ラシアはダンジョンを進んで行く。壊してしまったメイスとは違い、購入したエルダーハンマーにはアクティブスキルもパッシブスキルも乗る。
そしてラシア自身もハンマーが好きなので、持っているだけでも少し気分が良い。
「ハンマーブーメラン!」
崖の上から攻撃してくるラビットマンにも、遠距離系の攻撃スキルで対応できる。
大きなハンマーが高速で回転し空を舞う。空気を裂く音が一瞬遅れて響く。
そして簡単にラビットマンを粉砕して、ラシアの手元へと帰って来る。
どういう原理で帰って来るのかは考えない。何回か使って、そういうものだとラシアは諦めた。魔法もそんな感じだからである。
崖を登り、潰したモンスターから魔石を回収する。
「こう……某勇者王が使う釘抜きハンマー技が使いたい。魔石だけ引っこ抜きたい」
クリスタルリザードを倒した時もそうだったが、一定以上のダメージを超えると簡単に魔石ごと潰れるので、スキルでモンスターだけ倒すのは少し難しかった。
今使っているハンマーブーメランもかなり加減して投げているので魔石は無事だ。だがラビットマンが持っている弓などは問答無用で破壊されるので、納品依頼などは達成できない。
あと重要なことは武器屋の店主が言っていた事だ。
コンタクト系のスキルを使用すれば武器は壊れない。この事をラシアは試したが確かに武器は壊れない。だがハンマーコンタクトのようにハンマーの攻撃力がまともに上がるスキルなどは魔石ごと破壊してしまうので使用不可能だった。
なのでその前にあるウェポンコンタクトというスキルを使用している。感覚的なものだったが、武器が壊れなさそうだったので使うようにしている。
「ただ欠点はゲームと同じ使用時間だから短いな……三分ぐらいか?……HPとかMPってどうなってるんだ?ゲームだとHPって当たり前だけど、現実だと意味不明すぎないか? 何をもってHPなのかが分からない。走って疲れるのはスタミナだろうし……わからん」
まだまだ分からない事が多すぎると考えていた所で、一階から二階へと降りる階段へとたどり着いた。
今日もいつもと同じように、初級になったばかりであろうCランク冒険者達がパーティーを組んで休憩していた。
その横を通りラシアは階段を下っていく。
一層はドッグマン、ラビットマン、ペンシルラベンダーの三匹が出る。二層になるともう一匹追加され、バトルゴートというヤギの魔物が出現する。
そしてダンジョンの風景も少し変わる。森林地帯だが少し森が減り、大岩などが出現して視界が少し開けてくる。
冒険者は一層より見やすくなるが、それはモンスターも同じで遠くからバトルゴートが走ってきたり、ラビットマンに遠距離から撃たれるようになる。
そしてすぐにラシアを見つけた、牛よりも一回り大きなヤギが遠くから加速し突進してくる。
「ウェポンコンタクト」
エルダーハンマーがほんのりと輝く。スキルが発動した証だ。
そして大きなハンマーを振りかぶり、タイミングを合わせて振り下ろす。
一撃。ただゲームのような爽快感はない……手に感触が残るからだ。こればかりはどうしようもないので、ラシアがこの世界で生きていくなら慣れないといけない部分だった。
倒したバトルゴートから魔石を取り出す。角や骨は砕け、肉や毛皮も粉微塵になり素材としては使用不可になっている。
「魔石だけでも十分な稼ぎだし……」
日帰りで稼ぐならもう少しここで狩って、一層で狩りながら戻ると昼過ぎか夕方ぐらいになるので、二層から三層の階段の場所はまだ知らない。
ゲームでは確実に通ったダンジョンなのだが何年も前の事なので覚えていない。体のステータスが現実に合わせているようなので体が丈夫だったり、計算がやたら速くなったりはあるのだが……完全に忘れてしまった事はなかなか思い出せなかった。
少しでも思い出せば連鎖して思い出せるのだが……モンスターを見ればどんな物をドロップしたとか、そういう事だ。
少し迷ったり、そり立つ崖に阻まれたりしながら先を進んでいく。
そして阻まれた崖を引き返そうとした所で、一際鋭い矢が飛来する。
難なく躱しその方向を見ると、本来はいないはずのモンスターがいた。ラビットマンから進化したラビットマンスナイプだ。
そのモンスターを見て暗い気持ちになるが、ここで逃せば被害が増えるのでラシアは即座にハンマーブーメランで殺しきる。
今回は上手く倒せたのか、大きな弓と魔石が残った。
ただやはり気持ちは晴れないので大きなため息が出る。誰かが死んだのだ。こればかりは現代人のラシアには、とても慣れそうもない感覚だった。
そしてまた一つ思い出した事があった。モンスターがモンスターを倒した場合だ。
ゲームだと基本的にPVPエリアでもない限り人は人を攻撃できない。
モンスターもバーサーカーのような凶化状態になる以外は、モンスター同士は攻撃できないし攻撃しない。
凶化状態のモンスターがモンスターを倒すとレベルは上がった。だからそれが疑問だった。
「……範囲攻撃持ってるヤツだと巻き込むよな?少し試してみるか……あんまりやりたくないけど」
ドッグマン辺りがいいなと考えながら、階段を探すついでにドッグマンとラビットマンを探す。
すぐにラビットマンが見つかったので、すぐには殺さず矢を避けていると、戦闘音を聞きつけてすぐに一匹のドッグマンがやってきた。
やりたくはないが、見て知っておかないと駄目なのでラシアは試す。
細く美しい手でドッグマンの顔面を掴み、そのまま持ち上げる。あまりの握力にドッグマンは苦しそうに暴れるが、ラシアはやめない。
その状態のままラビットマンに向き合う。そしてラビットマンは、鷲づかみにされたドッグマンの事は気にせず矢を放った。
ラシアの身体能力なら簡単に矢の軌道を読める。そしてその軌道の先に、鷲づかみにしたドッグマンの頭を置いた。
即死だ。矢は眉間に突き刺さった。
今まで暴れていた手足もだらんとなり、ラシアの手にズシッと重さが増した。
一瞬、静寂。
そのタイミングでラビットマンが光に包まれる。進化の光だ。
ものの数秒で光は止まり、弓は大きくなり装備していた防具も少し立派になる。ラビットマンはラビットマンスナイプに進化した。
納得するのも感心するのも後の事だ。自分がやった事の始末は自分でしなければならない。
手に持っているドッグマンを投げつけ、ラビットマンスナイプに直撃させて動きを封じる。その直後、ハンマーで即座に叩き潰した。
やる事をやってから考える。これができるモンスターは限られているが……それでも進化したモンスターがいる=人の死ではないと分かり、心は少しだけ軽くなった。
「これ……範囲攻撃持ってるヤツだとすぐに一番上まで行くな……眷属召喚する系だとどうなるんだ?」
考える事はまだまだ多かった。
初級のくせにモンスターの遭遇率がやたら多いダンジョンを進んで行くと、ようやく二階から三階へ降りる階段が見つかった。
そろそろ夜になる時間か、他の冒険者も疲れている時間か、階段の周りには多くの冒険者が集まり休憩していた。
ラシアは目立たないように少し遠くに腰を下ろす。
アイテムバッグの中から水筒と軽食を取り出す。時間的に外は夜のはずだが、ダンジョンの中は明るい。どこが壁でどこが空なのかも分からない。一応試しに端まで歩いてみようと考えたが、一周回って反対側にたどりつくようになっていた。
一応空もあるが、あれも空なのか壁なのか分からない。ただ小鳥は飛んでいるので空でいいかと考える。
辺りに警戒するがモンスターがいるような気配はしない。
ゆっくりと息を吐き出し休憩する。
いくらモンスターが弱いと言っても疲れない訳ではない。ラシアは強いが人なのだ。
走れば体は疲れるし、ストレスが溜まれば心も疲れる。
冒険者ギルドで購入した美味しくない固形食を食べていると、近くで話しているパーティーの会話が聞こえる。
「さっきはマジで死にかけた」
「どうしたんだ?」
「こいつが不意に出て来たドッグマンと取っ組み合いになってたら、ラビットマンの矢が飛んできて運悪く刺さってラビットマンが進化した」
「おいおいおい……よく生きてたな」
「光った瞬間に逃げたからな。昔マウスマンが進化したの見た事があったから逃げられたけど……まだいると思うと迂闊に動けないな」
「階段の辺りはあんまりモンスターが来ないって聞くな。冒険者がいるから避けてるって聞くけどな。まぁ明日になればダンジョンの中にいても入れ替わるって聞くからそれまで我慢だな」
「よっぽどの時は下の階いくか」
という会話が聞こえて来たので、誰かが死んだ訳でもないと思うと少しほっとした。まぁ人見知りのラシアが言う事でもないが……そんな重要な情報があるなら周りと共有しろよ、とは思う。声には出さないが。
それから人が少しずつ増えていき、階段の近くに小さなコミュニティが形成される。
これだけ人がいればなんとかなるだろうと考え、ラシアは寝るわけではないがその場で目を瞑った。
この体のおかげだろう。目を瞑っていても近くに人の動きやモンスターが寄ってくれば分かる。
初級で人相手に攻撃してくる者はいないようなので、疲れて寝ている冒険者達を起こさないように静かにラシアは数匹のモンスターを倒して朝を迎えた。
まぁ夜か朝かは分からないので体感的な物だが……
そしてまた軽食を食べ、別の水筒の水で顔を洗って三階層へと降りていった。
三階層は二階層とはあまり変わらない。ローズウィップというモンスターが一匹追加されるだけだ。モンスターの密度が増えるので遭遇回数はかなり上がるが、楽に倒せるなら稼げる。
だから中級の冒険者もいるのだろう。遠くから聞こえる戦闘音は初級に比べると激しめだ。
モンスターと戦い、たまに冒険者とすれ違い戦い方を見たりしていると四階層へ降りる階段が見つかった。
ここにも休憩している者はいる。
挑む者がいるのかは分からない。
だがラシアは先に階段を下った。