本編から脱線していますが、次ぐらいから戻ると思います。
銀座の超高級老舗料亭『新月庵』の門をくぐり、暁家の漆黒のリムジンが再び都心の夜へと滑り出した。
車内の空気は、行きとは完全に反転していた。助手席に座る玲奈は、新月重工との資本提携が完全に「仕様通り」に成立したことに満足し、すでにタブレットで明日の役員会の資料をチェックしている。
だが、後部座席に座る連は、ワックスで固められたワインレッドの髪をガシガシと乱暴に掻きむしり、高級スーツのネクタイを乱暴に緩めていた。
連「……クソが。何が完璧なカリスマ令嬢だ。あの女、完全に脳内のシステムプログラムがバグってやがる……」
連の脳裏には、会食の終盤に新月百加から突きつけられた「最終通告」が、エラーメッセージのように明滅していた。
百加『――では連君、約束通り明日の放課後、私が通う「聖アリア高校」の生徒会室(サークル部屋)でお待ちしておりますわね? あなたにぴったりの、最高に“尊い”特製ガジェット(新刊)を用意しておきますから』
聖アリア高校。都内でも有数のお嬢様たちが通う、完全なる男子禁制の結界(女子校)だ。そんな場所に、椚ヶ丘の中学生である連が放課後に乗り込まなければならない。めんどくせー、という一言では到底処理しきれないほどのシステム負荷(精神的ストレス)が連の脳内を埋め尽くしていた。
連(神崎や律の相手だけでも脳内メモリがギリギリだってのに、あんなGカップの限界オタク腐女子ボスまで一気に前線(メインクエスト)に参入してくるなんて、完全にゲームバランスが崩壊してんだろ……)
運転席の夜兎は、バックミラー越しに連の限界を迎えた表情を観察し、フッと冷徹な、しかしどこか楽しげな毒舌を投げかけてきた。
夜兎「おやおや、連坊ちゃま。新月重工の令嬢様に、よほど完膚なきまでに『わからせ』を執り行われたようですね。普段の生意気が、今や初期型ロボットのバッテリー切れのように低下しておりますよ」
連「うるせえよ、夜兎。あいつはただの堅物じゃねえ。俺の人生のセーブデータを物理的に書き換えようとしてくるタイプだわ。あんなステージ、誰が喜んで攻略しにいくかってんだ……」
連が本気で頭を抱えた、その時だった。
脳の最深部、エボルトの遺伝子が眠る精神世界の暗黒から、あの男の、冷酷で不気味な笑い声がノイズ混じりに響き渡った。
エボルト『――ハッハッハ! 面白い、実に面白い令嬢じゃないか、連! だが、大人の遊戯(お見合い)に頭を悩ませている暇はなさそうだぞ? ……お前の大好きなターゲットが、すぐ近くにポップ(出現)したようだ』
連の紫の瞳が、一瞬で戦闘モード(ガチ部屋仕様)へと切り替わった。脳内でエボルトの意識へとダイレクトにアクセスする。
連連(……何だと、エボルト。近くに何かいるのか?)
エボルト『ああ。このエリアのすぐ近く、座標コード・D-4の空き地だ。……人間をベースにネビュラガスを注入された、あの出来損(スマッシュ)の反応が2つ。それも、以前お前がデバッグした個体よりも、随分とハザードレベルが高いぞ?』
連「スマッシュが、2体同時に……!」
連の口元が、無意識のうちに不敵なゲーマーの形へと歪んだ。百加へのめんどくささ、玲奈への苛立ち――そのすべてを物理的にぶちまけ、デバッグ(破壊)するための最高のサンドバッグが、向こうからマッチングを申請してきたのだ。
連はすぐに、運転席の夜兎に向かって声を張った。
連「おい、夜兎。ちょっと用事が出来た。次の角のコンビニで俺を降ろせ」
夜兎「はぁ?」
夜兎がバックミラーをキリリと睨みつける。
夜兎「連坊ちゃま、今は夜の22時を過ぎています。このような時間から、スーツ姿の14歳がコンビニで一体何のデバッグ(買い出し)をするというのですか。エナジードリンクの箱買いなら、明日の朝に私がシステム通りに発注しますが?」
連「違うわ。ちょっと、ゲーマーとしての『散歩』がしたくなっただけだ。いいから降ろせ。お前ら2人は、先に家に帰ってろ」
玲奈「連、あんまり遅くなるんじゃないわよ。明日は聖アリアへの『出陣』があるんだからね」
玲奈がタブレットから目を離さないまま許可を出すと、夜兎は不満そうに「……チッ、了解いたしました、クソガキわがまま坊ちゃま」と舌打ちし、リムジンを路肩のコンビニの駐車場へと滑り込ませた。
ガチャリとドアを開け、連は夜の街へと飛び出した。
背後で、夜兎の運転するリムジンが遠ざかっていくのを見送ると、連はすぐにスーツのジャケットを脱ぎ捨て(異空間にしまう)、コンビニの裏手にある薄暗い路地裏へと滑り込んだ。
連「よし……ここなら、誰も見てねえな」
連が虚空に向かって右手をかざすと、空間が次元の歪み(ワームホール)のように赤と青の光を放って歪んだ。その異空間の裂け目から、重厚な金属音を立てて、一台の規格外の漆黒のバイク――『マシンビルダー』が、現実世界へと召喚された。
連は流れるような動作でバイクに跨り、スロットルを限界まで回した。
ヴゥゥゥオオオオオオンッッッ!!!!
マフラーから爆音のエネルギー波を撒き散らしながら、マシンビルダーは夜の闇を切り裂き、エボルトが示した「スマッシュの反応」がある空き地へと、最高速で突進していった。
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ナビゲーションが示したのは、都市開発から取り残された、周囲を高いコンクリート壁に囲まれた広大な解体工事現場(空き地)だった。
バイクを急停止させ、タイヤを激しくスライドさせながら連が地面に降り立つと、そこにはすでに、夜の闇に紛れて不気味に蠢く、2つの「巨体」が存在していた。
「グガガガガ……ッ!」
「アアアア……ッ!」
一体は、全身から凄まじい高熱の炎を噴き出し、両腕が巨大なバーナーのようになっている『バーンスマッシュ』**。
そしてもう一体は、コンクリートをも一撃で粉砕する岩石のような超重量級の肉体と、巨大な鉄拳を持つ**『ストロングスマッシュ』。
炎のリーチ(遠距離攻撃)と、岩石のパワー(近距離・重戦車)。2体の配置は、格闘ゲームで言えば、最も凶悪な「遠近のクソハメ連係」を構築する最悪のチーム構成(2対1)だった。
連「へえ……。遠距離のシューティングキャラと、近距離のスーパーアーマー持ちのハメキャラか。ソロ(一人)で挑むには、随分と調整ミス(無理ゲー)なステージじゃねえか」
連はニヤリと笑うと、再び空間の歪みから、己の「最強のデバイス(コントローラー)」を召喚した。
ガシャリ。
現れたのは、重厚な歯車が組み込まれた変身ベルト『ビルドドライバー』**。それを腰に装着すると、自動的にベルトが伸縮し、カチィィィン!と連の腰回りに強固にロックされた。
さらに、左手には青いドラゴンの意匠が施された自律行動型メカ**『クローズドラゴン』**、右手には、驚異的なエネルギーを秘めた**『ドラゴンフルボトル』を握りしめる。
シャカシャカシャカシャカシャカシャカ!!!
連は慣れた手つきで、ドラゴンフルボトルを激しくシェイクした。ボトルの内部で、ネビュラガスとエボルトの遺伝子が共鳴し、パチパチと青いプラズマ火花が飛び散る。
《ドラゴン!》
ボトルのキャップを回し、クローズドラゴンの背中のスロットルにガチィン!と装填する。
『ウェイクアップ!』
連「さあ……デバッグ(狩り)の時間だ」
連はクローズドラゴンを、ビルドドライバーのツインロトスロットに勢いよく差し込んだ。
ガシャアアアンッ!!!
『クロスオオオズッ!』
連「変身」
連がレバーを猛烈な速度で回転させると、ベルトの歯車がギュルギュルと火花を散らして回転し、背後から出現したスナップライドビルダーが、青いドラゴンの強固な装甲(アーマー)を成形した。
次の瞬間、ビルダーが連の身体を前後から挟み込むように激しく激突(ドッキング)する!
ドガァァァンッッ!!!
『ウェイクアップバーニング! ゲットクローズドラゴン! ヤーハッ!』
炎と青いプラズマの爆発が巻き起こり、そこには、全身を漆黒と青のメタリック装甲で包み、頭部に鋭いドラゴンの角を戴いた戦士――**仮面ライダークローズ**となった連が立っていた。
「グガァァァッ!」
クローズの変身完了と同時に、バーンスマッシュが両腕から、極太の火炎放射(高熱の弾幕)を容赦なくぶっ放してきた。
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ゴオオオオオオオオッッッ!!!
一瞬にして空き地全体が火の海と化す。
クローズ(連)は、持ち前の超反応(発生0フレームのステップ)で火炎の弾幕をギリギリで横に回避したが、その着地狩りを狙うように、背後からストロングスマッシュが巨大な岩石の拳を振り上げて突進してきた。
「オオオオオッ!」
ドガァァァンッッ!!!
連「ぐっ、おあぁ!?」
ストロングスマッシュの、スーパーアーマー(攻撃を受けても怯まない特性)を活かした強引な突進が、クローズの脇腹に直撃した。
金属が激しく軋む音と共に、クローズの身体がコンクリートの壁に向かって何メートルも吹き飛ばされ、激しく背中を打ち付けた。
連「ハッ……! さすがに2対1の『ハメ連係』は、ダッシュのフレームが制限されるな……!」
クローズは胸の装甲を抑えながら立ち上がるが、間髪入れずに、バーンスマッシュが頭上から無数の火炎弾をシューティングゲームのように降らせてくる。
ドバババババババババッ!!!
「グガガガ!」ストロングスマッシュが再び、クローズの起き上がりに合わせて、完全に逃げ場を塞ぐような「起き上がり重ね(ハメ技)」の鉄拳を叩き込んでくる。
連(クソが……! 攻撃の発生(フレーム)が完全に噛み合ってやがる。ガードを固めても、バーンの高熱で削られ、ストロングの重撃でガードクラッシュ(体勢崩し)を狙われる仕様か……!)
格闘ゲームにおいて、最も理不尽とされる「ハメ」。画面端で、一切の反撃の猶予(フレーム)を与えられないまま、一方的にライフゲージを削られていくあの絶望的な感覚。
エボルト『――ハッハッハ! どうした、連! その程度の連係プレイに、ハザードレベルを削られているのか? お前の本性は、そんなシステムに収まる器ではないはずだろぅ?』
脳内のエボルトが、再び愉悦に満ちた声でクローズ(連)を煽り立てる。
連「うる……せえ……ッ! 俺の辞書に、『(負け確)』の3文字はねえんだよ!!! どんなチート連係だろうが、必ず……『(突破口)』の1フレームが存在する!!!」
クローズの紫の複眼が、超高速で2体のスマッシュの挙動(モーション)をスキャンし始めた。
バーンスマッシュが炎を放つ瞬間の、わずかなリロードの隙(硬直時間:12フレーム)。
ストロングスマッシュが拳を振り下ろした後の、重心が前に崩れる瞬間(確定反撃:15フレーム)。
個別の技の隙はわずかだが、2体が連携しているため、今まではその隙が互いにカバーし合っていた。
だが、連のゲーマーとしての限界を超えた脳内プロセッサは、その2体の攻撃パターンが「完全なルーティン(一定のアルゴリズム)」に従っていることを見抜いた。
連「――見付けたぞ。お前たちのマクロ(自動操作)、完全に読み切った」
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次の瞬間、バーンスマッシュが最大出力の火炎放射を放ち、同時にストロングスマッシュが右のストレートでクローズの頭部を粉砕しにきた。
まさに、必殺のコンボハメ。
だが、クローズはその場から一歩も動かなかった。
ストロングスマッシュの巨拳が、クローズの鼻先に迫る――その瞬間、連はビルドドライバーのレバーではなく、クローズドラゴンの尾部にあるスイッチを、完全な『ジャストタイミング(1フレームの猶予)』で押し込んだ!
『ドラゴニックフィニッシュ!』
クローズの全身から、青いプラズマ状のドラゴンエネルギーが爆発的に噴き出した。
それは攻撃ではなく、周囲の空間の慣性を一瞬だけ強引に書き換える「カウンターバースト」だった。
ドッゴォォォンッッ!!!
「ガッ!? グガガッ!?」
攻撃が直撃する直前、クローズから放たれた衝撃波によって、ストロングスマッシュの拳の軌道がわずかに右へとズレた。
そして、そのズレた拳は、なんと背後から火炎を放っていたバーンスマッシュの顔面に、最大威力で誤爆(フレンドリーファイア)する形となったのだ!
「グギャアアアアッッ!?」
仲間からの強烈な一撃を食らったバーンスマッシュの体勢が大きく崩れ、火炎の弾幕が完全に消失(システムエラー)した。
連「ハッ! 2体同時に動くマクロの弱点は、処理の優先順位(ターゲット管理)がガバガバになることだ! 遠近の連係が崩れたお前らは、ただの『図体のデカい雑魚キャラ』なんだよ!」
ここからは、暁連(クソゲーマー)の、一方的な「わからせ(永久コンボ)」のステージだった。
体勢の崩れたバーンスマッシュに向かって、クローズは一瞬で距離を詰めると、右拳に青い炎を纏わせた強烈なアッパーカットをブチ込んだ。
連「オラァッッ!!!」
ズガァァァンッッ!!!
「ガハッ!?」バーンスマッシュの巨体が、空中へと高く打ち上げられる(浮かせコンボ始動)。
すかさずクローズは跳躍し、空中で目にも留まらぬ連続蹴り(エリアルコンボ)をバーンスマッシュに叩き込み、そのまま地上にいるストロングスマッシュの頭上へと叩き落とした!
ドォォォンッッ!!!
「グオォォッ!」
2体のスマッシュが重なるようにして地面に叩きつけられ、完全にダウン状態(行動不能)に陥る。
---
連「これで……チェックメイト(試合終了)だ」
クローズは着地すると同時に、ビルドドライバーのレバーに手をかけた。
残された時間はわずか。大人の政治(お見合い)のイライラも、明日の女子校潜入の憂鬱も、すべてこの一撃で消し飛ばす。
ギュルギュルギュルギュルギュルギュル!!!!!
連は壊れんばかりの速度で、ドライバーのレバーを何度も何度も回転させた。
ボトルの成分が限界まで高まり、空き地全体の地面が、青いドラゴンの巨大なグラフィック(エフェクト)で覆い尽くされていく。
『レディーゴー!』
連「ハァァァァァ……ッ!!!」
クローズの背後から、光り輝く巨大な青いドラゴンの幻影が姿を現し、夜空に向かって咆哮を上げた。2体のスマッシュは、その圧倒的なハザードレベルのプレッシャーに圧し潰され、立ち上がることすらできない。
『ボルテックフィニッシュ! ヤーハッ!』
連「――これで完全クリア(スクラップ)だぁぁぁッッ!!!」
クローズは力強く地面を蹴り上げると、天空高くへと飛翔した。
背後のドラゴンの幻影がクローズの右足へと完全に同化し、巨大な青い炎のエネルギーの塊(ドリル)と化す。
そのまま、地面で重なっている2体のスマッシュに向かって、音速を超える速度の急降下必殺キック(ライダーキック)を突き刺した!
ヒュゥゥゥゥゥ―――ドゴォォォォォォォォォンッッッ!!!!!
空き地全体が、真昼のように明るい青い大爆発に包まれた。
コンクリートの壁が消し飛び、凄まじい衝撃波が夜の街へと広がっていく。その爆炎の渦の中で、バーンスマッシュとストロングスマッシュの2体は、分子レベルで完全にデバッグ(消滅)され、元のネビュラガスへと還元されていった。
ズサァァァ……。
煙が立ち込めるクローゼットのような静寂の中、クローズ(連)は静かに着地し、ゆっくりと立ち上がった。
ベルトのロックを解除すると、変身が解除され、元の漆黒の高級スーツ姿(ただしネクタイは外れている)の連へと戻る。
連「……ふぅ。八つ当たり完了っと」
連はポケットからスマートフォンを取り出し、画面を確認した。時間は22時30分。
エバポレート(消滅)したスマッシュの残滓を見つめながら、連は再び、明日待ち受ける「新月百加」と「聖アリア高校」という、別の意味でハザードレベルの高いクソイベント(メインクエスト)を思い出し、盛大な溜息をついた。
連「……あーあ。スマッシュ相手の方が、よっぽどフレーム管理が楽でいいわ。明日の女子校潜入、マジでどうすんだよ……」
連はコンビニの裏手に隠しておいたマシンビルダーに跨ると、アクセルを開け、明日の大荒れ(アプデ)が予想される日常のステージへと、夜の闇を疾走していくのだった。
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