ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第100話 可能性の命

 

 ティーガーは執事から受け取った手紙を見ながら考えている。

 

 ロワンテが聖騎士になる時も素性は調べているが、過去を追えなかったと書かれていた。というよりも、ロワンテ本人の話では滅んだ国の難民ということになっている。

 

 それが本当なら、ロワンテが言ったことが本当になる。

 

 ダンジョンの過去に関してもそうだ。研究は進んでいるが、千年ぐらい前に出現したという話ではある。だが……戦争や事故などで資料は焼失している。本当に千年前に見つかったというのは怪しいのだ。

 

 だから……言った者勝ち。

 

 中身はう○こだが、見た目と能力は高い。聖職者、アークプリーストとしての支援能力も高く、支援に関しては聖騎士の中でもトップクラスだろう。人望もそれなりにある。

 

 だけどティーガーは思う。なんか胡散臭いと。

 

「うーん。分からんか……大公に頼んで出てけーへんってなると、元から無いか、ホンマのことかのどっちかやな」

 

 少し考え方を変える。調べてもらっていた転生とか転生者のことだ。そして繋がりでラシアのことを思い出す。自身の生みの親であるロディーが隊長と慕う冒険者だ。

 

「うん? ……ラシとおかんって同郷って話やったな。転生とか転生者の意味って、おかん知らんか?」

 

 この時間なら仕事をしているはずなので書斎に向かうと、難しい顔をして書類とにらめっこしている。なんだかんだ文句を言いつつも国のために働いているのだから、凄い母親だなとティーガーは思う。

 

「おかん! 仕事中に悪いねんけど、転生とか転生者ってローウェンテニアの言葉でなんかないか?」

 

 家族仲は悪くないので、仕事の手を止めてロディーは考えて答える。

 

「確か……生まれ変わりとかそんな感じやったかな。簡単に言えば、肉体は死んでも魂があればいつかは生まれ変わるとか、そんな感じやったはず。昔のことやから自信ないで……というかそれがどうしたん?」

 

「ん? ラシがな。ウチを見て転生者? って聞いたからな」

 

「あー……ティーガーは私の若い時に似とるからな。生まれ変わりと勘違いしたんちゃうか?」

 

「なるほどなー。仕事邪魔してごめんやで! またなんかあったら聞きに来るわ」

 

「……その前にラシアさんか、ラシア殿な」

 

 怒られる前にそそくさと部屋を出て、母親が言っていた転生のこととラシアのことを考える。

 

 いくら似ていても、自分と母親を見間違えるだろうか。王族直属の騎士なら護衛の仕事も確実にある。知り合いに似ていると言って忍び込み、王族を狙う者もいるだろう。だから似ているだけで見間違うことなど無いと言って良い。

 

 だったら、どうして自身のことを転生者? などと尋ねたか。

 

 王族直属騎士と言えば騎士のトップだ。ラシアはそんな人物だ……だから一瞬で、自身のことはロディーの娘だと気がついただろう。

 

「言葉が足りないとはおかんも言うとったし……初めて会った時は様子見か。まぁー……クラン名で大公を煽るぐらいやしなー。何かあっても力で黙らせられるわな」

 

 で……そんな人がロワンテを警戒し、自身に転生者かと尋ねた。

 

 それでティーガーの中で繋がった。ラシアは忠告として、あえて伝えたということだ。

 

「そっち方面で調べろってことか? それやったらラシがロワンテに警戒しとったのも分かる! 別人か急に出てきたってことや! なるほどな! ラシやるやんけ!」

 

 もしかしたら自分がこう動くことまで考えていたのかもしれないと、ティーガーは驚きながらも、見えた道筋に向かって行動を始めた。

 

 ティーガーに盛大な勘違いをされた次の日……ラシアはセレットと食堂で世間話をしていた。

 

 時間があったので、セレットが姫様の天使とティアが使役している蟻について簡単な実験をして、まとめてくれたからだ。

 

 で、本日はクランの活動もお休み。あの村で買った物の匂いがひどいので、皆が手入れをしていたり……気分転換している感じだ。ちなみにノアはリレッサを連れて服とかを買いに行っている。

 

 セレットは錬金術師なのだが、研究者気質なところもあるので、まとめられた資料はとても読みやすく面白い。

 

「こう見ると……サモナーとかが召喚する魔物とか召喚獣とかは少し違うんですね」

 

「極端だけど、召喚獣には多少なりとも自分で考える力があるの。でも、姫様の天使とかティアちゃんの蟻にはね、それが無いの」

 

 それはセレットが実験してくれたらしい。紙とペンを召喚された者に渡して、丸を描いて一本の線を描いてと頼む。

 

 想像すると天使と蟻が絵を描いているわけだからなかなかの光景だが……これが結構重要。

 

 これを人や自分の考えがある者に頼むと、○の中に縦や横に線を引く。

 

 だけどリレッサが召喚した天使やティアの蟻は、何回やっても全部同じ方向。これはリレッサとティアがそれを想像していたから、全部同じ結果になったのだ。

 

「だからね。姫様とティアが召喚した天使と蟻は、二人の考えをダイレクトに受け取るってこと。まぁ何かあった時には別の考え方ができないってこともあるけど、かなり強い感じね」

 

「それって聖騎士達が召喚する天使達と違いってあります?」

 

「一緒。要は魔力で体を作って、天使が受肉してる感じだねー。だから倒されるか、姫様が送り返すかしないと残り続ける感じ。ティアちゃんの蟻も一緒ね」

 

 その辺はゲームと少し違う。召喚された天使も蟻も、ゲームなら一定時間で消える。だけどこの世界では消えない感じだ。

 

 逆に召喚士みたいな職が呼び出した者には、魔力が尽きたりすると帰還する者もいるとのこと。

 

 この辺を詳しく聞くと……別の場所に魂と体があって、それをこの世界に引き留めるため、召喚者の魔力を消費しているとのことだ。

 

 魂と体があるので脳も記憶もある。だから先ほどの丸と線の質問で、召喚者と召喚された者は違う答えになるとのこと。

 

 そこで……ラシアは思う。魂だけ、もしくは体だけ召喚する技術があったとしたらだ。極端だが、リレッサは魂だけ分離していたから助かった。

 

 ダンジョンでは歳を取らないのなら……。

 

「セレットさん。記憶って魂と体のどっちにあるか分かります? こう、哲学的な答えで申し訳ないですけど……」

 

 そう言うラシアに、セレットは笑いながら答える。それは両方だと。

 

「ラシアちゃんが悩んでるのって、体と魂が別ならって考えてるのよね?」

 

「……よく分かりますね」

 

「錬金術師で考える人も多いからね~。それは両方。想像しやすいのは、冷えたコップにお湯を入れたらどうなるの? って話ね。逆でもいいけどね」

 

「なんか混じったぬるい感じの水ができるって感じですか?」

 

「そういうこと~。両方の記憶が混じるのよ」

 

 ラシアは思う。そうなってくると、ダンジョンのモンスターに記憶のような物は無いから……魂の記憶だけが残る。

 

 ……人を魔物にする技術はある。魔物を人にする技術もある……ダンジョンに持っていって、人を魔物にしている時に取り出し、魂さえ入れ替えれば……永遠に……

 

 と思ったところで、セレットから待ったがかかる。

 

「ラシアちゃん。それ以上はやめておきましょうね~。宿の酒場で話すような話じゃないし……その手の話は人が狂うからね~」

 

「こう、私やリレッサさんやロディーさんに関わることかと思いまして……」

 

「人として生きるのが大事って覚えておく方がいいわよー。ちなみにラシアちゃんが悩んでいたことは、できる、が正解。ガロニアさんが一度そこを通ってるし、歳月も経ってるからできる」

 

 ラシアは本当に驚く。いわば永遠の命だからだ。

 

「え? 完成したからやめたってことですか?」

 

「えっとね……ガロニアさん曰く、つまらないからやめたとのこと。突き詰めたら確実にできるとのことなんだけど……性格的に1を100にするより、0から1を作るのが好きなタイプだから」

 

 ろくなイメージはないが……流石はセレットが先生と呼ぶだけのことはあるなとラシアは感心する。

 

「その研究結果ってどうなったんです?」

 

 その質問にセレットはとても難しい顔で答える。火事で研究結果は全て無くなったはずだと。

 

「でもね。錬金術師がやらかしたってことにされてるけど、王都に血塗られた契約書でモンスターが召喚されたのって、他の人の仕業だと思うのよ。これは昔の話ね。……私は今でも、その研究結果を奪うために誰かがモンスターを放って、錬金術師のせいにしたと思ってるの」

 

「…………」

 

「錬金術師って他人には迷惑かけるけど身内には甘々だから……研究結果が燃えて無くなるようなことってないのよね~。考えすぎかもしれないけどね」

 

「おうち帰りたい……」

 

 ラシアちゃんのその口癖、久しぶりに聞いたとセレットは笑う。だけど誰かがそれを完成させて使っているにしても、それは自分達にはあまり関係の無い話かもしれないと付け加えた。

 

「権力が欲しい。好き勝手したい。といっても、人がいてのことだからね。誰も廃墟の王様にはなろうと思わないの。もし国を滅ぼすというのが目的なら、強者を集めて血塗られた契約書でモンスターを召喚しまくればいいでしょ? それが無いなら、たぶん目的は別かなって思う」

 

「全部壊して一からって、大変どころの話ではないですもんね」

 

 そういうこと~と笑うセレットを見てラシアは思う……この世界はとても物騒だと……

 

「それで話は変わるんだけど……ラシアちゃん! 私もあの蟻の指輪欲しい! 片付けとかさせたい! 最近弟子が冷たくて……自分で片付けてくださいとか言うのよ」

 

「蟻の巣ダンジョンに行って蟻の卵を割れば出ますよ。ティアちゃんに割ってもらえれば確率上がります」

 

「お店が忙しくて行けない……ドミナトリクスが倒されたから今がチャンスなんだけど……」

 

「諦めてください。明日は昼すぎからクランメンバーと霧風のダンジョンに行くので無理ですからね」

 

「……ラシアちゃんのクランに依頼出していい?」

 

「駄目です。レアアイテムなのに出るまでとか言われたら、悲惨なことになるので!」

 

 ラシアは次の日を迎える。気になることは多いが、騎士団に任せると言ったからには信用するというのも大事だからだ。

 

 そしてクランメンバーと準備を済ませ次の日を迎えた。

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