ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第11話 武器屋

 ラシアとティアは二人で街を歩いている。ティアは仕事が休みになって嬉しそうで、ラシアも案内してくれる人がいて少しだけ嬉しそうだった。

 

(まー……これぐらいの年齢なら遊びたいよね)

 

 ラシアは少し前を嬉しそうに歩くティアを見てそう思う。自分がこれぐらいの頃は家の手伝いもせず遊んでばかりだった。

 

 ふと、ティアの母親は? と思ったがラシアは聞かない。

 

 聞く必要がないわけではない。聞いたところでどう答えていいか分からないからだ。

 

 こちらの世界に来てまだ一ヶ月も経っていないが……様々な死を体験した。モンスターの死。ドラゴンに喰われた兵士の死。冒険者の死。

 

 詩人ではないが思う。この世界は元の世界に比べて死が近いと。

 だから、ティアの母親がいない可能性も浮かんでしまう。

 

 だから聞かない。もしそうだったら、どう答えていいか分からないからだ。それでいいとラシアは思い気持ちを切り替える。

 

(……実際、自分も変に同情されたら困ったしなー)

 

「ラシアさん!お父さんに教えてもらった武器屋さんが見えましたよ!」

 

 言われた方向を見ると大きな店舗で、店先には槍や棍棒といった武器が並べられている。とても流行っているのか冒険者の出入りも多い。

 

 だからラシアはティアに注文をつける。あまり人が多い所はちょっと、と。

 

 そんなラシアにティアは不思議そうに聞く。

 

「ラシアさん、強いのに他の人と話しませんよね? 冒険者は人と話して連携しないと生き残れないって、お父さんがなったばかりの人によく言ってますよ?」

 

「ティアちゃん。会話なんて所詮ただのコミュニケーションにすぎない。足りない部分はロマンで補えばいいの」

 

「ん? 補えてないからラシアさんは会話できてないのでは?」

 

 これ以上ない正論である。

 

 だがこんな子供に負けるわけにはいかないので、ラシアは続ける。

 

「ティアちゃん。会話が苦手な人にマウント取って論破しようとする……そんな怖い人だけにはならないでね」

 

 そんなラシアの気持ちは伝わらないのか、ティアはラシアの手を引っ張って武器屋へ入っていく。

 

 その小さな体は相棒のプラティより遥かに軽い。持ち上げようと思えば簡単だが、ラシアは諦めて中へ入った。

 

 入ってみると、思ったより人口密度は低い。人は多いが建物が広く整理されているため思ったより息苦しくない。

 

 まず受付でメイスと軽装が修理できるか尋ねようとしたが、客がいたので後回しにする。先にハンマー系武器のコーナーへ向かった。

 潰してしまったため、初級や中級の序盤で使える物を探すつもりだ。

 

 プラティ、リジェ姐さん、イレ、イザ、新人のメテオ君、補助ツールのディス。武器として持っているが……どれも強く、そして大きく、目立つ。

 

 大公の娘に命を狙われているラシアにとっては、仲間に申し訳ないが使えない。目立ちすぎるからだ。それにそれらは上級、超級向けの装備だ。今は違う武器が必要だった。

 

「ラシアさん!ラシアさん!これはどうですか!」

 

 楽しそうなティアの視線の先には、片側が鎚、もう片側がピックになったウォーハンマーがあった。

 

 それを手に取り、ラシアは軽々と持ち上げる。

 

 あのメイスが曲がったのだ。自分がぶっ叩いて壊れないか? それが心配だった。ゲームではスキルでの武器破壊はあったが、使用中に壊れることはなかった。

 

 そもそも握りもあのメイスの方が太い。

 

(これ……スキル使わなくても曲げようと思えば曲げられるな……)

 

 自分はゴリラにでも転生したのかと錯覚する。一度ウォーハンマーを戻し、他の武器を見ることにした。

 

 ラシアはロマン職だが、正確にはそんな職はない。職業は剣士系最上位なので、剣や盾、槍や斧などほとんど装備できる。ただスキルの都合でハンマー以外に効果が乗らない物ばかりなので意味がない。

 

 そこでふと気になった。ゲームでは装備できなかった杖や本はどうなるのか。

 

 近くの水晶付きの杖を手に取ると、普通に持てる。振ると風切り音が鳴った。

 

「おう……まー現実だと装備できないとかないもんな。料理人は包丁装備できるけど普通の人が使えないとかないし……」

 

「ラシアさん、何の話?」

 

「こっちの話」

 

「? 見て見て!ラシアさん、この剣すっごい綺麗!」

 

 ティアが見ていた剣は昆虫系モンスターの素材が使われていて、光を反射し美しく輝いていた。

 

 ラシアはそれを見てようやく気づく。鉄製武具は見覚えがない物が多いが、モンスター素材の武具はゲーム時とほぼ同じ見た目だった。多少装飾は違うが。

 

「へー……虹蜘蛛の素材の剣か。確か霧風ダンジョンにいたモンスターだったかな」

 

「じゃあ、あっちの鎌は?」

 

「鎌に見えるけど双剣の類。キラーマンティスだったはず。……確か深緑のダンジョン。どっちも中級」

 

「おおー、ラシアさん物知り~。でもすっごい高いね」

 

 見たことがある装備と戦ったことのあるモンスターだから分かるだけだが……それより値段が本当に高い。

 

 剣が五十万セル、双剣が六十万セル。素材のモンスターはウルフマンより強いが、それでも今のラシアの稼ぎでは届かない。

 

「これ……冒険者より冒険者相手にした方が儲かるんじゃね?」

 

「私の家もボロいけど儲かってるってお父さん言ってたよ!」

 

「ティアちゃんの家はパン以外は美味しいからね。トイレ、風呂、気密性、ベッドは除く」

 

「パンも美味しいよ!ラシアさんの飴には負けるけど!」

 

 パンと飴は比べるものではないのでは、と思っていると、ちょうど受付が空いたのでティアを連れて向かった。

 

 受付には宿屋のおやっさんに負けじと劣らない厳ついおっさんがいた。この人に話しかけるにはかなりの勇気がいるなとラシアが考えていると、ティアが元気よく先に話しかける。

 

「こんにちは!装備が直せるか見てもらえますか!」

 

「おう。ちっこいお客さんだな。いいぞ」

 

 ラシアは言葉を失った。齢十二、三歳の子供がこのコミュニケーション能力。

 

 自身が一撃にロマンを乗せたステ振りなら、この子はコミュニケーションにステータスを振り切った強者。

 

 きっとこの子が大人になったら「四十秒で支度しな!」とか言う女傑になるのだろうな、とこの世界に来てから何度目かの敗北を味わった。

 

「ほら、ラシアさん。装備出して出して!」

 

 小さな女傑にせかされ、ラシアはアイテムバッグから曲がったメイスと右半分が引きちぎれた軽装を取り出す。

 

 アイテムバッグ持ってるのか、金持ちだねーとからかっていた店主だったが、壊れた武具を見た瞬間、顔が真剣なものに変わる。

 

「直りそう?」とティアが尋ねると、難しい顔のまま答えた。

 

「鎧の方は壊れた部分を他の素材で代用すれば直るが……メイスは無理だな。芯から折れてる。芯が折れちまったら武器は死んだも同然だ。無理に直してもまた折れる。……装備を見る限り中級冒険者か、なったばかりの上級ってとこか?何と戦った?」

 

「……き、強敵と」

 

「なるほどな。凄まじい圧力がかかってる。ランドタートルかジェットバイソン辺りか?まぁいい。予算は?」

 

 売ればあるが価値が分からない。ダンジョンで稼いだ十五万セルが限界だ。宿代は払ってある。それが無理なく使える金だと伝える。

 

「装備とアイテムバッグの割には持ってないな……消耗品で散財したか?」

 

「そんなところです」

 

「なるほどな。じゃあ鎧の修理は十三万セルもらう。このちぎれた右側は金属やモンスター素材にするがいいな?」

 

「大丈夫です。武器というか……ハンマー、安いのありますか?」

 

「おう。その辺に立てかけてあるやつならどれでもいいぞ。代わりにこの潰れたメイスをもらうけどいいか?」

 

 何に使うのだろうとラシアが思っていると、小さな女傑が質問した。

 

「案外こういう壊れた武器って貴族様に売れるんだよ。若い時にモンスターと戦って、その時に使った武器がこれだ!みたいな感じでな」

 

「ええー、それって嘘だよね!」

 

「おう。嘘だぞ。聞いてる方も嘘だと分かってる。どれだけ面白く言えるかで張り合ってるんだろうな。貴族様はそんなもんだ」

 

「おー、なるほどー」

 

 ラシアも納得し、立てかけてあるハンマーの所へ行く。思ったより良い物もあり驚いた。

 

「いいのあったか?」

 

「壊れにくいのがいいんですけど……」

 

「お前、冒険者ならコンタクト系のスキル使えよ。殴った時に壊れなくなるぞ。というか、このメイス、それが切れた時に攻撃受けて壊れたんだろ?」

 

 そんな効果はゲームにはなかった。

 

「ねーラシアさん、コンタクト系のスキルって何?」

 

「簡単に言うと武器の攻撃力を上げるスキル。コンタクトから始まってウェポンコンタクト、シールドコンタクトってあって、そこから枝分かれして各武器に繋がる。ソードコンタクト、ランスコンタクトとか。ぶっちゃけこの辺は多すぎるし習得方法で派生も腐るほどあるから、そういうスキルがあるって覚えとけばいいよ」

 

「なるほどー」

 

「嬢ちゃんは上級でやってる冒険者か?ソードコンタクトは聞いたことあるが、ランスコンタクトは初めて聞いたぞ?」

 

 いろいろあるんですよーとごまかしながらまたハンマーを見る。すると一本だけ、木でできた他より槌部分が少し大きいハンマーがあった。

 

「それにするのか?エルダートレント素材のハンマーだな。木に見えるが中が詰まってるからかなり重い……ぞ?」

 

 話の途中で片手で軽々と持ち上げ、ぶんぶん振るラシアを見てティアは感激し、店主は変な物を見る顔になった。

 

「おっ?なかなか良さそう!」

 

「…………なんで片手で持てるんだよ。重くないのか?」

 

 すぐに両手で持ち直し声を出す。

 

「うわ。重い。めっちゃ重い。超重い。超絶スーパーウルトラ重いけど……こ、これにしようかな」

 

 ティアも店主も絶対嘘だろという顔をしたが、それ以上は聞くなという顔をしていたので、新しい武器はエルダーハンマーに決まった。

 

 鎧の修理は夕方か夜には終わるとのことなので、日が沈んだらまた来ることになり、ラシア達は礼を言って別の所へ向かった。

 

 店主は二人の背を目で追っていると、常連の中級冒険者に話しかけられた。

 

「どうした?」

 

「どうもしないが……お前って中級長いよな?あの辺のハンマー片手で持てるか?」

 

 意味は分からないが、言われた通り試す。片手で持ち上げ振ることはできる。ただ戦闘で使うなら両手だと答えた。

 

「だよな。普通片手でぶんぶん振れんよな」

 

「上級でやってる奴なら振れるだろうが……何かあったのか?」

 

「まぁ金払ってくれりゃ客だし何でもいいか。…………簡単に言えばとんでもなく美人が来たってだけだ」

 

「よし。詳しく聞こう」

 

「仕事中だ。見たけりゃ夜までいて何か買って時間潰せ」

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