アンビーとツイッギーの再会が完成しました!
シリアスな展開ご続きますが、楽しんでもらえたら幸いです。
病院を退院してから私はアキラ達が経営するビデオ屋を手伝いながら暮らしている。
苦労が絶えない暮らしだけれど、軍にいた時と比べれば拍子抜けするほど平和な日々を送れている。
ビデオ屋に限ればの話だけれど。
「グルルルッ…!」
「……嫌になるわね」
片腕のない、怪物達が咆哮を上げる。
腐食した金属が擦れるような不快な鳴き声が辺りに響き渡る。
『エーテリアスが4体……あれはティルヴィングか……行けるかい?ツイッギー』
「舐めないでくれる?……あの程度の雑兵、敵じゃないわ」
スカーフを巻いた可愛らしいボンプからは不釣り合いな青年の声……やはり彼の声がイアスから聞こえてくるのはまだ慣れない。
「貴方は捜索に専念して……私は邪魔者達を片付けるわ」
銃を右手で構えたまま、左手でナイフを逆手に抜き、銃のグリップと同時に構える。
「──手早く終わらせるわ」
「グアア!!」
ここはホロウ。
もっとも平和から縁遠い、悲劇の散らばる洞穴。
私はここで、人を探している。
始まりは、私がプロキシの仕事を手伝いたいと話したことがきっかけだった。
最初は二人に反対されたけど
「ホロウに一人イアスを向かわせる方が心配よ。だいたい貴方達、戦う
こう言ったら二人とも引き下がったわ。
そうして、パエトーン──アキラたちの仲介人である羊飼いに駆け出し向けの依頼を回してもらった。
私の過去を知ってるせいか、過敏に心配する二人には本当に困らされたけど、ホロウ探索は絶対に外せない。
「……討伐完了……まずまずね」
『お疲れ様ツイッギー…怪我はないかい?』
とてとてと短い手足でこちらに歩いてくるイアスからアキラの声が聞こえてくる……思わず撫でたくなるけど、中身がアキラだとその気も無くすわね。
「……さっきも言ったけど、私を舐めないで。あの程度なら問題ないわ……依頼、さっさと終わらせましょう。」
『わかった、ただ無理は禁物だ……依頼品を見つけて戻ろう』
『こっちだ!』と、短い手で行き先を差しなごら走り出す。
私の早歩きくらいの速さで走り出すイアスアキラは、不覚にも可愛いと思ってしまった。
馬鹿なことを考えてないで、ホロウ探索を続よう。
先ほどはああ言ったが、まだ感が戻り切ってもいない。
今はまず、この体をホロウに慣らさないと。
『ツイッギー、この先からターゲットの反応をキャッチした。このまま──』
「待ってッ! 」
咄嗟にイアスを抱えて瓦礫の裏に潜り込む。
呼吸を限界まで抑え、瓦礫の隙間から問題の場所を観察する。
『……ツイッギー、何かあったのかい?』
「……戦闘の跡があるわ……それも、かなり激しく戦ったみたいね」
「ここで待ってて」と言い、私一人で確認に向かう。
瓦礫の隙間から心配そうにこちらを見つめるイアスアキラに軽く手を振る。
ほんの少しの期待を込めて戦闘跡を確認する。
地面に転がる薬莢に何かが爆発した跡……そして、斬撃跡と共に地面が焦げている……まるで雷でも落ちたようなそんな様子。
「……まさか、ね」
この散らばる痕跡を見ていると、シルバー小隊での戦闘訓練を思い出す。無駄玉を使うな、武器はもっと大事に扱えとか……みんな、色々言われていた。
戦闘そのものが苦手な私はいつも最下位で、よく罰で装備の点検とか物資の補充なんかをやらされてたっけ。
「……なんだか懐かしい──『ツイッギー!危ない!!』……ッ!?」
火花が散り、岸壁に叩きつけられる。
咄嗟に武器を構えていなければ、目の前の怪物に首を刎ねられていた。
「……うっ…くっ!!」
『ツイッギー!!』
これだから、戦闘は嫌いよ……痛いし、怖い……何より怪我するたびに皆んなに心配ばかりかける……だから、後方に下がっていたのに……
こちらに向かって走ってくるイアスが視界の端に映る。
ああ、もう……なんでこっちにくるのよ。早く……その依頼品を拾って逃げればいいのに……!
今は、貴方にできることなんてそれしかないでしょ……!
「グルルッ!」
低く唸るその怪物は、マントのような装甲を翻し弓形の腕にエネルギーを貯めている。
「……こ……な゛い……ゴホッ!」
なんで、……なんで、声が出ないのよ!なんで身体が動かないの?
このままじゃ、全滅する……早く、何か打開策を……!
武器を持とうにも、両手は先ほどの不意打で破損している。
イアスにも武装と呼べるものは無い。
「……あ」
放たれた矢はゆっくりと、確実に私達に向けて放たれ……落雷と共に二つに裂け、爆ぜた。
目の前に立つ一人の少女の刃によって。
「……え?」
「ターゲット補足。これより、戦闘を開始する」
何度も何度も聞いた声。ずっと探していたあの人の声。
私がずっと求めていた、恋焦がれていたあの人の声。
「グルルッ……グアアッ!!!!!」
唸り声と共に、高速移動を仕掛けてくる。それを背後の何者かの銃撃により阻止された。
「おいアンビー!置いていくなっつの!それになんだよ、今の登場の仕方!メチャクチャカッコいいじゃねーかよ!」
明るい機械人が何かを叫びながら狙撃を行なっている。
ピンク髪のツインテールを揺らしながら、少女が歩き、私を見下ろす。
「……アンタが『羊飼い』の言ってたプロキシね。こっから先は任せておきなさい……こういう荒事は、私達の専門よ!」
……彼女が何を言ってるか、わからないし、どうでもいい。
だってやっと、会えたのだから……隊長……私の憧れ。
私達の理想。完璧な兵士……やっぱり、生きていた。
なんて、嬉しいの……。
「ちょっ!……貴方大丈夫?アンビー!一旦交代!この子の手当てをお願い!」
目の前でピンク髪が揺れてながら、また何か叫んでいる。
視界も音もだんだんとぼやけていき、私の意識は真っ暗になった。
ビデオ屋・Random Play
気がつくと見慣れた天井が視界に見え、視界の端に誰かが私に布を巻いている。
「……ここは」
「……ツイッギー?良かった……!目が覚めたんだね!」
両義手の感覚が鈍い……が、僅かに動く。
良かった、完全には壊れていないみたいね。
「……ええ……心配かけたわね……ごめんなさい」
「ううん、気にしないで……それより、無理して動かなの……ほら、ごろんして!」
……起きあがろうとしたが、リンに静止されてしまった。
それも、子供をあやすように。
……こんな様を隊長に見られたら恥ずかしくて死んじゃう。
「ムクれないで〜……私、お兄ちゃんも呼んでくるね。ただ、ただね?少しニコさん達から話を聞かないといけないから……だから、二人がどんなことを話しても上には聞こえない」
「二人って、私と貴方以外いないでしょ?……リン?作業台を指差して、どうし──」
「(モグモグモグ)?」
いた。ハンバーガーを食べながら、不思議そうにこちらを見つめて首を傾げている銀髪の少女がこちらを見ている。
「……」
「……」
「……それじゃあ、ごゆっくり」
「待ちなさいリ──!!」
「何かあったら呼んでー!!」
そう叫びながら、彼女は部屋から飛び出ていった。
階段を駆け上る音が部屋の外から響いてくる。
なんて、なんて事だろう。
あんな様を、寝かしつけられる子供のような姿を、よりにもよって彼女の前で晒してしまうなんて……
「この人に、なんて姿を……最悪よッ!」
「……貴方達って仲がいいのね」
凛とした、けれど優しさのある声が、耳に届く。
「……そう見える?……まあ彼らともそこそこ付き合いが長いし……世話にもなってるわ。だから、こんな様で依頼を切り上げる羽目になって……ほんと、情けない。」
「その認識は、間違ってるわ」
彼女はそういうと、私の口元にストローを近づけ、さらに続けた。
「病み上がりでタナトスに、それも不意を突かれて生きてるだけでも凄いことよ……並の人間なら首と体が別れていたわ」
相変わらず、フォローが下手……でも、確信できる。
今この瞬間が、夢でも幻覚でもない事が。
私が探していた人。
シルバー小隊隊長……アンビー。
確証なんてない、ほぼ願望じみた可能性。
隊長なら、きっと生きてる。
どこかのホロウで戦ってると信じていた。
それが今こうして会えた。
今まで私が耐えてきたことは無駄じゃなかった。
こんな、情けない姿でも……生きててよかった。
「……励ましてくれて、ありがとう隊長。また、こうして会えて……本当に嬉しいわ。」
「……私も嬉しいわ」
せっかく感動の再会って感じなんだし、贅沢を言うならもっと様になる格好で会いたかったわね……仕方ないけど。
でも、いい機会ね。
隊長に看病されるなんて初めての体験だわ。
「……隊長、せっかくならおしゃべりしましょ?シルバー小隊にいた時はそんなこと余裕なんて無かったから」
「……そうね」
だんだんと、彼女の顔に影が掛かっていく……こんな萎らしい隊長は初めて見る。
(……無理もないわね……再会早々こんな姿で……それも死にかけていたんだから当然か)
「……怪我のことなら気にしないで。これくらいなら特に記憶にも異常は出ないだろうし……」
「……」
彼女の視線が、見えない。
先ほどまではこちらを見ていたのに……。
嫌な想像が頭をよぎる……けれど、そんなことあるはず無い。
あって、いいはずがない。
「それよりも、聞いて隊長。今の私ね、ビデオ屋の経営をしてるの。信じられないでしょ?アキラやリンと一緒に気に入った映画を仕入れたり、お客さんが来ない時は三人で観たりして……驚くくらいつまらないものから、涙が出るくらい感動できるものがあるの……映画って不思議ね」
「……ええ」
また、生返事。
「その……ごめんなさい、喋りすぎたわよね……貴方と久しぶりに会えて浮かれてしまって……その、隊長は──「ごめんなさい」」
突然、隊長が頭を下げてきた。
「私はあなたに謝る事が三つあるの……だから、聞いて欲しい。」
「一つ目は、貴方達を襲ったエーテリアスは私達が仕留め損なって見失った個体……貴方の怪我は私のせいよ……ごめんなさい。」
「違うのあれは!……あれは、私の油断が招いた事で──「聞いて」っ!?」
「……お願い」
頭を下げたまま顔を上げずに話を続ける。
……思えば、隊長が敵を逃すなんて余程のことが無い限りあり得ない。
なら……その余程とはなにか。
無駄に回る脳が、ずっとよく無いことを考えている。
そんなはず無いと否定しようにも、最悪な予想は消えてくれない。
「……二つ目は、ついさっき……看病の件よ。貴方のことを見ていると頭が酷く痛むの……それで、ろくに看病を手伝えなかった……」
「そんなこと気にしないでちょうだい!きっと……きっと疲れてるのよ!だからその妙に他人行儀な話し方はやめて!やっぱり変よ、隊長!!」
「三つ目は……私は貴方が誰だかわからない。隊長と呼ばれても、シルバー小隊と言われても何もわからないの」
「…………………………………は?」
目の前が、真っ暗になった。
「……分からないって……何を言って……隊長!!私よ!ツイッギー!!貴方の部下で、仲間で!!……貴方の……」
呼吸が、上手くできない……舌が乾き、呂律が回らない。
どうして、なんで、そんなことが……
「……冗談でしょ?……なんとか言ってよ隊長!!?シルバー小隊を忘れたの!?そんなはずない!!!あなたが、貴方が忘れたら!!私達は……!アンビー!!!!!!」
立ち上がり、彼女に詰め寄ろうとして思い出す。
私の足が偽物で、先の戦闘で破損していたことを。
無理矢理立ち上がった事で、上手く動かず地面に倒れ込む──その寸前に彼女は私を受け止めた。
苦しそうに揺れる彼女の目と合う。
「………なんッ!!……なんでよ!なんで!!なんで!!!なんで!!!!……あんまりよ……こんな……こんな!!」
かろうじて動く偽物の手で、縋るように彼女の胸あたりを叩く。なんども、なんども……叩くたびに、彼女の顔が歪んでいく。
「───本当に、ごめんなさい」
──啜り泣く声は、やがて二人分となり、部屋の中に静かに反響する。
「……どうして、貴方まで泣いてるのよ」
「……わからない……わからないの……でも、貴方が苦しんでいると、胸が痛い……あなたのその姿を見た時……とても、とても怖かった……恨まれてるって、思ったから」
私を受け止めたその手は、震えていた。
かつて私が敬愛した彼女の手は、とても、とても小さくて弱々しい少女の手。
こんなに、小さかったのね。
「……ツイッギー……ごめんなさい……ごめんなさい……ッ」
「……初めて見たわ。隊長って、泣くのね」
怒りや悲しみが冷めていく。
彼女は向けていた憧れや尊敬……いいえ、あれはそんな綺麗なものじゃない。
私は彼女を崇拝していた。決して揺るがない完璧な兵士。そんな空想が崩れていく。
彼女でも、思い出せないのは苦しいし、悲しい時は涙も流す。
そんな当たり前のことを、昔の私は知りもしなかった。
……いいえ、興味が無かったのでしょうね。
「……いいわよ、アンビー……私は許してあげる」
「……え?」
なんとか動く左腕で、彼女の顔に添え、傷つかないよう涙を拭う。
あの時、リンがしてくれたように。
「……謝ったんだから、当然でしょ?……私、待つのは得意なの」
「……必ず、思い出すわ」
「当然よ。できなきゃ絶縁するわ」
「……私たち姉妹だったのね」
「……まあそうね、同じ遺伝子から産まれたって点から見ればそうでしょうね……貴方、長女なんだからもっとしっかりしなさい」
先ほどまで泣いていた顔が、今度はポカンとした顔に変わる。
「……ツイッギーがそうだと思ってたわ」
「……違うわ……もしそう思うなら、ビデオ屋の兄姉のせいよ」
「……そう」
はにかむような不器用な微笑み。
ほとんど表情は変わってないけれど、その笑みは私の記憶にある中で一番綺麗なものだった。
なんだか、その顔を見ているのが照れ臭く、話題を逸らす為にある男のと奇行を思い出す。
「……ねぇアンビー……自己紹介、しない?」
「……自己紹介?どうして?」
「……いいから……貴方にはさっきたくさん話したんだから……今度はアンビーの番よ。」
また、不思議そうにしながら喉を鳴らして話し始める。
「んっ…んん……邪兎屋のアンビー・デマラ……です」
「ふっふふ……あははっ!!何緊張してるのよ。ほんっとらしく無い。……ビデオ屋兼プロキシのツイッギーよ……これからもよろしくね」
「ええ、改めてお願いするわ……ツイッギー」
私達は、たわいも無い話をした。
アンビーが邪兎屋に入った経緯。どんな依頼をこなし、どんな出会いがあって、どんな経済状況かも詳しく、とても詳しく知ることができた。
シルバー小隊でも、完璧な兵士もない……そんな普通の姉妹。
それが、今の私たちだ。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
そんな二人の様子を扉越しに覗く四人の影は酷く困っていた。
(気まずっ……帰るわよ〜なんて言い出せる雰囲気じゃ無いじゃないし……でも、ご飯を奢って貰った上で止めてもらうのは流石に……いや、アリか?)
(あの二人、どんな態勢で話してんだよ!?ちゃんと看病しないとダメだろアンビー〜)
(良かった……良かったね、ツイッギー)
(……困ったな……完全に出るタイミングを逃した……というか無かった。)
それぞれが、さまざまな形でハンバーガーを食べながら途方に暮れていた。
そんな四人に彼女達が気づくのは、朝日が昇り始める頃だった。
補足!
シルバー小隊の設定について。
シルバー小隊には尋常では無い回復能力が備えられており、たいていの怪我は自然治癒します。
ただ、その代わりケガの重さによっては記憶が一時的に消えてしまうというものがあります。
今回のアンビーはニコに拾われてから半年〜一年程度を想定しており、まだ回復しきってない時期にツイッギーと再会した。
逆にツイッギーがなぜ覚えているかというと、正規の施設で専門的な治療を何ヶ月と続けたことで、回復が早かったと、思ってもらえると幸いです。
次回はツイッギー愛され書きます。お楽しみに
ツイッギーとの再会、どっちが見たい?
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アンビー・デマラ
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11号(ハリン)
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シリアスよりもツイッギー愛されが見たい