ラシアが狩猟祭の予定を皆で話し合っている頃、大公は国王の執務室で世間話をしていた。
「さて、思惑通りにいったようだが……これからどう動くつもりかね?」
国王の質問に、大公は笑いながら答える。
「偶然ですよ偶然。娘に頼られた結果が上手くいったまでのこと」
「よく言う」
狩猟祭という表舞台にラシアを引きずり出した。もうこれ以上、大公のやることはない。
他がどう頑張ろうが……ラシア達、LLLが勝つ。それは確実だ。
手を抜いて負けることもあるかもしれないが、負けた場合のデメリットが大きい。だからそれはないだろう。
侯爵家に負けたところで、ドラゴンの情報を渡すだけ。だがデルパロア家に負けると、ラシア達はデルパロア専属の冒険者となる。
ラシアは叶えたい願いがあって冒険者になったと言っていた。
だから勝てる戦いで負けを選び、デメリットを取るような選択はしない。
「だが優秀な冒険者は多いと聞く。ローウェンテニアの騎士が必ず勝つとは限らない、とは考えないのか? 貴殿のところからもリュートリア等が出るのであろう?」
「優秀だから強いというわけではありませんよ。ラシアは文字通り、武力に関しては桁が違う。その辺のXランク程度では相手になりません。それにLLLにはパルサーやティーガーも参戦する。リュートリアは二人よりも弱く、その二人がラシアに従っているということですよ」
「なるほどな。エンブレントからはZランクの冒険者も出るぞ?」
「出たところで、という話でしょう。その冒険者よりロディーの方が強い。そのロディーがラシアを隊長と言っている。陛下の後ろにいる二人に、ラシアの強さを聞いてみるといい。どうせ私と似たようなことしか言えませんよ」
大公に言われ、国王は振り返る。二人の護衛は食事会でも護衛をしていたし、ラシアのことも見ている。
陛下が質問すると、二人は少し考えてから答えた。
答えはデルパロア大公とほぼ同じで、やはり桁が違うとのことだった。護衛の際にも大公から注意されていたが、もしラシアが国王を狙っていたら守り切れなかったかもしれないと。
「ふむ……それほどか」
「はい。装備の凄さもありましたが……感覚というか、気配の察知がずば抜けて高いですね。他のZやXといった冒険者が話をしたかったようなので観察していましたが……意識を向けた途端に察知され、こちらの観察を外されていました」
「ふむ。それは凄いことなのかな?」
「そうですね。簡単に言えば、弓を向けられたらもう回避行動に入っていると考えてもらえればと思います。だからほぼ当たらない、といった感じでしょう。私達でもそんなことはできません。職も戦士系だとは思いますが……私達が知っているものとは違うようにも思われます」
国王も、凄い人物がいるとは話として聞いている。極端に人との接触を避けるとも聞いている。
その上で、ダンジョンの中にある国から出た者ということも聞いている。
一度、話をしてみたいと思ってはいたが、食事会ではその願いは叶わなかった。
「なかなかに難しいものだな」
そう呟く国王に、大公も少し思うところはあった。
食事会に国王がやってきたのだ。たとえ国が違えど、ラシアは王族を守る騎士だ。会話まではしなくてもいいが……挨拶ぐらいはするものだろうとは思っていた。それがなかったのは意外だった。
ローウェンテニアの姫君もダンジョンから出てきているということは、少しずつだが広がってきている。
いくらラシア自身が目立たないようにしていても、それは無理なのだ。狩猟祭で勝利してしまえば嫌でも目立つ。
表舞台に出てくるのはそれからでいい。国としての判断はそんなところだ。
いまこの国では、少し問題になっていることがある。それは……冒険者の実力の低下だ。
少し前なら、騎士も聖騎士も冒険者も、ランクが同じならほぼ横ばいの強さだった。だが今は、未知を求めて新たなダンジョンに行き、よく分からない物を持ち帰ってくる者がほとんどいなくなっている。
それが悪いことだとは国王も思わない。冒険者が魔石を持ち帰り、それが国を動かしていると言っても過言ではない。彼らには彼らの生活があり、今でも十分な危険があるのも分かっている。
だが同じことを繰り返していては、いつか国は衰退していく。武器や防具は新しい物が幾つも開発されているが、薬や回復薬といった物は、数年も前から新しい物ができたとは聞かない。
ローウェンテニアというダンジョンの中にある国には様々な物があったと、聖騎士長になったロディーが言っていた。
その全てを知りたいとは思わないが……国が豊かになるのなら是非とも知りたいことだ。
ダンジョンではなく、外にいる魔物の脅威も年々増加傾向にある。場所によっては滅んだ国も幾つもある。
そんな世界に一つの風が吹いた。それが白獅子ことラシア・ラ・シーラだ。彼女が知っている回復薬を使えば、幼少期から怪我の跡に悩まされていたエリゼの傷が治った。
ロディーが知らないローウェンテニアの知識も知っている。騎乗用のドラゴンがダンジョンで手に入るというのも、初めて知った。
是非とも国としては力を貸してもらいたいところだが……それが簡単な話でもない。
問題は、その圧倒的な武力だ。
何かあった時、その力を止めることができない。国王直属の騎士二人が、守り切れないと言った相手である。
食事会の時は何もなかったが……かの者が何かをする気だったら確実に死んでいたとまで言われた。
あの場にはデゴットやロディー。他にも様々な実力者達がいたのだ。その上で、守るべき者を守り切れないとまで言わしめたのだ。
ダンジョンの者を連れ出し、滅んだ国の話もある。だからラシア・ラ・シーラへの接触は簡単な話ではないのだ。
ただデゴットや、その娘であるパルサーなどから話を聞くと、極度の人見知りではあるが、悪い人物ではないという判断だ。
大公の判断も似たような物だが……根っからの善人ではないと言っていた。自身から問題を起こさないにしても、何かあれば確実に倒す。大公はそういう人物だと判断している。
現に話だけだが、ガロニアやその弟子達は即座に倒されたと聞く。
国王の隣にいる大公を筆頭に、この国の貴族は過激な者が多い。迂闊に刺激するようなことはしてはいけないのだ。
確実に被害が出るから。
だから現状の、冒険者をやってもらっている状況が一番マシなのだ。国にも利益があり、ラシアも目的のために動ける。
ただ……宝を目の前に指をくわえて見ているようなこの状況が、歯がゆいと国王は思う。
「地下施設発見の功績を称え、勲章授与をしておいた方が話は早かったかもしれないな」
「結果論だけ語られましても。その時に命を狙われたらどうするつもりで?」
「貴殿が国王になれば良かろう」
「子沢山の国王が言う台詞ではありませんな。私は国王になりたいと思いませんので遠慮しておきます」
「息子に王位を譲って引退したいところだが……無能なら誰かがすぐに首を刎ねようとするからな。なかなか上手くはいかないらしい」
よく言うとデルパロア大公は笑う。
「そういえばエンブレント家がデルパロアに負けた時はどうするんだ?」
「子供の喧嘩だから放っておく。エリゼが両親の前で令嬢の首を刎ねると言うなら止めはしませんがね。こちらが負けても賠償金を払う程度でしょう。私の前でエリゼの首を刎ねると言うのなら、それも良し」
「貴殿はもう少し家族を大事にした方が良いと思うぞ」
「こう見えても娘のわがままに付き合うほどには子煩悩ですよ」
「貴殿は有能な者ではあるが……他者への敬意や優しさを知った方がよいと思うぞ」
先代デルパロア家当主を秘密裏に暗殺するよう指示した者が言う台詞ではないなと笑いながら、話は続く。
そんな国王と大公の会話が続く一方で、ラシア達も狩猟祭で向かうダンジョンを決めていた。
ラシア達が行くダンジョンは、水没ダンジョンと天城のダンジョンだ。
箱船ダンジョンと同じで、特定のアイテムを使うと天空にあるダンジョンに行けるという代物だ。
ゲームでも天城のダンジョンに入るには、特定のアイテムとクエストをこなしている必要がある。だからこちらの世界では、たぶんラシアぐらいしか行くことができない。
ただラシアもクエストはこなしてあるが、アイテムの方は持っていないので、先に水没ダンジョンを踏破してボスのドロップを狙う感じだ。
たぶん王都に行けば売っているかもしれないが……ボスの討伐も勝敗を左右するとのことなので、さっさと水没ダンジョンのボスを倒し、天城ダンジョンに向かう予定だ。
そのことについて、ノアが手を上げて質問する。
「ラシアさん。その空の城にあるダンジョンってどんな感じ? 天城ダンジョンって何もない高い崖だよね?」
「あそこから行けますが……イメージとしては古城ダンジョンに近い感じですね。そこまで広くはないですが、出てくるモンスターは全て天使で聖属性なので、この前買った闇属性の弓とかが役に立ちます」
「なるほどー……行ったことのないダンジョンだからワクワクするけど、なんか嫌な予感が……」
「大丈夫ですが……属性武器とかなかったら、上級ダンジョンの中でも上澄みの部類ですからね。先に水没ダンジョンへ行って、苦戦するなら他の場所を考えます」
そしてクランメンバー達と話を詰めていき、念入りに準備を終えてようやく、狩猟祭を迎えることになった。