因習転生 作:take千代
私は祠である。名前は___始めから無かった。
今は昔に人々が祠を建て、私を奉った。
何かをした訳でも無いが、この地域の村人はよく祠を管理してくれた。
手を合わせ、周りの草木が伸びれば刈り、落葉や雪が屋根に積もれば払う、祭りには飾られる事もあった。
_あれから幾星霜、半身にツタを纏った私は懐かしむ。祠の格子から覘くのは空き家ばかり、人々の喧騒と言えば大袈裟な村の息吹は失われていた。
村人はもう一人もいない。来年、この跡地はダムに沈むのだ。
進む地域格差と若者の流出に高齢化、この村は限界を迎えた。
山々に囲まれ大型河川の上流域の盆地、降水量にも恵まれたこの一帯がダムの候補地に選ばれるのは必然であった。
最期まで抵抗した村人もいたが、無情にも夜なべしたバリケードと横断幕はブルドーザーに押しつぶされていた。
『何も感じない、祠だから』
私は、そう吐き捨てるには少しばかり長すぎる時間をこの村と過ごしてしまっていた。
手を合わせる人間が年々減り、この身が自然に還ろうとも。
御利益を振り撒いたり何かを祟る事も出来ない、ただの祠でる私には贅沢過ぎる一生。
天を見上げ、朽ちた切妻から覗く星月夜に別れを告げる。
翌日。土砂と思い出を載せたダンプカーは、祠を踏み潰した。
気付くと、真っ白な空間に私は建立されていた。
祠は混乱した。
あの時の痛みすら無_元から痛覚など無いが。傷み、粉々となった筈の祠は新築の頃の姿に戻っていた。私の御神体も無事である。
死後の世界、国生みの片割れが治める冥府とも違う空間。遠き日の高天原にもこんな部屋があった記憶は無い。
「私は当事者同士の示談解決防止の為に参りました保証担当の神でございます!」
突如、声が空間に響き渡る。すると目の前の白が裂け少女が現れたのだ。
笑みを浮かべた少女は此方を一瞥すると一礼、サラリとした白金の髪が地面に触れる。
白い肌の美しい娘。ただただ、そう感じた。
「お褒めいただき光栄です」
驚いた、私の思考が読めるのか。
先に少女は何かの神を名乗っていた事を思い出す。出雲の地でも見掛けた記憶は無し、新しき神か異邦の神であろうか。
「異邦の神でございます。祠様とは世界、もとい別の星海ではありますが」
祠様と呼ばれ面を食らう。確かに名乗るべき名も無い私を表すにはそれしかあるまい。
しかし、何故私はこの場に建替えられたのだろうか。
「貴方は此方の運命神、私の姉である因果の女神の業務過失によりダンプカーに轢かれました」