ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第106話 未来への影

 

 ラシア達はギュスターブを倒してから、白ナマズがいなくなるまで騎士団の討伐を手伝った。

 

 あれほど強い白ナマズは他にはおらず、背中に刺さっていた槍などを調べてもらったところ、相当な年代物だということも分かった。あれがギュスターブだろうという話でまとまった。

 

 ガーゼンがなった白ナマズは、たぶんパルサーがギュスターブと戦う前に倒した個体だろうということになった。

 

 他の人達は分からない。見た目が同じなので、綺麗か汚れているかぐらいでしか見分けがつかないからだ。

 

 ただフウコウはなんとなく分かったようで、そういう個体に会うたびに不幸にゃ……と言っていた。その数が仲間と同じだったので、見送れたのだろう。

 

 ここでもゲームとの違いが表れた。

 

 ゲームなら白ナマズを倒すと、経験値と、プレイヤーが持っていた装備を含むアイテムを一つもらえる。

 

 だけどこの世界の白ナマズを倒しても何も手に入らない。現実で数値化された経験値とか意味不明なので仕方ないが……あの強さと危険さを含めて何も無しだと割に合わなさすぎるのだ。

 

 しかも悲しいことに、何か出たとしても遺品だ。ゲームのように喜んで使える物ではない。

 

 そしてラシア達は一度パルサー達と別れて、冒険者ギルドへ報告に行った。ダード達などはもう限界に近かったので宿へ戻り、ラシア、グオン、ノア、フウコウの四人で羽化場のことを伝えた。

 

 それからが本当に大変だった。

 

 パルサーの署名もあったので、すぐに冒険者ギルドから調査する者達が編成され、深緑のダンジョンへと向かった。

 

 そして来た時と同じように忘れ去られた魔女の墓に花束を添えて、羽化場への入り方を伝えた。

 

「ほー……ここに来たことはあったが墓だったんだな。この墓の持ち主の名は?」

 

「さっ、さぁー。分かりませんが……前にお墓に見えたので花を供えたら道ができたんです。誰のお墓なんでしょうね」

 

「まー墓に見えないこともないわな」

 

「一人ぐらい花を供える人がいてもいいかなと思いまして」

 

 ラシア的にはそんなことは思っていないが……それっぽいことを言っておいたら何か納得してくれたのでそれで良し。

 

 何十人という大所帯で羽化場に入り……全員が言葉を失った。

 

 そして誰かの「これはひどいな……」という言葉で我に返り、冒険者ギルドから来た者達が調べ始めた。

 

 そこでラシア達の仕事は終わり。彼らの中にはSやXといった高ランクが数人いるので、もしものことを考えても大丈夫だ。白ナマズがおかしいだけで、深緑のダンジョンは中級の冒険者が来るような場所だ。

 

 ただ本当にここでラシア達は帰っていて良かった。

 

 彼らが色々と調べているうちに、どこからともなくフラフラっと一人の冒険者がやってきて、人から白ナマズになるところをまともに見てしまったそうだ。

 

 それは残った騎士団によって即座に倒されたらしいが、インパクトは強烈だっただろう。

 

 古い物を入れればきりがないほど、冒険者の身分証であるブレスレットが見つかった。何十年という時間だ……仮に月に五人とは言わなくても、それに近い人数が白ナマズになったとしたら? 恐ろしい数の被害者がいる。

 

 できる限りの遺品は回収され、羽化場で火をつけて弔われたそうだ。

 

 おやっさんやデゴットがラシアやパルサーぐらいの歳の頃から、深緑のダンジョンはあるのだ……しかも今のように規制がされていなかった時代もある。

 

 そして今回、後始末という意味で一番の被害者は冗談抜きに冒険者ギルドだろう。恐ろしい数の身分証が持ち帰られた。

 

 何か発見や問題があった時は、冒険者が報告した冒険者ギルドが対応する。ラシアがトロッコVを倒した時もそうだった。

 

 だから今回も冒険者ギルドが行方不明者の確認をするのだが……今回ばかりは桁が違う。数十年分に加えて、軽く百を超える行方不明者。その持ち物の整理など、完全にキャパシティーを超えていた。

 

 他国の冒険者などもいるからだ。

 

 王都の冒険者ギルドから応援などを呼び……業務に支障が出るほどの事態になった。

 

 冒険者はモンスターに食べられたり、罠によって死ぬこともある。仕方がないとはいえ、そういうのも含めての冒険者だ。

 

 今回に関しては……それだけでは片づけられない。

 

 だから騎士団からの助言と冒険者ギルドの訴えを受けて、国は深緑のダンジョンの閉鎖を決めた。

 

 仮に入ったとしても罰則はないが……何があっても自己責任という形になる。騎士も聖騎士も必要な時以外はこの村に入ることを国から禁じられたので、助けも来ない。

 

 冒険者ギルドも、封鎖が決まっているのにそれを無視して入る者は信用などできない。ランクは下がらなくても上がることはないと、疲労困憊のギルドマスター直筆の注意喚起が張り出された。

 

 それでも夜盗やならず者などは入るし、冒険者にも入る者はいるだろうとのことなので、少しは騎士団が見回りをするそうだ。

 

 それが正解だとは思うし、それほどあの村に思い入れがあるわけではないが……ゲームで行けていた場所に行けないと思うと、ラシアは少し虚しい気持ちになる。

 

 ただ犠牲者のことを考えると、それが正解だと思う。戦ったギュスターブも強かった。レベルで考えたら130とか、それ以上あるだろう。

 

 ラシアと真正面から戦えていたのだ。あんなモンスターがまた生まれてくると思うとぞっとする。

 

 だからこれで良し。LLLとしても、今後は二度と深緑のダンジョンには行かない方針だ。協力依頼があれば行くが、メンバー達には勝手に行っては駄目と伝えてある。

 

 もし行ったら……問答無用で除名という形にすると伝えると、ラシアがそこまですると思っていなかったようで、皆は少し驚いていた。

 

 これにはちゃんと理由がある。羽化場を出てからパルサーを助けるまでに何匹かの白ナマズと戦った。その中で弱いものを捕まえ、縄で動きを封じ……実験した。

 

 ラシアが持っている回復薬と、異常状態を治すアイテムを全て試した。

 

 ……結果は人に戻ることがなかった。腕を切って回復薬を飲ませれば腕が治るだけ。毒薬を飲ませて毒状態にして解毒薬を使っても、毒が治るだけ。蘇生薬を使っても無駄。

 

 白紙のスクロールで即死魔法を使って倒し、魂を空にして復活させても……白ナマズとして生き返るだけ。

 

 だから……白ナマズは異常状態ではなく、一つの個体だ。だから元には戻らない。

 

 そういう生き物になったということだ。

 

 皆はあの村の雰囲気と白ナマズに心を折られているようで、行けと言われても行かないとのことなので大丈夫だ。

 

 あとは村で買った弓だが……おやっさんの弟に見てもらったら、似ているだけで人の骨は使われていないとのことだ。ただ……何の骨かは不明とのこと。

 

「こちらとしてはそんな感じですね。騎士団は? というか司祭は?」

 

 今日は休みではないが、報告という形でパルサーが来ている。いつもと違い、軽く化粧をしてイヤリングなんかもつけているので、美人が際立っている。

 

 来た時にダードがお前誰? みたいなことを言ってしばかれていたので、中身はパルサーだ。

 

「司祭に関しては行方不明だ。私達がギュスターブと戦っている間に、私より上の騎士で司祭と地下室を知っている者達が調べてくれたが……分からないとのことだ」

 

 ただある程度だが、連れ出された時期に関しては予測がついたとのことだ。騎士や聖騎士にデゴットが聞き取り調査を行ったらしい。

 

 十年は経たないが、それぐらいは見ておいた方が良いだろうとのことだ。

 

「思ったより時間が経っているんですね……もっと最近かと思いましたよ」

 

「ああ。それに関しては騎士団のミスだな。聖騎士に任せすぎた。だが……余所では言えないが、かなり絞れる。聖騎士が司教派と貴族派に分かれたのもその頃だ。どっちかにいるはずだ。他国にいるならどうでもいいがな」

 

 なるほどとラシアは頷き、気味の悪い感覚に覆われるが……セレットの言葉を思い出す。

 

 廃墟の王様になりたい人はいない。

 

 行方不明の司祭は自分を神だと言っていた。その上で、力が欲しいという者には力を与え、救って欲しいという者には住処を与えた。

 

 やり方は間違ってはいるが……こう。ゲームやアニメに出てくる、世界を滅ぼしたいとかそういう方向のキャラではない。

 

 人を救うためなら内容、方法、姿、形を問わず救います! あなたのリクエストに応えます! 私が神ですから。そんなタイプだ。

 

 ただ……こっちの世界で権力がある人になっていて、部下が何かしたら……とは思うが、厄介な人であることは変わりない。

 

 かと言ってラシアが動いて何かができるということもないので、どうしようもないのだ。

 

「分かりました。何か壊して欲しいとかなら手伝いますので、言ってくれればと思います」

 

「分かった。何かあれば頼らせてもらおう。そういえば少し汚い話になるが、羽化場で亡くなった冒険者の物はどうなったんだ? 全部とは言わなくてもラシア、というよりクランの物になるんだろう?」

 

「量が多すぎて当分先ですね。フウコウさん達と一緒に見つけたという形にしていますが、ギルドの方もそれどころではないので。あとフウコウさんの方からは依頼料はもうもらいました」

 

 こういう時は、もらわないとなると相手も気を遣う。もらう物はもらって、お金の関係と割り切った方がお互いに付き合いやすいのだ。

 

 フウコウがいたクランも全滅ではない。生き残っている者も多い。リーダーのガーゼンは亡くなったから、フウコウがクランを継ぐのでそれでいいのだ。

 

 ラシアの話を聞いて、パルサーはなるほどなと言って立ち上がる。そして近くにあったモップを手に取り構える。

 

「強くなったつもりだったが……まだまだだな。しばらくは先生のところに行って鍛えてもらうか。そういえば父さんからも礼が言いたいそうだ」

 

「あー。またそのうち行くとお伝えください」

 

「分かった。先生と戦っている時に、こう槍を回して突く技を使ってくるのだが……名前が分からなくてな。覚えられないんだ」

 

 たぶんランサー系が覚えるデトネイトランスのことかな? とラシアは思い、その名を伝える。

 

 そしてパルサーは先生ことブラッドナイトの動きを思い出して、その動きをトレースし、声に出す。

 

「デトネイトランスか」

 

 ピカッとモップが光った後にモップの先が爆発し……宿の壁を吹き飛ばした。

 

 パルサーは呆気に取られている。ラシアはモップって槍扱いか……と思うが、おやっさんのいる厨房に向かって叫んだ。

 

「おやっさん! パルサーさんが壁を壊した!」

 

「ちっ、違う!」

 

 そして何も違わないが……ラシアとパルサーは正座させられた。




ここまでお読み頂きありがとうございます。

このお話でこの章は終わりになり次回から新章に入ります。

次ぐらいで司祭と決着つけたい。
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