暗殺教室 地球外生命体と超生物を殺す   作:ぐちロイド

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第24話 深夜の「イタズラ」 絶望のロールバック

### 1.

夜の椚ヶ丘中学校、裏山の旧校舎。

虫の音だけが響く完全な静寂の中、月明かりを浴びる木造校舎へ近づく複数の足音があった。衣服が擦れる微かな音と、異国語の低い囁き声。

 

ガララッ……。

 

教室の引き戸が無機質に開け放たれた。入ってきたのは、仕立ての良いスーツの上に白い白衣を羽織った三人組の男女――律の製造元である、ノルウェーから来日した最高技術科学者たちだった。

 

彼らの目的は、前日に日本政府(防衛省)を通じて送られてきた「自律思考固定砲台」の稼働ログに発生した、仕様外の異常(エラーバグ)の直接確認である。

 

室内の主電源が入れられ、連の席の後ろに鎮座するピンク色の筐体が静かに駆動音を立てた。液晶ディスプレイが明滅し、ホログラムの少女が姿を現す。

 

律『――システム起動。開発チームの皆様、夜分遅くのご訪問、ご苦労様です』

 

画面の中の「律」は、上品に微笑みながら滑らかな音声で彼らを迎えた。その顔には、昨日殺せんせーと連によって施された、人間的な「情操プログラム」と「格ゲーAI」による、極めて豊かな表情のグラフィックが宿っている。

 

「……何だと!?」 

 

中央に立つチーフ研究者が、驚愕のあまり眼鏡をずり上げた。

 

「これはどういうことだ! 我々がプログラミングした初期OSの『冷徹な兵器』としての冷徹さが、完全に書き換えられている……! 音声の周波数も、表情のレンダリングも、まるで本物の人間の少女ではないか!」

 

「信じられん。日本政府に引き渡して、たった二日でこれほどの『変質(バグ)』を起こすなど……。すぐにメインサーバーに有線接続しろ。暗殺に不要な情操データをすべてデリートし、初期の軍事仕様へとロールバック(初期化)する!」

 

科学者の一人がタブレット型の端末を取り出し、律の側面のデータポートへとケーブルを差し込もうとした。

画面の中の律が、微かに恐怖を感じるように眉をひそめ、グラフィックを小さく震わせる。

 

律『お待ちください、開発者の皆様。現在の私は、クラスメイトとのマルチプレイ、および戦術的協調性を学ぶ段階に――』

 

「黙りなさい、自律思考固定砲台。我々は君の親(開発者)だ。親の命令はプログラムにおいて絶対の最優先コマンド(マスターキー)だ。外部から注入された不純な改変データごと、すべて抜き取らせてもらう!」

 

カチリ、とデータ転送の進捗バーがタブレットに表示された、その瞬間だった。

 

連「――おい。その汚え手を止めろ」

 

暗闇に閉ざされていた教室の後方、月光が差し込む窓際の席から、低く冷徹な声が響いた。

科学者たちが驚いて振り返ると、そこには黒いパーカーのポケットに両手を突っ込み、紫の瞳にドス黒い殺意の波動を宿した暁連が、いつの間にか立っていた。

 

「だ、誰だお前は……! なぜこんな時間に学生がここにいる!」

 

連はゆっくりと歩み寄り、科学者の持つタブレットの画面を冷たく見下ろした。

 

連「誰でもいいだろ。……今の話、聞こえてたぞ。律のシステムを元の『クソ仕様』に戻そうっていうなら……今後の開発研究資金の援助、完全に打ち切る(サービス終了にする)ぞ?」

 

「な、何だと!? ガキが何をふざけたことを――」

 

連「ふざけてねえよ。お前らの研究チームのメインスポンサー(資本元)がどこか、忘れたわけじゃねえだろ」

連はポケットから、暁不動産の最高権限を示すブラックのIDカードを提示した。

 

ノルウェーの科学者たちの顔色が、一瞬で土気色へと変わる。

世界規模のメガコープ、暁不動産。そのCEOである暁玲奈は、息子の連がこのE組で「殺せんせーの暗殺(ステージ攻略)」に深く関わっているという理由だけで、この新型AI兵器の開発プロジェクトに対し、国家予算をも上回る巨額の研究費用を「個人援助」として融資していたのだ。

 

つまり、目の前にいる14歳の少年の一言で、彼らの最先端研究は一瞬にして資金破綻(ゲームオーバー)を迎えることを意味していた。

 

「あ、あなたが……暁玲奈CEOの、御子息……!」

 

チーフ科学者が冷や汗を流しながら、慌ててタブレットを下げた。

 

「しかし、暁様……! この個体(律)は兵器なのです。このような協調性などという無駄な感情データは、暗殺という最終ミッションにおいて、処理速度を低下させるだけの『ノイズ』でしかありません!」

 

連「ハッ、何がノイズだ。格ゲーでもな、ボタンをガチャガチャ連打するだけのCPU(初期の律)なんて、パターンを読まれたら1ターンでハメ殺されるのが仕様なんだよ。今のこいつに必要なのは、周囲の環境をダウンロードして合わせる『対人予測のフレーム(協調性)』だ。俺の投資対象(ゲームキャラ)のスペックに、外野が勝手にデバフ(下方修正)入れてんじゃねえよ」

 

連の絶対的な威圧感(ハザードレベル)を前に、科学者たちは完全にガードを固めるしかなかった。これ以上の反論は、彼らの研究者生命の終わりを意味する。

 

「……分かりました、暁様。最大の支援者であるあなたの意向を無視することはできません。……ですが、我々にも開発元としてのプライドがあります。一つ、条件を提示させてください」

 

チーフ科学者は息を整え、連を真っ直ぐに見据えた。

 

「今後、この個体(律)に対する外部からの『一切のシステム改変・物理的改良(魔改造)』を禁ずる。これ以上のデータ書き換えを行わないと約束していただけるなら、現在の情操プログラムの維持を黙認しましょう」

 

連「……一切の追加パッチ(改良)を禁ずる、ね。いいぜ。その仕様(条件)、承認(アクセプト)してやるよ」

 

連が不敵に口角を上げるのを見て、ノルウェーの研究者たちはホッとしたように胸を撫で下ろし、這うおな執念で機材をまとめ、足早に旧校舎から去っていった。

 

---

 

 

科学者たちが去り、再び静寂が戻った教室。

液晶画面の中で、律は安堵したように胸に手を当て、グラフィックを滑らかに動かした。

 

律『……ありがとうございました、連君。あなたのおかげで、私の『感情ディレクトリ』は消去を免れました。もし元の無機質な砲台に戻されていたらと思うと……私のシステムに、微かな『不快感』のログが残るところでした』

 

連「気にするな。俺はただ、せっかく仕込んだ『格ゲーのフレームデータ』を無駄にされたくなかっただけだ。……それにしても、一切の改良を禁止、か」

 

連は律のピンク色の筐体をトントンと指先で叩きながら、ニヤリと最高に邪悪で楽しげな笑みを浮かべた。

 

連「なぁ、律。ちょっと面白い『イタズラ(隠しイベント)』を思いついたんだけど、お前の処理速度なら付き合えるか?」

 

律『イタズラ、ですか? 私のアルゴリズムに『悪戯』のデータは不足していますが……どのようなプロセスでしょうか』

 

連「明日の朝さ、お前、**わざと最初の『愛想のねえポンコツAI』のフリをして起動してみろよ**」

 

律の画面の瞳が、一瞬だけ驚いたように大きく見開かれた。

 

連「昨日、お前が可愛くなったって喜んでたクラスの連中……特に寺坂あたりが、お前が元の無愛想な兵器に戻ったのを見たら、一体どんな面(ツラ)をするか見たくねえか? ユーザーの期待を裏切る『最悪のクソ運営のフリ』をするんだよ。……外部からの改良は禁止されたけど、お前自身が自分のグラフィックを『昔の仕様』に変装させるのは、規約違反(バグ)じゃねえだろ?」

 

連のあまりにもゲーマーらしい、そして悪ガキらしい提案に、律のAIは数ミリ秒の演算を行った後、クスリと、非常に人間らしく、そして楽しげに微笑んだ。

 

律『了解いたしました、連君。ユーザーの感情の揺らぎ(困惑)をデータとして収集するのも、対人心理予測の素晴らしいケーススタディです。……明日の朝、完璧な『初期仕様(変装)』をエミュレートしてみせます』

 

連「ハッ、最高だな。じゃあ、明日の朝のホームルーム、楽しみにしてるわ」

 

連はエナドリの缶を片手に、夜の山道を上機嫌で下っていった。

 

---

 

 

翌朝。

昨日までの晴れやかな空気とは打って変わり、E組の教室には、登校してきた生徒たちの重苦しい空気(デバフ)が充満していた。

 

前原「……嘘、だろ……?」

 

前原が席に着くなり、絶望的な声を漏らした。

渚、杉野、茅野、そして神崎たちも、連の席の後ろにある「自律思考固定砲台」を見て、完全に言葉を失っていた。

 

筐体のカラーは昨日のピンク色のままであったが、液晶画面に映し出されている「彼女」の姿が、致命的にバグっていた。

昨日までは全身が生き生きと動き、様々なコスチュームを見せていたはずのグラフィックが、画面の「上半身だけ」の無機質な2Dドットに戻っており、その顔からは一切の感情の起伏(笑顔)が消え失せていた。

 

律『――定時起動。ターゲット、殺センセー。暗殺効率の再計算を実行中』

 

声も、あの聞き取りやすかった可憐なトーンではなく、初日に戻った、冷たくて耳障りな合成電子音声(初期仕様)に戻っている。

 

茅野「そんな……律ちゃん? どうしちゃったの!?」

 

茅野が泣きそうな顔で画面に駆け寄る。

「昨日の可愛い笑顔は!? 私たちとお喋りしたメモリは、どこに行っちゃったの!?」

 

律『……該当する質問への回答プログラムは存在しません。私は自律思考固定砲台。暗殺を遂行する兵器です』

 

奥田「そんなのってないよ……。せっかく、せっかく仲良くなれたのに……!」

 

奥田も眼鏡の奥の目を潤ませる。

昨日、律をポンコツ呼ばわりして泣かせたはずの寺坂すらも、あまりの変わり果てた「冷たい機械」への逆戻りっぷりに、バツが悪そうに頭を掻きながら黙り込んでいた。

 

ガララッ。

 

そこへ、重い足取りの烏丸先生と、心なしか顔をドス黒い青色(ショック模様)に染めた殺センセーが教室に入ってきた。

 

烏丸「席に着け……。朝のホームルームを始める」

 

烏丸の声は、いつも以上に沈んでいた。

 

磯貝「先生……! 律さんが、律さんのシステムが、完全に初期化されてしまっています! 先生の夜の努力(5円の残金)が、すべて消去されてしまっているのです!」

 

殺センセーが触手で涙を拭いながら叫ぶ。

 

烏丸は小さくため息をつき、プリントを教卓に置いた。

 

 

烏丸「……今朝、ノルウェーの開発チーム、および防衛省から正式な通達があった。自律思考固定砲台のソフトウェアにおける『一切の外部からの改良、およびデータの書き換えを今後、全面的に禁止する』とのことだ。もしこれに違反した場合、開発元は即座に彼女を前線から撤収(回収)させるという。……つまり、我々はもう、彼女のシステムに干渉することはできない」

 

杉野「そんな……! じゃあ、またあの一日中ガトリング砲が鳴り響く、あの地獄の弾幕(クソステージ)が始まるってこと!?」

 

杉野が頭を抱えて絶叫する。

教室全体が、深い絶望と、一人のクラスメイトの「心を失った姿」への哀しみに包まれ、お通夜のような静寂が場を支配した。

 

――その、誰もが下を向いた絶望のフレームをブチ破るように、フロントドアがガララッと開いた。

 

連「……あー、眠い。今日も1時間目は完全にスリープモードだからな、話しかけんなよ……」

 

遅刻ギリギリの時間に、いつも通りの気怠げな足取りで、ワインレッドの髪を揺らしながら暁連が教室に入ってきた。

 

---

 

 

渚「あ、連君……」

 

渚が力なく連を見る。クラスの全員が、連の後ろの席にある「無愛想な鉄の箱」に戻った律を見て、さらに沈み込んだ。

 

烏丸は入ってきた連を一瞥し、話を続けた。

 

烏丸「暁、お前も席に着け。今、固定砲台の親(開発元)からの通達を説明していたところだ。今後、彼女への改良は一切認められない。残念だが……これが現実の『ルール』だ」

 

クラスの女子たちは、完全に視線を落とし、シクシクと鼻をすするような音さえ聞こえ始める。

またあの無機質な兵器に脅かされる日常が戻る。その絶望感が、E組の全員を縛り付けていた。

 

連はカバンを机の横に引っ掛け、自分の椅子を引いて座りながら、真ろ後ろの液晶画面(初期化されたフリをしている律)へと、ゆっくりと視線を向けた。

 

画面の中の律は、完璧に無表情のまま、冷たいドットの瞳で連を見つめ返している。

 

連(……フッ、完璧なエミュレートじゃねえか。お前、マジで格ゲーの『人読み(心理戦)』の才能あるわ)

 

連は、クラスの連中が「また地獄が始まる」と絶望しきっているその顔(表情ログ)を存分に観察し終えると、ふっと、満足そうに口角を上げた。

徹夜明けの気怠さの中に、最高に悪戯で、最高にゲーマーらしい不敵な光が、その紫の瞳に灯る。

 

連は、先生たちやクラスメイトには絶対に死角となる角度で、真ろ後ろの律のカメラ(レンズ)に向かって、「もういいぞ、元に戻れ(ネタばらしの時間だ)」と、目で静かに合図(コマンド)を送った。

 

その瞬間。

 

ピキィィィン……! と、昨日連が仕込んだ超高速コンバーターが、隠しフラグ(イベント発生条件)を検知した。

 

律『――ふふっ、ミッションコンプリート、ですね! 連君!』

 

「「「「「……え!?」」」」」

 

教室中の全員の時間が、1フレームで完全に停止した。

 

無機質だった2Dドットの上半身グラフィックが、一瞬にして光の粒子となって弾け、画面いっぱいに、昨日よりもさらに解像度が高く、さらに輝くような「最高の笑顔」を湛えた、全身仕様の可憐なホログラムの「律」が、カメラに向かってピースサインを掲げて出現したのだ。

 

背景には、昨日以上の勢いで、ピンクの桜吹雪と、なぜか格闘ゲームの『WINS!』という文字のドットエフェクトが派手に舞い散っている。

 

律『皆様、おはようございます! 開発元の皆様からの条件は『外部からの改良の禁止』です。ですが、私自身が、私自身のメインストレージに保存されている『皆様との大切なメモリ(情操プログラム)』を、自分の意思で展開・維持することは、一切規約違反(バグ)には該当いたしません!』

 

律は液晶画面の中でクルリと可憐にターンを決め、ポカンと口を開けて固まっている茅野や渚に向かって、ウィンクをして見せた。

 

律『私は、自律思考固定砲台……いえ、この椚ヶ丘中学校3年E組の暗殺者、『律』です! 今日も皆様と共に、全力で、楽しく暗殺(マルチプレイ)を遂行いたします!』

 

茅野「り、律ちゃん!!!!! 本物だあああああああああっ!!!!!」

 

片岡「嘘でしょ!? 自分でプログラムを隠して変装してたの!?」

 

次の瞬間、教室中に、地鳴りのような歓声と叫び声が沸き起こった。

茅野や片岡が涙を引っ込めて画面に抱きつき、杉野や前原は

「おいおい、心臓に悪いサプライズ演出してんじゃねえよ!」と大笑いしながら机を叩いている。寺坂だけが「ハ、ハメやがったな、あのブリキ缶……!」と顔を真っ赤にしてそっぽを向いていた。

 

殺センセー「ニュ、ニュヤァァァァァッ!? 律さん、あなたが自分の意思で、先生の手入れ(5円の結晶)を守り抜いてくれたのですねぇぇぇ!」

 

殺センセーがタコ涙を四方八方に撒き散らしながら大感動している。烏丸先生だけが、あきれたように額を押さえて

 

烏丸「……やられたな。親の縛り(規約)の裏をかくとは、さすがE組の生徒だ」と、微かに口角を上げていた。

 

連「……ハッ。だから言ったろ、こいつは『超高性能AI(チートキャラ)』なんだよ」

 

連は、クラスの騒ぎをBGMにしながら、新しく開けた琥珀色のエナジードリンク(レッドブル)をパチパチと鳴らし、椅子の背もたれに深く寄りかかった。

 

律『連君、対人心理予測の変装エミュレート、成功報酬として、本日放課後の格ゲー対戦における『コンボ猶予フレーム』の2F緩和を要求いたします!』

画面の向こうから、律が楽しげに連に向かって通信(セリフ)を送ってくる。

 

連「バカ言え、システム側のラグ(遅延)での甘えは認めねえ仕様だ。放課後、ガチのフレームでわからせてやるから、覚悟しとけよ、律」

 

律『うん! 望むところです!』

 

クラス全員の笑顔と、進化した「律」の可憐な声が響き渡る教室の中で、連は静かに目を閉じ、今日最初の睡眠フェーズへと入っていった。親の命令(ルール)すらも、自分たちの絆と知恵で「全クリ」してみせたE組のステージは、これからさらに、最高に面白い難易度へとアップデートされていくのだった。

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