ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第133話 宣戦布告

 大公に軽く頭を下げてからそちらに近づくと、どこかの令嬢とエリゼの口喧嘩のようだ。

 

 貴族の人達は見慣れているようで、特に気にした様子もなく笑いながら見守っている。

 

 ラシア的には大丈夫なのかなーとは思うが、子供の喧嘩なので、まぁいいかといった感じだ。

 

 エリゼの近くにはパルサーやティーガーもいるので、たぶんストッパー役だろうとは思うが、少し頭に血管が浮いているような気がする。

 

 上品な感じはするが……令嬢もああいう汚い言葉を使うんだなーというのがラシアの感想だ。

 

 そんな事を考えて見守っているとフウコウが近寄ってきたので話を聞く。

 

「お前はその格好でウロウロするんじゃないにゃ。知ってるこっちは気が気じゃないにゃ」

 

「そんな事を言われても……服装指定されたのでどうしようもない訳でして。それで? エリゼ嬢とあの方はどうして揉めてるんですか?」

 

「にゅうん? 簡単にゃー。どっちの冒険者が優秀かみたいな事を言ってるにゃ。あっちのドリルヘアーの令嬢は侯爵家で、Zランクの冒険者とかと多く知り合いで、マネジメントみたいな事もやってる所にゃ」

 

「なんか凄いですね」

 

「なに他人事みたいに言ってるにゃ。ラシアが原因で始まったような物にゃ」

 

「……私は何もしていませんが?」

 

 この世界の貴族はプライドの塊みたいな物だ。自分達が手塩にかけて支援してきた冒険者のどちらが優秀か、などをよくやる。

 

 エリゼ嬢と揉めている侯爵令嬢の家にも、育てている冒険者が幾人もいる。

 

 デルパロア家にもいる。最近の話なら、大公の遊び道具程度に思われていたリュートリアなどがそうだ。

 

 彼女の場合は優秀であった為にそのまま大公に気に入られ、専属とまでは言わないが、デルパロア家がよく依頼を出し、それをこなす間柄になっている。

 

 ラシア的には自分には関係ない世界だなーという感じだったのだが……そういう訳にもいかなかった。

 

 それはやはり、ラシアが見つけた騎乗用のドラゴンの事。その入手方法を知りたい者はいくらでもいるので、侯爵令嬢がティーガーにちょっかいをかけた。だが駄目だったので、今度はグオンに目をつけた。

 

 グオンもLLLの副マスターとしての責任もあるし、ラシアに恩も感謝もあるので余計な事は言わない。

 

 だったら……どうするか? 聖騎士を引き抜く事はできない。冒険者から聖騎士になることはあっても、聖騎士から冒険者になることはめったにない。

 

 似たような事はしているが……聖騎士の方が圧倒的に待遇が良いからだ。

 

 ティーガーが無理なので、グオンを引き抜き侯爵家の冒険者として活動してもらおうという話が出たのだ。

 

 普通は……一般の冒険者に貴族から声がかかることなど滅多にない。だから断る事もほとんどない。

 

 冒険者側は資金援助などもしてもらえるし、貴族側は自分にはこれだけの配下がいると示せる。お互いにメリットがある関係になる。

 

 だけど……今回は少し毛色が違う。グオンはラシアのクランの副マスターだ。侯爵令嬢もラシアを誘えば良いが、デルパロア家の客人という立ち位置で来ているし、本人もそういうのには興味がない。

 

 そもそも近づこうとすると気配を察知して逃げる。

 

 グオンも無頓着とまでは言わないが……貴族にあまり興味がない。

 

 だから断るのだが……相手が侯爵家というだけあって断るに断りづらい。令嬢の方も断られるとは思っていないので、加入するものと思っている。

 

 そんな所にティーガーが入って場を収めようとしていたのだが……話をややこしくする事に定評のあるエリゼがやってきて、正面切って言った。

 

「侯爵家につくなら我がデルパロア家につくと言ってるのよ。はっきり言わないと分からない?」

 

 まだここまでならティーガーもパルサーも止める立場だったのだが……その侯爵令嬢がラシアの悪口を言った。

 

 今まで話題にもならなかった馬の骨が、デルパロア家の力を借りて大成したなどの罵詈雑言だ。

 

 そこでティーガーもパルサーも、はぁ? となった。

 

 開戦の合図はもちろんティーガーだ。

 

「どの口がそれ言うとるねん! エリゼもお前も親が優秀なだけやんけ! しかもやることなすこと親に迷惑ばっかりかけて、脳みそ母ちゃんのお腹に忘れたんか?」

 

 その言葉を皮切りに、侯爵令嬢側についている冒険者達も加わり、三つ巴の戦いが始まってしまった。

 

 グオンは即座に撤退していたが……ティーガーとパルサーだけでも口喧嘩が強い。

 

 二人だけで大公令嬢と侯爵令嬢を相手に善戦している。

 

「いくらロディー様の娘とはいえ、さすがに口が悪すぎませんか、聖騎士の紅い虎さん?」

 

「口が悪くても困らんからな! お前は口臭いやんけ! 黙っとけドブス!」

 

 侯爵令嬢にそれを言って大丈夫? とラシアは心配する。周りの冒険者とかも見た感じキレぎみなので、人望みたいなのはあるんだろうなーとは思う。

 

「これって大丈夫なんですかね?」

 

「あんまり大丈夫じゃないにゃー。まぁー最後は暴力になるにゃ。なったらこっちの勝ちにゃ。ラシアが全員しばいて解決にゃ。楽な話にゃ」

 

「殴って解決って……モンスターじゃあるまいし。というかサラッとこっちの陣営にいますね」

 

「ワッチは無難に観客席で見守るタイプにゃ~。ラシアもこれ食って成り行きを見守るのが無難にゃ」

 

 そう言ってフウコウはどこから持って来たか分からない……コーヒーゼリーから魚の頭が生えた食べ物をラシアに皿ごと渡した。

 

 喧嘩が収まる気配がないのでラシアはそれを受け取り見るが、明らかに……人間の食べ物ではないっぽい。だが隣のフウコウは美味しそうにそれをつまんでいるので、ラシアも頑張って食べてみることにした。

 

 美味しい物はいっぱいあるが……人が多すぎて食べる気が起きないので、食事会に招かれて初めて食べる物がこれとは、なんとも業が深いとラシアは思う。

 

 感想。……マズくはないが好んで食べなくてもいい。焼き魚とゼリーを別々に食べた方が良いという感じだ。

 

 喧嘩はどんどん広がっていく。リュートリアも参戦し始めたので、ノアやグオンもラシアの近くに避難し始めた。

 

「ラシアさん大丈夫!?」

 

「こっちは特に被害ないのでフウコウさんと話してますね」

 

「ノアもグオンもここの観客席で大人しく見てる方がいいにゃ」

 

 そこでラシアは思い出す。フウコウはこの前、リレッサに戦場に観客席などないと注意されてなかったか? だ。

 

 そのタイミングでとうとう侯爵令嬢がキレた。

 

「そこまで言うのなら! どちらの冒険者が上かはっきりさせようじゃありませんか!」

 

「いいでしょう! 我がデルパロア家も喜んでその戦い受けましょう」

 

 ラシアは思う。君ら令嬢なのにダンジョンとか行かないやん? 冒険者が危険な目にあうだけやん? だ。

 

 それが伝わったのか、ティーガーがラシアの心を代弁してくれた。

 

「自分等戦えもせーへんクセによう言うたな! きっちり相手したるわ!」

 

「いいでしょう! 我がエンブレント家が全てをかけて戦いますわ!」

 

「こちらもデルパロア家として戦いましょう!」

 

「はっ! 口だけは達者やな! ウチらは聖騎士にも騎士団にも迷惑はかけられへん! ウチとパルサーとフウコウとラシアの四人でお前等ごとき十分や! この四人の名前覚えとけ!」

 

 パルサーも力強く頷く。

 

 が……ラシアとフウコウは食べていた物を同じタイミングで吹き出した。

 

「にぎゃ!? にゃんでワッチまで入ってるにゃ!!」

 

「私も全く関係ないですけどね!?」

 

 二人が慌てるなか、侯爵令嬢はティーガーに言った。

 

「分かりました。聖騎士の紅虎。騎士団の青豹。どこから来たかも分からない白獅子ラシア。そしてフウコウという名の冒険者。その名は確実に覚えましたわ!」

 

「おう! たらん脳みそで覚えとけ!」

 

 侯爵家に名前なんか覚えられても碌な事にならないと思っているラシアとフウコウは頭を抱える。

 

「どっどうしてこうなったにゃ……ふっ不幸にゃ……」

 

 経験上、このまま放置しておくと大変な事になるのは分かっている。貸しを作ってしまう事になるが、デルパロア大公に頼んでこの場を収めてもらおうとラシアは考えた。

 

 もしかしたら……この為に娘に手を貸していたのか?

 

 などと思いながら振り返ると、大公が機嫌良さそうに、初老の男性と、ラシアより少し若いか同じぐらいの男性と話をしていた。

 

 身なりが良いのは分かる。周りにいた護衛が異常だった。

 

 アークパラディンとインペリアルイージスだ。どちらもラシアより一つ下の職にはなるが、デゴットやロディーと同列の職になる。

 

 アークパラディンは魔法防御に特化した職で、インペリアルイージスは物理防御に特化した職になる。

 

 スキル取りとプレイヤーのレベルにもよるが……ここまでくるとラシアの攻撃も防ぐ強さを持っている。

 

 それは特化させた場合の話なので、この世界ならどういうスキル取りをしているのだろうと考えて固まっていると……フウコウに話しかけられた。

 

「ラシア。どこ見てるにゃ……早く止めないとマズい事になるにゃ」

 

 ラシアはもう分かっている。厄介事がもうこんにちはしてきているのだ。あんな強者を護衛に連れていて、大公が機嫌良さそうに話している相手は一人しか思い当たらない。

 

 だからフウコウに視線だけで伝えた。指を差すのは不敬と思うから。

 

「にゅうん? 誰かいるんかにゃ…………にぎゃ!? こっ国王陛下!?」

 

 ラシアはこの先の展開がある程度見えたので目眩がした。

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