無理をするつもりはないので、ラシア達は休憩できる場所にたどり着くと体を休めた。
ダンジョン時計で見ても、もう夜になっている。このダンジョンは常に昼なのだが。
ラシア達がいるのは、空の城の中央にある噴水のエリアだ。この場所はゲームでも休憩場所とされていて、モンスター達が入ってこない。
天使達が作ったくせに入れない場所とかどうよ? という話になるのだが、ゲームの設定では、リレッサが召喚する方の天使達が大昔に天城ダンジョンの天使と戦い、このエリアに何かを施したとかそんな感じだ。
そのため噴水の水を飲むとHPとMPが満タンになり、結界みたいなものに守られてモンスターも入れない。
「疲れがとれて魔力が回復してるにゃー……この水、瓶に詰めて持って帰って売ったら大金持ちになれるんじゃにゃいか?」
「私も持って帰って、お母さんに見てもらって作ってもらおうかと思ったけど……瓶に入れたらただの水になった……」
「楽して金儲けはできないようだな」
ノア達がそんなことを話している中、ラシアは全員がどれだけ疲弊しているかを見ていたが……なかなか悪くない。
今のところ出てくる天使達には、ほとんど問題なく対処できているので……この調子なら踏破も十分にいけそうだ。
そんなことを考えていると、ティーガーがやって来た。
「今の調子やったら大丈夫そうやな。ほんでちょっと聞きたいねんけど、竜の巣とか古代とかって、エリゼとかドリルで大丈夫なん?」
ラシアの近くに人がいないのを見計らってティーガーが来たので、少し聞かれたくない話なんだろうとラシアは思った。
「ローウェンテニア城の地下みたいな所があるんとちゃう?」
「ありますね……というか、どちらもダンジョンとしてはローウェンテニアの上位なので……さらにヤバいですね。前にティーガーさんが、竜の巣は十五階層までしか踏破されてないって言っていましたね」
「おう。言うたな」
「竜の巣は十五階層から、シンと呼ばれる霧の竜が出て来ます。こいつは攻撃してこない代わりに、一度現れるとその後はずっとパーティーについて来ます。そしてその竜がいる間は、アイテムが使用できなくなります」
「……マジか?」
「マジです。ただ対策としては、霧が発生したらノアさんみたいな炎タイプの魔術師が炎系の魔法を放てば、すぐに消えますね。倒すのは不可能だったモンスターでしたね」
「……後でエリゼのために花を供えとくか。古代は?」
「縁起の悪い……古代のダンジョンの方は、七階層から出現するコルシャウキという、私の手の平の半分ぐらいの小型ゴーレムみたいな奴が各フロアに一匹は確実にいるんですが、こいつが大問題で、いるだけでスキルロックを使ってくるんですよ」
「スキルロックって、スキル使われへんようになるんか?」
「はい。封じるのは人のスキルだけなので、見つけたら即座にドラゴンブレスで焼き払うのが基本ですね。ドラゴンナイトとかインペリアルナイトが乗るドラゴンのスキルは使用できますから」
「ん? ってことは、竜の巣より古代のダンジョンの方が難易度高いんか?」
「少しだけですけどね。スキルロックしてくるモンスターはかなり脆いので、爆発物とかを作って投げれば即座に破壊できます。それを知らないと大変って感じですね」
「あかんなー……煽り過ぎたかー。まさかダンジョンに行くとは思わんかったからなー。あいつら嫌いやけど、死なんでもええとは思うんやけど。なんか助けたる方法ないけ?」
連絡を取る方法があれば、こちらの情報を渡して気をつけてもらうことは可能なのだが、そんなスキルも魔法もないので、一度ダンジョンに入ってしまえばわりとどうしようもないのだ。
ただラシアは今になってようやく思い出したが、やっていたゲームにはフレンド登録なるものがあった。友達になっておけば、連絡を取ることも可能だ。
まぁラシアの場合は、そんな機能を使う機会はなかったわけだが……。
(こっちの世界だと、友達登録とか、その連絡ってどうやるんだ? こっちが友達と思っていても、相手が思っていなかったら友達ではないだろうし……友達ってなんだ? そもそも他の皆は使えていて、私は友達がいないから使えないのか? いや……きっとそうではなくて、ゲームが現実になったので、そういう機能はなくなったんだな。死に戻りみたいなのもないし)
コンフィグで音量や色調を調整することも、現実ではできないのだから。
ラシアとティーガーが二人して悩んでいると、話が聞こえていたようで、アトラスとレクトアがやって来た。
「盗み聞きするつもりはなかったが……ティーガー、大丈夫だ」
「ティーガー。その辺は大丈夫ですよ。遅かれ早かれ、どこかで大喧嘩では済まない事態になっていましたから」
「アトラス様、レクトア様。そうなん?」
ティーガーは口の悪いところも多いが、自分より立場が上の者にはちゃんとした対応を取ることも多い。大公は除く。
デゴットと会話する時も、かなり畏まっている。今更だがパーティーに参加している四人も相当な人物だと思うが、ラシアは知りたくないのでお兄さんお姉さんズだ。本人達も気に入っているから、それでヨシッ!
そこから話は続く。
ティーガーも知っている通り、デルパロア家とエンブレント家は大昔から仲が悪いことで有名だ。
デルパロア家が大公で、エンブレント家が侯爵。正確にはエンブレント家が一方的に敵視しているらしい。
ラシア的には、デルパロア家って好かれる要素ないよね? とは思うが、それを言って話の腰を折る必要はないので言わない。
食事会にもエンブレント家は呼ばれていなかったらしいが……国王陛下も出席するため、娘だけは参加を許されたそうだ。
「大きな声では言えないし、知らない者の方が多いが……少し前にルインエルデの郊外で、エリゼ様が襲われたことがあっただろう?」
「おー。ラシが助けたやつやな?」
「あれを手引きしたのは、エンブレント家って話が出ているんですよ。ただ証拠はないので、何もできないですが」
「はぁ? マジか!? それはウチも知らんかった。どこからそんな話出てきたんです?」
アトラスが言うには、少し調べ物をしていた時に、魔物を召喚するアイテムの売買の流れをちらっと見てしまったそうだ。その時の取引相手がエンブレント家で、普段の流通量より多かったとのことだ。
「モンスターを召喚するアイテムは滅多に出ない上に、流通量も本当に少ないからな。俺の見間違いかもしれないが……その後にちょうどエリゼ様が襲われたからな」
「あー、そうか……血塗られた契約書やったら、使用者の強さでモンスター出てくるから、グランドドラゴンとかバスタースワローが召喚されたってなると……XランクかZランク冒険者ってことか」
ラシアは、滝壺にいたキッチョウとかも、もしかしたら召喚されたモンスターなのかもしれないと思う。
ダンジョンから連れ出したり召喚したりすると、モンスターはその世界に適応するように実体化する。この世界には元々モンスターがおらず、人が連れ出したという説をラシアは信じている。
モンスターのせいで滅んだ国は幾つもあると聞く。人が自ら招いた災いで滅んでいるのだから……どこの世界でも人の業は深いなーとラシアは思った。
「だからあまり気にすることはないぞ。エンブレント家はこの機に乗じて、デルパロア家を潰そうと考えているだろう。エリゼ様は……よく分からん」
「あいつアホやしな……なんも考えてへんのちゃうかなー。まぁ大公にはしてやられた感はあるけども」
「エリゼ様の考えは分かりませんが、ティーガーが気にするようなことではありませんよ」
「ほんならええか。ラシに聞いた感じやと全滅しそうやし……気が向いたらエリゼぐらい助けに行ったるかー。あいつしぶといしな」
「全滅するかどうかは分からないが……こちらも他人を気にしている余裕はないな」
そんな話をしていると、さっきまで噴水の近くで遊んでいたフウコウがやって来た。
「そうそう。ラシア。サンバガラス倒してたら、魔石とこんな腕輪が出たにゃ。何に使うんにゃ?」
「おぅ……その凶悪装備出たんですね」
フウコウが持って来たのは、サンバの腕輪というアクセサリーだ。
指定したプレイヤーをその場で一定時間踊らせ、操作不能にする。PVPエリア御用達で、場所によっては使用禁止にされるほどの害悪アイテムだ。
「まぁ……モンスターには効かないのですが、それでもかなり凶悪な物ですよ。よく出ましたね」
人の話を聞いているのかいないのか、フウコウはジーッと腕輪を見つめている。
そして何を思ったか……腕輪を身に着け、ティーガーの方を向いて言った。
「ティーガー! その場で踊るにゃ!」
「はぁ!? おまっ!」
……指定されたティーガーは、その場で踊り始める。
「なっ、なんや!? 体が勝手に動きよる! 止まらへん!」
「にゃははははは! 聖騎士の紅虎が踊ってるにゃ! これは爆笑にゃ!」
踊っているティーガーを見て、フウコウは地面を叩いて爆笑している。
そして効果が切れるたびに再度かけては、少し距離を取る。それの繰り返しだ。
「よぉし! フウコウ、覚えとけよ!」
「にゃははははは! それは負けが確定した奴の台詞にゃ!」
勝っている時は後のことを考えないのは、どこの世界でも同じだなーとラシアが思っていると、フウコウの背後に虹竜が現れ、主人を守るようにその頭を咥えた。
「にぎゃ! 何も見えないにゃ! なんか生臭いにゃ!」
「よぉし! ようやった! そのまま咥えとけ! 動けるようになったらぶちのめす!」
「二対一とか卑怯にゃ! 正々堂々戦うにゃ!」
「どの口が言うとるねん!」
そして……フウコウは綺麗に関節技を決められ、ティーガーに軍配が上がった。
「ふっ……不幸にゃ」
「ティーガーさんを元気づけるにしてももう少しやりようが……」
そんな感じで休息時間は過ぎていき、翌日から再び天空の城の探索を始めた。