連星のアクルクス ~星渡る稀人~   作:南天 ヤスカド

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星と女神と

前略 おふくろ様

 

トレーナーを目指していたはずですが

なぜか自分は今、無人島でサバイバルしております。

生きて帰れたら手料理を腹一杯食べさせてください。

 

届く宛のない母への手紙を脳内で

したためたのは何通目だったか。

 

少年は大きくため息をつくと

火を起こし、捕まえた魚を串に刺して焼く。

焼けるのを待つ間、近くの木の幹に石で傷をつける。

 

「……今日は日曜かあ………」

 

日にちと曜日を把握するために

木の幹の表面に7つごとに長い線を引いた

その傷は30を超えた。

 

そうこうしてるうちにちょうどいい頃合いに

焼けた魚をもそもそと口に入れる。

海水から精製した塩は絶妙な旨味なのが悔しい。

 

「白いご飯食べたい……」

 

波の音に混じってエンジン音が聞こえた気がした。

 

「………!?」

 

聞き間違いではなかった。

夜の海の彼方から漁り火を灯した

ポンポン船が向かってくる。

 

「……あれは……!!」

 

船首に立つ男は迷彩柄の服を纏い、

ベレー帽を被っている。

 

─URA綜合警備保障─

通称「URA空挺部隊」の制服である。

URA関連の警備会社となってはいるが

自衛隊並みの装備を誇る。

 

─武装以外は。

 

彼らが武器として使用するのは鞭のみである。

 

「いやー悪い悪い、お前のこと忘れてたわ。

 これ1週間で終わる訓練だったんだけど」

 

鞭をくるくる回しながら船から浜に軽々と着地すると

一月前この島に置き去りにした少年に笑顔を見せた。

 

「………師匠ぉ………」

 

多分実際は何も悪いとは思ってはいまい。

 

「おお、いい面構えになったじゃないか!!」

師匠、と呼ばれた迷彩服の男は

すっかりボロボロになった少年の肩を

容赦なくバシバシと叩く。

「……この訓練、トレーナーに必要なんですか…?」

「いや、空挺の訓練だが」

「俺は空挺部隊に入らないって言いましたよね????」

「俺たちをあそこまで振り回しといてよく言うわ」

 

トレーナーを目指していたこの少年、

何を思ったか中京レース場に侵入、

警備を担当していた「URA空挺部隊」の中でも

エリート中のエリートである「第一班」の

追跡を長時間交わして

逃げおおせる寸前までいったが最後は

後に師匠となるこの人物に捕まった。

 

「そんな逸材埋もれさすのはもったいない」

「危うく無人島に骨が埋まりそうだったんですが…?」

 

不法侵入についてこってりと説教の後、

トレーナーになりたいという少年の目標を聞いた師は

自分のトレーナーバッジを見せながら

「じゃあ、俺のところに来い」

と少年を誘った。

 

これが約一ヶ月前の出来事だ。

 

「…お、魚うまそうだな、俺にもくれ」

言うやいなや師は焼き魚を頬張った。

「お、これ美味いなあ!いい塩加減だ」

 

少年の師であり人からは「マムシ」、

と呼ばれるこの空挺部隊隊長は

基本的に弟子の話を聞いてくれない。

 

「マムシ」は魚を綺麗に平らげると、

再びポンポン船のエンジンを始動させる。

 

「さあ、乗れよ」

 

少年は一月ぶりに島を離れることになった。

 

船が沖合に来ると少年は

サバイバルのために開拓せざるを得なかった

無人島を振り返る。

 

「たまにまた来ればいい」

その仕草が名残惜しそうに見えたのか、

マムシはそう声をかけた。

 

「絶対に嫌です。生命があったから良かったものの…」

 

そう言いながら遠く霞む島を見る少年の横顔に

ほんの一瞬、壮年の、鋭い目をした男の顔が

重なったように師の眼には見えた。

 

男は少年によく似ていた。

 

「…………!?」

「???どうしました??」

 

珍しくあっけにとられたように

自分を見る師をきょとんとしながら

見返す少年の顔は、まだ幼さが残る。

 

─今のは─

 

「……いや………まあお前は『星付き』だからな。

 なにがあっても女神の祝福がついてるだろうよ」

「さすがに女神様だってこの状況は想定してないのでは」

 

この世界では「始祖三女神」と呼ばれる

三柱の女神を中心とした女神信仰がある。

 

ウマ娘は異世界より名を受け継ぐというが、

生まれた際、身体の何処かに

女神の名とともにその名前が

傷のように記されているのである。

これは生まれて3日ほど経つと消えてしまう。

 

稀に、人間でも同様に女神から

名を授かることがある。

 

ウマ娘と違い、一見すると普通の人名である。

一般に吉兆とされ、その子供はその名を名乗ることが多い。

 

無論、家族の姓と違うことがほとんどだ。

親が名付けた名前と、女神から授かった名前、

どちらの名を使っても良いことになっている。

 

この少年もまた、2つの名前を持つ。

 

少年はその右の肩に名が記されていた。

 

第四の女神と呼ばれ

芦毛のウマ娘の祖とされる「灰色の女神」

オルコックアラビアンの名とともに。

 

人に名前が現れた場合、名の印が消えた跡に

星型の痣が浮かんでくる。

故に、名を授かった人間は

「星付き」または「連星」と呼ばれる。

 

少年は自分の痣のある位置を無意識に掻いた。

 

星付きでもオルコックアラビアンから

名を授かるのは珍しいと言われ、

研究者や宗教関係者の間では話題となった。

 

「芦毛のウマ娘と縁が深い子なのかもしれないな」

 

とある学者は、少年の両親にそう告げた。

 

 

ぱすん、と間の抜けた音を立てたきり、

船のエンジンが止まる。

 

「ありゃ?ボロいからなあ……」

 

そう言いながら師はエンジンの再始動を試みるも

一向に動き出す気配がない。

 

「よし、漕ぐぞ!!陸はあっちだ!!多分」

「もうやだああああああああ!!!」

 

少年の悲痛な叫びも波の音にかき消されていった。

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