暗殺教室 地球外生命体と超生物を殺す   作:ぐちロイド

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第26話  13時の定刻、最高環境への招待 魂の5先、極限の死闘

 

 

五月の爽やかな週末、土曜日の午後1時。

椚ヶ丘駅前のロータリーには、昨日連が予告した通り、非現実的なまでの重低音を響かせて漆黒の高級リムジンが滑り込んできた。

 

マジックミラーの窓が静かに下がり、運転席から現れたのは、お馴染みの仕立ての良いメイド服(家政婦仕様)を纏った城崎夜兎(24歳)だ。今日は出迎えた相手が「坊ちゃまの学校の女子生徒」ということもあり、茶髪のツインテールも一段とカチッと洗練された角度でまとめられている。

 

夜兎「神崎有希子様ですね。連坊ちゃまの命により、お迎えに上がりました」

 

夜兎は抑揚のない、しかし凛とした声で頭を下げ、車の後部座席のドアをスマートに開いた。

 

神崎「あ、ありがとうございます、城崎さん。よろしくお願いします」

 

白いブラウスに上品なサマーカーディガンを羽織った神崎は、少し緊張した面持ちながらも、いつもの清楚な微笑みを崩さずに豪華な本革シートへと収まった。

 

車内が滑らかに発進する。バックミラー越しに神崎の様子を観察していた夜兎は、ふっと口元をわずかに緩め、毒舌混じりの挨拶を添えた。

 

夜兎「連坊ちゃまは、昨晩から『明日の対戦(マッチング)までに部屋の配線をミリ単位で最適化(デバッグ)する』と息巻いて、深夜まで自室に引きこもっておりました。あのような戦闘狂の厨二病ゲーマーの相手をさせてしまい、家政婦として大変心苦しく思っております」

 

神崎「ふふ、そんなことないですよ。連君、凄く真面目にゲームと向き合ってるんですね。私も今日は負けるつもりはないので、楽しみなんです」

 

神崎のそのブレない、どこか大物感を漂わせる返答に、夜兎は(……なるほど、あのクソガキ坊ちゃまが熱くなるわけです)と、心の中で深く納得するのだった。

 

――そして、暁の要塞に到着した神崎は、昨日までのクラスメイトたちと同様に、その圧倒的な邸宅のデカさに一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに連によって地下の「聖域」へと案内された。

 

暁家本館の地下。そこに構築されていたのは、光回線を直接引き込み、家庭用ゲーム機の限界を超えた処理速度を誇るモニターと、プロ仕様の格闘ゲーム用アーケードコントローラー(アケコン)が2台、完全に対面式で設置された「ガチ専用ゲームルーム」だった。

 

部屋の空気は、精密機械を保護するために常に一定の低温に保たれ、まるでプロのeスポーツ大会の特設ステージのような静寂と緊張感が漂っている。

 

神崎「……すごいね、連君。ここ、ゲームセンターの筐体(ライブモニター)より遅延がないのが体感でわかるよ」

 

神崎が指定された席に座り、マイアケコンのレバーをカチカチと鳴らす。

 

連「当たり前だ。我が家の専用回線は、フレーム遅延を0.001秒(1ミリ秒)以下に固定した『特権仕様(チート環境)』だからな。京都の旅館のクソ筐体とは次元が違う。……よし、じゃあ早速始めようか。まずはウォーミングアップがてら、小手調べの『3本先取(3先)』からだ」

 

神崎「うん、いいよ。いつでもどうぞ」

 

対面式のモニターに、キャラクター選択画面が映し出される。

連はいつもの超攻撃型のラッシュキャラクター。対する神崎は、精密なガードと強力な当て投げ、そして一瞬の隙を見逃さないコマンド投げを得意とする、美しくも苛烈なキャラクターを選択した。

 

レバーとボタンの爆音が、防音仕様の室内へと激しく響き渡る。

 

カカカカカ、カラン!!!

 

連「そこ、発生5F(フレーム)の確定反撃(確反)だろ!」

 

神崎「ふふ、それを読んでのバックステップだよ?」

 

ウォーミングアップの3先は、お互いに手の内を探り合うようなハイレベルな攻防となった。連が持ち前の超高速コンバーター(超反応)で攻め立てれば、神崎は驚異的な動体視力でそれを完璧にいなし、手痛いカウンターをブチ込んでくる。

しかし、昨日律にフレームデータをインポートしたことで、自身のコンボ精度を極限まで見直していた連が、わずかな判定の差で押し切った。

 

『セットカウント、2対1。暁連の勝利』

 

連「ハッ、まずは仕様通りの2勝だ。……だけど、やっぱりお前、椚ヶ丘のどいつよりもレバー入力の軸がブレねえな」

 

連はエナジードリンクの缶を一口煽り、紫の瞳の奥のハザードレベルを一段と跳ね上げた。

 

神崎はアケコンのレバーから手を離さず、黒髪の隙間から、どこかゾクッとするほど冷徹で楽しげな瞳を覗かせた。

 

神崎「……うん、やっぱり遅延がないと私のコマンド投げ、ちゃんと繋がるね。ウォーミングアップは終わり。……次が、本番(本セッション)だよね、連君?」

 

連「ああ。ここからは……魂の『5本先取(5先)』だ。どちらかのライフがゼロになるまで、コンティニューはなしだ!」

 

ゲームルームのボルテージが、一瞬にしてマックスへと引き上げられた。

 

---

 

 

画面のカウントがリセットされ、本当の死闘が始まった。

 

1戦目、2戦目は、神崎の驚異的な「人読み(心理戦)」が完全に冴え渡った。連のラッシュの癖を見切り、ジャストガードからの超必殺コマンド投げを連続で成立させ、一気に神崎が2本を先取する。

 

神崎「へえ……強いね、連君。でも、守りがちょっと単調になってるよ?」

 

清楚な声の裏に隠された、格ゲーガチ勢としてのドス黒いオーラが神崎から立ち上る。

 

連「チッ……! 完全にハメパターン(連係ハメ)を構築してやがるな。……だが、俺のシステムをナメんなよ!」

 

3戦目、連は攻撃のテンポをわざと遅らせ、ディレイ(タイミングをずらす技)を多用することで、神崎のガードのタイミングを強引に破壊。ハザードレベルを極限まで上昇させた超高速コンボを叩き込み、1本を奪い返す。

 

そこからは、まさに一進一退の、1フレームのズレが勝敗を分ける極限のシーソーゲームとなった。

4戦目は神崎、5戦目は連、6戦目は連、7戦目は神崎――。

 

気が付けば、セットカウントは『4対4』のフルセット。

最終の第9戦、お互いのキャラクターの体力ゲージは、残りドット単位――どちらの技が1発掠ってもゲームオーバーとなる、究極の緊張状態(レッドゾーン)へと突入していた。

 

カカカカカカカカカカカッ!!!!

 

アケコンのボタンを叩く音が、プロのドラムロールのように室内に炸裂する。

神崎のキャラクターが、連の起き上がりに、ガード不能のコマンド投げを仕掛けようと手を伸ばす。京都の夜、連が完全に敗北を喫したあの「最強のハメ技」の再現だ。

 

連(……ここだ。お前なら、絶対にこのフレームで『ぶっ放して』くると思ってたわ!)

 

連の超反応が、神崎のレバー入力を完全に見切った。

コマンド投げの発生よりもわずか1フレーム早く、連はキャラクターに「無敵時間のある最速の昇竜コマンド技」をインプットしていた。

 

ドガァァァァァンッ!!!!

 

画面に大迫力のカットインが入り、連のキャラクターの放った一撃が、神崎のキャラクターの脳天を正確に粉砕した。

 

『K.O.!!! PLAYER 1, WINS! THE MATCH WINNER : AKATSUKI REN!』

 

連「……っ、っしゃあ!!! 完全クリア(全勝)だコラァァァッ!!!」

 

連はアケコンを叩くようにして立ち上がり、勝利の咆哮を上げた。額からはびっしょりと汗が流れ落ち、心臓がバクバクと激しく鼓動している。

 

対面の席では、神崎がレバーからゆっくりと手を離し、ふぅ、と長い溜息をついていた。その顔は少し悔しそうではあったが、どこか完全に全力を出し切った、清々しい笑顔だった。

 

神崎「……あーあ、負けちゃった。最後の一歩、完全に読まれてたんだね。連君、やっぱり凄いよ。私のハメ技に、あんな正確なタイミングで割り込んでくるなんて……完璧にデバッグされちゃった」

 

連「ハッ、お前が強すぎるんだよ、神崎。マジで脳の処理速度が仕様外だわ。……あー、疲れた。一息つこうぜ、リビングに戻るぞ」

 

連は首にタオルをかけ、神崎と共に地下の聖域を後にした。

 

---

 

 

 

玲奈「あらあら、お帰りなさい、戦闘狂の子供たち。随分と激しい『通信対戦』だったみたいじゃない?」

 

地下から1階のリビングへと戻ると、そこには意外な人物が優雅に鎮座していた。

暁不動産のCEOであり、連の母親である暁玲奈だ。

彼女はソファーにノートPCを広げ、何通ものビジネスメールを処理しながら、ローテーブルの上に広げられた大量の高級ケーキの皿(タルト、ショートケーキ、モンブランなど)を、フォークで器用に口へと運んでいた。

 

連「ババア……。土曜日なのに、なんで家にいるんだよ。出張はどうした」

 

連はうんざりしたようにソファーの対面に座った。

 

玲奈「あら、母親が自分の持ち家で仕事をしてちゃ悪いの? それより、そちらの可愛いお嬢様が、噂の『神崎有希子ちゃん』ね? 初めまして、連の母親の玲奈よ。いつもこの不愛想な厨二病ゲーマーの相手をしてくれてありがとう」

 

神崎「初めまして、暁さん。神崎有希子です。連君には、いつもゲームで遊んでもらっていて……今日もお邪魔してしまって、すみません」

 

神崎が上品にお辞儀をすると、玲奈は「まぁ! なんて育ちの良さそうな、可愛いお嬢様なのかしら!」と目を輝かせた。

 

そこへ、キッチンから新しい紅茶のカップを持った夜兎が、パタパタとスリッパの音を立てて戻ってきた。

 

夜兎「神崎様、お疲れ様でした。こちら、スポーツ(格闘ゲーム)の後の糖分補給に、特製のダージリンティーでございます。……クソガキ坊ちゃまのせいで、著しい精神的ストレス(コンボハメ)を受けられたかと思いますので、ごゆっくりお癒やしください」

 

神崎「あ、ありがとうございます、城崎さん」

 

神崎が紅茶を受け取る。

 

連はテーブルの上のケーキの山(夜兎が買ってきた有名店の品)を見つめ、夜兎に顎で短く命じた。

 

連「おい、夜兎。俺にも同じの頼む。糖分(ゲージ)が完全に空っぽなんだわ」

 

夜兎「はいはい、我が家の無能な王様。自分でキッチンに歩くエネルギーすら残っていないのですね。今、坊ちゃま用の『糖分過多(デブ仕様)ケーキ』をお持ちいたします」

 

夜兎は無表情のまま冷徹に毒を吐くと、すぐにキッチンから連の分のイチゴのショートケーキと、冷たい炭酸水を持ってきてトントンと置いた。

 

四人でテーブルを囲み、高級ケーキを食べるという、暁家としては非常に珍しい「まったりとした時間」がリビングを包む。神崎はモンブランを美味しそうに頬張りながら、「城崎さんの淹れてくれたお茶、本当に美味しいです」と絶賛し、夜兎は「お褒め預かり光栄です」と、ほんの少しだけツンとした口元を和らげていた。

 

---

 

 

 

玲奈「――あ、そうそう。連」

 

玲奈が高級ワインでも飲むかのように紅茶を上品に啜りながら、ノートPCの画面から目を離さないまま、さらりと爆弾発言を投下した。

 

玲奈「明日の夜、スケジュールを開けておきなさい。18時からの予定よ」

 

連「……あ?」

 

連はイチゴを口に放り込みながら、怪訝そうに眉をひそめた。

 

連「明日って日曜日だろ。格ゲーの大型ネット大会の配信があるんだよ。何かあったっけ?」

 

玲奈「大会(ゲーム)の話じゃないわよ。明日はね、我が社の最重要取引先の一つである『新月重工(しんげつじゅうこう)』の会長ファミリーとの会食が入っているの。場所は銀座の高級料亭。もちろん、アンタも正装(スーツ)で出席するのよ」

 

連「はぁ!?」

 

連は思わず、持っていたフォークを皿にカランと落とした。

 

連「新月重工って、あの日本の軍事インフラとか重工業のトップにいる、あのデカい会社だろ? なんでそんなバカでかいビジネスの会食に、俺なんかが出なきゃいけないんだよ。ババア一人で行けばいいだろ。俺は仕様外(部外者)だ」

 

連が本気で嫌そうな顔(完全拒絶モード)をすると、玲奈はノートPCをパタンと閉じ、息子に向かって、どこか含みのある、しかし大企業のトップとしての「女帝の笑み」を向けた。

 

玲奈「部外者じゃないわよ。今回の会食ね、先方の新月会長の方から直々に指定があったのよ。……『暁不動産の次期跡取りである、連君に一度お会いしたい。明日は私の娘も同席させるので、若い者同士、ぜひ親睦を深めさせてはどうだろうか』……ってね」

 

連「娘……? 親睦……?」

 

連がフリーズしていると、隣で神崎が「……あら」と、紅茶のカップを持ったまま、少しだけ楽しげに目を細めた。

 

神崎「それって、もしかして……政略結婚の『お見合い』の初期イベント、ですか? 暁さん」

神崎がさらりと核心を突く。

 

玲奈「ふふ、ご名答! 有希子ちゃん、察しが良いわね!」

 

玲奈は嬉しそうに手を叩いた。

 

玲奈「新月重工の令嬢は、確か連と同じ14歳か15歳くらいのはずよ。先方は、将来的に我が暁不動産の資本力と、新月重工の技術力を完全にドッキング(企業合併・提携)させるための、強固な足がかり(絆)を作りたいみたいなのよね。だから連、アンタは暁家の看板(商品)として、明日はしっかり愛想を振りまいてきなさい!」

 

連「ふざけんな! 誰が看板だ!」

 

連はソファーから立ち上がり、激しく拒絶した。

 

連「俺はまだ14歳の中学生だぞ! なんでそんな、政略結婚のルート(クソイベント)に強制参加させられなきゃいけないんだよ! 親父(巌斬)に行かせろよ!」

 

夜兎「巌斬大旦那様は、現在別の前線(海外の利権争い)で物理的に暴れていらっしゃいますので、出席は不可能です」

 

夜兎が横から淡々と、冷徹な事実(システムメッセージ)を提示する。

 

夜兎「連坊ちゃま、諦めて観念しなさい。明日の夕方までに、私が坊ちゃまのその生意気な肉体に完璧にフィットする、最高級のオーダーメイドスーツをデバッグ(アイロンがけ)しておきますので。髪の毛も、少しは大人しくセットさせていただきます」

 

連「夜兎、お前までババアの味方(チート協力)すんのかよ!」

 

夜兎「私は暁家の忠実なメイドです。資本の命令には逆らえません。……それに、連坊ちゃまが高級料亭で、ガチガチに緊張しながら令嬢相手に『格ゲーのフレーム用語』をぶっ放して自爆(爆死)するルートを想像するだけで、明日への勤務のモチベーションが最高潮に達します」

 

連「お前、本当に一回スクラップにしてやろうか!?」

 

連の必死の抗議(抵抗コンボ)を、玲奈と夜兎の二人の完璧な連係(ハメ技)が完全にガードし、無力化していく。

その様子を隣で見ていた神崎有希子は、紅茶を上品に飲み干すと、クスクスと、本日一番の、最高に清楚で悪戯っぽい笑顔を連に向けた。

 

神崎「……ふふ。連君、明日は大忙し(一大イベント)だね。新月重工の令嬢様が、連君のその『ハザードレベル』に耐えられるかどうか……月曜日に学校で、律ちゃんと一緒に結果のログ(報告)を楽しみにしてるね?」

 

連「神崎、お前まで煽るんじゃねえよ……!」

 

週末の暁家のリビングには、明日の「強制ミッション」に絶望する連の唸り声と、それを楽しむ女性陣の華やかな笑い声が、いつまでも賑やかに響き渡っていた。修学旅行、そして律の参戦を経て、暁連の周囲のゲームステージは、今度は「大人の世界(ビジネスクエスト)」という、全く予想もつかない新ルートへと強制的にアップデートされようとしていた。

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