連星のアクルクス ~星渡る稀人~   作:南天 ヤスカド

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芦毛のウマ娘

再び意識を失ったトレーナーは

近隣のURA系列の病院に搬送された。

この病院は現在は一般人も受診が可能であるが、

元々ウマ娘とURAのトレーナー、及び

その家族のための職域病院として作られたものである。

 

「右足に電撃傷が見られます。

落雷を受けたのは間違いないでしょう」

 

「…例えば」

ブライアンは努めて冷静に医師に質問する。

 

「落雷を受けたことによって記憶障害が起きることは?」

ここで医師と面談するのはナリタブライアンだ。

トレーナーと契約ウマ娘は親族と同等の扱いである。

ウマ娘に関する診断はトレーナーにも伝えられるように、

その逆もあるのである。

 

「そういった症例もあります」

 

─君たちは、誰?

 

あの時、担当ウマ娘であるナリタブライアンと

ケイエスミラクルを認識できなかった。

 

「トレーナーあああああ!!どこやあああああ!!」

「あなた!病院内では静かに!!走らない!!」

「緊急事態や!あーここやな!!

 …なんや面会謝絶て!?

そないあかんの!?

うわああああああああああ」

静かであった病院内が小さな嵐の襲来で

 急に騒がしくなった。

「あの…外の方は…」

「入れてやってくれ。親族代表みたいなもんだ」

困惑する医師の問いに

ため息混じりにブライアンが了承する。

病室の引き戸を看護師が開けるやいなや、

なだれ込むようにタマモクロスが入ってくる。

「トレーナー!死んだら嫌やあああああ」

「落ち着け。眠ってるだけだ」

「なんでこないなことにいいいいいいい」

床に座り込み号泣するタマモクロスを見て、

ブライアンは部屋に入れるべきでなかったと

彼女の入室から数秒で後悔していた。

 

そんなところにきてさらに、

 

「ふんぎゃろおおおおお」

 

と、追い打ちのように耳をつんざく奇声が

廊下から聞こえてくる。

 

「…すまんがあれは追い返してくれ」

 

即座にブライアンは奇声の主の排除を医師に依頼する。

 

「トレーナーさあああん!!落雷にあったって

聞きましたよおおお!!

そんなトレーナーさんに雷除けと

病気平癒の御守りとおまじないを………

あ、ちょっとなにするんですかああああ?」

 

奇声の主は優秀な看護師と医師ににより

速やかに退去させられて行った。

 

病室にはナリタブライアンと

タマモクロス、

こんこんと眠り続けるトレーナーのみとなった。

 

「フクキタルも入れてやったらええやん…」

「これ以上やかましいのが増えたらかなわん」

「…すまん」

ブライアンにじろりと睨まれて

冷静さを多少取り戻したのか、タマモクロスは

病室備え付けの丸椅子にちょこんと座り直す。

 

「あ、せやブライアン、お姉ちゃんから」

差し出された紙袋に入っていたのは

ジャージと下着類であった。

「濡れたまんまで来てしもたやろ」

そういえば、雨でずぶ濡れのままだ。

「……はよ着替えて……

 いやここで着替えんのかい!!」

臆することなく服を脱ぎ始めたブライアンに

タマモクロスがツッコミを入れる。

「どうせトレーナーは寝てる」

「急に起きてラッキースケベイベント

 発生したらどないすんねん!?」

「こいつが起きそうになったら毛布でも被せてくれ」

「……お、おう」

 

着替え終わって見てみれば

タマモクロスも何故かジャージだし、

顔に絆創膏を貼っている。

「いや、ヘマしてもうて」

雨の中トレーナーを搬送する

救急車を追いかけて転倒したという。

「アンタのそのケガを見たら

 トレーナーが騒ぐな」

とにかく小さなケガでも不調でも

大げさなくらいに心配する。

不調を隠してても妙に鋭く感づくのである。

そんな彼が自分を追って転倒して

タマモクロスが負傷したと知れば

どれくらい落ち込むだろうか。

「…今は自分の心配せえ、言うわ」

そう言いつつもタマモクロスは

顔だけでなく手にも湿布や絆創膏を貼っている。

よほど派手に転倒したのだろう。

「しかし、そこまで慌てるとは珍しいな」

「……そっか?ウチこんなんやぞ?」

タマモクロス自身は普段は気性難ではあるが

長距離を得意とするウマ娘だ。

長丁場の駆け引きをするとあって

いざというときに冷静さを失うことは

あまりないと思っていた。

「まあ、レースとは違うからな」

「レースでもヘマやったで。

 転倒に巻き込まれてパニクって暴走してもうたん。

 うちは体も器も小さいねんやろなあ」

「それ、トレーナーが聞いたら怒るぞ」

普段は温厚で、自分は何を言われても

一向に気にしない男だが

担当ウマ娘に対しての誹謗中傷については

相手が誰であれ抗議をする男である。

たとえウマ娘本人の自嘲であっても、だ。

 

─俺の担当ウマ娘の悪口言わないでよ!

 

出会ったばかりのとき、何もかもうまくいかず

自嘲を繰り返していたのをそう叱られた。

「…せやなあ」

タマモクロスはトレーナーの手を、

祈るように両手で握った。

 

反応は、ない。

 

遠くから時折なにやら

「フンギャロ」

と奇声が聞こえるようが

それ以外は病室内は静かである。

 

「なあ、あの時この人外に行ったのって…」

「…そのことなんだが」

 

ナリタブライアンはトレーナーが

外に出た経緯を話した。

雨の中、傘もささず

タマモクロスが立っていたのを見つけ、

傘を持って飛び出していった、と。

 

「……はあ??ちょお待って??

 あそこおったのはオグリやろ?」

 

「…?どういうことだ?」

「ウチ、あの人が出てきたの上の

 教室から見とったんや」

三女神像の前に佇む

オグリキャップのために

傘を持って出てきたのだろうと思った。

「ちゅーか、ブライアンもそんとき

 トレーナーとおったんやろ?

ホンマにウチやったか、それ?」

雨に煙る芦毛のウマ娘の後ろ姿を、

ブライアンははっきりと覚えている。

 

「たしかに、私も芦毛のウマ娘を見た」

 

ナリタブライアンが

見間違えるはずもない相手だった。

 

「だが私が見たのは……うちの姉貴だ」

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