ラシア達がパルサーに気がついた少し後、パルサーもラシア達に気がついたので軽く手を上げた。
ラシアは隣にいたメイドに目を向けると、どこかで見たことがある気がした。ただ知り合いなら思い出せるので、先にパルサーと挨拶をする。
「パルサーさん。こんにちは。本日は……どういったご用で?」
「知らない人を連れて来た時に逃げようとするな。まぁいいが……それでラシア達はダンジョンか?」
「はい。戦力強化の一環で竜の巣に行ってましたね。王都でティーガーさんにこちらの予定を見抜かれていたので、一緒に行ったという感じです」
「……」
「危ない場面もあったので、来てもらって良かったといった所なんですが……どうしました?」
ラシアがそう尋ねると、気難しい顔をしていたパルサーが大きな声を出した。
「あんな奴の呼び出しに応じずに! さっさとこの宿に来ておけばよかった! 私も竜の巣に行きたかった!」
「パルサー様、お嬢様をあんな奴扱いするのはおやめください」
なんのこっちゃとラシアは思うが、たぶん宿の外で話すような事でもないし、本日の食堂は空いている。戻った事をおやっさんとティアに伝え、中へと入っていった。
そして……パルサーからメイドを紹介されると、ようやく誰か分かった。
知っているはずだ。この世界に来た時に助けて、話がややこしくなった大公の娘と一緒にいたメイドだからだ。
パルサーになんで連れて来たん? とラシアは思うが、仲介を頼むならパルサーとかティーガーが無難だし、ラシアだってそうするとは思う。
それに話を聞けば、大公に止められていたので来なかっただけで、どこを拠点にしているかなどは分かっていたそうだ。
XランクとかZランクになるとギルドや貴族から依頼やお願いがあったりするので、基本的には拠点にしている宿も分かるようになっている。だから仕方ない。
そして目の前のメイドはメニスという名で、エリゼ・デルパロアに昔から仕えるメイドだそうだ。
パッと見た感じは普通のメイドさんに見えるのだが、見える範囲でシーフ系が装備できるアクセサリーなどを身につけているので、たぶんアサシンとかその辺の職に就いているメイドだとラシアは観察する。
そしてもう何ヶ月も前の事だが……助けられた事をとても丁寧にお礼を言われた。その辺はティーガーからも聞いていたし、特に恩着せがましく何度も言うような事でもないので、ラシア的にはもう終わったことなのだ。
ただ……気にしていた事はある。エリゼやメニスを助けた時に加減をせずに馬車や兵士などを吹っ飛ばした。
怪我をしていた兵士もいた。ラシアの攻撃でとどめを刺してしまった人がいないかが気になっていたのだ。
その事を尋ねると、グランドドラゴンにやられた者はいたが、ラシアの攻撃がとどめになった人はいないとの事だったのでラシアはとてもほっとする。あの場から逃げたからだ。
それならそれでもう話は終わったも同然なので……ややこしい事になる前に帰ってほしい。
ラシア的には、助けてくれてありがとう! どういたしまして! で終わってくれた方が全然いいのだ。
そしてその辺りの礼も兵士達から言付かっているとの事で、またお礼を言われた後に、メニスは一枚の手紙を取り出した。
「ラシア様、お嬢様から手紙を預かっていますのでどうぞ」
要りませんとは言えないし、様とかえらく仰々しいなーとは思うが……働いていた時も○○様からお電話です、みたいな事もあるので礼を言ってその手紙を受け取った。
こういう時は丁寧に開けないと後からいちゃもんをつけられるとリレッサに聞いていたので、ラシアは丁寧に封を切り読み始める。
丁寧に書かれた字にはとても好感が持て、ドラゴンから救ってくれた事や、子供の頃についた深い傷が消えている事への感謝がとても丁寧に書かれていた。
そこで気にしてもいなかったが……怪我が治って何年も経った傷跡が、ラシアの持っている最上級の回復薬で治ると言う事だ。リレッサがグオンの目を治したように、それと同等の効果があると知れたのは本当に大きい事だった。
そして最後には食事のお誘いが書かれていた。
めっちゃ行きたくないが……大公の娘なので、面と向かって断るのもどうかと考えていると、パルサーがラシアに質問する。
「どうした? 何か面倒な事でも書かれていたか?」
「いえ……食事のお誘いがあったので……」
パルサーは頭が痛そうに額に手を当てて、困ったように「あいつは……」と呟き、メニスも少し困ったように微笑んでいた。
なんというか、やっぱりラシアが思っているのと同じで、いくら娘とはいえその権力は凄まじいので、断るという選択肢はないという感じだ。
言葉なら言った言わないで何とかなるのだが……こうやって書面に残るとどうしようもない。
しかもラシアは一度、口頭ではあるが断っている。
そしてそれが何度も続くとなると……デルパロア家も冒険者ごときに舐められているとなる。
ラシアとしてもデルパロア家からの呼び出しを無視していると思われても良いことはない。
せっかく大公との誤解は解けたのだから、これ以上お互いの話をややこしくしてはいけないのだ。
ただ……字を見ても一生懸命な所は伝わってくる。
彼女なりに感謝して、それを伝えたいのだろうというのは分かる。
だからラシアが少し頑張って関係が良くなるなら、そちらを選んだ方がいいだろう。ここで一度きちんと話しておけば、何度も大公の家に行くことなどないはずだからだ。
「分かりました。今日明日すぐ……というのは無理ですが、私で良ければ食事会に参加させてもらおうと思います」
その事に一番驚いたのはパルサーだった。ラシアは絶対に断ると思っていたからだ。
「いいのか? 奴の性格上……話をややこしくするのには定評があるぞ?」
「パルサー様……そんな定評はございません」
「大公との話もお互いに誤解していた所があったので、変な第一印象をお互いに持つよりは一度、きちんと話をしておいた方がいいかと思いまして。そこで終わる関係ならそれで良し、続くなら続くにしてもね」
ラシアの答えにパルサーはそれもそうだなと納得し、メニスは丁寧に頭を下げて礼を言った。
そしてしばらく話をした後に、メニスはすぐにエリゼに伝えるとの事で帰って行き、パルサーもダンジョンから戻ったラシアが疲れているのだろうと考え、帰っていった。
そんな事をやっている間に、グオンも王都から戻って来ていた。簡単にだが話を聞くと、とても大変な事にはなっていたようだった。
まぁ……騎乗できるとは言え、ドラゴンを連れて帰ってきたのだ。目立つし大変な事にはなるよねという話だ。
ただ、やはりティーガーの存在が大きかったようで、手続きなどはとても簡単に終わったとのことだった。
ティーガーには本当に助けられているなーと思う。ラシアは本当に色んな人に助けられてこの世界で生きていると思う。自分だけならもう死んでいるとは思う。
おやっさんにしろ、ティアにしろ、リレッサにしろ、パルサーにしてもだ。机に向かってそんな事を考えながら、グオン用に灰竜が使えるスキルを書いていく。騎乗する竜は新たに覚えるのではなく、もう覚えている。だから名前さえ知っていれば使えるはずだ。
すべてを書き終わると、先にベッドに横になっていたリレッサから声がかかる。
「ラシア。そろそろ寝る時間ですよ。今日はダンジョンから戻ってきて疲れているでしょう?」
分かりましたと返事をするが……何かリレッサが怒っているように思えたので理由を尋ねると……ノアが原因だった。
「ノアから膝枕してもらったと自慢されました。私はしてもらっていませんが?」
恥ずかしいんだからそういう事を言わなくていいんじゃね? とラシアはノアの顔を思い浮かべながら思うが……後の祭りだった。
「あの……リレッサとはたまに一緒に寝ているのでいいのでは?」
「よくないですよ? それはラシアとこの部屋にいる者の特権です。それに私はやきもちやきですから」
そんな事を言われても私にどうしろ……とラシアが思っていると、その心を読んだのか、一緒に寝て頭を撫でてくれれば良いですよと言った。
聞いて欲しい話もあったので、ラシアは色々と諦めてリレッサのリクエストに応える事となった。
ラシアがそんな事になっている頃……デルパロア家ではエリゼがだめな方向に頑張っていた。
「お父様! ラシア様から了承を得ましたので盛大に食事会を行おうと思いますがよろしいですか!」
前の会談で大公はラシアの性格は分かった。こういう事を嫌がるのも知っている。だから自分からはしない。だけど……娘が暴走したというのなら話は別だ。
いつかはラシアを表舞台に出さないといけない。それが早いか遅いかの違いはある。だから答え方はいつもの通りでいい。
「かまわん。好きにしろ」
「お父様、ありがとうございます」
そう言って部屋に戻る娘を見送るが……大公の内心は笑っていた。
ある程度の選別はするが……とても面白い事になりそうだ、と。