように声をかける。

 

連は自分の席へ向かい、椅子の背もたれにカバンを引っ掛けながら、真ろ後ろのピンク色の筐体(律)を一瞥した。

 

律『――暁連様、おはようございます。昨晩は、膨大な『格ゲーフレームデータ』および『対人心理予測アルゴリズム』のご提供、誠にありがとうございました。私のメインプロセッサ、非常に快適に稼働(レベルアップ)しております!』

 

画面の中のホログラムの少女が、連の姿を見るなり、パッと満面の「完璧なゲーマーの笑顔(100%シンクロ)」を浮かべ、親しげに一礼した。

 

連「……おう。エラーログ(涙のエフェクト)は吐き出さなくてよくなったみたいだな。昨日のままだと、俺の席の『環境音設定』が最悪だったからな。……おい寺坂、お前さっきこいつをポンコツって言ったか?」

 

連が冷徹な紫の瞳で寺坂をギラリと睨みつける。

 

寺坂「ひ、ひぃっ……いや、俺はただ……」

 

昨日、黒板の木枠を粉砕された恐怖がフラッシュバックした寺坂が、一瞬で数歩後ろに下がった。

 

連「こいつの今の『仕様(スペック)』はな、お前が100年かけてレバーガチャガチャ動かしても追いつけないレベルの超高性能AI(チートキャラ)だ。言葉のフレーム(会話のドロップ)で勝てないなら、大人しくソロプレイしてろ」

 

寺坂「う、うるせえよ……!」

 

寺坂が小さく毒づく中、連は定位置の席にドカッと座り、エナドリを一口飲んで椅子の背もたれに深く寄りかかった。

 

---

 

 

騒動が一段落したところで、クラスの学級委員長である片岡メグが、パンパンと両手を叩いて皆の注目を集めた。

 

片岡「よし、みんな! 固定砲台さんのアップデートも無事に済んだことだし、ちょっと一つ提案があるんだけど」

 

茅野「何、メグちゃん?」

 

茅野が首を傾げる。

 

片岡「いつまでも防衛省の登録名のままで、『自律思考固定砲台さん』って呼ぶの、流石に言いづらいし長くない? せっかくこうしてクラスの仲間(プレイヤー)になったんだし、もっと親しみやすくて可愛い『呼び名(ニックネーム)』をみんなで考えようよ!」

 

前原「お、いいねそれ! ネームエントリーか!」

 

前原が真っ先に賛成の声を上げる。

 

杉野「呼び名、か……。何が良いかなぁ」

 

杉野が腕を組んでうなる。「うーん、『大筒(おおづつ)ちゃん』とか、大火力っぽくて格好良くない?」

 

前原「安直すぎるだろ! 昭和の戦国ゲームじゃないんだから!」

 

前原が即座に却下する。

 

倉橋「じゃあ、画面が綺麗になったから『液晶(えきしょう)ちゃん』!」

 

倉橋の突飛なアイデアに、「それじゃただのハードウェアのパーツ名だよ……」と渚が苦笑いした。

 

奥田「えっと、それなら……『ロボ子』とか……?」

 

奥田が恐る恐る提案するが、「奥田さん、それだとちょっとネーミングのセンスが数世代前だよ」と業がクスクスと笑いながらからかう。

 

様々な珍案(バグネーム)が飛び交い、教室がワイワイと紛糾する中、教室の中段の席で、ミステリー小説を読んでいた不破優月が、本のページをパタンと閉じて、すっと手を挙げた。

 

不破「はーい! 少年漫画の文脈(メソッド)から考えて、私、すっごく良いの思いついちゃった!」

 

渚「お、不破さん、何?」

 

渚が尋ねる。

 

不破は立ち上がり、黒い箱の画面をビシッと指差した。

 

不破「彼女の本来の名前は『自律(じりつ)思考固定砲台』でしょ? その『自律(じ・りつ)』の最後の二文字を綺麗にピックアップして……**『律(りつ)』ちゃん**、ってのはどうかな!?」

 

「「「おぉ……!」」」

クラスの何人かから、感心したような声が上がる。

 

しかし、その斜め後ろの席で、静かに銃の手入れをイメージしていた千葉龍之介が、前髪の隙間から画面を見つめながら、ボソリと呟いた。

 

千葉「……律、か。ちょっと、安直(ストレート)すぎないか? ひねりがないというか……」

 

茅野「えー? そんなことないよ! シンプル・イズ・ベストだし、響きもすっごく女の子らしくて可愛いじゃん!」

 

茅野が千葉の意見に反論し、そのまま画面のすぐ側まで駆け寄って、液晶の中の少女に真っ直ぐな視線を向けた。

 

片岡「ねえねえ、固定砲台さん! クラスのみんなは、あんたのことをこれから『律ちゃん』って呼びたいんだけど……当の本人のシステムとしては、その名前(ニックネーム)、どうかな!?」

 

女子全員が、固唾を呑んで画面の少女のリアクションを待った。連も、エナドリの缶を持ったまま、バイザーの奥の瞳をわずかに動かして画面を見つめる。

 

数フレームの演算(ウェイト)の後、液晶画面いっぱいに、これ以上ないほど眩しく、そして心の底から嬉しそうな「満面の笑顔」のホログラムが広がった。

背景には、殺センセーが昨晩徹夜でプログラミングした、可愛らしい桜のデジタルエフェクトがフワフワと舞い散っている。

 

律『――「律」……! はい! とっても素敵な、可愛い名前です! 私のメインストレージの最優先ディレクトリに、そのお名前を今、永久登録(セーブ)いたしました! これからはどうぞ、皆様、私のことを『律』と呼んでください!』

 

茅野「やったー! 決定ね、律ちゃん!」

 

茅野と矢田がハイタッチをし、クラス中から温かい拍手(イベントクリアのBGM)が沸き起こった。

 

連はそれを見届け、ふっと小さく、誰にも気づかれないほどの低さで口角を上げた。

 

連「……『律』、ね。初期ネームよりは、チャットのコマンドが短くて済みそうだわ」

 

エボルト『ククク……連、お前が仕込んだ格ゲーの『フレーム知識』を持ったAI(律)だ。これでこのクラスの戦闘シミュレーションも、少しは難易度が上がって面白くなるな?』

脳内のエボルトが不敵に笑う。

 

連「当たり前だろ。簡単にクリアできるステージなんて、俺のハザードレベルの無駄遣いだ」

 

連はエナドリを飲み干し、授業の始まりを告げるチャイムの音を聴きながら、新しく「律」という名前を得たクラスメイトの背中を、静かに見守るのだった。E組という変則的なゲームステージに、今、最強のサポートキャラクターが、完全に「正式参戦」を果たした。

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