ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第101話 激動

 

 今日のお昼過ぎからダンジョンに行くので、朝は割とゆっくりだ。

 

 暇というわけではないが、ラシアは食堂でおやっさんと世間話をしている。昨日、リレッサとノアが買い物に行き、美味しくて珍しい食材が売っていたので、それで料理を作ってくれるとのことだ。

 

 そろそろ料理系アイテムも減って来たから、その辺も考えて今日行く霧風のダンジョンだ。

 

「おやっさん。他国の情報とか欲しい時ってどうすんの?」

 

「人と会話する」

 

「そこまでして欲しい情報じゃないからいいか……」

 

「お前は……この宿に来た時から全然変わらんな」

 

 ラシアは思う。この世界の住人のコミュニケーション能力が高すぎるだけの話だ。ドラゴンを倒すか、知らない人と会話するかの二択があったらラシアは前者を選ぶ。それほどに会話はハードルが高い。

 

「おやっさんはセレットさんと再婚したか……後学のために聞きたいんだけど、あんな美人で知的な人とどうやったら結婚できるの?」

 

「そうだな……まずは会話する」

 

「そんな初手からクライマックスなことを言われても……」

 

「会話は人付き合いの入り口だ。というか……ぶっちゃけ俺もどうして結婚できたのか分からん」

 

 その辺はラシアもなんとなく分かる。こんな人付き合いが苦手でどうしようもない自分を宿に置いているし、ティアを見ていると分かる。

 

「私も将来結婚するなら、あんな姐さん女房的な人が良い」

 

「良いところばかり見過ぎだ……セレットは全然片付けないし、俺より年上だから姉さん女房というよりおばさん女房だな」

 

 そう言って笑うおやっさんを見ていると、ラシアの人を感知する能力に引っかかる。

 

 それは殺気だ。

 

 近くにセレットがいて話を聞いていたのだろう……おやっさんはまだ気づいていない。

 

 だから伝える。コップの中に指を入れて、おやっさんに見えるようにテーブルに水で文字を書く。

 

 き・か・れ・て・い・る・ぞ

 

「つっ!?」

 

 おやっさんの顔が一瞬で青くなる……どうやら伝わったようだ。日頃から助けてもらっているので、ラシアには見捨てるという選択肢はない。

 

 持ちつ持たれつというやつだ。

 

「またまたー。おやっさん照れ隠しは良くないっすよ」

 

「……おっ、おう。照れてはないぞ」

 

 大根役者かな? と思いながらラシアは笑い話を続ける。

 

「そういえば……花とか何かプレゼントするみたいなこと言ってたけど……どうなったの?」

 

 ちなみにそんな事は聞いた事もないが、察してくれたようだ。

 

「…………いやな。こう仕事が忙しくてだな。まだ行けてない。花か小物か、どっちが良いんだろうな?」

 

「それを私に聞く時点でお察しだから……両方買っておけば?」

 

 なるほどなーとおやっさんが言ったタイミングでティアがやってくる。

 

「お父さん。お母さんに何かプレゼントするの?」

 

「そっ、そうだぞ。何を贈ろうかなっと……」

 

「ティアちゃん。おやっさん恥ずかしいらしいからセレットさんには内緒ね」

 

「わかった!」

 

 そんな話をしていると鼻歌のような音が聞こえた後に気配が消えたので、危機は去ったのだろう。嘘でも人が不幸にならず、誰も怪我をしないならそれで良しだ。

 

 ラシアがおやっさんの方を向くと、気づいたようで目で助かったと言っていたので、ラシアも気にするなと返した。

 

 そんなことをやっている間に料理ができたようで、良い匂いが漂ってくる。ただ美味しそうな良い匂いなのだが……嗅いだことのない匂いだ。

 

 ラシアがティアにそのことを尋ねると、親子丼を作っているとのことだった。親子丼で珍しい食材って何だろうと思っていると、ティアが「お姉ちゃんと姫様が作った親子ドゥン美味しかった!」と言っていたので、ならば大丈夫だなとラシアは安心する。

 

 そしてノアとリレッサが、できたよーと言って親子丼を持って来てくれたが……何かではなく確実におかしい。

 

 まず……色! ピンクの肉に紫のタレみたいなのがかかっていて……タピオカみたいな物がいっぱいご飯の上に乗っている。

 

 ストレスで視界がおかしくなったのかな? とラシアは思い目を擦るが、何度見てもおかしい。自分が教えた親子丼とは何か桁が違う感じだ。

 

 ただし匂いは良いので……ラシアは恐る恐るノアとリレッサの方を向くと、とてもいい顔をしている。悪意はない。百%善意の顔だ。

 

「えっと……ノアさん。姫様……これは?」

 

「新しい親子丼! リレッサと相談して新しい味にチャレンジした、大成功の傑作!」

 

 そうじゃなくて……材料を聞きたいのでリレッサの方を向くと、伝わったようで答えてくれた。

 

「鶏と卵で親子丼と言うのなら……親と子で作れば何でも親子丼ということです。ですから……この世界の固有の生き物、クイーンフロッグとその卵で作ってみました。クイーンフロッグ自体がとても美味しいので、かなり美味しく仕上がっていますよ」

 

 ラシアは言葉を失った……目の前のこれは簡単に言えば蛙とその卵でできているのだ。

 

 どうしてこれが料理として成功しているのか……それはきっとリレッサのせいだろう。ローウェンテニアの神童は伊達ではないということだ。

 

 食べないという選択肢は消えた。そんなことを考えていると、ノアがお父さんの分もあるよと言っておやっさんにもラシアと同じ物を出し、すぐに食べ始めて美味いなと言い出した。

 

「ほー。クイーンフロッグはそこそこ調理難しいのに、よくこんな感じに仕上げたな」

 

「なんというか流石はリレッサだった!」

 

「ノアがいないとそれが食材だとは思わなかったので、ノアのおかげもありますよ」

 

 ラシアは自分が異世界人だということを再認識する。この世に味方はいないのだ。

 

 ティアでさえ……ラシアさん食べないの? 美味しいよと言ってくる。

 

 ラシアは色々と諦めた。

 

 ……

 

 …………

 

 結果と食レポだけを伝えよう。味100。匂い50。見た目-50。食感-200。そこだけを乗り越えられるなら……とても美味しい料理だった。

 

 そして……少し先の話になるが、この親子丼をさらに進化させ、安価に作れる物をリレッサとノアが作り出し……この地区の名物料理になったとかなんとか……。

 

 リレッサ、ノア、ティアが片付けに行ったので、ラシアはおやっさんに文句を言う。

 

「食感……食感が……」

 

「何を文句言ってるんだ。普通に美味かっただろうが」

 

「味と匂いだけは認める。おやっさんが助けてくれなかった……」

 

「あのな……助けて欲しい時はちゃんとそう言え。一般人は察しろとか言われても困るぞ」

 

 ラシアはこの世界の悲しい現実を一つ知った。元の世界でもそうだが……助けたからと言って助けてもらえるとは限らないということだ。

 

「世界はとても残酷だ」

 

「お前は詩人か」

 

 セレットさんにチクってやろうかとラシアは思うが……それをして一番被害があるのはティアなので、それはできないなと諦める。

 

 親が喧嘩して辛いのは子供だからだ。

 

 ただ、ノアやリレッサが作ってくれたというのは本当に嬉しいことだ。

 

 何かお礼でもした方がいいのかなーと思っていると、そろそろ集合の時間になったようで、片付けが終わった二人が奥から出て来た。

 

 そして行ってきますを言ってから、ラシアとノアは宿を出る。集合の場所はグオン達がリレッサから借りている宿の前だ。

 

 ラシアが着く頃にはもう全員が集まっている。今回向かうダンジョンは霧風のダンジョンだ。

 

 レベルは中級。全体的に遠距離攻撃のモンスターが多いダンジョンだ。そこでビエットやゲニツといった、このクランでの物理遠距離後衛組にスキルを覚えてもらおうという感じだ。

 

 火力が全てではないが……倒さないとどうにもならないことは多いので、クラン全体の火力は上げておきたい。人も増やす気がないので、全体の底上げは必須。

 

 この辺はクランメンバーと話し合っての結果なので、ラシアだけの考えではないので大丈夫だろう。

 

 冒険者ギルドにたどり着く。今日はいつもの受付嬢もいるので、ラシアが列に並び待っているとようやく自身の番がやってきた。

 

「……ラシアさんがクランマスターとか本当に大丈夫かと思いましたが、思いのほか似合ってますね」

 

「流石にやらないと死を感じたので……あれから何か問題って出てます?」

 

「特に何もなく平和ですね。ギルマスも副マスターも元気よく業務に勤しんでいます」

 

 何事も平和が一番ですねと二人で笑っていると、ラシアを呼ぶ大きな声が聞こえた。

 

「にゃーーー! ラシアラシア! 見つけたニャ! みんな何処かに行ってしまったから探すの手伝って欲しいニャ!!」

 

 ラシアが声の方を向くと、凄まじい速さで接近してくるフウコウがいた。

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