暗殺教室 地球外生命体と超生物を殺す   作:ぐちロイド

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第3話 教室の静寂と「グニュグニュ」 ジェラート事件

校舎の裏山に、湿り気を帯びた初夏の風が吹き抜ける。

五時間目の体育……烏丸による「暗殺訓練」が終わった直後、グラウンドには荒い息を吐きながら地面にへたり込むE組の生徒たちの姿があった。

 

その輪から少し離れた木陰。そこには、汗一つかいていない涼しげな顔の二人が並んでいた。

一人は、制服を崩し、不敵な笑みを絶やさない赤羽業。

そしてもう一人は、ワインレッドの髪をかき上げ、手元の携帯ゲーム機の画面を無機質な紫の瞳で見つめる暁連だ。

 

業「……あーあ、みんなバテすぎ。烏丸さんのメニュー、そんなにキツかった?」

 

 

業が揶揄するように言うと、前原や磯貝が苦笑いを返す。

 

 

前原「お前らが異常なんだよ……。特に連、お前あの機動戦の最中にゲームのレベリングしてたろ」

 

 

連「効率化だよ。指の運動と体術の訓練、同時にやれば時間の節約になる」

 

連は画面から目を離さずに即答した。脳内ではエボルトが『ククク、効率厨め』と鼻で笑っているが、連にとってはこれが日常だ。

 

---

 

 

 

六時間目。

一転して、静寂が教室を支配していた。カリカリと鉛筆が紙を走る音だけが響く、数学の小テストの時間だ。

だが、その静寂を「ノイズ」が侵食し始める。

 

――グニュ、グニチャ。グニュ、グニュ。

 

教壇の端、壁の隅っこ。

殺せんせーが背中を丸め、壁に向かって執拗に触手を押し当てていた。その顔は、悔しさのあまりドロドロとした紫色の「×点」模様になっている。

 

殺センセー「……ヌ、ヌルフフ……。あんな、あんな子供の手に負わされるなんて……。先生、ショックです……。イギリスまでジェラートを買いに行く気力も失せました……」

 

朝一番、業の掌に仕込まれたナイフで触手を焼かれ、さらに連の木刀によって「予測回避」を上書きされた。その屈辱が、超生物のメンタルをグズグズに削っていた。

 

――グニュ。グニュグニュ。

 

片岡「……先生」

 

クラス委員の片岡メグが、堪り兼ねたように顔を上げた。

 

片岡「グニュグニュうるさいです。テスト中なんですけど」

 

殺センセー「ヒッ! す、すみません片岡さん! でも先生の心が今まさにこの触手のように千切れては再生し、千切れては再生し……」

 

片岡「いいから黙っててください」

 

ピシャリと言い放たれ、殺せんせーは隅っこでさらに小さくなった。

 

---

 

 

その時、教室の後方で二つの机がガタリと音を立てた。

業と連だ。

 

二人は既に解答用紙を裏返し、完全に「終わった」オーラを出している。

業は余裕たっぷりに背もたれに寄りかかり、連に至ってはポケットから当たり前のようにゲーム機を取り出し、イヤホンを装着した。

 

寺坂「……おい」

 

その光景を見て、こめかみに青筋を立てた男がいた。寺坂竜汰だ。

寺坂は、自分がいまだに計算問題の三問目で詰まっているというのに、平然と遊ぼうとする二人が気に入らない。

 

寺坂「おい、暁、赤羽! テスト中だぞ、何余裕ぶっこいてやがる」

小声で、しかし確実に棘のある声で寺坂が煽る。

 

連はゲーム機の画面を見つめたまま、微動だにせず口を開いた。

 

連「寺坂。お前、その様子だと……大問一の計算、符号間違えてるぞ。マイナスとマイナスはプラス。小学校で習わなかったか?」

 

寺坂「あ!? な、なんで俺の解答が見えて……」

 

連「動体視力の無駄遣いだ。あと、煽るならせめて平均点取ってからにしてくれ。画面のノイズがうるさくて集中できない」

 

連の淡々とした、しかし冷徹な返球に、業がクスクスと追い打ちをかける。

 

業「そうだよ寺坂。そんなに大きな声出すと、脳細胞がさらに死滅して、そのテスト用紙が白紙のまま”ゲームオーバー”になっちゃうよ?」

 

寺坂「て、てめぇら……! ナメやがって……!!」

寺坂が激昂し、机を叩いて立ち上がろうとした瞬間。

 

殺センセー「そこまでです!!」

 

凄まじい風圧と共に、教壇にいたはずの殺せんせーが寺坂の目の前に立ちはだかった。その顔は真っ赤な「お怒り」モードだ。

 

殺センセー「寺坂君! テスト中に大きな音を立ててはいけません! 他の生徒の集中を乱す行為は、先生が許しませんよ!」

 

寺坂「……っ! こいつらが先に……!」

 

殺センセー「業君と連君は、既に満点に近い解答を終えています。彼らに文句があるなら、まずは君がそのペンを動かしなさい!」

 

殺せんせーの正論パンチに、寺坂はぐうの音も出ずに座り込んだ。

 

---

 

 

 

教室が再び静まり返る中、業と連は顔を見合わせ、ニヤリと笑った。

二人は申し合わせたように、机の下から「ある物」を取り出す。

それは、高級感漂うカップに入ったジェラートだった。

 

スプーンで銀色の蓋を剥がし、涼しい顔で口に運ぶ。

教室内を、甘く芳醇なバニラの香りが漂った。

 

殺せんせーが、ピクンと鼻(のようなもの)を動かす。

その色は、怒りの赤から、驚愕の白、そして絶望の青へと目まぐるしく変わっていく。

 

殺センセー「……そ、そ、それは……! 先生が職員室の冷凍庫に隠しておいた、イタリアの老舗までわざわざマッハ20で買いに行ってきた特注のジェラート!!」

 

業はわざとらしく、とろけるようなジェラートをスプーンですくい上げ、殺せんせーに見せつけた。

 

 

業「あ、これ? 職員室で見つけたからさ。静かにしてる代わりに、これくらいのご褒美はいいでしょ、先生?」

 

殺センセー「泥棒です! 暗殺者の前に、中学生として倫理の崩壊です!」

 

殺せんせーがジタバタとのたうち回る。

 

殺センセー「返してください! それは先生が今日の夜、自分へのご褒美に食べるはずだった……!」

 

業は立ち上がり、殺せんせーの方へ歩み寄った。

 

業「そんなに欲しいの? はい、あーげる」

 

業がジェラートのカップを殺せんせーに差し出す。

殺せんせーが「ヌルフフ!」と喜んで触手を伸ばした瞬間――。

 

業「あ、滑った」

 

業の手から離れたジェラートは、宙を舞い、殺せんせーが着ていたアカデミックガウンの胸元に、ベチャリと直撃した。

真っ黒な高級素材の服に、無残に広がる白いバニラ。

 

殺センセー「………………」

 

殺せんせーが、石のように固まる。

 

業「ごめんごめん、手が滑っちゃって。じゃあ、俺はもう帰るね。テストも終わったし」

 

業はカバンをひょいと担ぎ、凍り付いた殺せんせーを放置して、軽やかな足取りで教室を出て行った。

 

クラスメイトたちが「あいつ、マジでやりやがった……」と戦慄する中、一人の生徒だけが、その場に残り続けていた。

 

暁連だ。

 

連は、殺せんせーが絶叫し、服の汚れを落とそうと触手を振り回している阿鼻叫喚の図を、特等席で眺めていた。

その右手には、自分用のジェラート。

左手には、ゲーム機。

 

連「…………(パクッ)」

 

連は、殺せんせーが魂を抜かれたような顔で「あぁ……私のジェラートが……服が……」と呟いている横で、平然と最後の一口を飲み込んだ。

 

エボルト『連、お前も大概だな。相棒が暴れている横で、優雅にデザートとは』

脳内でエボルトが呆れたように笑う。

 

連「……これ、マジでうまいな。マッハ20で買いに行く価値はある」

 

連は空になったカップをゴミ箱に放り投げると、イヤホンのボリュームを上げた。

 

連「……おい、タコ」

 

ゲーム画面を見つめたまま、連が低く呟く。

 

連「約束、忘れてねえよな。……今夜、裏山の旧校舎。逃げたら、明日の朝飯は職員室の冷蔵庫の中身全部だ」

 

殺せんせーは、服を拭きながらビクリと体を震わせた。

連は一度も振り返ることなく、ゲーム機の「LEVEL UP」のファンファーレを背に、静かに席を立った。

 

夕暮れが迫るE組の教室。

そこには、絶望に暮れる超生物と、嵐の予感だけが残されていた。

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