ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第121話 Xランク

 ラシアと受付嬢の話が始まった頃、ティーガーが王都の冒険者ギルドを歩いていると、最近色気づいた槍使いことパルサーが騎士団の上位勢と帰ってきた所だった。

 

 見た目は母親似で美形。槍の腕前は父親譲りで強い。

 

 絡め手等を含めれば自分の方が有利だとは思うが……闘技場のような場所で真正面切って戦うとなると、勝ちをもぎ取るのは難しいなとティーガーは思う。

 

 学生時代からそうだが……黙っていれば男装令嬢みたいな感じなので、女性冒険者からもパルサーは人気で、素敵とか格好いいとかいう声が上がっている。

 

 少し前は……もう少し子供っぽかったが、なんというか落ち着いたんだろうなーと思う。

 

 まぁ……ティーガー的には原因は分かっている。

 

 白の騎士ことラシア・ラ・シーラが原因だ。

 

 きっとパルサーはラシアの事が好きなんだと思う。ただ……パルサーが鈍感なので、それが憧れか恋なのかは分かっていないんだろうと思う。

 

 この国は普通に同性同士での婚約が可能だ。平民は男女で婚約する者が多いが、貴族は血筋よりも、優秀な者に自身の考えを継がせる事を重視する者が多い。

 

 だから親と子で血が繋がっていない事もけっこうあるし、男男、女女の両親も珍しくない。

 

 有名どころだとデルパロア大公が孤児上がりで有名だ。初めて焼いて食べた肉がネズミの肉というのもティーガーは聞いた事がある。

 

 だから娘のエリゼへの放任主義も納得できる。

 

 エリゼが優秀ならデルパロア家も安泰なのだが……普通より少し頭が良いくらいなので、今後どうなるのかなーとティーガーは少し心配している。

 

 ティーガーの考えでは、エリゼはデルパロア家を継げない。継いだ所で、他の貴族に潰されるだけだ。

 

 大公がそれでも良いなら継がせるだろうが……大公はデルパロア家や国に恩がある。だから、あの家を自分の代で終わらせる事はないだろう。

 

(なんか一つでも秀でてたならええねんけどな~。その内奥の手でも使うんやろか?)

 

 そんな事を考えていると、パルサーがティーガーに気がついたようで、他の騎士と共に近づいてきた。

 

「ティーガー。こんな所で何をしてるんだ?」

 

 よく分かったなーとは思うが、ティーガーもそこそこ目立つので仕方がないといったところだ。

 

 挨拶を交わした後に、ラシアの宿に行って手料理をごちそうになってきたと言ったら……面白いぐらいにショックを受けていた。

 

 休みの日になったらラシアの所に遊びに行っているし、最近はおしゃれにも気を使っているのだから……そこまでショックを受けなくても良いのではないかとティーガーは笑ってしまう。

 

「ティーガー……何が面白いんだ?」

 

「まーこっちの話やな」

 

 母親のロディーやパルサーの父親であるデゴットが引退し、世代交代したら自分やパルサーの世代になる。

 

 そうなってくると、騎士団と揉めても何の得にもならないのだ。だからティーガーは先の事も考えて、ラシアに詰めてもらったたこ焼きを一箱取り出し、パルサーに手渡した。

 

「しゃあないな! 一つ貸しやで? ラシが作ったたこ焼きとかいう食べ物や。ウチも食べたけどかなり美味しかったで!」

 

「いっ、いいのか?」

 

「おかんの分はまだあるからな! 大丈夫や。早めに食べた方が良いとは言うとった」

 

 とても良い笑顔でパルサーはそれをティーガーから受け取り、大事そうに自身のアイテムバッグにしまった。

 

(……普段からこんな感じで笑えるんやったら、狂犬とか言われへんのになー。ラシも偉大やな)

 

 そんな風に笑えるのか、と騎士団の仲間にからかわれているパルサーを見てティーガーは思う。

 

 かなり頑張らないと……負け戦になるだろう。

 

 ティアにしてもノアにしても、それこそ姫様にしても、あのラシアが楽しそうに話しているのだ。

 

 誰ともくっついていない今がチャンスとは思うが……パルサーはまだいうほど行動していないのだ。

 

「……パルもちゃんと女の子やったんやなー。もうちょっと頑張ったほうがええで?」

 

「凄い失礼な事を言われた気がするが……まぁいい」

 

 そしてパルサーも忙しかったようで、もう一度丁寧にティーガーに礼を言ってから、騎士団の兵舎へと戻っていった。

 

 ティーガーもラシアが面白い事を言っていたので、今後の動向に注意しようと考えて家へと帰っていった。

 

 そして少し面白い話がある。

 

 パルサーが騎士団の兵舎に戻り、たこ焼きを食べようとしてテーブルの上に弁当箱を置いた。

 

 そしてお茶の準備をしている間に……この前、ラシアと箱船ダンジョンに行った上官達にすべて食べられてしまった。

 

 その事をきっかけに、パルサーは強くなる事を再度決意したのだった。

 

 ……

 

 ティーガーとパルサーが話をしていた頃、ラシアも冒険者ギルドの個室で、いつもの受付嬢からXランクの注意事項というか説明を聞いていた。

 

 一応はXランクになった時に簡単な話は聞いたが、今回は詳細といった感じだ。

 

 まずはティーガーも言っていたように帰還石の事だ。

 

 これに関しては本当に重要な事なので、他人はもちろん、クランメンバーや家族にさえも言ってはいけない。

 

 そう念を押され、念書を書かされてから説明が始まった。

 

 と言っても、前にセレットから聞いた内容とほとんど同じだ。優秀な人間や国の為に使いたいから、絶対に人に言わないでくれというものだ。

 

 クランで使う時は、そういうスキルという事にして欲しいという事だ。

 

 ただ、念書まで書かせてほぼ罰則がないのは少し意外だったので、ラシアはその事を尋ねる。

 

「罰金とかはありますが……Xランクの冒険者にすればないようなものですね。あとはSからXに上がる時に人を見ているので、周りに言いそうな人は基本的に上がっていません」

 

 ラシアの場合は少し特殊だったが……大公がラシアを信用すると判断したのでXになったとの事だった。

 

「後は……本当にもしもの時はですが……記憶を改変する魔法も存在しますので……余程の時はそちらを使用する事もあります。ただ……指定した記憶だけを消すというのは不可能なので、かなり危ない魔法になります」

 

「なるほど……」

 

「そういう訳なのでラシアさんも危ないと思ったら使ってください。一つは試供品として渡されますのでどうぞ」

 

 さすがにいっぱい持っているとは言えないので、ラシアは礼を言ってそれを受け取ると、受付嬢は話を続けてくれた。

 

「実は隠してはいますが……人の口に蓋はできないので知っている人はそれなりにいたりします。それでも……こちらの考えを理解できる人も多いようで、皆さん黙っていてくれているのです」

 

 帰還石の事を話す=冒険者、騎士団、聖騎士すべてを含めて国に喧嘩を売るのと同じ意味なので、Xランクに上がれるような人物ならそんな愚かな事はしないだろうなーと思う。

 

 ただ騎士団からゲートポータルの報告があった事もあり、冒険者達の使用頻度も減っているので、持っている人でも売る人が多いとの事だ。

 

 まぁ、その代わり白紙のスクロールが絶賛値上がり中なので、買いあさった騎士団と冒険者ギルドは高笑いが止まらないとの事だ。

 

「一番重要な事は帰還石の話になります。あとはXランクになると全てのダンジョンに入れるようになりますが、超級のみは桁が違うのでXランクで入る人はほぼいません。なってすぐに超級に入って死んだ人は本当に多いので」

 

 その辺を詳しく聞くと、解放されているのは三つ。絶冬、天風、地星のみとの事だ。

 

 ゲームでは全部行った事があるが……行く必要がないなら行かない方が良いレベルだ。

 

 モンスターもアホほど強い上に、フィールドの効果が乗るのでさらに強くなる。

 

 絶冬は常に雪に覆われたフィールドで、モンスターがどこに隠れているか分からない。ゲームではない以上、雪に足は取られるだろうし……まともに戦える要素がない。火も凍る、そんなダンジョンだ。

 

 ダンジョンの中を入り口から確認するだけならいいが……踏破までするような場所ではない。

 

 無理をするなら、願いが叶うとされている深淵だけで十分だ。

 

 モンスターも雑魚でキング種、カグヤちゃんDXとかMr.フェンリルとかが普通に出てくる。その上で魔神種と言われるような強力なモンスターもいるからだ。だから迂闊には行けない。

 

 行くならクランメンバーをもっと鍛えるか、ラシアが単機特攻するしかない。ゲームみたいに回復アイテム連打もできないので、なかなかに厳しいダンジョンだ。

 

 元の世界に帰れるのは当分先になるなとラシアは思う。

 

「後は……この都市にはラシアさん以外のXランクもZランクの冒険者もいないので、あまり関係ないのですが、王都では月に一度、その二つのランクが集まる情報交換の場があります。良ければ参加してください」

 

「強制とかはないんですよね?」

 

「はい。同ランクの情報交換は大変有意義と聞きますので……行きませんよね」

 

「はい。行きません! 話したくないとかじゃなくて色々と怖いので!」

 

「はい。そう言うと思ってました。……あとは強制と言うのでもう一つ。本当にごく稀にですが……国王陛下や大公主催の高ランクのみが強制出場の狩猟大会みたいなものもあります」

 

「へー。命かかってるのに大会とか……金持ちの道楽って感じですね」

 

「……ラシアさん、ここでは良いですが余所ではやめてくださいね」

 

 なんて事を注意されながらもランクに関わる事を教えてもらい、ラシアは礼を言ってから宿へと戻った。

 

 そして……宿へと戻る途中で考える。目的の場所は見えてきた。だから、そこにどうやって行くかだ。

 

 当面の目標はやはりクランメンバーの強化。これはラシアの目標にも繋がるし、帰った後でも路頭に迷わない為だ。

 

 新たな目標を定め、ラシアは力強く歩き始める。

 

 だが本人の知らない所で、厄介ごとはすでにラシアの方を向き始めていた。

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