ロマン職は異世界から帰りたい   作:庶民ザウルス三世

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第144話 鯨を呼ぶ笛

 ラシア達が向かうのは、本命である天城ダンジョンだ。

 

 ルインエルデからは繋がっていないので、受付を済ませて王都のポータルに並んでいる。

 

 少し意外なのは、いつもより人が少ないことだ。

 

 狩猟祭の期間中なので、ダンジョンに行っている者もいれば、街で祭りを楽しんでいる者もいるとか。

 

 ラシア達のパーティーはかなり異色なので、並んでいると様々な視線が飛んでくる。感心するような目。馬鹿にするような目。畏怖するような目。嘲笑するような目。本当に様々だ。

 

 パーティーメンバーの中に騎士団や聖騎士がいて、騎乗用のドラゴンまでいるのだからそんなものだとは思うが……まぁなかなか慣れないというか、見ないでほしい。

 

 なんてことを思っていると、伝令というわけではないが、どこからか現れた者がティーガーに一通の手紙を渡していた。

 

 ティーガーは礼を言って受け取り、その場で読み始める。

 

「ほー。なかなかおもろいけど……大丈夫か、これ?」

 

 難しい顔をしているティーガーに、どうかしたのかとパルサーが尋ねる。

 

「エリゼ陣営もドリル陣営も、何があっても負けたないんやろな。他のXとかZランクと手組んで、高難易度のダンジョンに行っとるらしいで」

 

「だが連中が行っている場所は開拓された所だろう? 未討伐のボスは狙っているかもしれないが、そこまで心配することか?」

 

「あー、ちゃうちゃう。そのメンバーに紛れて、ドリル嬢とエリゼがついて行ってるらしいわ」

 

 その話を聞いていた全員が、変な声を上げそうになる。

 

「あの二人って戦えたっけ?」

 

「贔屓目に見ても、Bランクがあるかないかぐらいだな……勝つ気なのか、足を引っ張ってるだけか……。どこに行ったか分かるか?」

 

「えっとな……エリゼが竜の巣で、ドリル嬢が古代のダンジョンやな」

 

 話を聞いていたラシアの感想は……無理じゃね? だ。

 

 この間の食事会で、その二人の令嬢は見ているが……なんというか、戦えるタイプではない。その上で向かった先の一つは、ラシア達も行った竜の巣だ。

 

 古代のダンジョンも難易度は同じぐらいか、少し上ぐらいだが……戦闘向きではない者を連れて行けるほど優しい場所ではないと思う。

 

 だけどそれを言ったら、海底神殿も今から行く天城ダンジョンも、ダード、ビエット、エリエスのレベルで考えたら攻略なんて不可能なのだ。

 

「うーん……無理な気がする。というかエリゼさんと、もう一人の令嬢さんってポータル使えたんですね」

 

「なんか急遽、冒険者登録したらしいで? 案外、影武者か……ホムンナマズかもしれんけど」

 

「あれってまだ稼働してるんかにゃ!?」

 

「んなわけないやろ。冗談や冗談。まーウチも全部の貴族の流れ知っとるわけじゃないから、どっかにはあるかもなー。知らんけど」

 

「こっ、怖すぎるにゃ」

 

「ラシアさん。古代のダンジョンってどんな所?」

 

 そうノアに尋ねられたので、ラシアは思い出しながら答える。

 

「ノアさんとエリエスさんが行けない所ですね。魔法反射とか、魔法耐性が異常に高いモンスターが多いダンジョンです。モンスターがゴーレムみたいな感じなので、物理攻撃も効きづらい所ですね」

 

「嫌すぎる! というか危険すぎる!」

 

「まぁ魔導エンジンとか落とすので、一攫千金を狙えるとは思いますけど……竜の巣が踏破されてないのなら、古代のダンジョンも踏破されてないのでは?」

 

「全くされてないで! ラシはどこまであるか知ってるんか?」

 

「確か……十三階層だった気が……ボスはなんか、テトリスとポカリを合わせたみたいな名前だったはず」

 

「ウチらはそんな名前に聞き馴染みないけどな。姫様はなんか知ってるん?」

 

「えっと……もしかしてテスカトリポカですか? 書庫で読んだ記憶がありますが」

 

「そう、それ!」

 

 ボスの名前も思い出してスッキリしたが……たぶん踏破は無理だとラシアは思っている。

 

 古代のダンジョンも竜の巣も、上級ダンジョンの中では上澄みで、難易度は超級に片足を突っ込んでいる。

 

 古代のダンジョンはボスも強いが、雑魚モンスターの方が厄介なのだ。魔法耐性や物理攻撃耐性なんかも普通に持っている。

 

 ゲームでも、ちゃんと調べてから行かないとかなりキツい。回復薬を連打して踏破するプレイヤーもけっこう多かったりする。

 

 だけどゲームを作った側も、プレイヤーに苦労はさせたいだろうが、ダンジョンを踏破させたくないわけではない。だからちゃんと手順というか、推奨される攻略順がある。

 

 深緑のダンジョンを楽にクリアできたら、次は沈没のダンジョン。その次は竜の巣か天城ダンジョンで、そこをクリアできたら古代のダンジョンへ進む、みたいな感じだ。

 

 順番に攻略すれば耐性のある防具を作れたり、特化武器が手に入ったりする。まぁオンラインゲームなので好きに遊んだら良いのだが、誰かさんみたいに人付き合いが苦手な人への救済的な措置もあったりする。

 

 そんなことを考えていると、ラシア達の番が来た。色々と揉めてはいるが、どちらの令嬢も怪我をせずに帰って来れば良いなと思いながら、ラシアはポータルへと入った。

 

 ポータルを抜けると天城ダンジョンだ。今ラシア達がいる一階層は、広い草原と丘があるエリアなのだが……なんか人が多い。

 

「人多くないですか?」

 

「ここは毛皮がよく取れる場所だからな。少し強い魔物も多いが、毛皮はいくらあっても困らないほど需要がある。それを狙って狩っている冒険者は多い」

 

 なるほどと思いながら、ラシアはこの一階層に出てくるモンスターを思い出す。ここは少し意地悪なエリアだ。

 

 モンスターの見た目と名前が分かりにくいのが特徴だ。

 

 この階層では、クレイウルフ系のモンスターがメインで出てくる。

 

 進化の順番は、クレイウルフ→クレイルウルフ→グレイウルフ→グレイトウルフ→グランドウルフだ。

 

 どれも見分けがつかないぐらい似ており、よく見れば毛の色が少し違う程度だ。グランドウルフまで行くと大きくて光っているので分かるが……それ以外はかなり分かりにくい。

 

 進化していることに気づかず、殴りに行ったら強い方だったなんてのもよくある話だ。

 

 そしてラシア達が向かうのは、このエリアで一番高く、遠くを見渡せる崖だ。

 

 冒険者が多いので、こんな所に何の用だ? みたいな顔をされるが、遊びに来ているわけではない。たまに襲ってくるクレイウルフなどを倒しながら進んで行く。

 

 目的の場所にたどり着いたので、全員にクジラの空笛を渡してから装備の貸し出しも行う。

 

 ノアには遭難した時にも貸したローブを渡し、グオンが使っているハンマーはディスラクシオンツールで強化しておく。

 

「出た! 国宝ローブ! ラシアさん、また貸してくれるの!?」

 

「はい。ここぐらいしか、ゆっくり着替えられる場所はたぶんないです。あと国宝ではないですからね」

 

「まぁ……ノアが言うのも分かるな。騎士で貴族の私達でも見たことがないようなローブだからな」

 

「私もローウェンテニアでは見たことがないですね。ラシアの着ている鎧もそうですが……デザインはローウェンテニアに近いのですが」

 

「ラシア共和国連合ってことにしておいてください」

 

「ラシって姫様にも隠し事あるし、ほんま沈黙のラシアって感じやなー」

 

「にゅうん? ラシアって白獅子と白の騎士以外にも、そんな格好いい二つ名あるんかにゃ?」

 

「フウコウさん。沈黙のラシアは、ただの悪口ですよ悪口」

 

 そんな話をしながら準備を終えたので、ラシアはクジラの空笛を吹いた。

 

 このアイテムはゲームでは全員が吹く必要はないが、全員が持っている必要がある。そして吹く者は、クエストを終えている必要がある。

 

 とても綺麗な音が、このエリアに響き渡る。

 

 この世界でこのアイテムを使うのは初めてなので……もし天城ダンジョンへ行けなかったら別の所へ行こうと考えていると、雲の中からゆっくりとそれは現れた。

 

「あー……良かった。もし来なかったらどうしようかと」

 

「ラシアさん。あれに乗って行くの?」

 

「そうです。空鯨みたいな名前だったはずですね。たぶん襲われたりはしないはずです」

 

「ラシアさん。あのサイズでたぶんは怖いからね!」

 

 ノアの言うことはもっともだ。普通のクジラよりも、上に乗りやすいよう少し平べったい。そしてサイズは遙かにでかい。

 

 そんなことを考えている間に空鯨が崖に着いたので、ラシアが先を切って乗り込むと、皆が後に続いた。

 

 笛を持っている全員が乗り込んだのを確認したように、空鯨はゆっくりと空へ上がっていった。

 

 皆が歓声を上げる。ラシアもゲームと違って体で風を感じ、空を抜けていく感覚に心を躍らせる。

 

 だけど……その感動もすぐに終わりを告げる。

 

 天城ダンジョンの空の城へ行くには、難所がある。

 

 それは空鯨に乗っている間に、空のモンスターが襲ってくることだ。

 

 まだ遠いが、ラシアの瞳には数多くのモンスターが映っていた。

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