暗殺教室 地球外生命体と超生物を殺す   作:ぐちロイド

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第25話 リベンジのお誘い 静寂の暁家と、狂ったフレーム

 

 

キリリリリ……ン。

週末の金曜日、放課後を告げるチャイムが木造校舎に響き渡ると、教室内には一斉に開放的な空気が満ちていった。

 

茅野「ねえ、律ちゃん! 今週末のオンラインイベントの仕様なんだけどさ!」

 

律「はい、茅野さん。すでに私のサーバーにイベントスケジュールをインポート済みです!」

 

クラスの女子たちが新しく「完全参戦」を果たした律の筐体を囲んでワイワイと盛り上がる中、連は机の横に掛けたカバンを片手で掴み、迷いのない足取りで教室の後方へと歩き出した。その視線の先にいるのは、上品に荷物をまとめている神崎有希子だ。

 

連「おい、神崎」

 

連は神崎の席の前に立つと、ポケットに手を突っ込んだまま、気怠げな紫の瞳を向けた。

 

神崎「あ、連君。どうしたの?」

 

神崎はいつもの清楚な微笑みを浮かべ、長い黒髪をさらりと揺らして見上げる。

 

連「明日の土曜日、予定空いてるか」

 

神崎「え? 土曜日……? うん、特に用事はないけど……」

神崎が少し不思議そうに小首を傾げると、連はニヤリと不敵に口角を上げた。

 

連「決まってんだろ。お前のあの『プロ仕様のキャラコン』、もう一回じっくりダウンロードさせろ。京都の旅館のクソ筐体じゃ、ボタンの遅延(ラグ)のせいで俺のコンボ精度が狂ってたからな。明日は我が家の『最高環境(ガチ部屋)』で、どっちのフレーム管理が上か、完全なわからせ合い(5先マッチ)をやるぞ」

 

神崎は一瞬目を丸くしたが、連のあまりにも純粋で、かつ傲慢なゲーマーとしての挑戦状に、くすっと悪戯っぽく笑った。

 

神崎「ふふ、いいよ。京都では私が勝っちゃったもんね。明日は手加減しないから、泣き言言ってもコンティニューはさせてあげないよ?」

 

連「ハッ、言いやがる。じゃあ仕様決定(アグリー)だ。明日の13時に椚ヶ丘の駅前にいろ。夜兎に車で迎えに行かせるからな」

 

神崎「うん、分かった。楽しみにしてるね、連君」

 

短いやり取りで明日の「マッチング」を確定させると、連はそれだけ伝えて足早に教室を後にした。後ろで前原や杉野が「おい連、また神崎さんと二人で抜け駆けゲーセンか!?」などと騒いでいたが、そんな外野のノイズはミュート(無視)だ。

 

---

 

 

 

裏山の坂道を下り、椚ヶ丘の高級住宅街の頂点にそびえ立つ暁家の巨大な門をくぐる。

普段なら、連が本館のエントランスを開けた瞬間、パタパタというスリッパの音と共に、茶髪ツインテールのメイド服姿の夜兎(24歳)が「お帰りなさいませ、無能な引きこもり坊ちゃま」と、毒舌を添えて出迎えてくれるのが日常の仕様(ルーティン)だった。

 

ガチャリ、と重厚なドアを開ける。

 

連「……あ? 静かだな」

 

広い大理石のエントランスには、夜兎の姿も、彼女の放つ独特の冷徹なオーラもなかった。

 

連「買い物にでも行ってるのか? あるいは、ババアの命令で別の拠点のデバッグにでも駆り出されてるか……」

 

連は特に気にする風でもなく、リビングのソファーにカバンを放り投げた。

今日は朝から律のイタズラに付き合ったり、授業中に寺坂のノイズをいなしたりしていたせいで、身体が妙に汗ばんでいる。

 

連「まあ何でも良いや。取り敢えず汗かいたし、先に風呂入るか……」

 

部屋着の黒いパーカーに着替えた連は、バスタオルを片手に、暁家の誇る大浴場並みに広いバスルームへと向かった。

特に何も考えず、いつもの手癖で脱衣所のドアを開け、さらにその奥にある、全面ガラス張りの浴室のドアをガララッと横にスライドさせた。

 

湯気が一気に視界を覆う。

そして、その湯気の向こう側、連の紫の瞳に飛び込んできたのは――。

 

カチッ、とカチューシャを外し、トレードマークのツインテールを解いて豊かな茶髪を肩に垂らし、まさに今、身に纏っていた下着をすべて脱ぎ捨てて、湯船に足を踏み入れようとしていた**城崎夜兎の、完全に一糸まとわぬ背中と、豊満なボディライン**だった。

 

165センチの引き締まったスタイル。メイド服に隠されていたDカップの豊かな果実と、白く滑らかな背中の曲線が、湯気の中で眩いほどに露わになっている。

 

連「…………あ」

 

夜兎「…………え?」

 

時間が、完全に0フレームでフリーズした。

夜兎がゆっくりと振り返り、連と正面から目が合う。

 

普通の14歳男子であれば、ここでハザードレベルが上限を突破し、顔を真っ赤にして「ぎゃああああ!」と叫んで逃げ出すか、あるいは鼻血を吹いて倒れるのが一般的な王道漫画のプログラム(仕様)だろう。

 

だが、暁連の脳内プロセッサは、あまりにも過酷な環境で育ちすぎたせいで、別のベクトルでバグっていた。

 

連は全く視線を逸らすこともなく、バスタオルを肩にかけたまま、極めて平然と、気怠げに声をかけた。

 

連「なんだ、風呂にいたのか。出たら言ってくれ、俺も後で入るから」

 

そう言って、何事もなかったかのようにドアを閉めて立ち去ろうとした。

 

夜兎「――待ちなさい、このクソガキ(バグ野郎)」

 

バシッ!!!

 

次の瞬間、背後から猛烈な速度(発生3フレーム以下)で伸びてきた白い腕が、連のパーカーの袖をガシッと力任せに掴んだ。

驚いて連が振り返ると、浴室のドアの隙間から、湯気に濡れた髪を怒りで逆立て、バスタオルを胸元にぐるぐる巻きにした夜兎が、氷点下のシステムエラーのような目で連をキリキリと睨みつけていた。

 

連「おい、離せよ夜兎。俺は後で入るって言って――」

 

夜兎「人の、うら若き24歳のレディの、最も神聖なるプライベート領域(裸体)を正面から堂々と網膜に焼き付けておいて、何ですかその『コンビニのレジ袋が有料だった時』みたいな冷めたリアクションは! まずは、人道的に謝罪(デバッグ)の言葉を述べるのが、暁不動産の次期跡取りとしての最低限のスクリプトではないのですか! そんな基本的な仕様すら、あなたのその安い脳内メモリには実装されていないのですか!?」

 

マシンガンのように繰り出される夜兎の罵倒コンボ。

だが、連はうんざりしたように溜息をつき、紫の瞳で夜兎を見返した。

 

連「は? 何怒ってんだよ。だって今さらだろ? 夜兎の裸なんて、俺がガキの頃から散歩のついでみたいに散々見てきてるしよ。もう完全に見慣れたわ。今更お前のスペック確認したところで、コンボの判定は変わんねえよ」

 

夜兎「……み、見慣れた……? コンボの判定……っ!?」

 

夜兎の額に、ピキピキと青筋が浮かび上がる。

 

連「大体、お前がいつも『坊ちゃまは自分で冷蔵庫も開けられない無能』だの何だの言ってくるから、俺の中でお前の性別パラメータは『メイド型の頑丈なAI』くらいで登録されてんだよ。文句言うなら、早く風呂入って出てこい。エナドリの成分が汗で流れて気持ち悪いんだわ」

 

夜兎「言わせておけば、この厨二病重度ゲーマーが……! 私をただのシステムプログラム扱いですか。いいでしょう、そこまで私の存在をナメているのなら、あなたに『現実の重み(システム負荷)』を物理的にわからせてあげます!」

 

夜兎はそう言うと、掴んでいた連の腕を、中卒で就職してから9年間鍛え上げた家事全般の腕力(特技:スポーツ)で、大浴場の方向へとグイッと力任せに引っ張った。

 

連「おい、待て! 何する気だ夜兎!」

 

夜兎「何って、このままお風呂のドアを開けっ放しにしていたら、せっかくの最高級の湯殿の温度が下がって冷めてしまうではありませんか! ガス代が勿体ないです! 暁家の資産を無駄にしないためにも、坊ちゃまも今すぐこのまま一緒に入りますよ! さあ、脱ぎなさい!」

 

連「おい! 強制イベント(バグ)を発生させるな! 離せって!」

 

抵抗も虚しく、連はパーカーごと脱衣所へと引きずり込まれ、半ば事故のような形で、夜兎と共に暁家の巨大なバスルームへと放り込まれる破目になったのだった。

 

---

 

 

 

連「……クソが。なんで俺が、24歳の毒舌メイドと一緒にお湯に浸からなきゃいけない仕様(ステージ)になってんだよ」

 

ざばぁ、と檜の香りが漂う広大な湯船に、首までどっぷりと浸かりながら、連は盛大に不満の声を漏らした。

もちろん、浴槽の中では、夜兎はしっかりと大きめのバスタオルを身体に巻き付け、連とは対角線上の最も離れた位置に座っている。濡れた茶髪のツインテールが解け、湯面に美しく広がっていた。

 

夜兎は江戸切子のグラス(中身はミネラルウォーター)を傾けながら、ふん、と鼻を鳴らした。

 

夜兎「私が聞きたいくらいですよ。仕事上がりの一番の癒やしの時間に、なぜ私は自分がガキの頃から知っているクソ生意気な14歳の『入浴介助』のような真似をしなければならないのですか。これは完全に労働基準法へのバグ報告案件です。玲奈大奥様に残業代を3倍で請求します」

 

連「自分で引っ張り込んだんだろ。お前のアルゴリズムはどうなってんだよ」

 

連は湯気に顔を半分埋めながら、エナジードリンクの炭酸が抜けていくような溜息をついた。

だが、温かいお湯が全身の凝り固まった筋肉をほぐしていく感覚は、確かに心地よかった。昨晩の徹夜の検証と、今日の律のイタズラの疲れが、ジワジワと湯の中に溶け出していく。

 

夜兎はグラスを置き、湯船の中で少しだけ連の方へと視線を向けた。その瞳は、先ほどまでの激しい怒りから、いつもの暁家の「身内」に対する、少し呆れつつも温かいものへと戻っていた。

 

夜兎「……まぁ、冗談はさておき。今朝の律様の『変装イベント』、大変素晴らしい出来栄えだったようですね。防衛省の烏丸様から、すでに事後報告(ログ)がこちらに入っております」

 

連「ああ。こいつ、俺が仕込んだ『対人心理予測のフレーム』を完璧に使いこなしてやがった。クラスの連中が全員、絶望のドロップ(お通夜モード)になってるのを上から見てるの、最高にいい性格してたわ。俺のデバッグの成果が、仕様通りに発揮されて何よりだ」

 

夜兎「……主人が主人なら、インポートされたAIも随分と性格の悪いバグを搭載してしまったものです。学校の皆様が不憫でなりません」

 

夜兎は呆れたように首を振ると、ふと何かを思い出したように、連の顔を覗き込んだ。

 

夜兎「それで? 明日の土曜日、13時に駅前にお迎えとのことですが。今度はどなたをこの『魔王の城(暁邸)』に召喚する予定なのですか? またあの、お寿司を限界まで食い荒らしていったハイエナの男子生徒たちですか?」

 

連「違うわ。明日は……神崎を呼ぶ」

 

その名前が出た瞬間、夜兎の眉がピクリと動いた。

 

夜兎「……神崎。確か、京都の旅館のゲームコーナーで、坊ちゃまを完膚なきまでにハメ殺したという、あの清楚(裏ボス)なお嬢様ですか?」

 

連「ハメ殺したって言うな。あれはただの初見殺し(一か八かのコマンド投げ)を食らっただけだ」

連はムキになってお湯をバシャリと跳ね上げた。

 

連「明日は、我が家の地下にある、光回線を直接引き込んでフレーム遅延を0.001秒以下に固定した『ガチ専用ゲームルーム』を使う。あいつのあの、無駄のない洗練されたレバー入力を、俺のシステムで完全に解析(ダウンロード)してやるんだよ。だから、夜兎。明日の13時に、いつもの黒のリムジンで駅前まで迎えに行ってやれ」

 

---

 

 

連の言葉を聞き終えると、夜兎は湯船の中でバスタオルを軽く整えながら、ふっと小さく、しかし非常に深い意味を湛えた笑みを浮かべた。

 

夜兎「なるほど、了解いたしました。……あのプライドの塊のような連坊ちゃまが、わざわざ自分の聖域(ゲーム部屋)に女の子を直接招き入れてまでリベンジマッチを挑むとは。神崎様という方は、よほど坊ちゃまの『ハザードレベル』を刺激する素晴らしいプレイヤーなのですね」

 

連「プレイヤーとして優秀なのは事実だろ。E組のどの男子よりも、あいつの動体視力と指先のフレーム管理はズレがねえ。対戦相手として、これ以上の適任(チートキャラ)はいねえよ」

 

連が当然のように言い切ると、夜兎は湯船から静かに立ち上がった。バスタオルに包まれたその美しいシルエットから水滴が滴り、檜の床に心地よい音を立てる。

 

夜兎「分かりました。では、明日の13時、最高級の送迎(ステージ演出)でお迎えに上がります。……ですが、坊ちゃま」

 

夜兎は浴室のドアに手をかけ、振り返ってツンとした口調で釘を刺した。

 

夜兎「お友達を家に呼ぶのですから、明日の朝は、最低限自分の部屋のコントローラーのコードくらいは綺麗に片付けておきなさい。ゲームの仕様書やエナドリの空き缶が散乱した部屋に女の子を通すなど、暁家のメイド(家政婦)としての私のプライドが許しません。もし散らかっていたら、明日のゲームルームのブレーカーを、私が物理的に『シャットダウン(強制終了)』しますからね」

 

連「……チッ。わかってるよ。お前は本当に、相変わらず一言多いんだよ」

 

夜兎「二言言わなかっただけ、私の慈悲深さに感謝してください。……では、私はお先に失礼します。湯冷めして風邪など引かないように、しっかり温まってから出てきなさい、クソガキ坊ちゃま」

 

ガララ、とドアが閉まり、夜兎の気配が脱衣所の向こうへと消えていった。

 

静まり返った大浴場の中、連は再びお湯の中に深く沈み込み、天井を見上げた。

 

 

 

明日の13時。

遅延ゼロの極限環境で、あの清楚な仮面を被った「隠しボス」と、一体どんなフレーム単位の死闘が繰り広げられるのか。それを想像するだけで、連の紫の瞳の奥には、エナジードリンクの成分よりも熱い、強烈な闘争心(ゲーマーの血)がパチパチと音を立てて湧き上がってくるのだった。

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