ラシア達が竜の巣に向かっている頃、パルサーはエリゼ・デルパロアに呼び出されていた。
本日は仕事というより訓練や騎士団での模擬戦があり忙しいので、無視しても良いのだが、パルサーとしてもラシアとデルパロア家がどういう感じになっているのかは知りたい。だから呼び出しに応じたという感じだ。
メイドに案内され部屋の前にたどり着くと、ノックをしてから中へ入る。
「来てやったぞ。食人令嬢。今日は何の用だ」
食人令嬢と言われるのにも慣れたというかなんというか、エリゼはうんざりしたように大きく息を吐き「またか……」と言った。
そしてパルサーがエリゼ専属のメイドであるメニスにそのあたりの事情を聞くと、どういう訳か同世代の令嬢達も知っていて怯えられたり、引かれたりして、なんか色々と大変らしい。
知らない間にエリゼが新型のホムンクルスになったのか、と勘ぐる者もいるらしい。
ただ……真面目に考えると、昔のエリゼの体には大きな傷跡があったのだ。それが綺麗になくなっているので、今回の事件の真相を知っている者からしたら……ああ、そういう事ですね、とはなるのだ。
一応は国としても、新型のホムンクルスの事は箝口令とまでは言わないが、混乱を避ける為に言ってはいけないと言われている。それでも一部の優秀な貴族はどこからともなく情報を集めてくる。
それで、今回の事とエリゼの怪我が繋がったのだろう。
パルサーはそう思わないが、一部の人からすれば大公が娘で実験した、と見えているのかもしれない。
「そういう訳でパルサー様。ここの所よくそういう風な事を言われるのですが、何か知っておられますか? 少し前に騎士団や聖騎士が動いたと聞きましたが……」
「ああ。知っているが言えない。国から言うなと言われているからな。まー……こればかりは自身の幸運か不運を恨むしかないな」
「私が何をした。私が!」
確かに不運だが……少しだけ思う所がある。何というか家がデルパロアという力ある家で、特筆した才が無いエリゼは表立ってはないが馬鹿にされていたし、侮られていた。
だから真実はともかく、食人令嬢の名が定着し、どうでも良いような連中に侮られないならその方が良いのでは? と思う。
パルサーだって騎士団の狂犬だ。ラシアに至っては白い死神と言われてもおかしくない。
そんな事を考えながら、パルサーはメニスに感謝の品を取り出し渡して礼を言った。
「メニス。新しく行けるようになったダンジョンで見つかった武器だ。使用方法は中に書いてあるから気をつけて使ってくれ。感謝の品だ」
エリゼは驚くが、メニスは丁寧に頭を下げてそれを受け取った。
「え? 私の知らない所で何かしてるの?」
「お前には言わん」
「お嬢様、そこまで大層な事ではなく……パルサー様に美容室やアクセサリーなどを売っているお店を教えただけですよ」
「へぇー。最近、色気づいたと思ったら……恋人でもできたの? 誰誰? 教えて!」
その言い方にパルサーは、変な方言の紅い虎を思い出しイラッとする。
「エリゼはモテないからな……浮いた話の一つもないのか?」
「カッチーン! 今日という今日は泣かす! メニス! 武器を持って来なさい!」
「良いぞ。武力はこちらの専売特許だ。いくらでも相手になってやる」
……
そして少し落ち着いてから、パルサーは質問する。デルパロア家の動向というよりはエリゼの動きだ。
詳しくではないがラシアから話は聞けたし、誤解やわだかまりは解けたと言っていた。
国王陛下から勲章が授与される事など、騎士からしたらとても名誉な事だとは思うが、ローウェンテニアの姫君の事もある。
公に出てきて得をする事などは、たぶん無いのだ。ラシアもそうだが、リレッサも今のような生活はできない。
この国はローウェンテニアの技術を使って作られたと言っても過言ではない。そんな所にローウェンテニアの姫君が現れたら? と考えると想像に難しくない。
今のところはリレッサが本当にローウェンテニアの姫なのか? 完璧に証明する事はできない。
ただ……ロディーや大公の動き方次第という所もあるのだ。ロディーに関しては元ローウェンテニアの騎士で、ラシアの部下でもある。
その上で国の重鎮であり、現在は新生聖騎士のトップだ。
パルサーは思う。ラシアは帰りたいとよく言っている。パルサーの推測では、それはローウェンテニアの事だろう。だが……リレッサはどうなのだろうと。
詳しい所までは分からないが……リレッサは色々やっているという。パルサーとしても警備や見回りの事などを相談する事があるが……聡明な方であるのは間違いない。
そんな人物が……王都から離れた都市で大人しくしているのかなーとはよく思う。実際の所、行商などの動きを見てもルインエルデが活発になっているのは間違いないのだから。
「で? パルサーは人の話聞いてる?」
「ああ。気にするな。全く聞いてない。それで? デルパロア様とラシアのわだかまりは解けたんだろう? お前は話す機会あったのか?」
「本当に! まったく聞いてなかったのね! 白紙のスクロールだっけ? あれを使ってルインエルデに乗り込んでお礼を言いに行くという計画よ。という訳でパルサーも手伝ってちょうだい」
王都からルインエルデまでは馬車で行くと二週間は余裕でかかるので、行くならそれが正解だとパルサーは思うが……やめておけと言うのが本音だ。
「先に言っておく。絶対にやめておけ」
「なんでよ!」
「乗り込むというなら、もう宿の場所などは分かっているのだろう? あそこはラシアが唯一、心安まる場所だ。お前が行ってまたややこしい事にすると、せっかくラシアと大公のわだかまりが解けたのが無駄になる」
「ならないわよ! というかラシアって白の騎士様よね? パルサーって仲いいの?」
そう言われてパルサーは少し考えるが……仲はいいと思う。ラシアの場合は話はできるが、基本的に仲良くないと話をしないのだ……本当かどうかは知らないが、ルインエルデの冒険者ギルドでも受付嬢やクランメンバー以外とは話している所を見たことがないというのはよく聞く話だ。
「会話ができるぐらいには仲は良いと思うが、どうなんだろうな?」
「あのね……仲が悪くても会話ぐらいできるでしょうに……」
パルサーもそうだとは思うが、そうではないのがラシアなので、何かおかしくなって笑ってしまう。
「あなた……そんな感じに笑えたのね。まぁそれは良いんだけど、私はお礼を言いたいのよ! もう助けてもらって何ヶ月経ってると思ってるのよ!」
それを私に言われても困るとパルサーは思うが、目の前の娘に乗り込まれて本当に困るのはラシアなので知恵を授ける。
「乗り込むのは本当にやめておけ。ラシアの性格上本当に嫌われるし、お前もルインエルデの帰りに狙われる」
「ぐっ……」
「だから本当に感謝を伝えるのなら、先に手紙でも渡して伝えて、仲良くなったらここに呼ぶかしろ。手紙ならメニスに届けさせろ。それが一番無難だ」
「……なるほど。それがいいかも知れないわね。メニス、書けたら持っていってもらえる? 失礼が無いようにね」
「かしこまりました」
「騎士団の狂犬なのに、なかなかいいアイデア出すじゃない! 見直したわよパルサー」
「お前みたいに人を捕食してないからな。犬かも知れないが……まだまだ人の心は忘れてないぞ?」
バチバチと二人の間で火花が飛び合う。
そしてエリゼは着替えて武装し、デルパロア家の広い庭で戦いを挑んだが、モップを借りたパルサーにボコボコにされた。
……
そして……パルサーが戦っている頃、ラシア達は……ようやくピンチを乗り切ったという所だった。
意気揚々とダンジョンに入って進んでいると……けっこうな人数のパーティーが全滅した跡があった。
ダンジョンでモンスターが人を倒すとレベルが上がる。ドラゴンも例外ではない。
数匹のドラゴンのレベルが上がっており、一斉に襲いかかってきたのだ。
ラシアだけなら問題はないのだが……低レベルのダード達ではかなりキツい相手だった。即座にティーガーにドラゴニックパワーをかけてもらい、乱戦へともつれ込んだ。
一発のブレスなら何とかダード達でも耐えられるが……三、四発と続くと耐えられない。
しかもラシアの範囲攻撃だと全員を巻き込む。
ブレスを撃ってくる気配があると、ラシアは即座にそちらに移り、全員で警戒しながら複数のドラゴンをようやく討伐したのだった。
「ラシアさん、竜の巣って初めて来るけどこんなに大変なダンジョンなの!?」
「上の方はもっと大変ですけど……今回の目的の二階層なら大丈夫なはずですが……」
ノアの言う事はもっともだったが、本来はこんなに大変な事はないはずだ。
「しっかし、大変やったな。ラシおらんかったら全滅はなくてもかなり危なかったな!」
確かに危なかったが、ティーガーやノアやグオンなら目的の場所までは余裕で行けるのでは? と思いながら、少し休憩した後にラシア達は進んで行く。