ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第13話 状態異常

 

 店の中で先を歩くノアの姿を見てラシアは思う。中級と言っていたので、たぶんレベルで言えば30~40くらいの間だろう。装備は見覚えのあるローブを羽織っているので、魔法使い系統の職でウィザードかその辺だろうなと思う。

 

 腕につけているブレスレットも、ゲームと同じ効果なら火属性ダメージ上昇の効果がある物だ。炎特化とか、そっち方面だろう。

 

 付与特化のエンチャーターや殴りウィザードのロマン職もいるが……レベル上げがきつすぎるので、まずいないだろう。

 

 この世界の死は、本当に終わりだ。ゲームのようにデスペナを払って復活は……ない?

 

 そこで思ったのはゲームなら死はただのペナルティだ。ある意味、状態異常みたいなものだ。こっちの世界だとどうなるのだろうか? そう考えているとティアがラシアに話しかける。

 

「ラシアさん。ノアお姉ちゃんのお尻見てどうしたの?」

 

 ラシアもノアも変な声が出た。視線は確かにその方向にあったが、見ていたわけではない。考え事をしていただけだ。こういう時は変にごまかすとこじれるので、直前に考えていたことをそのまま伝える。

 

「違うからね。装備とか身につけてる物で職がある程度分かるから予想してただけ。感じ的に炎をメインに使うウィザードかなーって思ってただけだから」

 

 ティアが反応するより先に、正解だったらしくノアがとても驚く。

 

「ど、どうして分かったんですか!?」

 

 どうして分かったのかと言われても、見て分かったとしか答えようがない。こういう時は本当に困る。そのまま伝えれば下手をすれば喧嘩になる。

 

 そんなことを思っていると、高性能AIことティアGPTが助け船を出してくれた。

 

「ノアお姉ちゃん。ラシアさん一人でダンジョン行くぐらい人間嫌いだから、あんまり近づくと買ってもらえないよ!」

 

 別に人間が嫌いなわけではない。話すのが嫌いなだけだ、と言おうとしたが二人が話し始める。

 

「え?ダンジョンに一人で?初級の人が?」

 

「そうだよ!見てはないけど、ずっと一人で行ってるって言ってた!」

 

「なんで!?」

 

(私の口癖がおうち帰りたいになるなら……この人は“なんで!?”が口癖なんだろう)

 

 そう思っていると、ノアは変な人を見る目でラシアを見ていた。

 

 ソロで潜る人がいないわけではない。ラシアの他にもいることは、聞こえた話だけでも割といる。ただ、よほどの強者か黄泉の国に行く人がソロでやっている。

 

 ラシアも登録した時はやたらとパーティーを勧められた。本当に危険だからだ。それは分かっている。

 

 だが……何かあって巻き込んで殺してしまうことを考えると無理だと思う。

 

 ハンマーで足元を本気で叩けば衝撃波だけでノアもティアも殺せるだろう。

 

 だから決して他人と話したくないとか、そんなわがままで潜っているわけではない。

 

 そんなことを考えていると目的のコーナーに着いたようで、様々な薬や見覚えのある物が並んでいた。

 

「ラシアさんでしたね。何から聞きたいですか?」

 

 これだけはいくら高性能AIティアだといっても任せられない。ラシアは頑張って質問する。本当に命に関わることだから。

 

「では、すみませんが、毒、麻痺、石化、氷結、火傷、睡眠、混乱を教えてもらえますか?」

 

「……ラシアさん。本当に初級ですか?私でも睡眠とか石化って見ないくらいレアな状態異常ですよ?」

 

「………………死にたくないので勉強してただけですよ?毒ってやっぱり放っておくと死亡します?」

 

「最後は死亡すると聞きましたが、中級へ行く冒険者は基本的に対策していきます。なので毒だけで死亡することはありませんね。モンスターにやられる方が多いです。私も毒になったことがありますが……何というか、凄い気持ち悪いぐらいですね。耐えられないならすぐに毒消し薬を飲むか、毒無効のアクセサリーを装備して対応した方がいいですね」

 

「なるほど……」

 

 気持ち悪いとは言うが、どの程度かは分からない。魔法使い系の詠唱が途切れるくらいならかなりのものだと思うが、対策が簡単そうなので毒の危険度を少し下げる。

 

 上位になるともっときつい毒もあるがそれはまた後でいい。

 

 麻痺や氷結なども聞いていく。ゲームと似ているが、どちらかと言うと現実に近いという感じだ。

 

 剣を握ったまま氷結状態になれば武器から手が離せないのでアイテムが使えない。逆に手のひらが火傷状態になると剣が握れないとか、服にへばりつくとか、そういう状態になるらしい。

 

 ゲームだと氷結はその場で動けなくなり、火傷は延焼ダメージを受けるという感じだったが、違いはかなりある。

 

 一番違いがきつく出ているのが石化だった。固まるまではかなり遅いが、固まりきると息ができなくなり死亡するとのこと。ただ完全に石化するまでかなり時間がかかるので、それだけで死ぬことはほぼないらしい。

 

「睡眠は……気にしなくていいですね」

 

「どうしてですか?」

 

「戦闘中みたいにアドレナリンが出まくっている時は眠くならないので大丈夫ですね。一度かかったことがありますが、かかったのが分からないくらいでしたので」

 

 なるほどとラシアは納得する。ゲームだと水晶病のように蓄積値があったので、一度かかっただけではたぶん大丈夫なのだろうと考えた。ただ寝たら死ぬ魔法とかもあるので、睡眠の対策も考えておかないと駄目だなとは思う。

 

 そして一番危険なのは麻痺ということになった。使ってくる敵も多く、麻痺になると本当に動けなくなる。中級で状態異常による死亡要因で一番多いのが麻痺らしい。

 

 動けないのでアイテムも使えない。反撃も回避もできなくなる。タンクのような職業で抵抗できる者でも、一瞬でも動きが止まるので怪我をすることが多い。

 

 それでも一番危険だからこそ皆が対策している。麻痺治しや軽減といったアイテムは大量に出回っていて、比較的安いとのことだった。

 

 だから麻痺で死ぬ人も多いのは多いが、対策をしなかった結果というだけの事だった。

 

「中級に上がったばかりだと少し高いかもしれませんが、麻痺無効のアクセサリーを買うのが一番安定しますね。麻痺になったら麻痺治しは使えないので、仲間に使ってもらうにしても手間がかかりますし」

 

「ラシアさん!一人は危ないって!」

 

 自分を心配して言ってくれているので、知っているとは言えない。ラシアは苦笑いをするだけにとどめた。危険なのは分かっているが……ラシアにはラシアの都合があるのだ。

 

 話を変えるように、次は混乱の事を尋ねる。

 

 他のゲームだと混乱は敵味方問わず攻撃したり、好き勝手にスキルを使うとかが多い。だがラシアがやっていたゲームだと、その状態は凶化が担当だった。混乱はまた別の状態異常だ。

 

 画面上に見える表示や数値がおかしく見えるだけで、敵とプレイヤーはちゃんと見分けがつく。あとは個人チャットに適当な言葉が流れてログが消える程度の事だった。

 

「混乱はどんな感じになりますか?」

 

「うーん……難しいですね。何というか本当に混乱するんですよ。倒せるモンスターなのに強大な敵に見えたり、性格が変わったり……幻聴が聞こえたりですね。敵は敵と分かるんですが……実際になるか、誰かがなってるのを見た方が早いですね」

 

 なんじゃそりゃ? とラシアは思う。だがノアも説明に困っているようだった。

 

「お酒飲んで泣く人とか怒る人いるじゃないですか? あれのきつい感じですね。モンスターはモンスターと認識してるので、気弱になると逃げるし、逆に気が強くなると全力で戦ってしまう感じになるそうです」

 

 ありがとうございます、と礼を言って少し考えるが……想像がつかない。こればっかりは気をつける以外に方法はなさそうだった。

 

「あっ、そうそう。これが重要なんですが、もし異常を体感したかったらダンジョンの入り口付近で戦うといいですよ。ダンジョンから出れば異常状態は解除されるので」

 

「えっ?全部ですか?」

 

「はい。ダンジョンから出て異常状態が残ってたとか聞かないので。というか残ってたら、結晶ダンジョンから戻って来たら街の人が結晶病まみれになりますよ」

 

 隣にいるティアは何も言わない。本当に賢い子だと思う。だが今はそこじゃない。

 

 ゲームでもダンジョンから出れば異常状態は治った。だが……

 

「うーん……難しい」

 

 ぽろっと口から出てしまったが、実際難しい話なので仕方がない。ラシアはその場で腕を組み考える。

 

 そして思いついた事があったので質問する。

 

「ダンジョンと街の外にいる魔物の違いって分かりますか?」

 

 グランドドラゴンは人を倒して進化せず、ドッグマンは進化した。ラシアが図書館で見た本にはそこまで記載されていなかったが、街の外にも普通にモンスターがいる。

 

 違いはあるのだろうか。そんな疑問だ。

 

 ノアは少し悩んだ後に答える。大きな違いは生態の違いだと。

 

「生態ですか?」

 

「私が勝手に思ってるだけですけどね。ダンジョンのモンスターはダンジョンから出られないですし、それこそ階層も移動できません。でも外にいる同じモンスターは縄張りを作ったり、飛んで行動範囲を広げるものもいます」

 

「…………」

 

「ですから大きな違いは生態ですね。ダンジョン産のモンスターが人以外を食べてる所ってあまり見ませんし。外にいるのは動物とか、色々食べてますよ」

 

 モンスターの進化も少し違っている気がするとラシアは思う。ダンジョンは人を倒してレベルアップする。だが外にいるモンスターは時間をかけて進化するらしい。どちらかと言えば成長に近いのではないか、と考えた。

 

 だがダンジョンでも外でも、素材や魔石といった物は持ち帰れて違いはない。考えるだけ深みにハマるだけの話だった。

 

 ノアに礼を言ってから、所持金で足りる分だけ薬をそろえてもらう。初級だと必要ないかもしれないが、苗木のダンジョンのボスが状態異常を使ってくるので、その対策だ。あと……モンスターが進化してしまった時の対策でもある。

 

「これだけそろえておけば何とかなりますね。麻痺薬は口の中に仕込んでおいて、食らったら噛みつぶして飲み込んでください。それで動けますので。ほか必要な物はありますか?」

 

 もっと重要な事はあるが……聞くにしても恥ずかしい。ラシアは顔を赤くして質問する。

 

 それはトイレの問題だ。野営した時のような恥ずかしい思いはしたくないので、ダンジョンに入る前に対策して、催したら帰る。今はそんな感じだ。

 

 体が男性から女性になって、構造の違いがあるのか前のように我慢ができない。

 

「あー……わかります。男性が店員の店だと聞きづらいですもんね。ちょっと値が張るので、使い捨てタイプの方がいいですね。持ってくるので少し待っててください」

 

「ラシアさんってそんなに喋れたんだね!」

 

「いつもティアちゃんと話してるでしょうに……まあ流石に死の危険がある事は頑張る」

 

「ラシアさん面白いからもっと話せば良いのに!」

 

「相手が面白いと感じるかは別だから……」

 

 そんな話をしているとノアが紙の束を持って帰って来た。そこには魔法陣が書かれていて、肌と下着の間に入れておくと水分と固形物を中に封印してくれるとかなんとか。一回使いきりの冒険者御用達のアイテムだそうだ。

 

 これのおかげでダンジョンに籠もれるんだなと妙に感心する。お金が足りる範囲で購入した。

 

 それでラシアの用事は終わったので、ティアはノアと話をし始めた。ラシアは全てが珍しいので店の中を見学させてもらった。

 

 そして夕方になったのでノアと別れて、防具とハンマーを受け取りに行った。

 

 防具を受け取りに行くと完成していたが……さっき来た時よりも人が多い。特に男性冒険者がやたらと多かった。

 

「おう。来たな。ちゃんとできてるぞ。あと儲けさせてもらったから、ハンマーの握りは新品に変えといたぞ」

 

 ありがとうございます、と礼を言ってラシアはティアと家に帰った。

 

「ほら見ろ。言った通りだろうが!このむっつり共が!」

 

「……くそっ!美人じゃなかったら文句言ってやろうと思ったが完敗だ」

 

 ほかの冒険者も頷く。

 

「というか、あんなヤツ中級か上級にいたか?少なくともAにはいないぞ」

 

「俺には分からん。他の街の冒険者かもしれんぞ」

 

 なるほどと勝手に納得し、その場にいた冒険者達は謎の美女の話で盛り上がった。

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