FEエンゲージ イルシオンの希望   作:あじさいファン

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第10章-4:絶望、そして・その4

 ローダンの奇襲。

 

 軍師である少年を殺害し、部隊の頭脳と精神的支柱を同時にへし折る……戦術として見れば、これ以上ないほど完璧な一手だった。

 

 彼が死ねば、この防衛線は瓦解する。

 

 いや、それだけではない。神竜の軍勢の一員として戦うオルテンシア王女は、生きる支えを失いかねない。たとえアイビーが健在であろうと、第二王女が心を折られれば、二人の王女が背負うイルシオンの未来に、取り返しのつかない傷を残すことになる。

 

 だからこそ、何としても彼だけは守り抜かねばならない。(かたわ)らに立つ子爵令嬢は、必要とあらば己の命を引き換えにしてでもと、常に覚悟を決めていた。

 

 だが、敵の奇襲は、あまりにも予想を超えていた。ネルーケが今なおレスキューの杖を所持していると事前に把握できていれば、対応も違っただろう。しかし、吹雪による視界不良が、その確認を許さなかった。

 

 ローダンは狂気と共に突進してくる。後方からネルーケを狙っていた二人の弓使いでさえ、反応が遅れている。

 

 間に合わない。

 

 ならば──。

 

「! ライラさん……っ!?」

 

 子爵令嬢は、少年を全力で突き飛ばした。

 

 デスタン大教会近郊の死線で、次期侍従長が自分を庇ってくれたように。つい先ほどの激戦で、軽薄でありながら芯の強い吟遊詩人が、自分を庇ってくれたように。

 

 二人から受け取った命を、今度は自分が、イルシオンの未来を担う少年へ繋ぐ番だった。迷いなど、微塵もない。

 

「あ……」

 雪上へ転がった少年を横目に、迫り来る死の刃を見据える。

 

 身を挺して自分を救ってくれた二人は、それぞれ老騎士と天馬兵の決死の救援によって、奇跡的に一命を取り留めた。

 

 だが、頼れる騎兵たちは、まだ後方にいる。いかに馬術へ秀でた者たちであろうと、ローダンとの間に横たわる絶望的な距離を、一瞬で詰めることはできない。

 

 今回ばかりは、奇跡など起きない。死を運ぶ長槍の切先が、自らの喉元へ迫る。

 

 極限まで引き延ばされた体感時間の中で、子爵令嬢は、短くも鮮烈だった己の生涯を振り返っていた。

 

 

──悪くない人生だったわ。

 

 

 後悔はない。大切な友を守り、仲間の未来をこの命で守り抜けるのだから。

 

 遠い故郷で吉報を待つ、あの豪胆な父も、きっと娘の最期を誇りに思ってくれるだろう。

 

 

*****

 

 

 ライラ・フォン・ブルガリズ。十九歳。

 

 生家であるブルガリズ子爵家は、王都の南、影の原野に面する町『シロンス』を治める、由緒正しき武門である。

 

 現当主である父は、かつて対ブロディアの国境防衛において、武勇を轟かせた猛将だった。戦場で脚に癒えぬ傷を負い、若くして一線を退いたものの、領民と祖国を愛する心意気は衰えていない。今も精力的に領地経営へ励んでいる。

 

 社交界は性に合わないと(うそぶ)きながら、町のためとあらば進んで顔を広げ、確かな人脈を築いてくる。不器用で、誰よりも優しい男だった。

 

 自分は、そんな父と、病弱な母との間に生を受けた。

 

 母は、自分が三歳の時にこの世を去った。顔の記憶は既に朧気(おぼろげ)だが、病床で遺した言葉だけは、今も魂へ刻まれている。

 

『ライラ。もし迷うことがあったら、自分が正しいと信じる道を選びなさい。そうすれば、きっと後悔のない、豊かな生を送れるわ』

 

 若い頃は選択を間違えてばかりだったと笑う母は、それでも、夫に見初(みそ)められてからの選択だけは、ただの一度も間違えなかった、と、誇らしげに語っていた。

 

 母が事切れた日。

 部下の失態を咎めたことも、不平不満を口にしたこともない、あの豪快で優しい父が、幼子のように声を上げて慟哭(どうこく)していた。その姿は、三歳だった自分の記憶へも、消えない衝撃として焼きついている。

 

 だが、父は悲しみへ溺れるような弱い男ではなかった。亡き妻の分まで、娘へ底抜けの愛情を注いだ。

 

 どれほど突飛な夢を口にしても、『お前の人生だ! 好きに生きろ!』と、背中を叩いて肯定してくれた。たまには反対してくれてもいいのにと、呆れるほどに。

 

 

 

 そんな父が、かつて戦場で振るった槍へ興味を示したのは、七歳の時だった。武器など危険だと止める家臣たちを、父は豪快に笑い飛ばした。

 

『我が子は、やはり俺の血を引いているらしい!』

 そう喜び、自ら率先して槍術を叩き込んでくれた。

 

 一切の妥協を許さぬ厳しさと、海のように深い愛情を伴った教え。

 

 そこで(つちか)われた武術の心得は、いつしか、自分を支える『芯』そのものとなっていた。

 

 

 

 イルシオンの国法に定められた、四年間の就学期間。学園で学ぶ間も、槍さえ握れば、遠く離れた父と繋がっているように思えた。寂しさを覚える暇などなかった。

 

 悪辣な生徒や、腐敗した教師を相手にしても、一歩も退かなかった。理不尽を押し通そうとする者を、己の腕一本で沈黙させる。その圧倒的な武力と、正しいと信じた道を迷わず進む姿勢は、いつしか多くの友と信奉者をもたらした。

 

 子爵家の名誉に関わると危惧する声もあった。だが、父から届いた手紙には、こう記されていた。

 

『クズは叩き潰せ! たとえ相手が公爵家であろうと、お前が正しいと思うなら容赦なく叩きのめしてこい!』

 無茶苦茶なまでの信頼に苦笑しながらも、自分は父へ深い憧憬(しょうけい)を抱いたものだった。

 

 最上級クラスへ進んだ頃、城下町で槍術の武闘大会が開かれた。父と、多くの友人たちが見守る中、自らの槍は無双の輝きを放った。

 

 歴戦の猛者ですら、傷一つ負わせられない。圧倒的な優勝を収めた自分を、皆が己のことのように喜び、歓声と共に迎えてくれた。

 

 その折に下賜(かし)された黄金の賜杯(しはい)は、今も生家の自室へ、誇らしく飾られているはずだ。

 

 誰もが、自分は当然のように騎士の道を歩むと信じていたらしい。だからこそ、その才能を封じ、『花嫁修業のため、侍従になる』と宣言した時には、周囲を大いに呆れさせた。

 

 それでも父と友人たちは、最後には笑顔で送り出してくれた。

 

『お前なら、侍従としても伝説を残すさ』

 

 

 

 そして学園を卒業した同年、十六歳の秋。父の伝手(つて)を頼って上がり込んだ奉公先は、ほかでもないイルシオン王家だった。

 

 任されたのは、まだ幼い第二王女オルテンシアの身の回りの世話。

 

 その重責に張り詰めていた自分の心を解きほぐしてくれたのは、同期として働き始めた一人の少女である。

 

 リリーと名乗る、平民の娘。

 顔にはそばかすが浮かび、性格は父以上に大雑把だった。

 仕事の邪魔だからと髪を伸ばすことすら嫌がる。あちこちで使用人を経験したという割には失敗も多かった。

 

 だが、何があってもへこたれない、からりと晴れた空のような気質が心地よく、すぐに無二の親友となった。

 

 夜の宿舎では、よく恋の話もした。自分は、頼りがいのある男がいいと語った。対して彼女は、『守ってあげたくなるような、小動物系の男子がいい』と笑っていた。

 

『ライラは理想の相手が見つかったら、ここ辞めちゃうんだろ? ずっと一緒にいてほしいなー』

 そう拗ねる親友へ、結婚したところで私たちの関係は変わらないと諭し、二人で笑い合った。

 

 そんな日々が、ずっと続くのだと思っていた。

 

 

 

 翌年、1の月。雪の降る日に、初めての後輩ができた。

 

 黒髪に、透き通るような青碧(せいへき)の瞳。中性的で儚げな美貌を持つ少年。まさしく親友の理想をそのまま形にしたかのような子を、アイビー王女が城門で拾い上げてきたのだ。

 

 城で唯一の男子侍従であり、最年少でもあった彼を、自分たちは弟のように可愛がった。

 

 同じ部屋で寝起きし、着替えすら共にする生活の中でも、彼は女性を意識する素振りを見せない。そして何より、その仕事ぶりは完璧だった。

 

 教えられたことは数刻で己のものにする。嫌味な先輩から無理難題を押しつけられても、笑顔で(かわ)す。同僚が失敗すれば誰よりも早く補い、悩みを打ち明けられれば、己のことのように真剣な顔で耳を傾ける。

 

 そんな少年が、侍従たちの人気者にならないはずがなかった。親友もまた、いつしか彼へ密かな想いを寄せるようになった。

 

 だが、当の少年がオルテンシア王女へ深く心酔していることは、傍目(はため)にも明らかだった。王女が学園へ入学する少し前から、夜な夜な彼女の自室へ呼び出されるようになったのを見て、自分は『なるほど、そういう関係か』と一人で納得したものだ。

 

 第二王女の入学から程なくして、アイビー王女専属の双子の侍従が加わった。親を亡くしたばかりだという幼い二人を皆で迎え、侍従隊はいつしか、家族にも似た固い絆で結ばれていった。

 

 初めは、花嫁修業までの腰掛けにすぎなかった。けれど今では、この温かく、笑いの絶えない居場所から離れることが惜しい。心から、そう思えるようになっていた。

 

 

──だが、その平穏な日々のすべては、この数日で無惨に踏みにじられた。

 

 

 頼りがいのある同僚たちも。

 あの嫌味な先輩も。

 厳しくも温かかった侍従長も。

 そして──大好きだった親友も。

 

 邪竜ソンブルとセピアの手によって、何もかもが滅茶苦茶にされた。

 

 異形兵と化し、自意識を失ったまま大剣を振り回し、最後には少年へまで襲いかかった親友。誰よりも被害者であるはずの彼女を止めるため、その胸を槍で貫いたのは、ほかならぬ自分自身だった。

 

 許せない。

 セピアも、邪竜も。

 友の温かな血で手を汚し、生き残ってしまった自分自身も。

 

 だから、自分はこの数日、決して槍を置かなかった。かつての同胞たちを刺し貫く地獄の苦しみに耐え、生き残った仲間たちだけでも守るため、血反吐(ちへど)を吐きながら戦い続けた。

 

 

 その血まみれの贖罪(しょくざい)が、今ここで終わる。

 

 

 自分の命と引き換えに、少年は生き残る。

 

 彼らはローダンたちを討ち果たし、学園へ辿り着き、いつの日か、この国の未来を繋いでくれる。

 

 それでいい。痛みは、きっと一瞬だ。

 

 目を閉じれば、母が、亡くなった侍従の仲間たちが、そして愛する親友が、温かな笑顔で待っていてくれるはずだから。

 

 

*****

 

 

 ……いや。

 

 本当に、そうだろうか。

 

 ローダンの長槍が喉元を貫こうとした、その刹那(せつな)。子爵令嬢の全存在が、受け入れかけた死の運命を拒絶した。

 

 母は、豊かな生を送れと言った。

 親友は事切れる直前、少年へ『自分の分も幸せにならないと許さない』と言い遺した。

 

 その二人が、志半ばで命を投げ出した自分を、温かな笑顔で迎えてくれるのか。

 

 

【挿絵表示】

 

「そんなわけないじゃないッ! みんなは私に生きろと言うわ!! 泥を(すす)り、地に這いつくばってでも!!」

 

 

 極限の絶叫と共に、子爵令嬢は両腕を突き出した。

 

 迫る槍の刃を、両の(てのひら)で真横から挟み込む。

 

 衝撃が腕を突き抜けた。肩が砕け、骨が軋むような激痛。それでも全身に残る力のすべてを両腕へ注ぎ、凶刃をこれ以上、一寸たりとも進ませまいと食らいついた。

 

「なにッ!?」

 虚を突かれたローダンも、渾身の力で槍を押し込む。

 

 だが、進まない。細身の女一人を貫くだけのはずが、まるで分厚い城壁に阻まれたかのように、長槍はその場へ縫い止められていた。

 

 勢いを殺されたローダンは、標的を軍師の少年へ切り替えるべく、槍を引き戻そうとする。

 

 それすら叶わない。万力に捕らわれたかのごとく、子爵令嬢の執念が、武器を微動だにさせなかった。

 

 無論、完全に防ぎきれたわけではない。鋭い穂先は、彼女の首の皮を僅かに裂いていた。白い肌へ、一筋の血が(にじ)み出す。

 

 それでも、一歩も退かない。本来なら瞬きの間に終わるはずだった死の瞬間を、その命懸けの防御が引き延ばしていく。

 

 一秒。また一秒。後方の仲間たちが駆けつけるための、決定的な時間が生み出されていた。

 

「このまま貫かれるか! それとも手を離し、少年を犠牲にするか! どちらか選べ!」

「お生憎……様ッ! どちらも選ばないわ! それより先に、貴方が死ぬのよ、ローダン!」

 

 それは、決して虚勢ではなかった。ローダンが彼女の肩越しへ視線を巡らせる。

 

 老騎士が、赤髪と緑髪の兵士が、猛然と愛馬を駆って迫っている。上空からは、青髪の天馬兵が急降下していた。砦門の前では、二人の弓使いが狙いを定め、辺境伯の息子も両掌へ熱い炎を宿している。

 

 子爵令嬢が稼いだ数秒によって、死をもたらす包囲は、既に完成しつつあった。

 

「……くそッ!」

 ローダンは舌打ちと共に、槍から手を離した。

 

 そして間髪入れず、無防備となった子爵令嬢の首へ掴みかかる。

 

 両手で槍を固定し続けていた彼女に、その凶手から逃れる余裕はなかった。

 

「きゃっ!?」

「ライラさん!!」

 

 持ち主を失った長槍が、重い音と共に雪原へ落ちる。

 

 少年が慌てて手を伸ばそうとするが、ローダンは子爵令嬢の細い首へ右腕を回し、強引に羽交い締めにして制した。

 

「全員、そこから近づくな! この女がどうなってもいいのか!?」

 鎧の籠手へ力を込めれば、細い首などいつでも折れる。ローダンは、そう脅したつもりだった。

 

 しかし、騎士たちも、後衛の者たちも、一切怯まない。

 

 まるで『彼女がここで死ぬことなど、断じてあり得ない』と確信しているかのように、殺気を(はら)んだ雄叫びと共に、真っ直ぐ突進してくる。

 

「馬鹿な! 本当に見殺しに──」

「やめろ、ローダン! 意味ねえ! 早く槍を拾え!!」

 

 離れた場所にいたネルーケが、血相を変えて駆け出した。

 

 だが、遅い。

 

 子爵令嬢の身体が、淡い青白い光へ包み込まれる。次の瞬間、ローダンの腕から、人質であるはずの彼女が忽然(こつぜん)と消え去った。

 

「前途ある……若者を! その手にかけようとするなど! 言語道断ッ! 恥を知りなさいッ!」

 砦門の前で、老人が怒りに声を震わせていた。

 

 その(かたわ)らには、青白い光の中から現れた子爵令嬢が、無事な姿で抱き留められている。老人の手元では、豪華な装飾の杖が役目を終えたようにひび割れ、ぼろぼろと崩れ落ちていった。

 

 ローダンは、その(おきな)の顔を知っていた。長年、イルシオン城へ仕えてきた救護班の重鎮。在りし日のローダンも、厳しい訓練で傷を負うたび、幾度となく世話になった男である。

 

「リフレクサァ! 貴様ァァァアアアッ!」

 

 子爵令嬢は、忌々しい老人が振るうレスキューの杖によって、寸前で救い出されたのだ。

 

 辺境伯の息子が森で炎を放つ奇襲を仕掛けた際、彼を回収するため、同じ杖が使われていた。

 

 それにもかかわらず、極限の状況に追い込まれたローダンは、敵側にも転移の手段が残されていることを失念していた。

 

 だが、杖は今、崩れ去った。同じ手は、もう二度と使えない。瞬時にそう計算したローダンは、ようやく起き上がろうとしていた少年へ手を伸ばす。今度こそ、軍師本人を人質に取るために。

 

「させっかよ! この燃えカス野郎が!」

 上空から、ドスの利いた天馬兵の怒号が轟いた。

 

 声よりも早く、数本の手槍が怒涛の勢いで叩き込まれる。重装の鎧さえ貫きかねない、恐るべき威力と精度。ローダンは防御を強いられ、少年へ伸ばしかけた手を引かざるを得なかった。

 

 その隙に、神速の馬術で先行していた老騎士が、一気に間合いを詰める。構えた銀の剣には、眩い光が収束していた。

 

 先刻の防衛戦で、重装の異形兵たちを一撃のもとに消滅させた剣技。まともに受ければ、ローダンとて即死は免れない。

 

「お覚悟をッ!! 聖者の(ディバイン)──」

「やらせねえよ、クソジジイ!」

 

 だが、剣が振り下ろされるより一瞬早く、ネルーケが両者の間へ滑り込んだ。

 邪竜の娘ヴェイルから授けられた、武闘僧(マスターモンク)の気功術──『チェインガード』の構えである。

 

 村での戦いでも、別の異形兵が披露した技。対象へ向けられた攻撃を術者が肩代わりし、どれほど強烈な一撃であろうと、その威力を最小限へ殺しきる絶対の防御術だ。

 

 卓越した魔道であろうと、山すら裂く神技であろうと、その大原則を破ることはできない。老騎士が放った光の奥義も、目に見えぬ気功の壁に弾かれた。

 

 ネルーケの身体へ僅かな裂傷が走っただけで、背後のローダンは無傷のままである。

 

「だが、『チェインガード』は無傷でなければ使えない。詰みだよ、二人とも」

 緑髪の兵士が、極めて冷静な声で死刑を宣告した。

 

 その言葉を合図に、赤髪と緑髪の二騎が左右から雪崩(なだ)れ込む。鎧に覆われていないローダンの顔面を狙い、剣と槍が同時に振り下ろされた。

 

 ローダンは咄嗟に腕を交差させ、強固な籠手で二つの刃を受け止める。

 甲高い金属音が雪原へ響き渡った。凄まじい衝撃に大きく後退させられたものの、致命傷には至っていない。

 

 しかし、息つく暇もなく、後方から二本の矢が飛来した。

 これも鎧の厚い部分で受け止める。だが、急所を庇うため、体勢を大きく崩してしまった。

 

 回避不能となった絶好の隙を、彼らが見逃すはずもない。

 

「やっちまえ、ゼラ!」

 赤髪の兵士が吼える。

 

 呼応するように、吟遊詩人の掌から巨大な火球が放たれた。荒れ狂う炎が、身動きの取れないローダンへ向け、一直線に飛来する。

 

 

──今度こそ、避けられない。

 

 

 村で炎の奇襲を受けた時は、ネルーケがレスキューの杖で引き寄せたため、大火傷を負いながらも生き長らえることができた。

 

 だが、今、そのネルーケはすぐ傍にいる。たとえ再びレスキューを使ったとしても、距離が近すぎる。二人揃って炎へ呑み込まれるだけだ。

 

 かつて、フィレネ王女の魔法に敗れ去った時と同じように。結局、自分はまた、炎に焼かれて死ぬ運命だったということか。

 

 ローダンが自らの最期を悟った、その直後。

 

 

 

 

「うあああああああああああああああああッ!」

 

 

 

 

 絶叫を上げたのは、()()()()()()()()()()

 

 迫り来る火球と、ローダンとの間。

 

 もはや『チェインガード』による絶対防御など使えないというのに。

 

 生身のネルーケが、自ら炎の前へ立ち塞がっていた。相棒を守る、ただの肉の盾として。

突然ですが第1回オリキャラ人気投票・主要キャラのみ。投票期間は2026年8月中。1位のキャラは朱鷺夜が絵にしてくれるぞ!

  • 少年:主人公
  • 子爵令嬢:ライラ
  • 吟遊詩人:ジェラニウム
  • 赤髪の兵士:グラディオ
  • 緑髪の兵士:ローレル
  • 無骨な重騎士:カラバッシュ
  • 青髪の天馬兵:バニラ
  • 老騎士:ガランサス
  • 薄緑髪の弓使い:ナスタ
  • 救護班の老人:リフレクサ
  • 男装の麗人:アデルファ
  • 薄赤髪の剣士:アザレア
  • 幼き侍従・双子の姉:スズ
  • 幼き侍従・双子の姉:ラン
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